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I changed jobs recently. ~転職の神殿へ向かおう~

 ピチピチギャルは 

 修業を つみ上げたところで なれるような ものではない。

 では なぜ ピチピチギャルを目指す者が あとをたたないのか?

 それは…… 男たちの 永遠の夢だからである。


【黒木勇斗語録・ドラゴンクエストⅥ ダーマの神殿の本棚】

 それから二日後──


 わたしはリップル姉からデューダーの神殿での昇格に必要な紹介状を受け取り、バイトが終わるなり即で神殿行きの定期便に乗り込んだ。


 王都南門発着場から馬車や飛空艇の定期便が出ているあたり、いかに転職が大陸規模で毎日のように行われているかが見て取れる。


 デューダーの神殿は王都からやや離れた山岳部の僻地にある。

 飛空艇なら日に二回の往復便に乗って二時間の距離。

 馬車なら朝昼夜の三便のどれかに乗って六時間ちょいなんだけど……


 昔は徒歩で神殿に向かうことがそれだけで試練になったというくらい険しい道のりだったらしくて、冒険者の街道や空路などの交通網が発展するまでは、神殿への道のりはまさに秘境探検の領域。


 いまでも一部の僧侶クラスでは転職の前提条件として『御遍路』という聖地巡礼の旅の試練を個別に課して、その上級職になるにはデューダーの神殿に到るまでの各地のチェックポイントを自らの足で踏む苦行を行わなければいけないらしい。


 幸いにして魔道士にはそういうのはないので高速移動可で助かる。

 もちろんわたしが選択したのは運賃が格安の馬車ルート。

 馬車と空飛艇は移動時間が三倍違うけど値段がも倍違うからね。


 いくらわたしがいなくても普通に回せる下位クエストばかりやってるといっても、あまりパーティーを開けっ放しにするわけにもいかない。


 パッと日帰りで転職を済ませるなら夜行便で向かい、そのままアサイチで転職手続きをして観光そこそこに昼便に乗って、そのまま安全に夕暮れ時に王都の駅に到着できる最速ルートがいい。


 それにしたって……


「ふぇ~~~~~~っ」


 転職の用事が無くても一生に一度は見に行けといわれるデューダーの神殿。観光名所としての一面も強いとは聞いていたけど、これはすごい。


 八大竜の信仰が根強いこの大陸で唯一、創世期に地水火風光闇聖邪の八柱を生んだ、名も無き時の神『現神』を祀る大神殿。


 麓から見る限りでも山の中腹に聳える大理石づくりの大神殿が眩しい。

 冒険者にとっての実用性を抜きにしてもコレには歴史的な価値がある。

 なにしろここは千年に渡って多くの冒険者が出入りしてきた神聖な地。


 かなり以前から大神殿と周辺の自然公園は世界遺産に指定されていて、王都の保護も手厚く、王都と中の悪い西方の連邦国家や山岳のドワーフ国も協力して資金援助を行っているあたりからも、いかにこの神殿が冒険者に携わるにとって重要な拠点であるかがわかる。


 八年前の大戦でも結果的には失敗に終わったものの、このデューダーの神殿を占領して冒険者を無力化しようとする魔王がいたくらいである。もしその侵攻作戦が成功したら人間側はとんでもない不利に陥っていただろう。


 もっとも八柱より神格が高い時の神の加護を受けているデューダー神殿の攻略は、王都を陥落させるよりもムズいってリップル姉が言ってたけどね。


 納得だ。

 この距離からでも大神殿からなみなみならない神気を感じる。

 何色にも変われる純白の神殿から発散される荘厳な芸術性も目を奪う。

 転職の用事も無いのにみんなが一緒に付いていきたがるわけだわ。

 運賃がバカにならないからケンモホロロに断ったけどさ。


 それならせめて土産物だけでもと三人に泣きつかれて行きの下見程度に観光土産を物色してるけど、さすがは観光地だけあって御当地アイテムも色とりどり。帰りにどれを買おうか悩むわね。


 まず麓の馬車駅を降りて第一の名所『転職の大門』を抜ける。

 二合目までは専用ゴンドラで進み、そっから先はひたすら山道。

 三合目まで進めば土産物屋がつらなる休憩所があり、朝からもう多くの屋台が冒険者や観光客目当てにごった返してる。


 屋台飯の誘惑にかられながらも転職手続き最優先で神殿に繋がる大階段をのぼり、ヒーコラヒーコラと伝説に名高い試練の三千階段をクリアして、ようやくデューダーの神殿入り口に到着。


 ……体力に自身の無い後衛職には厳しいわコレ……でも観光客向けの有料のゴンドラの使用は……冒険者がゴンドラに頼って楽するのだけは、気分的に負けたみたいで悔しいから使えない。


 同じようにヒーヒー言いながら階段をのぼる同業者のみなさん。

 冒険者のプライド的にゴンドラに頼れない気持ちはみな同じか。

 地力で昇りきっても特典があるわけでもないのによくやるわ。

 ええ、なんというか謎の意地でやっちゃうのよね……こういうの。


「王都グローリア冒険者ギルド所属のサラ・ハーヴェストです。中級職への昇格手続きに参りました」


「承っております。まずこちらの書類に必要事項を記載の上、二番窓口に記載済みの書類と冒険者カードを提出していただき、整理券を受け取りましたら後衛職の方は三番ゲートに移動していただきますようおねがいいたします」


 ズラっと並んだ冒険者の順番待ちを経て神殿受付の一番窓口に紹介状を渡し、転職するのに必要な書類の数々を受け取るわたし。


 ……な、なんか事務的でイメージが違うなぁ~っ。


 自分的にはもっと厳かな神官たちが入り口からズラーっと並んでて、うやうやしく案内されて、神秘的な儀式をやるようなものをイメージしてたんだけど、ここってヘタな冒険者ギルドよりもシステムが事務手続きにシフトされてるんですけど。


 いや、わかるのよ。毎日やってくる多くの冒険者を効率的にさばくなら事務化したほうがスムーズだって。だけどファンタジー感ないのはアレだなぁ……


 冒険者ギルドでもやってる免許更新と同じ空気だコレ。


 三番ゲート行きの道を進んむとあるのは後衛職の転職の間。

 魔法使いをメインに多くの後衛クラスの彫像がたちならぶ通路の威圧感はなかなかのもの。飾られている後衛職を主役にした絵画とかも含めて、いかにもこれから後衛職のクラスチェンジを行いますよという気分にさせられる。


 たぶんここと同じように別の各ゲートにも、それぞれのクラス傾向に応じたインテリアが並んでいるんだろうな。


 イロモノぞろいの下級職のゲートの奥、ちょっと見てみたいかも。


「魔道士への昇格を御希望のサラ・ハーヴェストさまですね。ほどなく担当のものが配置に着きますので待合室でしばらくお待ちください」


 待合室にいくと同じように待機中の冒険者は十名。

 種族はバラバラだけどみんな一目で魔法使い職だってわかる。

 そのうち二人はかなりオーラのある人。見て高レベルとわかる。

 きっと上級職への転職待ちなんだろうな。うらやましい。


「サラ・ハーヴェストさま、魔道の門にお越しください」


 最初の受付で味わった行列のイメージが強くて、この後衛職の待合室でもそうとう待たされるものと覚悟していたけど、わたしの番は想っていたよりもずっと早くやってきた。


 上級職になると思われる二人はともかく、こんなに早く順番が回ってくるってことは他のみんなは精霊士か魔術士志望なのかな?


 知ってたけど魔術士に比べて魔道士って人気ないよね。

 精霊士はもっと人気無いけど、あっちは独自路線だからセーフ。

 イメージが完全に妖怪キャラかぶりにやられてるコッチは肩身狭い。

 マウスとかチックとかなんて両者の区別もついてないし。

 不人気クラスって悲しいなぁ。それはそれでレアで美味しいけどさ。


 地味だし魔法スキルの数も少ないけど究めると強いのよ魔道系。

 わたしみたいな大火力巨砲主義なら絶対に取って損はないクラス。

 そのかわり派手さはあっても華やかさには欠けるんだけどね。

 魔道士ってとことん攻撃性を突き詰めるタイプの魔法体系だから。


「ようこそ中級職への入り口へ。魔道士への転職をご希望ですね」


 魔道の門をくぐると、そこにはドーム状の殺風景な部屋が。

 なにもない空間に年老いた神官と赤黒い巨大な石柱がひとつ。

 たぶんこの石柱が転職の奇跡を刻んだ知恵の石版なんだろう。

 

「これより転職の儀を行います。さぁ、両手を石版に」

「はい」


 わたしは神官の説明のままに知恵の石版に触れる。

 解読不能の幾何学模様が細かく刻まれた赤黒いモノリス。

 モノリス自体は転職の奇跡を行うための端末に過ぎない。

 けど、石の塊にいったいどれだけの情報が詰め込まれてるのか。

 とてもわたし程度じゃ計り知れないテクノロジーだ。


「魔道の石版よ。このものに新しき道を示したまえ」


 転職の儀は思っていたよりもあっさりと施行された。

 神官の詠唱と同時に石柱が淡い光を発して奇跡を生む。

 それは訓練所でも味わった転職独特の情報放流の感触。


 例えるならそれは、インクも紙も文字と一緒に煮込んでドロドロにした一冊の本のスープを一気に飲み干したような感覚。


 情報量は訓練所に備えてある基本職の石版よりもずっと多い。

 一瞬、あまりの情報転送の勢いに吐きそうになる。

 転職酔いだっけ?

 そういやマウスも勇者になるときゲロってたなぁ。

 後衛職の転職は前衛職よりキツめと聞いていたけど、なるほど……

 憶えるスキルが多いほど情報も多くなるからキツくなるわけだ。


「おつかれさまでした。これであなたも晴れて魔道士です」


 転送時間は一分ほど。もっと永く感じたのは錯覚だろうか。


「御気分は?」

「トイレ行きたい……」


「転職酔いですな。あとで酔い止めを受付で受け取ってください」

「そうします」


「このあと更新された冒険者カードをお渡ししますので五番窓口へ」


 神官さんはここまでは事務的な対応で、


「それにしても魔道士とは通な道を選択しましたな」


 そこから急に人間らしい個人的なセリフになった。


「通ですか?」


「最近はすっかり魔法使いの昇格転職といえば魔術士という風潮になりましたからな。こうやって不人気を承知で上級職転職の前提条件埋めの目的以外で魔道士の道を選ばれるかたがまだいらっしゃることは、魔道の石版の管理者としては嬉しい限りでございます」


「単にこれしか適正がなかっただけよ。だからわたしはこのルートを極めるつもり。上級職の魔道師になれるようになったら、またここにくるわ」


「その日が来るのを込心よりお待ちしております」


 神官さんは嬉しそうに礼をして、


「これはどのクラスにも言えることですが心されよ。中級職は冒険者としてそこそこの場所に着いた中継地点にすぎず、ここで満足すれば中級の称号は単なる飾りにすぎませぬ。一流を目指すならばここからが本番、くれぐれも切磋琢磨の心を忘れぬよう」


「肝に銘じておきます」


 言われずとも判ってる。

 わたしの道はようやく始まったばかり。

 ここで終わりじゃない。ここからが本番なんだ。


 わたしは偉大なリップル姉の背中を眺めるだけの存在から、いつか追いつくために背中を追いかける存在へならなきゃいけない。


 あの人みたいに賢者になる道でなく。

 わたしが生まれる前に亡くなった祖母のような大魔道師の道を経て。

 いつかわたしも……

 今日この出来事は、そのステップに必要なとっかかりにすぎない。


「次もよろしくね♪」


 わたしは背後の知恵の石版に向けてそう言った。

 次にここを訪れるのは上級職になるときだ。

 何年かかるかはわからないけど──


 わたしは必ず大魔道師になってみせる!

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