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転生木箱の零れ話1

本編の43.5話に為ります。

ベルトラン王国南部の街道脇で一人の男が野営をしていた。


男は鞄から切り分けられた肉と野菜、小振りのフライパンを出して焚き火で調理をした後、皿を出して盛り付け、更にパンと水筒とフォークを出して食事を始めた。


「・・・ははは・・・まさか野営でちゃんとした食事が取れるとは思いもしなかった・・・ははははは・・・・・」


男は終始笑顔で食事が終わった後に毛布に包まり横に為るが、胸の奥に沸き上がる感情が彼の眠りを妨げた。


「・・・まいったな、とても眠れそうにないぞ・・・ククククク・・・こんな気持ちは何時以来だ?・・・・・そう言えば野営をするのは何時振りだ?・・・・・いや・・・一人でするのは初めてか・・・・・あれから二十五年・・・か・・・・・・・・」



 *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



私・・・いや、当時は俺と言っていたか・・・・・

ベルトラン王国の南西の開拓村、それが俺達の生まれ故郷だった。

祖父達が起こした村民五十人程のこの村は、そこそこの収穫量を誇っていた。


だが俺が十歳の時に父を含めた大半の成人男性は徴兵で北砦へ派遣され帰って来なかった。

同じ様に幼馴染で悪友だったホレスの父も帰ってこず、お互いを支え合い家族同様の付き合いをし、畑仕事に精を出していた。


そして十三歳の時、オーク八匹が村を襲い、村人総出で農具を持って撃退したが大勢の犠牲者が出て・・・その中に俺とホレスの母もいた。

村の共同墓地で合同葬儀をし、泣きながらホレスと自宅へと帰ったあの日の事は今でも鮮明に思い出せる。


眠れぬ夜を過ごした翌早朝、俺は二人分の朝食を持ってホレスの家へと向かい、扉を叩いてホレスを呼んだ。


「おーい!ホレス!話が有るんだ!中に入れてくれないか!」


暫くして扉が開き赤く目を腫らした暗い表情のホレスが出て来た。


「・・・・・何だよ話って・・・・・・・・」


「ひでぇ顔だな・・・俺も人の事言えないけどさ・・・・・朝飯・・・持ってきたんだ、中に入れてくれないか?一緒に食おうぜ、これからの事も話したいしさ」


ホレスの家で二人で食事を取ってから畑と家を売って村を出て冒険者になる事を告げた。

当然ホレスは反対したがこの村の現状、若者・・・特に男性が少ない事、これから先に徴兵が無いとも限らない事を告げて説得した。

冒険者になってしまえば身柄は組合の所属になり徴兵される事は無いのだ。


その日の内に村長宅へ行って畑と家を売り、三日後には最低限の荷物を背負って村を後にした。


冒険者組合の有る町は歩いて五日。定期馬車など出ている訳も無く、お金も無駄に使いたく無かったから只管歩いた。

初めての野営はホレスと交代で見張りに付いたが余り眠れずに翌日は二人して寝不足だった。

まともな武器なんて無かった。調理に使うナイフと鍬の柄の部分しかなかった。

不安と恐怖は馬鹿で無茶な夢と空元気で誤魔化して進んだ。


冒険者になってからも戴して変わらなかったが、無理が有ればホレスが正してくれたから前に進めた。

三年後に俺達の故郷は廃村になり、近くの村に統合されたと聞いて、俺の判断は間違ってなかったと確信した。


国中の町や村を廻って顔と名前を売り、お金を貯めて旅商人になったが、魔物や盗賊を倒す所は冒険者と戴して変わらなかった。


王都に店を構え、商会員が増えて行き毎日忙しかった。

大商会に目を付けられ、嫌がらせを受けてから低迷していたが漸く好機が訪れた。


あの日・・・初めて野営をした次の日に、眠い眼を擦りながらホレスと話した馬鹿な夢。


「ホレス!俺は絶対に王都では知らない奴は居ない位に有名になって見せるぞ!!」


二人で笑い合ったあの時を今でも忘れない。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



日の出と共に目が覚めて軽い食事を取って出発した。


「全てを得るか、それとも失うか・・・か・・・ははははは!待ってろホレス!!後少しであの時の夢が叶うぞ!!ははははは・・・・・!!」


言葉にはしたが失うなんて微塵も思えなかった。

彼の眼と言葉には失敗など有り得ないと言う確信が有った。


後の事はホレスに任せておけば何も心配は要らないと、私は私の成すべき事をすれば良いと南へと馬を走らせた。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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