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We held a adventurer reunion ~久方に顔を合わせて~

『落ちるときは落ちるもんだ…人生とは運命を切り開くかけの連続…』


【黒木勇斗語録・FF6 セッツァー】

「お疲れ様。これが今回のクエスト報酬ね。まず護衛の基本報酬が一人あたり

 四千ベリア。それから旅先で倒した盗賊の数が6パーティーで、サブクエの

 特別報酬が三千ベリア。その中に賞金首のお尋ね者が三名いたのでそいつの

 生け捕り報酬が三人まとめて二万五千ベリアのところ護衛隊に均等分配して

 五千ベリア。そこから溜まっていたツケを半月分差し引いて二千ベリア」


 カウンターに領収証と一緒に並べられる大銀貨2枚。

 日本円に換算して約二万円。つまり福沢諭吉二枚分がボクの取り分だ。


 あれから四日、

 ボクの冒険者復帰最初のクエストは大きなトラブルもなく無事に完了した。

 無事といっても街道の往復でなにもなかったという意味じゃない。

 犠牲者が一人も出なかったという意味でだ。

 クエスト完了手続きをしているリップルの言葉通り、ボクたちは幾度となく

 盗賊団の襲撃にみまわれた。


 それはそれはもう酷いエンカウント率でございました。

 しかも本来ならゴブリンや大ネズミとかそういう初心者向けのモンスターが

 現れるべき地域のはずなのに、出てくる野盗が明らかに初心者冒険者じゃ

 手に負えない中級モンスター討伐クラスの腕利きばかり。


 野盗といってもクラスがシーフだけとは限らない。

 勇者に戦士に僧侶に魔法使いと野盗のクラスも様々で編成も実用的。

 そんなのがわりと質のいい武器を持って襲ってくるんだからたまらない。

 たぶん若手パーティーならあっさり全滅だ。


 信じられるか?

 おにぎりの村周辺って、駆け出しが経験稼ぎに赴く場だったんだぜ。


 そもそも『ああああ』の村ってロールプレイングゲームで言うなら勇者が

 冒険で最初に訪れる村だよ。

 おにぎりも言ってたけどありえないだろこのバランスの悪さ。

 日本ならクソゲー認定されて晒されるレベルだ。 


 そんなのが村と王都を二回行き来する四日間で六回もエンカウント。

 行くトコ行くトコでヒャッハーの襲来とかスカイリムばりに野盗多すぎ。

 そりゃ治安悪化と言われるわけだ。

 なまじ野盗に知恵と経験がある分、モンスターよりもずっとタチが悪い。


 七年間も実戦から離れたブランクもあってかなり手こずったものの、

 他に雇われた護衛のサポートもあって撃退にはなんとか成功した。

 おにぎりの加勢もあって荷物はすべて無事に輸送。クエスト大成功だ。

 現役復帰のためのリハビリとしちゃあまずまずの成果だと思う。


 比較的安全とされている街道のど真ん中ですらコレだもの。

 隣国への山越えとか海路とか、どんだけ難所になるか考えたくもない。


 思うんだけどさ、魔王がいなくなった天下泰平の世とか言ってるクセに、

 実は魔王軍の侵略時より面倒なことになってね? この世界。


「現役復帰最初のクエストにしてはすごく頑張ったじゃない。これからも

 よろしく頼むわよユート。しかし今回は賞金首の来襲にも救われたわね。

 三人とも街道沿い付近じゃそこそこに名の知れた盗賊団のリーダーよ。

 この特別報酬がなかったらもう二つくらいクエストを押し付けてたわ」


 うん、それは大きい。

 ボクも初回でこんな美味しいボーナスが入るとは思っても見なかった。

 護衛隊の中に賞金首に詳しいハンターの人がいてくれてよかったよ。

 生け捕りにしたおかげで報酬も割り増しだし。


 でもね、思うわけよ。

 どうしてこの運を就職活動の方に生かせないのかって。


「おにぎりがいってたよ。二回の往復でこんなに盗賊団に襲われたのは

 ビール行商を始めて初だぜ、ガハハだってさ」


「たねもみ勇者には隠しスキルかなにかあるのかしらね。ヒャッハーの

 エンカウント率を上げるなんかが」


「うわー、ちっとも嬉しくない」


 すいません。

 この下級クラスさっさと卒業して村勇者にランクアップしたいです。


「それにしたって手取りが二万で日当五千円相当か。ツケがたまってた

 とはいえ命がけの仕事に割り合わない報酬ですこと」


「おいおいユート、これでも知り合い補正で報酬にイロをつけてやった

 ほうなんだぜ。それも四日間の三食寝床付きで」


 ボクの漏らした愚痴にカウンターで一杯やっていたおにぎりが反応した。


「もともと冒険者家業ってのは、一環千金が果たせなけりゃ命の値段が宿代

 一週間分にもならないクソ業界なんだぞ。だからオレやリップルを含め、

 成功した冒険者ってのはよ、とっとと半引退して手に入れたお宝を元手に

 店を開くなり道場や学校を開くなりして冒険者時代のノウハウを生かした

 自営業生活に走るんだ。オレもお前をしばらく専属の護衛隊員として雇い

 入れるつもりでいるけどよ、そう何年も長くは続かないと思ってくれよ」


「そういうこと。アタシだっていつまでもこんな低賃金の派遣業を続ける

 つもりがなかったからこそ、こうして雇われる側から雇い入れる側に

 クラスチェンジしたのよ。冒険者なんて明日をも知れないヤクザな仕事は

 生涯現役でやるもんじゃあないわ。ユート、あんたもこの仕事はあと数年

 もちゃあいいほうと割り切ったほうがいいわよ」


「わぁ、しびあ~」


 ギルドおかかえの冒険者は派遣業務か。まったくもってその通りだよ。


「とてもカジノに入り浸ってた遊び人の言葉とは思えないな」


「遊び人だからこそよ。アウトローの道楽者を極めた人間だから、刹那的な

 生き方の危険性もよく知ってるの。俺の死に場所に墓標はいらぬってかぶいた

 放浪者ならそれでもいいでしょうよ。でもアンタはそういう類じゃない。

 将来的に収入の安定した悠々自適な生活を夢見る怠け者なタイプでしょ?

 ならなおさらに、ちゃんと将来を見据えて、冒険者なんて不安定な仕事を

 早いうちに卒業して、独立の地盤を若いうちに整えなきゃ」


「そういうこと。御転婆姫だったタマですら今じゃ正式に【大樹の聖女】の

 座を親から継いでドルイド国家の元首だぜ。当時のメンバーで無職なのは

 お前だけだ。早く身の丈にあった身の振り方を考えといたほうがいいぞ」


 グゥの音も出ない正論だ。

 よもや異世界でも説教三昧されるがわのままとは思いもしなかったヨ。


 しょせん冒険者は雇われの仕事。

 やってることは日本の派遣社員となんも変わらない。

 ちなみにこっちの世界の法律に労働基準法なんて高尚なモノはない。

 ひたすら命がけな分だけこっちの世界のほうがずっとブラックだ。


 たかだか日当が一万円弱程度のクエストで盗賊やモンスターを相手に

 命を懸けなきゃいけないんだから恐ろしい。

 これだったらまだ日本でドカタでもやってたほうがマシだろう。

 社会的常識がある人ならそうあるべきだ。


 けれど、世の中には低賃金で命懸けなのに、あえてそういう殺伐とした

 世界に踏み込みたがる人種がいる。

 紛争地域のジャーナリストや傭兵家業といった平穏とは無縁で一般常識の

 埒外の価値観を持つ人間たち。

 たぶんボクも『そういう』タイプのブッ壊れた人間なんだろう。


 だからこんな低賃金で危険な仕事に身を投じているのにもかかわらず、

 日本でのニート時代よりもボクは生き生きとしている。

 でも、だからってこんな未来のないその日暮らしのフリーター生活を

 いつまでも続けるわけにもいかないんだよなぁ。


 宮仕えなんて諦めて一般職に転職しろというみんなの意見はもっともだ。

 それは分かっているんだ。分かってるけど……


「なぁユート、お前って、こっちの世界で仕官先を探してるんだってな? 

 だったらお前の知名度が低い王都より、邪竜王の支配地だった西部連邦で

 仕官先を探したほうが無難じゃね?」


「そうなのよね。あそこの地域はユートを悪竜を退治した英雄視してるし、

 アソコの族長の娘がアンタにホの字だから逆タマで酋長補佐になるのも

 夢じゃないって仕官先の拠点替えを奨めたのに、こいつったら全力で泣き

 ながら断って王都での成功に拘ってんのよ」


「あったりまえだっつうの!」


 それだけはカンベンとボクは声を荒げて二人の意見に反論する。


「だってあそこオークとかコボルトとかリザードマンが棲んでる蕃国じゃん!

 山岳地区や湿地帯に生息する亜人族の連邦国家じゃん! 最近流行りだした

 ヒゲなしロリの女ドワーフがボクに惚れこんだっていうのならOKするよ。

 でも、この世界のドワーフって女もヒゲボーボーでジャイアンのカーチャン

 みたいなビア樽体型ばっかな正統派のドワーフじゃん! コボルトだって

 タマみたいな人間に獣耳と尻尾つけた程度の半獣人ならともかく、あれは

 完全に二足歩行するワンコじゃん! 自分そこまでケモナーじゃないし!」


 ただしナナチはかわいい。


「あとボクにホの字だったリザードマンの御嬢様、あれはもう論外!」


「血の涙を流しながら反論してくるとかどんだけイヤなんだよ」


「もったいないわね。リザードマンの価値観だと超絶美人なのに」


「……人間の美醜の価値観準拠でオネガイシマス。いくらモンスター娘ブーム

 だからって身の丈が七尺の筋肉マッチョ蜥蜴娘はさすがになんといいうか、

 手心をお願いしたいというか……」


 それならまだ豚耳ぽっちゃり体型のオーク娘のほうがマシですわ。

 これがおっぱいボーンでお尻ムチムチなダークエルフのお姉さんだったら、

 迷わず速攻で結婚を決めてたのになぁ。


「あのさ、ボクはさ、ちゃんとした人間の社会で立身出世をしたいんだよ。

 王族お抱えの騎士になってさ、ゆくゆくは爵位と領地をもらってさ、

 小さくてもいいから城を構えてさ、そんで領民から絞った税金だけで

 のんべんだらりと暮らしたいわけよ。なにも一国の王様とは言わない。

 地方の芋男爵でもいい。ボクは働かず不労所得で生きたいだけなんだ!」


「で、そうやって身の程知らずの贅沢をぬかして就職活動をしていたら、

 仕官先ことごとく全滅で、依然として住所不定無職のままと」


「だからこうして生活費のために冒険者家業を再開したわけでして」


「この醜態、『もりそば』には見せられないな」


「ホントに……」


 もりそばというのは、おにぎりの村に住んでいる女の子の名前で、

 ボクが一番最初に出会った異世界の女の子であり、ボクの旅の要所要所で

 重要な精神的支柱の役割を果たしたヒロインの一人だ。


 とてもヒロインらしからぬネーミングセンスについては、あの村自体が

 おかしいのでスルーして欲しい。


 聖竜騎士であるボクを慕って、将来の夢は立派な冒険者になることだって

 言っていた彼女も、現在は十四歳か。

 こんな落ちぶれた姿を彼女に見せたくないから、あえて護衛クエスト中も

 村の中に入らないようにしていたけど、あれから七年が経過した現在、

 きっと彼女も成長期を迎えステキな少女に成長を遂げているに違いない。


 今ならこの世界の法的にそこまで問題ないだろうから言える。

 安西先生、あの子と恋愛がしたいです!


「まさかとは思うが、就職ができなかったら、このまま死ぬまで冒険者と

 してやってくつもりとかじゃないよな?」


「いや、それはやりたくても無理。あと一週間以内に定職を見つけないと

 元の世界に強制送還になるから」


「フクザツな事情ありありって顔だな」


「それはもうアリアリで困ってマス」


 正規雇用の就職先が見つかるまでは冒険者家業で食い繋ぐ。

 これはひとまずの決定事項。


 だけど、あくまでコレは繋ぎの生活費稼ぎでなくてはいけない。

 これだけで生涯やっていくのは無理がある。


 大体やってることは非正規雇用の派遣バイトと変わらないもんな。

 そういう負け組の人生がイヤだからコッチにやってきたはずなのに、

 結果的にやってることは一緒だとか笑えない状況だ。


「最低で正社員待遇でないとエストのウンコも認めないだろうしなぁ」


 そうポツリと呟いた、そのときだった。


「呼びましたか? うんこニートさん」


「うわぁ、ビックリしたぁっ!」


 いきなり背後から声をかけられて振り返れば──

 

「ゲェーッ うんこの超人ッ!」


「お久しぶりですね、うんこさん、就職活動のほうは順調ですか?」


 目の前におよそ三週間ぶりに見るウンコ姫の姿がッ!


 強制送還まで残り七日。限りなくイヤなタイミングでの再会であった。

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