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Have fun & Bon voyage!~ミニイベ・忘却の彼方から6~

「オレたちが乗っちまった列車はよ! 途中下車はできねえぜ!」


【黒木勇斗語録・FF7 バレット】


 グローリア王都南門・飛空艇発着場──


「おおむねリップルの予想通りの結果になった。騎士団の抜き打ち調査で摘発した闇クエストの請負屋がすべて吐いたよ。メイプル大森林の樹液密猟のクエスト依頼が、半月前からポツポツと裏社会で発注されていたらしい」


「無理な調査させてすみません」


 携帯タブレットごしにあたしはギュスさまに礼を述べる。


「なぁに、どのみち裏街道の闇クエスト業者の摘発は、前々から騎士団内で計画されていたことだ。このタイミングでの摘発は騎士団と内通している業者の間者どもへのフェイントになったよ。いきなりの調査開始に騎士団の若い衆は戸惑っていたが、たまにはこういう突発的な行動も彼らには必要な刺激だ」


「事件はヨーイドンで起きるものではない。常に奇襲のように起こるものだと意識して活動せよ。先代騎士団長の言葉でしたね」


「今回の件はそれとはまた違って思いつきの行き当たりバッタリ捜査ではあったがね。まぁ、キミが数時間前に闇業者を洗えと支持する以前からこの件はやるつもりであったから、単純に計画実行が前倒しになっただけだ。キミが迷惑なことをしたと思うことはない」


 ギュスさまはそう言って軽く笑った。


「それにしても便利だな、この携帯通信機は」


「従来の伝声球より小型で扱いやすいでしょ? 範囲が狭くて燃費が悪いのが難点ですけど、そこはおいおい改良で」


 ギュスさまは今、王都の裏街道にある闇クエスト業者の店にいる。

 そこにいる理由は騎士団による悪徳業者の一斉摘発だ。

 冒険者ギルドを通さない非合法なクエストを取り扱う闇業者は多い。

 特に最近はヒャッハーどもの増殖のせいで禁制品や盗品買取などの闇取引が横行していて、こういう手合いの店が大繁盛。


 ほとんどヤマカンではあったけど。

 ウゴウとシュウの姉弟がメイプル大森林の密猟に関わった件は、あの二人の活動範囲からしてコッチ経由でのことだと考えたあたしは、数時間前に騎士団長のギュス様にちょいとしたおねがいをしてみた。


 裏街道で闇クエストを請け負う酒場が、メイプル大森林関連の密輸の仕事を請け負っていないか調べて欲しいと。


 結果はドンピシャ。しかも仕事が速い。

 ちょっと潜入捜査でクエストの受注状況を見てもらうだけでよかったのに、まさか騎士団連れて潰しにかかるとは予想外。


 おかげて想定以上の情報が手に入ったわけだけど……


 ギュスさまが摘発した酒場、あたしもよく賭博場として通ってた顔見知りの多いとこだったから、なんか常連に悪いことしちゃったなぁ。


「それにしたって大当たりだったわね」


「そうだな。単なるメープル樹液の密猟ならコソ泥の逮捕程度で済む問題だろうが、あの第八区のみに絞ったものなら話は別だ。想像以上にデカいヤマになるぞコレは」


 だからって闇業者の酒場を騎士団総出で潰すとかやりすぎ。


「話はクローディアさんから聞いてる?」


「さっき通信が来て聞いたよ。いくら希少性が高まって相場が上がりつつあったとはいえ、なぜメイプルシロップごときのためにこれほどの密猟クエストが数件発注されたのか謎だったが、なるほど……邪妖樹の麻薬素材目当てとなれば納得が行く」


「その様子だと、その怪しげなクエストを受けたアウトロー連中は相当数いたみたいですね」


「分かっている限りで5パーティ、三十名以上だな。噂を聞きつけてクエストに関係なく現地へ群がる連中も含めたら百は超えるだろう」


「依頼人の正体は?」


「それが奇妙な話でな」


「奇妙?」


「現在引き続き調査中なんだが、業者の話ではローブで顔を隠した女と聞いたが、どうやらその女というのが情報源各所で食い違っていてな。あちこちでメイプル大森林の第八区のことを一攫千金のネタとして吹聴していたらしいのはたしかなんだが、年齢が少女だったり老婆だったり二十歳ソコソコの女だったりとちぐはぐなんだ。髪の色や服装の特徴は同じなのだが」


「変身スキル……シェイプチェンジの使い手かしら。臭いわね」


「ああ、臭いな。そもそも本当に女なのか人間なのかも怪しい。その謎の女の話を鵜呑みにして、麻薬素材目当てのアウトローどもが大勢メイプル大森林に向かったわけだ」


「帰還者は?」


「いまのところ確認してないそうだ」


 わぉ。


「まるで樹液に群がって一網打尽にされる昆虫のようね」


「理由は分からんが、その男があえて儲け話として連中をメイプル大森林へ向かわせたのは明白だ。げせんのは本来なら秘密にして独占すればいいはずの邪妖樹の話をどうして裏で広めたかだが……」


「パターンとしては生贄エサ実験台モルモットのため」


「そのあたりが順当だろうな」


 邪妖樹は品種にもよるだろうけど人を襲って喰らう怪物だ。

 人を養分にして育つとするならアウトローどもは絶好のエサだ。

 ホイホイと甘い汁に寄って来た虫を捕食する食虫植物。

 例えるならソレだ。


 謎の女の真意は測りかねるし、あたしの推理は推測の域を出ない。

 そんなもんじゃ済まないとんでもないことが起きてる可能性もある。

 これらの推測は四半世紀前の一件との繋がりとして納得のいく答えにはなってはいないけど、決して無関係というわけでもない。


「ありがとうギュスさま。これでメイプル大森林の異変についての裏も取れたし、安心して現地に行けるわ」


「ところでリップルくん」


「はい?」


「今回の一件、闇クエスト業者もかなり慎重に以来を行っていて、村の人間すら第八区に忍び込んだ密猟者の存在に気が付いていなかったほどのことなのに、なぜこのことを知るに到ったのかね?」


「そこはちょっとした協力者がいたもので♪」


 あたしはペロリと舌を出して悪戯っぽく微笑む。


「ギルドの潜入捜査員か? なら問題はあるまい」


 ギュスさまもなんとかくは察しているんだろう。

 あたしが本件を知るにいたったウゴウとシュウの存在。

 生還者いまだゼロのメイプル大森林から逃げおおせたアウトローが、事件の一部を知る者が、あたしの手元にいるってことを。


 騎士団としては闇クエストを請け負った犯罪者は放置できない。

 ただしそれが冒険者ギルドが放ったスパイならば話は別だ。

 だからわざとギュスさまは勘違いしたふりをして納得してくれた。

 そういうことにしておけば面倒なことにはならないから。


「それで、騎士団われらの手助けは必要かね?」

「もう年寄りの手を借りるトシじゃないですよ」


 王国騎士団が動くのは本当に最後の手。

 これは商業ギルドの一大事業にも関わる事件だ。

 なるべくなら秘密裏に処理して大事にしたくない。


「もしあたしがしくじったら、あとはおねがいします」

「それが心配だから手を貸したくてしかたないのだが?」


 おばあさまの件はやっぱりみんなトラウマか。

 みながみな、あのとき手助けできていればと後悔してる。

 だからこそあたしは言ってやった。


「あたしを誰だと思ってるんですか? あの七大魔王の一角『邪竜王グラスターク』を倒した勇者パーティーの紅一点、リップル・ハートバーですよ」


 自分はおばあさまとは違うと。

 あの人にはあの人のやりかたがあって。

 あたしにはあたしのやりかたがある。


 だから過程も違えば結果もきっと違う。

 あたしにはおばあさまのような自己犠牲の精神はない。

 あの人は自分の命をチップにして分の悪いルーレットに賭けた。

 でも自分は打算タネ計算サマで運命のサイコロを振るタイプだ。

 振った賽の出目が良いか悪いかはまた別問題だけどね。


「そうだな。老婆心だった」


「もしあたしの手助けがしたいというのなら、クローディアさんと一緒にマーリン先生の押さえ込みを頼みます」


「よりにもよって最も厄介な仕事を押し付けてくれるな」

「そうでもしないとあのクソジジイ、おばあさまのやり方に倣って、自分の命を犠牲にしてでも第八区を完全に消滅させかねませんから」


「いかんのかね?」

「あんなクソ村のために犠牲になられても困るんですよ」


「本人が聞いたら歓喜して裸で踊りそうだな」

「当人にはジジイは引っ込んでろって言っておいてください」


「相変わらず祖父に対しては辛辣だな」

「あの人にはこれくらいの距離感で丁度いいんです」


 素直におじいちゃんって呼べるほどあたしはデキた孫じゃないもの。

 おばあさまが指名を優先してマーリン先生と袂を分かったように。

 お母様が自分をマーリン先生を父親として認めなかったように。

 あたしたちの存在は王国が誇る大魔術師の経歴にキズをつける。

 たとえ公然の秘密でも真実は声に出していいものじゃない。


 そう、部外者が知る必要のない真実ってのはどこにでもある。

 おばあさまが村の未来のために真実を隠したのも同じだ。

 それについてはあたしも同様。やっぱり血は争えない。

 こんな村なんか滅んでしまえと心底憎んでるはずなのに。

 結果的に、あたしは自分の意志であの地を守ろうとしている。


「いってきます。あとのことはよろしく」


 あたしは通信を切り、発着場へ向けて歩を進める。


「用件は済んだのかい?」


 その先で待っていたのは──


「準備は万端よ。それじゃあ行くわよおにぎり」


 共に魔王に挑んだ嘘偽りなく心を許せる盟友。


「行商終わってのんびり酒場で一杯やってたらいきなり呼びつけられて、メイプル村まで飛空艇の送迎とは人使いの荒いこって」


「イカルくんの船でも良かったんだけどね、やっぱり気心の知れた仲間ほうが協力とりつけやすいからさ。それにその船、王国軍払い下げの高速艇を相場よりも安く買えるよう交渉してあげたのは誰でしたっけ?」


「それ言われると辛いな。その節はどうも」


 やれやれと肩をすくめるおにぎり。


「あなたも飛空艇操縦士の免許とりたてでいい練習の機会じゃない。メイプル大森林上空まで、ひとっぱしり頼むわね」


「燃料費は請求するからな」


「領収証はギルド名義でね」


「んで、メイプル大森林がやべぇって話は聞いたけどよ、先に森に向かった俺の教え子が危機かもしれねぇんだろ? 手伝おうか?」


「ごめんね。この件はできるだけあたし一人で終わらせたいの。だから村の広場で待機してて。もしものときは頼むわ」


「もしもがないことを祈るよ」


「んじゃ、超特急で」


了解らじゃ


 あたしはおにぎりと一緒に飛空艇に乗り込みメイブル大森林に向かう。


「それにしたって重装備だな」


「先行投資には金に糸目をつけない主義なの」


 装備面についてはあたしは可能な限り持ち込んできた。

 自分の分だけなら通常装備だけで十分だけど。

 ナップザックに詰め込んだ薬品の数々が必要となる局面はある。


「ギャンブル前のタネの仕込みには余念がないなお前は」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


「ほんじゃまぁ、超特急で向かうぜ。到着はおよそ一刻後だ」


 発進の合図で飛空艇が浮上し、離陸を始めて飛翔する。 

 向かうはメイプル大森林の第八区上空。

 あたしにとっては一族の運命が交差する鉄火場だ。


「リップル・ハートバー、運命の良き旅を……っな」


 さぁて、これよりはじまるは嘘つき白兎の大博打。

 自分の毛皮をチップにして、負ければ身包み剥がされ丸裸。

 イカサマの準備はOK? タネの仕込みはOK?

 さぁさぁさぁ、チップを数える時間です。願いましては──

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