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外伝 遺志を継ぐ者2

救国の英雄レイル・ガーランドの残した報告書の内、最も古い物は大進攻の物で、その内容は信じ難い物だった。


命令違反に敵前逃亡。騎士団を本隊とした三千名と自部隊の八百名の内、帰還者は五百四十六名。他国の者を合わせても一万の兵の内五百六十三名しか帰還出来なかったと記されていた。御前試合の時に父上が言っていた『大進攻で地獄を見た』と言う言葉は比喩でも何でも無かった。


「・・・・・昼食会の後にケイオス陛下が『賞賛に値する判断力』だって言ってたけど・・・どんな気持ちで撤退したのか想像もつかないや。それにしても、この報告書を提出してよく責任を取らされて処刑されなかったなぁ・・・・・それだけ先代の陛下に信用され信用していた・・・のかな」


次に読んだのは王都特別隊から王家特務兵に変わってからの物で・・・・・


「えっ?!拝命してから三日後に出立?!大進攻から帰還して四日しか経ってないじゃないか・・・・・しかも一人でゴブリンの集落を殲滅って・・・・・何だよこれ・・・・・もしかしてこれが罰・・・なのかな?・・・でも、そうだとしたら王家特務兵なんて役職を与える筈ないし・・・・・」


その他の報告書も似た様な物で任務期間は移動も含めて二十日前後、帰還から次の任務までも二、三日程で、とても同じ人間とは思えない内容だった。


「・・・・・あ~もう朝か・・・夜を明かしたなんて初めてだよ・・・・・はぁ・・・そりゃあ英雄って呼ばれるよなぁ・・・・・この人の血が僕にも流れてるのか・・・・・」


事実、レイルが現役を引退して三十年経つ現在でも魔物の被害は周辺諸国と比べると少ない。パンドラ達が北砦から王都までの道程で殆んど魔物に遭わなかった理由はこれだ。そして魔の森が無くなった以上、ベルトラン王国よりも安全な国は無いとさえ言える。


結局一人で悩んでいても答えは出なかったので、朝食の席に父上が居たので聞いてみる事にした。


「・・・・・父上・・・僕は父上の受け継いだ技を受け継がなくても良いのでしょうか?」


「ああ、別に構わないよ。そもそも私の父も継いでいないしね」


「えっ?!そうなんですか?てっきり代々受け継がれてきた物だと思っていました」


「ははは・・・私が祖父の教えを受けたのは十歳・・・父が亡くなってから祖父が亡くなるまでの三年間だけだよ。成人して守備隊に入るまでにどうしても人並み以上の強さが欲しくてね。祖父に無理を言って稽古をつけて貰ったのだよ」


「・・・・・何故・・・か聞いても良いですか・・・・・」


「・・・・・ふむ・・・まぁ、もう良いか・・・・・私情だよ・・・レンフォール家に対する恨みだけで強さを力を欲したのだ・・・・・その為だけに父と祖父が拒んだ爵位も受けた・・・・・どうだ、幻滅したか?」


それまでの優しい父上から一転、鋭い目付きと獰猛な笑みを浮かべる父上に恐怖を感じ口篭ってしまった。


「・・・え・・・あ・・・・・いえ・・・その、詳しく聞いても?」


「聞いてどうする?理由なんぞ人それぞれだ。お前はお前なりの理由を探せば良い。別に家を継ぐ事を強要するつもりも無い。周囲が何と言おうとお前の好きな様にすると良い」


家を継がなくても良いとまで言われ、ますます解らなくなり「はい」と答える事しか出来なかった。


何時もの様に裏庭からハンスの村へ飛ぶ、転移にもすっかり慣れて酔う事も無くなった。転移陣の有る建物から出て直ぐに気が付いた。パンドラさん達の家が無くなっていたのだ。


「・・・なんで・・・・・し、白井さん!これってどう言う事ですか?!パンドラさん達は何処に・・・・・」


「何だお前知らなかったのか?昨日で全て終わったから南の島でのんびりするんだと。用が有るならハンス商会に転移陣が有るから行ってみな」


「え、そうなんですか・・・・・良かった・・・居なくなったのかと思いましたよ」


「ははは・・・王都に店が在るのにそんな訳ねぇだろ。で、答えは見つかったのか?」


「・・・いえ・・・・・何だかかえって困惑しちゃって・・・・・」


「ふぅ~ん・・・・・もういっそ理由とか無くても良いんじゃね?」


「・・・いや・・・・・幾らなんでもそれはちょっと・・・・・」


「俺は頭悪いから考えても答えが出ない時は前に進む事にしてんだ。『馬鹿の考え休むに似たり』ってな。休んでる位なら進んだ方がましだろ?」


この人自分で馬鹿って言っちゃったよ・・・・・でも悪くない考えだった。確かに休んでいる位なら進んだ方が良いに決まっている。


「白井さん!有難う御座いました!今は取り合えず前に進んでみようと思います!」


「ははは・・・礼なんていらねぇよ。俺みたいな奴でも役に立て見たいだしそれで十分だ。それでこれからどうすんだ?」


「ライラ師匠・・・と言うかパンドラさんの所に行って見ようと思います。南の島も・・・海も見てみたいですし」


「そうか・・・ま、偶には顔見せに来いや」


「はい!次に来る時には少しは白井さんの御相手が出来る様に頑張って来ます!」


「おう、楽しみにいてるぜ」


一礼をして白井さんの下を辞去し、ハンス商会へと転移してホレスさんに頼んで南の島行きの転移陣の建物の鍵を開けて貰い転移した。

すっかり憑き物が落ちた様に晴れ晴れとした気持ちで扉を開けると、照り付ける太陽と潮風が僕を迎えてくれた。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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