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アスタルに報告する為に城に入ると会議室へ通された。
会議室には調印式を無事に終えた皆が揃っていて、俺が封印処置を施した賢者の石を見せて奴を倒した事を報告し、ジェラルドに紙吹雪の後始末を頼んだ。
ケイオスだけは俺の身体の変化に気が付いていた様だが、何も言わなかったので転移でガーランド家へ飛んだ。
アイリスに全て終わったと報告し、世話になったと礼を言ってジェームスから封筒を返して貰いハンスの村へ飛ぶ。
赤城と白井にも報告し、日本へ帰りたい者が居たら連絡する様に言ってパンドラの箱へと飛び、玄田にも報告して南の島へ。
島の南側に有る河口の近くに家を出し、リビングでお茶を飲みながら今後の事を話し合った。
「先ず最初に、改めて礼を言う・・・有難う。お前達のお陰で全て無事に終わったよ、感謝する。それから今後の事だが・・・お前達との契約を解除する。これからは自由にやりたい事をすると良い。それと報酬として望みが有れば遠慮なく言ってくれ。可能な限り何でも叶えよう」
「・・・主殿、一つ宜しいか。そもそもあ奴を倒すのに我等は必要なかった、違いますか?それで報酬など戴けません」
「今日に限って言えば確かに俺一人でも問題なかった。だがな・・・ライラが居なかったら今でも試験場に居たかも知れねぇ。お前が居なかったらハンスの村はまだ完成していなかったかも知れねぇ。タニアはお前達に足りない常識を埋めてくれた。俺一人だったらここまで早く成し遂げてなかったんだよ。だから感謝もしてるし今までの働きに報いたいんだ」
「私は主様の傍に居るよ。いろんな事出来る様になって主様のお役に立ちたいんだ~」
「そうか、好きなだけ居たら良いぞ。アレスは?何か頼みが有るとか言ってたろ」
「はい・・・その~・・・何と申しましょうか・・・大変申し上げにくいのですが・・・・・」
「何だよ、珍しく歯切れが悪いじゃねぇか。遠慮はいらねぇから何でも言ってみ」
「・・・・・あの・・・・・・・と・・・鳥を飼育してみたいのです」
「なぬ?鳥って何の鳥だ?籠に入れて飼う様な小型のか?それとも鷹とか狩りに使う様な奴か?」
「い、いえ・・・その・・・・・に、鶏を飼いたいのですが・・・ダメでしょうか」
「鶏って・・・ああ、養鶏か。そんならもっと早く言えば良かったじゃん。ハンスの村とこの島どっちが良い?ハンスに頼んで5百でも千でも用意させるぞ」
「あ・・・いえ、そうでは無くてですね、五羽位から増やして行きたいのです・・・・・ハンスの村で増えて行く鶏達を見て生命の神秘と言いますか素晴らしさを学びました・・・我の様な戦い殺し喰らう事しか出来ない者が何を言っているのだとお思いでしょうが、卵から孵った雛達を見て柄にも無く感動しまして・・・・・その・・・変・・・ですよね・・・・・」
「別に変じゃねぇだろ。お前は余計な事考えすぎなんだよ。戦う事以外にやりたいこと見つけたんだ、そこは誇る所だろ」
「・・・有難う御座います。では、この島の農村に用意して頂けますか?」
「ああ良いぜ・・・・・・・・ひよこと戯れるアレスか・・・・・金が取れるかもしれん」
「ブハッ!ちょっと、想像しちゃったじゃないですか!」
「・・・・・ひよこを連れて村を散歩するアレスさん・・・可愛い・・・・・」
「あははははは!やめて!お腹痛い!あはははは!」
「くっ!似合わぬ事は承知の上・・・・・だから言いたく無かったのだ・・・・・」
「タニア、笑い過ぎだ。山の東側なら空いてるし、明日にでも用意するよ。で、タニアはどうする?」
「あ、あたしは・・・・・その・・・ご主人様と結婚したかったけど・・・ダメなんですよね・・・・・」
「ダメって言うか無理だな。この際だから言っておく、俺はもう『人』ではなくなってる。奴と工房とシステムを取り込んだ事で奴以上の存在になったんだ」
「・・・・・それは寄り代を得たあ奴と同じと言う意味でしょうか?」
「違う、それ以上の存在だ。凡そ人が思い描く神と言う存在に限りなく近しい存在だ。睡眠は元より、魔力さえあれば食事も要らない。こうしてお茶を飲んではいるが体内で魔力に還元されるから排泄もしない。新陳代謝もしないから歳も取らないし、子孫を残す必要も無いから生殖機能も無くなってる。生命体として完結しちまってるんだよ俺は」
「・・・・・も、元には戻れないんですか?」
「戻れるよ。奴から得た分の魔力を放出して、工房とシステムを開放すれば、だがな・・・・・」
「では何故・・・・・何か弊害が有るのですな」
「ああ、この星を含めたかなりの広範囲が消滅するし、その周辺に及ぼす影響は計り知れねぇ。つー訳で、タニアは諦めて他を探せ」
実は消滅云々は全部嘘で、元に戻りたくない理由は他に有る。
「・・・うぅ・・・・・じゃ、じゃあ少しでも恩返しがしたいから、パンドラの箱で働かせて下さい」
「おお、良いぞ。ここから通うか?それとも寮に住むか?どっちでも良いぞ」
「・・・ここに居たらご主人様に甘えちゃいそうなんで寮に入ります・・・・・何も出来なかったあたしを助けてぐれで・・・・・グスッ・・・有難う御座いまじだああぁぁ・・・・・」
「アホかお前は。今生の別れでもないのに泣くんじゃねぇ鬱陶しい」
こうして俺の復讐は終わり、南の島で悠久の時を過ごす事となった。
ベルトラン王国は目まぐるしく変わる情勢を生き抜き発展の一途を辿り、次第にこの平和を齎した者の事を忘れて行った。
などと言う事は無く、度々王都に現れては騒ぎを起こし「またパンドラか」と言われつつも皆に敬愛されるのであった。
おまけ
・・・・・カポーン・・・・・ザバァ~・・・・・・・・
「・・・・・ふぅ~・・・やっと風呂に浸かれる様に為ったのに元に戻るとか有り得ねぇよなぁ・・・・・」
おしまい。
ここまで読んで頂き有難う御座います。
本話がで本編の最終話と為ります。