転生木箱の後日談5
元教会に着いた俺は元神官達と向かい合って今後の話をした。
「さて、色々考えたんだが、あんた等には教師になって貰う」
「教師・・・ですか?」
「ああ、子供等を見て思ったんだが、食事のマナーや立ち振る舞いが貴族相手でも通用しそうなんでな。後は読み書き算術なんかを平民に教えるのも良さそうだ」
王都での識字率はかなり高いが、他の町や農村から仕事を求めて来た者達の中には読み書きさえ覚束無い者も結構居る筈だ。
これからこの国で伸し上がって行くには読み書き算術は必須だし、貴族相手の立ち振る舞いが出来れば何処の商会でも引く手数多だろう。
俺は教会を取り壊した後地に校舎を立てるので、必要な物は孤児院に移動しておくように伝え、元神官改め教師達に当面の生活費を渡してパンドラ島へと戻った。
「ただいま~ってこんな所で何してんだ?」
自宅のドアを開けるとライラとケントを含めた子供達全員が廊下に座っていた。
「主様お帰り~。あのね、皆をお風呂に入れようと思ったんだけど着替えも無いし、スリッパとか食器とか足りない物が多過ぎるの。後、皆が入れる大きなお部屋も欲しいかな、リビングだとちょっと狭いし」
「あ~すまん。これだけの人数だもんな、足りない物だらけだったわ。取り敢えず女の子から着替えとバスタオル渡すから風呂に行ってくれ。その間にリビングの拡張とか寝室増やしておくからさ」
子供達に着替えとバスタオルを渡して女子はライラが、男子はケントが付き添って風呂に入り、俺はその間に家の増改築を行った。
全員が風呂から出たら夕食の準備、ライラによる巨大魚の解体ショーだ。
食に対する飽くなき探究心と、常人を遥かに超える筋力と器用さを兼ね備えたライラの包丁捌きに子供達は感嘆の息を漏らし拍手を送る。
そして完成した料理を皆で満足するまで突き、子供達は笑顔でごちそうさまと言った。
夕食後は音楽鑑賞だ。
スピーカーから流れる今迄に聞いた事の無い音の波が子供達の心を揺さぶり、眠っていた感情を呼び覚ます。
俺は涙を流している事に気が付く事もなく聞き入る子供達を見て『まだ間に合う』と安堵の息を漏らした。
翌日から俺は子供達に読み書きと算術に加え、個人的にやりたい事が有れば何でもやらせて見る事にした。
音楽、絵画、装飾細工、武術、魔術、料理、裁縫と、例え中途半端になろうとも興味を示した物に必要な物と知識の全てを与える事で子供達は感情を取り戻して行った。
そんな日々の中で才能を開花させつつある子供が何人か出て来た。
武術の才能の有るトール(十歳)とリック(八歳)、料理の才能が有るマリー(八歳)、音楽の才能が有るリリー(四歳)この四人は天才と言っても良い程の才能を持っているが、俺は強要する気は無かった。本人のやる気と努力が無ければ大成はしないし、特別才能が無くても有る程度は努力で補えるからだ。
好きだから続けた、それが仕事になった。例え他に才能が有ったとしても、それで良いじゃないかと。
子供達の教育と平行して大人達の意識改革も進めた。と言ってもこちらはパンドラの箱、玄田に丸投げしただけだが。
彼等に一般的な平民の生活や仕事を通して自分達と何処が違うのかを学ばせる為に、店員として研修名目で寮で生活をさせた。
接客に関しては何も問題は無かった。彼等は教皇に付いて廻る事が有るため、全員が宮廷作法を身に付けていたのだ。『全ての神官は皆平等』と言うだけは有る。
お陰で店員達にも良い刺激になり、就業後に教わりに行っている店員も居るそうで、学校が出来たら休日に習いに来る者も居そうだ。
実務では多少のミスはあったが生来の真面目さでカバーし、直ぐに慣れてミスをしなくなった。元神官と言う事で何処も雇ってくれなかったと言うが、かなりの拾い物で有る。
心配だったタニアとの関係も、緊張していたのは最初だけだった。まぁ、タニアのアホな所を見れば驚異に値しない事など直ぐに気が付くしな。
そして教師達が研修に行っている間に教会を撤去し校舎を建て、序に孤児院の荷物を運び出して孤児院も建て直し、教師達を呼び戻して授業内容や料金を決め終わる頃には二ヶ月が経っていた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。