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an idolized saint heroine ~サブクエ・村おこしをしよう3~

「キミはいま何かに悩んでいないか?

 それも一つの青春だあ! 大いに悩んで、成長するんだぞ!」


【黒木勇斗語録・レンタヒーロー マルタ・ケインサック市長】

 気のまま風のままに流れる雲。天空でギンギンに輝くお天道様。

 ほどほどに暖かい陽光に、ほどほどに吹く季節相応の肌寒い風。

 王都中央領の空は今日も晴れやか蒼天なり。

 

「腹立たしいなぁ、クソが」

「村役場の役員再編成、あなたの言うとおり本気で考えるべきですね」


 収穫も終わって暇を持て余す地竜の月・第四休養日の昼。

 淡々とのんびりと、外で無為に時間を過ごすのには最高の日和だ。

 しかし聖竜騎士ユート来訪記念公園で一息つく俺らの心は曇り空で。


「こんなにガチギレしたのは、七年前に雷嵐王幹部の三番手のヤツが村を襲撃してもりそばを攫いやがったとき以来だ」


「あの三人、あのときに武器持って応戦する村人みんなをよそに、腰抜かしてションベンちびって役にも立たずアワワしてたんだから、そのまま逃げる途中でワイバーンの餌になってたらよかったのに」


 言いますねぇ~。


「村長もやっぱトシだな。昔の勇猛さはすっかりナリをひそめちまった。七年前までは老体をおして襲い来るワイバーンどもに大弓一本で立ち向かい、村人を指揮しながら次々と敵を撃ち落すほどの猛者だったんだがなぁ」


「もう八十歳の手前なんですから当たり前です。エルフやドワーフじゃないんですから。でも、わたしもあんなに気弱に平謝りするおじいさまは見たくありませんでした」


 なんつーかもう、祖父の衰えとか、役場重役へのムカツキとか、村の危機の再認識とか、勝手に始まってる村おこしセカンドの対処をどうしようかとか、たったの数時間で一気に降りかかってきた面倒ごとのオンパレードに思考の方が追いつかなくて。


「なぁ、これからどうすんべ?」

「お田舎モノ丸出しでお訛っておりますわよ。あなた」


「お前もな。女学園時代の御嬢様語がでてんぞ」

「気が滅入ってますので」


 これから茶屋に行って夫婦仲良くランチでもつまみながらキャッキャウフフして、久方に二人きりの昼下がりを愉しもうかという気楽な気分には、とてもじゃないがなれかった。


「うちの村から誕生した勇者様を村のみんなでもりたてていこう……か」

「口当たりだけはいいんですけどね」


 公園のベンチで鳩にエサやりながら二人してハァと溜息。


「どうせユートのときと同じで観光収入の中抜き狙ってんだろうよ」

「あの子の性格だと大人にいいように踊らされるのが目に見えてます」


「なるだろうなぁ。アイツはユートと同じで煽てると調子に乗るから」

「世の勇者様の御他聞に漏れず、彼女も頭がハッピーセットですから」


「あのクソ企画、止められそうか?」

「無理ですね。もう神都や王都にも手が回っているみたいですし」


「世の中クソだな」

「あの三人は利権が絡むと手が早いですから。一枚上手でしたね」


 収穫期の面倒な農家の手伝いに回されたくなくて、ダンジョン企画の追い込みだなんだも含めて村に戻る機会を減らしていたのがアダになったな。


 村の経理を担当する嫁さんですら見逃した手際には恐れ入る。

 作物の収穫量がどうだ、売り上げがなんだで忙しくなって、他のことに目が届きにくくなる収穫期。そのタイミングにあわせて第二の村おこしの裏工作を開始したのも意図的なものだろう。


「こうなるの分かっていれば、ここ数年やってるあいつらの二重帳簿と特産品の横流し、あと裏山でやってる準禁制品の闇栽培と密造リンゴ酒の一件、今日の定例会議で糾弾して吊るし上げてたのに」


「そいつは村にもダメージ大きいから最後の手段だ。消防団の若い衆にもうちょい村の運営のノウハウ仕込んでからでないと、あいつらが失脚した瞬間に役場のシステムが不能になる。やるならやるで今回の一軒でやつらが勇者様利権を貪って、気分最高潮で油断しているときにだ」


「ならわたしたちも賛同するフリをしましょう。おにぎり商隊から支援金を出すべきですね。どうせほっといてもあいつらから若いモンから率先して寄付金出すんだよって言い出すの分かりきってますし」


「そのクセ、観光資源の利益はあいつらで独占だからタチ悪ィ。そうだな、あいつらに先んじて後援会をおったてて、なるべくだけ企画のコントロールをしよう。奴らは経費の中抜きと売り上げの搾取で甘い汁さえ吸えればいいんだから、後援会活動とかの面倒ごとは若いのに丸投げして避けるだろうしよ」


 ほんと村の悪疫だわあいつら。潰すなら徹底的にやんねぇとな。


「それに観光部に任せるとコレみたいに安普請の手抜き工事されるからな」

「もりそばちゃんのゲロ噴水とか見たくもありません」


 俺たちは正面にある噴水『聖竜騎士ユートの像』を眺めながら言った。

 聖竜騎士記念公園に建てられた村の新しいシンボル。これがまたひどい。


 デザインは騎士の少年が剣を掲げて悪竜を踏み潰すという内容で悪くない。

 ひどいのはその設計で、なぜユートの口から水が噴出する仕様にしたのか。

 あと美化200%で本人と似ても似つかないのがポイントです。


 それだけでもアレなのに、経費の中抜きで手抜き工事なんてしたもんだから、像に使用された石材もあまりいいものではなく、パイプの配管も適当なため、昨年から浸食と水漏れでユートの耳と鼻からもとめどなく水が噴き出すようになった。


 ついたあだ名が『水芸邪神像』。

 これはとてもじゃないがモデルになったユートには見せられねぇ。

 記念館のほうもだいぶガタきてて、どのみち近々建て直さないとダメ。

 結局、流行ろうが流行るまいが、聖竜騎士ユートを使った利権まみれの村おこしは五年くらいが寿命だったわけだ。


「なんでこんなことになってしまったんでしょうね」


「異世界からこっちに流れ着いたばかりのアイツを彼女が見つけて村まで引っ張ってきた日、原因を探して遡ればそっからだろうな」


 運命さだめってのはそういうもんだ。

 この俺と同じで、あの日から彼女の村娘としての日常は終わった。

 あの子が聖竜騎士ユートに惚れ込み、冒険者に憧れたのも必然の当然。

 若者が冒険者になる理由の八割が英雄への憧れなのは統計でも実証済み。


「もし誤算があるとするなら」

「あの子がボーナスポイント29の天才だったってことですね」


 人には多かれ少なかれ神竜から与えられた先天的な才能がある。

 種族の基本値から個性として加算されるボーナスポイントと呼ばれるもの。

 ステータスの基本値に個々に割り当てられたボーナスポイントを注ぎ込むことで、人は肉体的にも精神的にも独自の個性を持ち、得手不得手のクセを宿す。


 ボーナスポイントの振り分けは個人の特性や宿命によりけりで自動割り当てされ、これによって初期ステータスは決定し、○○のクラスに適正があるとか、○○のクラスには条件が足りないといったギルドの転職課で良く見る風景が描かれるのだ。


 ようするにボーナスポイントは先天的な地力、天賦の才能だ。

 これが冒険者の才能のすべてとはいわないし、レベルアップやスキル獲得でいくらでも引っくり返せるものではあるが、ボーナスポイントの良し悪しで最初に選べるクラスの幅が圧倒的に違うので、冒険者としてのスタートが劇的に有利になるのは間違いない。


「最初から上級職の聖騎士パラディンになれるとかとんでもねぇよな」

「普通、天才と呼ばれる人でもボーナスポイントは20ですもの」


 通常、平均的な冒険者のボーナスポイントは5-9基準。

 そこそこの才覚がある人間で10-15。天才で20前後。

 あの異邦人補正のあるユートでもボーナスポイントは22だった。

 あ、ちなみに俺は7ね。筋力全振りで戦士しか選択肢なかったわ。


「聖竜神からの抜擢っつうか啓示を受けたってのもデカいな」

「神都が迎えの使者をよこしたくらいですからね」


 ある日に突然、神の声を聞いて聖光の祝福を受けた少女。

 ほどなく聖竜神殿の神官が村に訪れ、彼女は選ばれし勇者と語る。

 選ばれしものっていうのは、ああいうのを言うんだろうな。

 あの神様のひととなりを知っているとフクザツな気分だが。


「おまけにどっかの誰かさんが鍛えてくれやがりましたし」

「ちょっと訓練場でシゴけば音を上げて諦めると思ったんだよ」


 まさか俺も一週間で勇者になれる超ハード訓練モードを強いたにもかかわらず、あそこまで食い下がられるとは思わなかった。


 当時まだ12歳の小娘だぜ。ありえねぇ……


 同じように勇者を目指して一緒に訓練場の門を叩いた隣村のマウスのほうが訓練内容に追いつけず、先にくたばっちまったくらいだもんな。


 勇者としての才能は間違いなくユート以上だわアレは。

 ただ、あまりにも素直で純粋でいい子ちゃんすぎるのが問題だ。

 権力者にいいように利用されやすいんだよなぁ。ああいう勇者は。

 老害の操り人形にされる前に、俺らがなんとか制御してやんねぇと。


「わたしとしてはあの子にはずっとパン屋の看板娘でいてほしかったです」

「分かるよ。その気持ちは」


 この歳になると冒険者を夢見る俺を叱った親の気持ちが分かってくる。

 でも、勇者になりたいっていう彼女の夢を止められるわけないんだよな。

 俺だって親の反対押し切って冒険者になった身。いえる立場じゃない。

 だからせめて、俺たちにできることは──


「あいつは俺ら大人が、オトナの汚い手から守ってやんないとな」

「そうですね。老害どものいいようにはさせません」


 一言目には村の未来のため。二言目には村に住む人のため。

 よく言うぜ。利権をしゃぶって働かず楽したいだけのくせによ。

 あいつらも上手く俺らを出し抜いたと思ってるんだろうが。

 そうはイカのタマタマよ。この戦士おにぎりさまを嘗めるなよ。

 もりそばを傀儡に仕立てて好き放題だけは絶対にさせねぇよ。


「あの子、いまどこにいます?」

「北の離島。リップルの依頼でリンドウルム退治に向かってる」


「レベル上げの真っ最中ですか」

「ああ」


 俺が第二の村おこしで懸念することはもうひとつある。

 今のもりそばは勇者になりたてのド新人。実績皆無だってことだ。


「当世唯一の神竜騎士様っていったって実情はレベル5かそこらの新人だからな。今の彼女には勇者と呼ばれるに相応しい実績が必要だ。はっきりいって、これから魔王退治ができるのかもわからない新人を獲らぬ狸の皮算用で英雄として売り出すのってバクチだぜ。もし失敗したら笑い話じゃすまねぇ」


「魔王なんてそう都合よくゴロゴロしてるものでもないですしね」


「なにもかもが早すぎるんだよ。もりそばを金看板にして村おこしやるなら、彼女が最低でもBランク冒険者になって実績と名声をちゃんと稼いでからにするべきだった」


「この御時勢では短期間のBランクへの昇格は難しいですよ」


「稼ぎ場のツテがないってわけでもないんだがな」


 ただ、あっちはまだオープン前だ。行かせるのはまだ早い。

 彼女の性格からして魔王が現れたと知ったら即攻略に向かうだろうし。

 もうしばらくはリップルに遠征クエスト押し付けてもらって足止めして、ミルちゃんのダンジョンに興味をむかわせないようにしないと。


 ボンッッッッッ!


「あ」

「あらら」


 そのとき──

 ついに寿命がきたのか、聖竜騎士ユートの像が水圧に耐えられず崩壊した。


「あー、あー、こりゃあもう完全に撤去だな。観光部に連絡してモニュメントの取り替えを依頼しないと」


「頭が綺麗に吹き飛びましたね。打ち首獄門で首から血を噴いてるみたい」


「縁起悪いこと言うなよ」

 

 そういやあ今日は第三次探索隊の突入日か。

 表向きには探索だけど、テーマは全滅時の救済システムの動作確認。

 Aランク冒険者1名と、Bランク冒険者1パーティーをダークナイトに扮したユートがボコボコにして全滅させる手はずなのだが。


「……………………」

 

 首から先が吹っ飛んだユートの像を眺めて俺は不安にかられた。

 なんか嫌なモンを暗示してるみたいで気分が悪い。

 なにごともなけりゃあいいんだがな。

 まさか……な。

ああああ村編の第七章への移し変えに伴いタイトルを若干変更しました。

最近、じわじわ感想とブクマ登録が増えて読者のみなさまに大感謝。

めざせ総合評価200pt。ブクマ感想ポイント評価、お待ちしております。

タワーディフェンスはつらいよ~は脇に優しい群像劇でお送りしています。

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