転生木箱の後日談3
孤児院には児童が男子八人女子十人と、元神官が男性二名女性三名が住んでいた。
児童達は巻頭衣の様な簡素な服と、薄い木の板が貼り付けられた布の靴を履いていて皆痩せていた。
良く見れば元神官達の着ている服も解り難いが継ぎ接ぎだらけで、この半年間相当遣り繰りが大変だった事が伺えた。
俺は元神官達に全員が入れる部屋が有るならそこに集める様に言い、サーチ魔法で敷地面積の確認をした。
「・・・ふうん、家の店の前の土地と同じ位か・・・・・ま、何をするにも十分だな」
全員集め終わったと呼びに来た元神官に連れられて入った部屋は食堂だった。
部屋に入ると大きなテーブル二つに男女で分かれて座っていた全員が俺を見つめていた。
「・・・・・フッ・・・そんな心配そうにすんな。助けてやるって言った以上はちゃんと面倒見てやるよ。先ずは飯だな、丁度昼だし腹減ってんだろ?」
俺はテーブルの上に手を翳して次々と料理を出していった。
パンにスープにサラダとハンバーグ、デザートに果物とミルクを並べて行くと子供達の目が輝き出した。
「お代わりなら幾らでも有るから好きなだけ食べて良いぞ」
「あぁ・・・こんなに沢山・・・・・有難う御座います。では、冷めてしまわない内に戴きましょう。皆お祈りを」
元神官がそう言うと、全員が手を組み目を伏せたので止めさせた。
「まてまて、お前等それは何に祈ってる?この世界にゃ神なんて居ないし、居たとしてもお前達を救ってはくれなかっただろ?そんな奴に祈るなんて無駄な事は止めろ。これからは食事の前は『いただきます』食べ終わったら『ごちそうさま』それだけで良い」
今までの習慣でつい祈ってしまうのだろう。奴を倒して表面上は変わっても、見えない所にはまだまだ影響が残っているのだと知らされた。
「いただきます」の声と共に皆が食べ始めたのだが、何か違和感が・・・・・
大人も子供も普通に食べているだけ・・・・・なのだが、気になって全員にアナライズを使って調べてみた。
子供達の年齢は下は四歳から上は十歳でライラやガーランド家の子供達よりも下なのか・・・・・
どの子もカトラリーの使い方が上手いし、殆んど音を立てずに食べていてマナーも良いな・・・・・
食べ終わった子は膝の上に手を置いて他の子達が食べ終わるのを静かに待っている・・・・・
なんだこれ?子供の食事ってこうじゃないだろ・・・・・
教育が行き届いていると言えば聞こえは良いが、これは違うと思う。
と言うか、正直気持ちが悪い。
これは一種の『洗脳』だ。
以前辰神が『神官達は皆平等で上下は無い』と言っていたが、こうやって小さな頃から作られていたのだと気が付いた。
ビブリエ教の闇を見た。
「皆さん食べ終わりましたね?では、ごちそうさ『ちょっとまてえええぇぇ~い!!』・・・え、あの、何か?」
「何かじゃねぇ!食事ってのは楽しむもんだ!マナーを守るのは悪い事じゃねぇが時と場所を選べ!ここは自分達の家でお前等は家族なんだろ?!どいつもこいつも畏まりやがって!!・・・そこの!最年少リリー!お前満足したのか?!そっちの最年長のトール!お前もだ!他の連中はどうだ?!年齢や体格で食べる量が変わるのは当たり前だろ!最初に言ったじゃねぇか、好きなだけ食べて良いって!何で誰も何も言わねぇんだ!!」
俺はライラと出合ったばかりの頃を思い出していた。
食材や調味料の種類や量で変わる味の変化で一喜一憂していたライラがタニアやガーランド家の人達との触れあいでマナーを身に付けたが、今でもそれは然程変わらない。
この子達をこのままここに置いていてはダメだと、少なくとも元神官達が変わらない限りは離しておくべきだと感じた。
「良いかお前等・・・この国には『神官』なんて職業は無い。今までお前達を教育していた元神官達は自分達の力でお金を稼ぐ事が出来なかったせいでここを追い出される寸前まで行った。今のままお前達が大人になった時どうなると思う?こいつらと同じ様に何も出来ず、住む所も無くし野たれ死ぬんだ。だから選べ・・・様々な事柄に触れ、力を手にして生きるか。ビブリエ教国でその他大勢の神官として生きるのかをだ」
子供達には酷な選択だが、自らの意思を見せる事が出来なければ変わる事は出来ないだろう。
暫しの沈黙の後、ポツリと溢したのは最年少のリリーだった。
「わたし・・・みんなといっしょがいいな・・・・・」
皆の視線がリリーに集まり、一人、また一人と賛同して行き、大人も子供も皆が共に生きて行きたいと願った。
「解った。その為にも先ず大人達が変わらないとダメだ。それまでの間、子供達は別の所で暮らして貰う。な~に心配すんな、直ぐに帰って来れる様にしてやるから」
俺は大人達をその場に残し、パンドラ島へと子供達を連れて転移した。
ここまで読んで頂き有難う御座います。