転生木箱の後日談6
開校準備も整い、子供達が孤児院へ帰る日がやって来た。
すっかり仲良くなったケントとライラとの別れを惜しむ子供達。
中でも俺から武術の師事を受けたトールとリックは、ライラとケントを兄姉弟子として慕い、必ず一人前の武術家になって恩を返すと言っていた。
子供達が帰ってから暫くはライラが寂しそうにしていたが、何時でも会いに行ったら良いと言うと元気を取り戻し、時折魚を差し入れに行き子供達の相手をする様になった。
学校の方だが、授業は『語学』『算術』『作法』の三種類。それぞれ初級、中級、上級を週に二度授業を行い、残り一日は休日にした。教師達のロ-テーション次第では休日無しでもいけるのだが、そこまでする必要も無いだろう。元々赤字覚悟だし、パンドラの箱で稼いだ金を還元するのにも丁度良いしな。
こうして採算度外視で突然始まった『パンドラ学校』だが、俺は王都ベルトラでの自分のネームバリューと言うものを全く理解していなかった。
またパンドラが何か始めたぞと噂になり、開校後三日もすれば一教科三十人入れる教室は連日満員となり、還元する所か更に資産は増えてしまう事になった。
そしてこれに目を付けた商会が東と西地区に学校を設立。仕入れの要らない知識を売る商売が増えて行くと供に、国民全体の知的レベルが跳ね上がり貴族と平民の差が減って行き、数年で他国との差が大きく開く事となった。
要するに俺は〝またやらかしてしまった〟らしい。
普段島に引き篭もっている為に気が付いた時には既に手遅れで、無かった事にするには規模と影響が大き過ぎたので放置するしかなかったのだ。
そう言や学校なんてどこの国にも無かったわ。いやぁ失敗失敗。
そして三年の月日が流れ、ケントが成人を向かえ守備隊に入るため滅多に来られなくなると言う。
「そうか・・・お前達がもう成人か・・・・・なんかピンとこねぇな。まぁお前もだいぶ強くなったし問題ないだろ」
「そうだと良いんですけど・・・・・いまだにライラ師匠に一本も入れられませんし」
「お前が強くなるのと同じ様にライラも強くなってるんだ、そう簡単に抜ける訳無いだろ。あいつは獣人で元の身体能力高いし、日常的に海で魔物倒してんだから」
現に今も海に魚を捕りに行ってるし早々追い付けないと思う。
「あれか?告白するにもあいつに勝てる位に強くならなきゃとか思ってんのか?」
「ち、違いますよ!止めて下さいそう言うのは!」
からかいつつも、ライラに勝って目標を達成されて努力を怠る様になっては困るので一計を案じる事にした。こいつにはケイオスを越えて貰いたいのだから。
ケイオスには危機感が無い。俺以外に自分を倒せる存在が居ないからと言うか、魔族を含めた他の種族を見下している為、自分が負ける事等無いと思っている。その奢りを正す為にも最弱種である人種で最強種の竜種を越える可能性を持つケントには頑張って貰いたい所だ。
ケントを見送った後にライラと話し合った。ケントは自分の目標を見据えて前に進んだがお前は如何するのかと。
「確かに俺はお前の自由にすれば良いと言った。でもな・・・お前、本当にこのままで良いと思っているのか?そろそろ現実を見た方が良いと思うんだ。俺を良く見ろ・・・あの頃と何も変わっちゃいないしこれからも変わることは無い。だがお前はどうだ?身長だって伸びたし女性としても成長しただろ。俺の傍にずっと居たいと言っていたがそれが不可能な事も理解しただろ」
「解ってる・・・解ってるけど・・・・・」
「だから改めてお前に道を示そうと思う・・・暫くの間ケイオスの所に行け。今ならフェイルにも勝てるし、ケイオス相手でもそこそこ戦える筈だ。それだけじゃない、城や街で働く者達と触れ合い、様々な事を学んで来るんだ。自分より劣っている者が居ても奢るな、そう言った者達からも学べる事が必ず有る筈だ」
気乗りしないライラを翌朝半ば強引に送り出し、暫くは一人暮らしを満喫していたが直ぐに暇を持て余し、アレスをからかいに行ったり、王都をふら付いたり、すっかり俺の手を離れた学校や孤児院を視察したり、新婚の白井夫婦をからかったりして過ごした。
そして三ヶ月が経った頃、遂に我慢出来なくなって、ライラを見守る為とか言い訳をして監視衛星を打ち上げたら研修を終えたケントがやって来た。
ここまで読んで頂き有り難う御座います。