外伝 遺志を継ぐ者3
「うわぁ~あっついなぁ~・・・・・え~っと・・・パンドラさん達は・・・・・何だあれ?金属の筒?遠ざかってるけど・・・・・まぁパンドラさんしか居ないよね、あんな事してるのは」
巨大な金属の筒の様な物が移動している方へ向かって行くと、その先、視界一面にキラキラと光る水面が見え、その雄大さに唖然としてしまった。
「・・・・・す、凄い・・・あれが海?・・・・・一体何処まで続いているんだろう・・・・・おっと・・・パンドラさん達の所に行かなきゃ」
更に近づいて行くと直径3m位有る金属の筒が二つ付いた物が「グオォォ」と大きな音を立てて移動していて、筒と筒の間に有る椅子にパンドラさんが座って操作していた。
僕が声を掛けるとパンドラさんは操作を止めて椅子から飛び降りて来たんだけど、今まで以上に変わった格好をしていて・・・・・
「やあ、ケント君、ここに来たって事は白井君から色々学べたって事かな」
「え、ええ・・・それでライラ師匠にまた教わろうと思いまして・・・・・それにしても随分変わった格好ですよね・・・派手って言うか何と言うか・・・ズボンも短いですし、顔に付けてる黒い板は何です?」
パンドラさんは花柄の半袖のシャツに膝丈の青いズボンと板に付けられた紐を足の親指と人差し指に挟む変わった履物を履いていて、目の前には黒い板が二つ付いた物が有り、その両脇に付いた棒を耳に掛けていた。
「ははははは・・・まぁ気にすんな。俺の居た世界じゃ南の島って言ったらこう言う格好をするもんなんだよ」
「はぁ・・・そう言う物だと言う事にしときます・・・それで他の皆さんは?」
「ああ、三人共俺の眷属契約を解消してな。タニアは店で、アレスはあの山の東側、ライラは~・・・・・居た居た。あそこで魚を捕ってる~・・・んだと・・・と思う・・・・・」
パンドラさんが指差す方向、遥か海上で何やら蠢く生物を相手にしているライラ師匠らしき影が見えた。
「・・・・・あれって魚じゃなくて魔物なんじゃ・・・・・ま、まぁライラ師匠なら大丈夫なんでしょうけど・・・それでパンドラさんは何をしてるんですか?」
「新しく家を造り替えたんで整地してたんだよ。色々と付けて欲しい物を揃えたら結構大きな家になっちゃってな。まぁ立ち話もなんだし整地も終わった所だ、家の中で話そうか」
パンドラさんはそう言うと整地した50m四方は有る土地と然程変わらない大きさの家を出した。二階建てのその家は特に装飾等は無いが、王都の店の様にガラス張りでとても綺麗だった。
パンドラさんの後に付いて玄関を潜ると、そこは別世界の様に涼しかった。
「うちは土足厳禁だから、ここで靴を脱いでこれに履き替えてくれ」
靴を脱いで室内履き(スリッパと言うらしい)に履き替えて、直ぐ左の部屋へ通されたんだけど・・・・・もう何が何だか解らなかった。室内は毛足の長い絨毯が全面に張り巡らされ中央にはやけに低いテーブルと、その周囲に布か革か解らない物が張り巡らされたやけに厚みの有る椅子・・・迄は解ったが、壁側の低い棚に有る道具?が全く解らなかった。
呆然と立ち尽くす僕に、悪戯が成功した時の子供の様な笑顔でパンドラさんは席を勧めてくれたのだけど、その椅子も当然の様に普通じゃなくて・・・・・
「・・・・・凄い・・・これ、うちのベッドより軟らかいですよ!うわぁ~・・・・・これが有ったら一日中寝てしまいそうです!」
「ははは・・・気に入って貰えたみたいだな。まぁ、この家に有る物は殆んどがこの世界に無い物だから欲しいと言われても渡せないんだけどな。で、ライラに稽古付けて貰うって話なんだが・・・本人と交渉してくれ。もう俺の眷属じゃないって話はしたろ、本人の意志に任せたいんだ」
「・・・・・なるほど・・・よく解りました。ライラ師匠には気が向いた時にでも教えて貰うとしてですね、パンドラさんが僕に教えるってのは無しですか?よくよく考えてみたらパンドラさんに教わるのが一番良いと思ったんですよね。ライラ師匠を越えたいならその師に教わる方が良いんじゃないかって・・・それに・・・他の誰にも使えない魔法を幾つも持ってますよね?多少は魔法も使える様に為ったんですけど、パンドラさんのは本質が違う様な気がするんですよ」
「ん~・・・まぁ目的は達成したし特にやりたい事も無いから良いんだが・・・・・」
一瞬パンドラさんの目付きが鋭くなり背筋に悪寒が走った。
「・・・な、なんです・・・今の・・・・・」
「・・・・・へぇ・・・気が付いたのか・・・・・アナライズって言うんだが・・・まぁ気にするな、特に害は無いから」
「ただいま~。主様、お魚いっぱい取れたから新しい料理教えて~。あ、ケント君いらっしゃい」
と、そこへライラ師匠が帰って来たので挨拶をしようとして入り口の方を向いたが直ぐに顔を背けた。
「どれどれ~・・・・・お、中々の成果だな。刺身にタタキ・・・煮付けに鍋も捨てがたいな」
「陸の近くはそうでもないんだけど、ちょっと奥の方に行くと魔物が多くて大きなお魚は取り難いんだ~。さっきも足が沢山有る奴がしつこくて・・・・・どうしたの?ケント君」
「ど、どうしたのって・・・そ、その格好は何ですか!パンドラさんも注意してくださいよ!ほ、殆んど裸じゃないですか!」
「ええ~・・・おかしいかな?可愛いと思うんだけど・・・・・」
「ああ、よく似合ってるぞ。ケント君これは『水着』って言ってだな、水の中に入る時の服なんだよ。無難なワンピースにしたんだが・・・まぁシャワー浴びて着替えて来な。料理はその後だ」
ライラ師匠が部屋を出て行き扉の閉まる音を聞いて大きく息を吐いた。
忘れていた。パンドラさんは別世界から来てライラ師匠は外界から閉ざされた場所で育って常識が足りないと言う事を。
「お前、妹居るのに免疫無さ過ぎだろ」
「いやいや、僕がどうとかじゃなくて、パンドラさん達に此方の常識が足り無いんですよ!あ、あんな・・・・・」
「可愛かったろ?ククク・・・数年もしたら良い女になると思うぞ、うん。この世界じゃ五本の指に入る程の腕の持ち主で、家事全般もこなせる。良い嫁さんになると思うけどな~」
「ぐっ・・・し、師匠の事はもう良いです。それより教えて貰えるんですか?」
「ああ、勿論だ・・・が、今まで覚えた魔法は全て忘れて貰うし、身体を鍛える以外に今までの常識がひっくり返る様な事も勉強して貰う事になるが・・・それでも良ければだ」
「望む所です。それ位じゃなきゃ師匠を越える事は出来そうにありませんから」
こうして僕は成人して守備隊に入るまでの二年半、パンドラさんの下で教えを受ける事となった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。