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ライラが目を覚ましたので焚き火に砂をかけて消させた、残った炭を取るためだ。
(ライラ、これからお前はゴブリンと戦う事になるがその前に助言がある。まず複数の敵を相手にする事になるが・・・止まるな、動き続けろ、上下左右に体を動かし的を絞らせるな。そして視界は広く持って一点に集中するな、常に全体を見るんだ)
ライラは俺の助言をブツブツと呟きながら繰り返していた。
(それと渡す物があるから取り出せ)
(主様・・・これって・・・・・)
(そうだ、俺達を襲ったあの豚野郎が持ってた物だ。使い方だが振り回すんじゃなくて刃を当てて撫でる様に根元から刃先まで全体を使って斬るんだ。どうだ、いけそうか?)
(ちょっと覚える事が多くて大変ですけど・・・やります・・・出来る様にならなきゃ主様の傍にいる資格無いですから)
(いい覚悟だ、それじゃ行こうか)
ライラは俺を背負い、俺の居た部屋のある通路へ向かった。
(ここから先はライラの感覚が重要になる。視覚だけじゃなく聴覚や嗅覚、気配に気を付けながら進むんだ)
(は、はい・・・解りました)
(緊張しすぎだ、それじゃいざって時に動けないぞ。大丈夫だお前は強くなったし俺が付いてるんだ、ちょっとそこまで散歩に行く位の感じで十分だ)
俺の言葉で緊張が解けたのか警戒しつつも普通に歩いて通路を進んで行くと壁際にしゃがんで止まった。
(主様、敵が居ます。この先の角を曲がった所です)
(そうか、俺の助言は覚えてるか?)
(はい、全体を見て動き続けて的を絞らせない。攻撃は刃全体を使って撫でる様に斬る。ですよね)
(ああ、そうだ。一撃で殺る必要は無い。相手の動きを止めるために足を狙え。まぁ、いざとなったら俺が殺るから心配すんな)
ライラは「はい!」と元気よく返事をしてから立ち上がり、深呼吸をして走り出した。曲がり角を抜けるとゴブリン三匹が立ち止まって話をしていたが俺達に気が付いて向かってきた。ライラは左右に動きながら速度を落とさずにすり抜けながら一匹目、二匹目とゴブリンの足を切りつけ、振り向きながら包丁の背で三匹目の頭を殴りつけた。
ライラは俺の助言通り止まる事無く動き続け、三匹のゴブリンを倒すのに然程時間はかからなかった。
ライラはハァハァと息を荒げ立ち竦み両手を見ると小刻みに震えていた。俺が声を掛けるとハッとして血溜りに倒れるゴブリン達を見た。
(・・・・倒した・・・んですよね・・・・・私が一人で・・・・・)
(そうだ、見事だったぞ。文句なしだ!)
(ッー・・・やったーーー!!)
喜びはしゃぐライラを横目に倒したゴブリンを取り込み、ライラに先を促した。
(ほれ、嬉しいのは解るが先に進め。警戒は怠るなよ)
その後、俺の居た部屋に着くまでに二度の戦闘を挟み、合計十匹のゴブリンを倒した。隠し部屋の扉は開いたままになっていて、中は何も無かったので扉を閉めさせて休憩した。
(ちょっと動くなよ、今綺麗にしてやるから)
俺は靄を出して座っているライラを包み、返り血を吸収してやった。
(わ~すご~い・・・綺麗になった・・・主様はやっぱり凄いです!)
(まぁ大した事じゃない。それより武器の手入れと食事だ。食べ終わったら先に進むぞ)
武器の手入れと食事休憩をした後、俺達はさらに先へと進み更に二十匹のゴブリンを倒して隠し部屋へと帰って来た。
座って武器の手入れをするライラを横目にステータスの確認をした。
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種族:コボルト♀ 名前:ライラ LV12
HP 73/73 MP 45/45
筋力:43 体力:45 素早さ:75 技術:30
知力:25 精神力:30 幸運:12
スキル:聴覚強化(小) 嗅覚強化(小) 気配察知
思考加速
装備:肉切り包丁×2
眷属契約〔契約主:パンドラ〕
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(おお、LVが10も上がってるしスキルも増えてるぞ!よく頑張ったな。疲れただろ食事をしたら今日はもう寝るといいぞ)
ライラは上機嫌で尻尾をパタパタと振りながら食事を取った後、毛皮を被り眠った。
薄暗く何も無い部屋。
俺が人で無くなり初めて見た景色。
希望と絶望を繰り返し、殺し喰らう。
己を殺意で黒く染めるための部屋。
じっと扉を見張っているとライラに会う前の事を思い出してしまう。
あの時ライラに出会い、救われた自分がいる。
自らを「パンドラ」と名付け、恐怖と絶望を振りまく存在で在るならば、ライラは最後に残った希望なのだろう。
だから俺はライラを育てつつも守らなければならない。
俺が俺のまま復讐を果たすためにも。
ここまで読んでいただき有難うございます。