転生木箱の後日談2
ハンス商会前に転移し、入り口の扉を開けるとホレスの怒鳴り声で迎えられた。
「帰ってください!いい加減にしないと衛兵を呼びますよ!」
「そ、そんな!お願いします!もう此処しか頼れる所は無いのです!どうか!どうかお願いします!」
「なんだホレス、職場で痴話喧嘩とは穏やかじゃねぇなぁ」
「ちょっ!止めて下さい!人聞きが悪い。そんなんじゃ有りませんよ、唯援助を頼まれただけです!兎に角うちでは受けられませんから本国にでも頼んで下さい」
「本国?何で他国の者が援助を頼みに来てんだ?」
「彼女は教会の神官・・・元神官なんですよ。今は残った元神官達と孤児達を預かっているんだそうです」
調印式後に教会はベルトラン王国から撤退。教会跡地(建物はそのまま残っている)は王国から借りていた物なので今は王国に返還されている。
「ふ~ん・・・・・ホレス、この件は俺が預かるが良いか?」
「そ、そりゃあ構いませんけど・・・・・うちの仕事をこれ以上増やさないで下さいよ。唯でさえ人手不足なんですから」
「解ってるって・・・そうだ!足りないのは事務員なんだろ?だったら良い物やるよ。元々俺の持ち込んだ仕事のせいでも有るしな」
「・・・・・何ですこれ?・・・文字や数字が並んでますけど、どうやって使うんですか?こっちの数字と記号だけの物も・・・・・」
「こっちはタイプライターつってな、ここに紙をこう挟んで・・・ガシャガシャガシャ・・・と、まぁ書類や手紙なんかを作る機械だな。で、こっちはソーラー電卓つってな・・・カチカチカチ・・・計算する機械だ。慣れれば仕事がかなり捗るぞ。取り敢えず三台ずつ置いて行くから使って・・・・・って、お~いホレス、どうした~」
驚きの余り目玉が零れ落ちそうな位に眼を見開き、顎が外れんばかりに口を開いたまま固まってしまったホレスの目の前で手をひらひらと振り、声を掛けるとガシッと肩を掴まれた。
「・・・・・あ、後五台・・・いや、後二台で良いので下さい!お願いします!」
必死の形相で俺に詰め寄るホレスに引きながらも追加で五台出してやった。
「お、おう・・・・・そんなに追い詰められてると思わなかったよ。悪かったな気が付かなくてさ」
いっそ会計ソフト等の入ったPCとプリンターでも出してやろうかと思ったが電気が通って無かったので止めておいた。
後日ホレスが悲痛な表情でタイプライターが壊れたと言って来たので見に行ったのだが、唯のインク切れだったのでつい笑ってしまった。
ホレスがタイプライターと電卓をホクホク顔で事務員達に会議室へと運ばせた。これからはそこで事務仕事をするらしい。流石ホレス、俺の創り出す物の重要性を解ってらっしゃる。
ホレスが奥に引っ込んだので俺は元神官の女性を連れて近くの店に入って詳しい事情を聞いた。
「なるほどね、立ち退き命令か・・・そりゃ困るわな。アスタル陛下には頼んでみたの?」
「はい・・・・・教会併設の孤児院はそのまま使っても良いと・・・・・ですが家賃が払えなくて・・・・・その・・・私達は幼い頃から神官でしたから・・・働こうにも特に何が出来る訳でもなく・・・・・冒険者組合にも登録しましたが街中の清掃位しか・・・・・・・・」
「それで寄付を募ってみたが相手にされなかったと。まぁ教会と係わりを持ちたい奴なんて王都じゃ居ないだろうしなぁ。それにしたって俺の事知ってたらハンス商会に行っても無駄だって解ってたろ」
「・・・はい・・・・・ですが、もう他に行く所も思い付きませんでしたし・・・・・それも断られてしまいました・・・・・・・・」
「あんたに一つ聞いておく事がある。孤児達の事は別として、お前等元神官達は教国に帰りたいか?」
「他の方は存じませんが、少なくとも私は帰る気は御座いません」
「良い答えだ。俺がお前達全員を助けてやる。行くぞ、教会は南だったな」
転移で店の前に飛び、転移酔いでふら付く元神官を連れて教会へと向かうと教会を守備隊が囲んでいた。
「後少しで良いんです!今家の者が援助を頼みに行ってますから!お願いします!あと少し、彼女が帰って来るまでで良いんです!」
「ダメだ!我々には他にも仕事が有るんでな、これ以上は待てん!」
頭を下げ待って欲しいと懇願する元神官と聞く耳を持たない守備隊員達。
「は~い、そこまでだ守備隊諸君。ここは俺が預かるからあんた等は帰って良いぜ」
パンパンと手を叩きながら軽口を叩き近寄って来た俺に守備隊が殺気立つ。
「我ら守備隊に楯突く気・・・か・・・・・パ、パンドラ・・・き、貴様には関係ないだろう!仕事の邪魔をするな!」
「おい・・・さんだ、さんを付けろや下っ端。ここは俺が預かるって言ってんだ、アスタルと直接交渉するからお前等は帰って良いぞ」
「陛下を呼び捨てにするな!あんたと陛下の関係は知っているが、我々も仕事なのでね、悪いが邪魔をするのであれば王国法に則り相応の裁きを受けて貰う事になるぞ!」
「ん?お前等何処かで見た事が有るな・・・・・あぁ・・・以前王宮の門番やってた・・・・・くだらねぇ見栄張ってると、てめえ等も西送りにすんぞ」
「ぐっ!貴様ぁ!平民風情が偉そうな口を利くな!我々は国の命を受けてここに来ているのだ!」
「ククク・・・ハハハハハ!誰が平民だって?!良いか、良く聞け!今の俺はベルトラン王国永世名誉貴族、王家相談役だ!貴様等木っ端なんぞが偉そうに口を利いて良い相手じゃねぇんだよ!!」
これは嘘ではない。アスタルが国内外で活動するのに身分は有った方が良いだろうとくれたのだ。
「大方、俺の事なんて知りたくも無いとかで通達をちゃんと読んで無かったんだろう?いかんなぁ・・・・・敵対するなら相手の情報はきちんと仕入れとけや、元レンフォール派の諸君。それとも・・・今でも変わってないのかなぁ?」
「ぐっ!」
「まぁ・・・俺は優しいから今のは聞かなかった事にしてやるし、てめぇらの顔位立ててやるよ・・・・・で、幾らだ?」
「へっ?!」
「へ、じゃねぇよ。こいつ等の借金は幾らだって言ってんだよ・・・・・チッ・・・使えねぇ奴等だなぁ・・・・・そら、持ってけ」
金貨の詰まった袋を収納から取り出して守備隊員の前に次々と放り投げた。
「そいつは手付金だ。一袋金貨千枚、五つで金貨五千枚だ。教会を含めた孤児院の敷地全て買い取るって伝えろ。細かい事は後でアスタルと直接交渉するともな。ほれ、さっさと持って帰えんな、誤魔化すんじゃねぇぞ」
積み上げられた金貨の入った袋に唖然とした守備隊員達が我に返り、俺を睨みながらもすごすごと金貨の詰まった袋を持って帰ると、周囲に集まった人達から歓声が上がり、俺はその歓声に応える様に右拳を上げ、そのまま元神官達を連れて孤児院へと入って行った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。