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Witches drinking party ~サブクエ・魔女の飲み会・後編~

はかばは くらく 

わなはときをきざみしもの

このさきは いかぬがとくさく さもなくば

 

いしのなかにいる!


【黒木勇斗語録・WIZリルガミンの遺産 即死トラップの警告】


「ゴホッ、ケホッ、カハッ! いきなりなんてこと言うんですか」


 突然の爆弾発言に鼻から黒ビール撒き散らしたじゃない。


「違うの?」

「違います!」

 

「でもマウスくんのこと好きなんでしょ?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」


「あなたもマウスくんも今年で16よね?」

「なんでそんな話に!?」


「もう冒険婚してもいいトシなんじゃないかなーって」

「ギャーーーーーーーーーーッッッッ」


 ダメダメ。もうこの話はおしまい。

 言い訳で武装してもこの人の話術に勝てる気がしない。

 そのクセそっちは年齢のこといわれると静かにガチギレするし。


「リップル姉、そうやって人をからかうのやめてください。あのコインゲームの件だって、あのバカ本気でガックリしてたんですから」


「ああでもやらないとあの子、そろそろ他の酒場で無茶なクエスト受けそうだったからね。もうちょっとレベルが上がるまではコッチの目の届くところで扱き使ってあげないとあぶなっかしくて」


 お察しします。

 あのバカ、酒飲みながら探索隊の仕事が懐かしいって愚痴ってたものね。

 こっちもぼちぼちヤバイなって思ってたから耳引っ張って釘刺したわけで。


「ふふっ。コインゲーム中、あの手この手で頑張るマウスくんの横で拳骨握りながらなんだかんだで応援してたサラの姿、可愛かったわよ」


「だからそういう! あれはゲームに負けて必要以上に落ち込まれて、明日のクエの成果に差し支えがでたら困るからって思って付き合ってあげただけで」


 どうせ勝てるわけ無いって……最初から思ってたのに……

 なに『もしかしたらいける?』って手に汗握って見てたんだろうなぁ。


「牛モツ丼のおかわりいる?」

「いただきます」


「タレは醤油でいいわよね」

「はい。あと肉の上にブッかけるんで生卵ください」


「なかなかの通ね」

「それほどでもありません」


 それと黒ビールもう一杯。


「そういえばサラは明朝から酒場のシフト入れてるけど、明日の採取クエストについていかないの?」


「あんな近場の採取クエ、EランクならともかくDランクが四人でやるようなモンじゃないですよ。雀の涙を四分割するくらいなら、一人がバイトで抜けて個別に稼いだほうがマシです。そっちのほうが効率いいし」


「もし危険なモンスターにでくわしたらって心配にならない? マウスくん転職したてでまだレベル低いから、冬眠前のグリズリーに襲われたら大変よ」


「グリズリーくらいならチックとガンナがいるし、リップル姉は無茶振りしているようで基本的にデキる人間にしかクエストを任せない主義だから信頼してる。本人はおつかいばかりで物足りないって不満漏らしてますけどね」


「探険家の長所を生かすならやっぱ採取クエストに限るのよ。ここ連日のクエスト達成でモリモリとレベルも上がってるし、仕上がりはだいぶ順調よ。どのスキルを修得するかにもよるけど、もうそろそろ支援系としてダンジョン探索で使い物になるレベルじゃないかしら」


「むぐむぐ。あの、探検家エクスプローラーってそんなに使えるクラスなんですか? あれって誰も取りたがらないから、てっきり地図師と同じユニーククラスとばかり」


「適材適所ね。探検家の探知スキルは嘗められないわよ。専用スキルのほかにシーフとレンジャーの汎用スキルも習得可能だし、鑑定能力や識別能力、地図師に次ぐマップ作成能力も備えてる。冒険者ってのはどうしても火力重視の傾向が強いから、支援系クラスの本来の価値が分かる人って少ないのよ。その点ではマウスくんは探検家に秘められた実用性に気がついてるみたいね」


「かいかぶりです。単にイメージで選んだだけですよ」


 だけど──

 ずっとこだわり続けてきた勇者を辞めるのは凄い決心だったと思う。

 僕は聖竜騎士ユートみたいになるんだってずっと言ってたのにさ。

 あのバカは、あのバカなりに大人になってきてるのかもしれないな。

 異邦人の探検家カワグチが残した冒険譚にどっぷりは変わらずだけど。


「ついでに皮もかぶってる♪」

「ぶっ!」


 なんで知ってるんですかこの人!?

 あ、いや、なんでわたしも知ってるのという質問に関してはノーコメで。


「マウスくんのことばかり気にかけてるけど、あなたも無理をしちゃだめよサラ。叔母様への仕送りのためにクエストの合間にバイトって二足の革靴で稼ぐのもいいけど、健康な身体あっての冒険者なんだから」


「ああ……うん。このまえパーティーのみんなでお金を出し合って古家アジトを買ったばかりで金欠気味で。だからシフトを多めに入れなきゃいけなくなって」


 クエストのあとのバイトでちょっと疲れが来てるのは自覚してる。

 でも今月分の仕送りノルマ分はきちんと稼いでおかないと。


「下町の安いあばら家とはいえDランクが無茶するわね」


「その日暮らしで散財する冒険者は三流。貯蓄するだけの冒険者は二流。一流の冒険者は貯めた大金の使いどころを見極められる者だ──ってね。わたしはリップル姉のありがたい教えを実行しただけですよ」


「そうね。四人で宿をとると宿泊費もバカにならないから、拠点になるとこに一年分の宿泊代以内の家を買うのは悪くない選択よ。でも、王都に家を持つってのは下層区画でもCランク級の収入が基本、あなたたちの稼ぎでは少しタイミングが早すぎたんじゃないかしら?」


「いつでも村に残ってる親を呼べるようにしたかったんですよ」


 わたしの言葉にリップル姉はしばし沈黙した。


「あのクソ村、もうじき解体されて廃村が決定するんですよね?」


 わたしたちの故郷、メイプル村はもうじき地図から消滅する。

 だから村を追われる両親のために王都に住める場を整えておきたかった。

 マウスの家族はとっくに移り住んでるけど、うちはそうじゃなかったから。


「ええ、来年には完全に取り潰されるわ。跡地には工場が建てられる予定」


 わたしは知ってる。マウスも知ってる。あの村の関係者はみな知ってる。


 目の前にいるこの人が、幼少期に忌み子と村人に煙たがられたこの魔女が、十年前に地主たちの姦計で村八分にされて追い出されたこの従姉が、これまでの地主たちに代わって新しいメイプル大森林の支配者になったことを。


「ほんっっっと、大それた買い物をしましたね」


「貯めこんだ金は使うべきときに一気に使うものよ。もともとあそこの土地の買収は冒険者時代からの夢だったし。いやー、いい買い物したわー」


 ながかったなーと感慨深げに鼻を鳴らすリップル姉。

 これまでの賭博と金儲けはすべてこの日のためといわんばかりな笑顔だ。


「いまだに謎なんですけど、王都の商業ギルドの提携と支援があったとはいえ、あれだけの規模の大森林をどうやって地主会の連中や大地主のバカ息子から買い取れたんですか?」


 あの大森林は権利関係がいろいろとフクザツで買い取りも難しいはず。


 かなり昔にもメイプルシロップの生産を国営事業にしようと、王都の商業ギルドが国営化の話を持ち掛けたらしいんだけど、村を造った一族の土地分配の権利がなんだかんだでややっこしかったそうで、結局メイプル大森林の買収計画は凍結されて失敗に終わっている。


 以降、メイプル大森林の運営権利は五人の地主と筆頭大地主による地主会が牛耳ってて、いくら近年のメープルシロップの大暴落で地主の老人どもが心労で次々とポックリいって、トドメとばかりに大地主が自殺したって言っても、土地はちゃんと地主会の子孫に相続されたわけで、弱り目に祟り目のタイミングを狙ったとしても大森林の買収なんて簡単にできるはずないんだけど。


「そこはちょいちょいっとあたしの魅力でね♪」


 セクシーポーズまでして何を言ってるんだか。

 どーせえげつないことしてケツの毛まで毟り取ったに決まってる。

 やったんだろうなぁ、メイプル大森林の権利を賭けての大ギャンブル。

 地主会の連中が絶叫しながら人喰いウサギに齧られる姿が目に浮かぶ。


「なにを餌にしたんですか?」

「自分のありったけの財産と、王都商業ギルドの幹部になれる権利」


 ああ、それはホイホイついていくわ。

 哀れね。まるで蝋燭の火に自ら飛び込む羽虫みたい。


「よくそんな条件を商業ギルドがOKしましたね」

「信頼されてるもの。それにあそこのギルド長はあたしの相棒オヒキだし」


 そうだった。リップル姉と商業ギルドの長って博打仲間マブダチだったっけ。


 貪欲なサメの諸君、ハラペコでも嘘つきな人食いウサギに関わるなかれ。

 ヤツはあの手この手で騙くらかして、お前を足蹴に向こう岸へ渡るだろう。

 そのあと君らは気付く。自慢の背ビレが根こそぎ剥ぎ取られている事実に。


 これ、リップル姉にこの酒場の土地を奪われた商業ギルド長の名言。

 あの人はまだ中央通りの一等地だけで済んだけど、あの地主どもは……


「どーせ、あのまま放置しても管理者不足で腐らせる一方の森なんだし、それなら商業ギルドと私が買い取って国営のシロップ生産場として再生させてあげるほうが情けってものよ。もちろんあのクソどもには甘露の一滴も舐めさせるつもりはないけどね」


 わぁ、恨みたっぷりのお言葉ですね。最高の復讐のしかただと思う。

 もっともわたしも地主会の連中には一切の同情なし。

 あいつらリップル姉の一家だけでなくウチの一家も村八分にしたし。

 正直なところリップル姉がやらなかったら自分が森ごと奴らを焼いてた。


「それで、明後日からわたしたちにメイプルの森の再生を頼みたいと」

「そうなの。大森林は二年も放置で奥の区画ほど荒れ放題だから」


 村に残っているお母さんの話だと、数年前に西方からの砂糖の流入でメイプル村のシロップが大暴落したのを皮切りに、若いものはどんどん逃げ出すように村を離れ、シロップの生産量はグングン落ち、昨年に大地主が村で一番古い御神木の楓で首吊ったのを切っ掛けに生産ラインは見事にストップ。


 かろうじて村に沿った浅い区画のみ樹液採取は継続され、村人と一部の関係者にのみ配られる範囲の生産は行われているものの、奥は野放しのまま。


 先日に商業ギルドの人が下見に訪れたときには、もう大森林の内部はヤブや屑蔓に混じって食人植物が生い茂り、グリズリーなどの野生動物モンスターが我がもの顔でうろつく危険地帯になってたそうで、そうなるともう駆除のために冒険者が駆り出されるいつものパターン。


「本当にうちでいいんですか? 効率で言えばCランクのほうが」

「地元民がパーティーにいるほうが土地勘あっていいのよ」


 あー、そういう。

 わたしもマウスも地主にこきつかわれてたからなー。

 大森林を右往左往して、かなり奥の地図も頭にしっかり入ってる。


「それに長い時間放置された森林はダンジョンと同じ。こういうときこそマッピングと探査スキルに長けている探検家の出番なのよ」


「あのバカにはそれ言わないでくださいね。絶対に調子に乗るから」


 『はいはい』となんか意味深な微笑を返すリップル姉。


「あとね、そのついでに頼みたいサブクエストがあるのよ」

「またグリズリーの熊の胆を大量にとってこいってやつですか?」


 あれクッさいし解体がグロイから勘弁してほしいんだけどなー。

 内臓まで火が通らないように炎魔法の火力を調節するのも大変だし。


「薬局から頼まれてるんで可能ならソレもお願いしたいんだけど、今回頼みたいのは森の調査ついでの人探し。つうか行方知れずの第一次調査員の探索」


「このまえ村の視察に向かったギルドの調査員かなんかですか?」


「うーん、ちょっと違う。私の知り合いの冒険者でね、商業ギルドのおえらいさんが村の視察と森の調査をするときにモンスターに教われないよう、軽く第一区画から第三区画までの現地調査と測量お願いしたんだけど、その子が契約期限の今日になっても帰ってこなくてね」


「遭難したんですか?」

「そうなんです」


 スルー。


「その遭難した人って駆け出しですか? あそこそんな迷うところじゃ」

「駆け出しといえば駆け出しね。Eランクでレベルも7かそこらだし」


 うわー、それは何処に出しても恥ずかしい駆け出しだわ。


「そのクエストが終わったらDランクに昇格させる予定だったんだけど」

「やらかしてしまったと」


 あるある。あと一歩ってところで凡ミスして昇格をフイにするあるある。


「ほんとは彼女が帰ってきたらサラたちに紹介するつもりだったのよ」

「紹介?」



「ほら、あなたたちマウスくんが勇者やめて探検家に転職してから火力不足に悩んでたじゃない。だから信頼のおける前衛職の新人を一人ばかりね」


「つまりうちに五人目の仲間になれそうな子を推薦するつもりだったと」

「そんなとこ」


 うーん、急な話だなぁそれは。

 基本的に冒険者パーティーは鉄板構成で小回り優先なら四人構成。

 クラスの幅広さで応用を求めるなら六人構成が良いと言われている。

 うちのパーティーは来月に追加予定の新メンバーも含めて、王都の訓練所時代の同期で構成された固定パーティー。


 これまでは勇者・盗賊・僧侶・魔法使いの鉄板構成のおかげで四人でもやりくりできたけど、マウスが勇者を辞めて探検家に転職したことで、支援能力は上がったものの戦力バランスは崩壊している。火力補填のために新メンバーの募集を考えていたのも事実だ。


 確実なCランクへの昇格を目指すなら人員の増強は考慮しないといけない。

 四人よりも五人がバランスいいのはたしかなんだけど、いきなりな話だ。

 彼女って事は女性冒険者だよね? 男二人に女三人はバランスが悪い。


 リップル姉の紹介なら間違いはないんだろうけど、あのバカが変に浮かれるような女の子がくると困るんだよなぁ。ガンナみたいなマッチョ系列のキャラなら安心なんだけど。


「あら? 愛しのマウスくんがとられちゃうかもって不安?」

「そんなんじゃないですからッッッ!」


 もうっ、ほんとにもうっ、この人はぁ~っ!


「そこんところは安心しなさい。マウスくん好みのグラマーなお姉さんとか、セクシーなエルフとか、妖艶なダークエルフとか、凛々しくてクールな姫騎士とか、そういうオトナ系統とは程遠い芋い小娘だから」


 あのバカのシュミをよく御存知で。


「クラスは?」

「冒険者ギルドに登録されている現段階では勇者かな」


「いまどき勇者ですか?」

「そこらの雑魚勇者と一緒にしたらダメよ。なんせ彼女は天下の神竜騎士さまだから」


「はい?」


 一瞬、頭が真っ白になった。


「神竜騎士ってあの神竜騎士ですよね?」

「そう構えることないわよ。まだ神の神託を受けて選抜されたてのホヤホヤで、上級職解放クエストにヒーコラしているペーペーの見習い段階。ディーンやユートみたいな正規騎士じゃないから」


「いやいやいやいや。見習いでも勇者最上級職のスーパーエリートですから」


 さすがにそれは有能すぎてウチなんかじゃ役不足にすぎるんじゃあ……

 マウスなんか胡散臭いニセ勇者のレベルがせいぜいだったってのに。

 そこにモノホンの勇者が加入とか、あのバカがコンプレックスで潰れるって。


「気負わなくてもいいわよ。顔見知りだからすぐ馴染むと思うし」

「顔見知り?」


「サラもよく知ってる子、訓練所の同期で同じ寮部屋だったでしょ?」

「それって……」


 あいつかぁ~~~~~~~~っ!!!

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