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Village revitalization ~サブクエ・村おこしをしよう1~

「私が町長です」


【黒木勇斗語録・ロマンシングサガ3 ギトラントの町長】

 火竜の月が終わって夏が過ぎ──

 森竜の月が始まって収穫の秋が訪れて──

 地竜の月が終盤に近づいて秋も終わりに近づき──

 もうじき闇竜の月がやってきて季節は冬になる──


「静粛に──!」


 いよいよ聖王暦608年も十ヶ月目の下旬に突入。

 下り坂を転がり落ちるように月日はあっという間に過ぎていく。

 ガキの頃はそうでもなかったが、大人になると時の流れが速いねほんと。


「これより第26回。ああああ村・秋の定例会議を始めます」


 この時期になると俺の生まれ故郷『ああああ』の村は途端に忙しくなる。

 秋の収穫の売り上げがどうだ? 秋祭りの観光収入の結果はどうだ?

 決算期が近づくこの時期の村役場はピリピリと殺気立つ修羅場と化す。


「本日は村長補佐のもちもちが所用によりお休みのため、商業部・交易部・農林部・観光部・村長の五名での会議となりますが御了承ください」


 俺は村の各代表を集めて行われるこの定例会議の独特の空気が苦手だ。

 やりたくもない村の役員をやらされている面倒臭さも理由の一つだが、

 俺の目の前に座る役場の老害どものお相手。これがとにかくイヤだった。

 

「それでは各役員の皆様、第三期の活動報告と収入結果をおねがいします」


 淡々と書類を読み上げながら会議の進行を行うウチの嫁さん。

 平均年齢六十を超える村役場の役員の紅一点。この会議の唯一の癒しだ。

 村長の孫として十代から会議を仕切っていたから進行も手慣れたもの。

 ぶっちゃけもう嫁さん一人で運営していいんじゃないかなーって思ってる。


「農林部のどぶろくじゃ。今期の『ああああ林檎』の収穫は悪天候により前年度よりも二割減。実のつきもあまりよくなく王都への輸出売り上げは前年度と比較して七割程度。麦の収穫は例年通りながら、他の作物の収穫はやや凶作気味。来年春までに各畑の土壌開拓を迫られておるので、農林部は来年度予算の割り増しを要求する」


「観光部のはなくそだ。今年の『夏のムキムキ感謝祭』は概ね例年通りの売り上げ。しかしながら村の目玉であるはずの聖竜騎士記念館の来場者数は昨年よりもさらに減少傾向。みやげもの関連の売り上げも詳しい報告は商業部のほうに任しているがかんばしくない。ぶっちゃけあそこに展示してある聖竜騎士装備、神都の聖竜神殿に売り払ったほうが村のためになるのではないかね?」


「商業部のくずもちですよよよよよ。あ~っ、聖竜騎士まんじゅうの売り上げがね~、今期もさっぱりでね~、やっぱりもう聖竜騎士をネタに村おこしやってくのは無理があるんじゃないかねぇ~。記念館と記念広場の維持費もバカんなんないですからのぉ~フガフガ」


 かったりぃ。

 ようするに今期も村の売り上げは赤字って事だ。

 今年は天候に恵まれず畑の収穫は凶作。特産品の林檎の売り上げも悪い。

 深刻な話ではあるが別段驚くほどのこともない。そういう年はたまにある。


「では、次は交易部の活動報告と収益報告をお願いします」


 問題は村の観光資源の斜陽っぷりのほうだ。

 聖竜騎士ユートを輩出した村として村おこしを始めた『ああああ村』。

 アイツが去った翌年にはもう勇者を讃える記念館と記念広場が開始された。


 単に異世界からこっちにきたばかりのユートが偶然流れ着いた村ってだけなのに、よくもまぁここまで大そうな村おこしを企画できたもんだと思う。


 異世界の右も左も分からなかった自分を保護して世話してくれたお礼にユートのやつが聖竜騎士装備の一式をああああ村に寄贈したのも、この村の役員を勘違いさせて増長させた一因だったんだろうな。


「あなた、活動報告と収益の報告をお願いします」


 でも実際のところ、アイツを世話したのは村長一家と俺とパン屋の娘だけで、ほとんどの村民は得体の知れない余所者とユートを煙たがっていた。


 特に顕著だったのが目の前にいる三人の老害どもだ。

 ユートが村にやってきて五日目くらいだったか。

 神都の伝道師が勇者降臨の報を受けて駆けつけてきてくれたおかげで未遂で終わったが、やつらはユートを魔王の手先と思い込んでいて、村人を先導して夜中に異端狩りをやりやがったのだ。


 俺ん家を皆で取り囲んで焼き討ちしようとした恨みを俺は忘れねぇ。


 それが邪竜王を倒した現在ではどうだ?

 ユートの偉業を利用して村おこしを始めて、観光収入でウハウハ狙い。

 それなりの収入が見込めていた初期は勇者様と太鼓叩いてたのによ。

 聖竜騎士関連の売り上げが見込めなくなってきた途端に文句を言い出す。


 こいつら自身がユートのために何か後援者らしいことをしたか?

 そんなわけでもないのに言いたい放題。反吐が出る。

 世界を救った勇者を既得利権の飯の種としか考えてないクソどもが。

 あー、頼むから早いとこポックリいってくんねーかなー。


「あ・な・た・っっっっ!!!!」


「うおうっ!」


 いきなり嫁さんに怒鳴られ、俺はビクンと現実に引き戻された。


「ああ、悪ィむぎむぎ。ちょっと考え事してた」


「どうせ南方での新商売の件のことを考えていたのでしょ? お仕事熱心なのはいいですが、いまは村の存亡に関わる会議中です。集中してください」


「へいへい」


 まるでやる気ナッシングな態度で俺は報告書を読み上げる。


「交易部のおにぎりだ。王都および王都周辺の街への地ビールの売り上げ成果はまずまず。最近急増中の野盗どもの襲撃頻度を考えるに、事実上の売り上げは昨年の五割増しに等しいものと思われます」


「しかし実際の売り上げはそんなものでもないのだろう?」

「魔王を討伐した勇者一味の一人なら周辺の盗賊を皆殺しにせい」

「むぎむぎさん、オシメの換えはありますかいのう?(じょぼぼぼぼぼ)」


 だったらテメーらがヒャッハーどもを退治しろよクソが。

 あとうちの嫁にオムツの取替えやらせてんじゃねーよボケジジイ!

 声を大にして言いたい事を俺はグッとこらえる。

 ガキの頃ならゲンコものの事案だが、大人になったよなー俺も。


 こんなクソどもでも村の大地主だ。必要以上に恨まれると面倒になる。

 こいつらはこんなんでも周辺の村や王都に顔が利く連中だからな。

 下手に怒らせると村八分。そうなると今後の商売に支障が出る。

 俺だけならまだいいが、家族と村長一家に迷惑をかけるのはNGだ。

 やだねぇ~大人のしがらみってのは。やりづれーったらありゃしない。


「ビール屋の小倅、お前は若いんだからもっと村のために働かんか」

「そもそも村の特産品を外に売り込む交易部がだらしないからブツブツ」

「モンスター退治ばかりにうつつをぬかすから使えん大人になるんじゃ」


 その後もブチブチグチグチと老害の愚痴メインで会議は続き──


「では最後に村長、今期の村の収益についての総評をお願いします」


 活動報告の最後の締めは俺の義理の祖父にあたる『もけもけ』村長だ。

 今年で確かもう八十近い。さすがに衰えは見えるがまだまだ現役だ。

 こんなんでも若い頃は冒険者としてかなりブイブイいわせてたらしい。


 だから八年前に俺がユートと一緒に冒険者の道を進むことを決めたときも、村長だけは俺の夢を理解してくれて、反対する親を必死で説得してくれた。


 その借りとして魔王討伐後に「偉大な英雄を孫娘の婿として迎えられてワシも鼻高々ぢゃ」と今の嫁さんとかなり強引にくっつけられたわけなんだが、それについては別に後悔していない。もともとむぎむぎとは幼馴染同士の間柄でガキの時分から仲も良かったしな。


「村長のもけもけである。聖王暦608年は気候の悪さによる凶作と、冒険者くずれの盗賊どもの跋扈による街道の事故多発でどこの村も稼ぎがかんばしくなかったと聞いておる。畑の収穫については来年の豊穣祈願祭をより盛大に執り行い、災害で痛んだ土地の土壌改良も含めて対処を行う。盗賊に関しては冒険者ギルドと王国騎士団の提携で、近々大規模な掃討作戦が行われると聞いておる。来年度には治安が回復していると信じたい」


 やっぱこの人だけは違うな。長生きしてほしいもんだよまったく。


「しかしながら観光資源の収益悪化のほうはいかんともしがたく、このままでは聖竜騎士さまの威光に頼った村おこしは衰退の一途。早急に改善策を考えねばならない時期にきておる。もし妙案があるのなら意見を聞きたい」


「なら、俺にひとつ案が」


 意見を求められても黙り込む老害どもをよそに俺が挙手をする。


「きみの意見を聞こうか、おにぎりくん」


「とりあえず村の未来のことを考えるのであれば、まず村役場の役員を入れ替える必要があります。村の今後は若い衆に主導を任せ、利権にしがみつくだけで何の努力もしない無駄飯ぐらいの御老人がたには退場をお願いしたく」


「それは村長であるワシもかね?」


「可能であれば」


 あんたの息子である義父もかなりのヤリ手だし次期村長になるのに申し分の無い資質があるんだ。そろそろ村長を引退してさ、お義父とうさんに村長の座を譲って村を影から支える裏方に回ってくれてもいいと思うんだ。

 

「ふざけるでないわ!」

「たかが貧乏道具屋のドラ息子が調子に乗りおって!」

「これだから若いモンは……ブツブツ」


 案の定、俺の意見に老害どもが怒り出した。

 意見を求められてもまともなアイデアが浮かばないくせに、人の邪魔をすることに関してだけは一人前なんだよなコイツら。


 シネバイイノニ。


「まぁまぁ御三方、ここは落ち着いて」


 険悪になった空気を収めるために村長が場を取り直す。


「実際問題、おにぎりくんの意見ももっとも。我々はあまりにも年をとりすぎた。これからのああああ村は次の世代の者たちに任せるのが道理。このまま老人が権力をカサに出しゃばり続ければ、若者はどんどん村を見捨てて出て行ってしまう。さすれば廃村寸前まで落ちぶれた隣のメイプル村の二の舞ですぞ」


「ぬぅ……」

「しかし村長、この生意気な成り上がりの意見を鵜呑みにするのは」

「義理の孫とはいえ贔屓は許されませんぞ~」


 成り上がりね。そこは否定はしないさ。

 邪竜王の財産のいくつかを拝借して、そいつを元手に万屋馬車の移動販売を始めて、行商人としてわりとそこそこに成功したのは事実だからよ。


 でもな、最近ときどき思うわけよ。

 なんか商売人として神経磨り減らすのに疲れてきたし、また頭カラっぽにして闘いを楽しめる冒険者家業に現役復帰してみようかなーってさ。


 夫婦で冒険者とか業界では珍しくもないしな。

 うちの嫁さん、特に戦闘訓練も受けてない普通の村人だけど、難関で名高い王都アカデミーをけっこうな成績で卒業したインテリだから、学者職での冒険者生活もイケると思うんだ。


「とにかく来年度予算の農林部への振り分けは三割増しでお願いしますよ」

「あの聖竜騎士の遺産を売り飛ばす件も前向きな検討を」

「商業部としても記念館の取り潰しは賛成でございますよよよよよ」


 そう言うと老害どもは立ち上がり、話すことはないと席を立つ。


「たかが道具家の小倅がなにを偉そうに」

「村を捨てて冒険者になった外道が有力者ヅラするでないわ」

「村八分にされなかっただけありがたく思いなされよよよよよ」


 おじいちゃん、その捨て台詞は夏にも聞きましたよ。

 ボケが進行しているならさっさと引退するなりくたばるなりしろや。

 こんな連中のために命懸けで世界を救ったと思うとハラ立つなぁ。


「それでは本年度の第三期定例会議を終了します。おつかれさまでした」


 書き留めた書類一式をトントンと纏めて、嫁さんはメガネをクイっと上げ、


「あいつら全員グリズリーに生きたまま腹かっさばかれて死ねばいいのに♪」


 と、とてもとても爽やかな笑顔で老害どもへの素直な感想を口にした。

 すいませんね。うちの嫁さん、これでけっこう毒舌なんですわ。


「同感だね。でもああいう憎まれっ子に限って世に憚るんだよなぁ」


 野盗どもも俺の商隊より奴らを身代金目当てに狙って欲しいもんだ。

 たぶん老害どもの息子さんも含めて、皆これ幸いに見捨てるだろうけど。

 ほんとアイツら、村の若いもんみんなに嫌われてるからなぁ。


「まぁ、そう言うな二人とも。どのみちあいつらは長くない。ボケも進行しているし、足腰もだいぶ悪くなってる。村役場の重役として活動できるのもあと三年が限界ぢゃろうて」


「その三年で手遅れになっちゃたまらないから言ってるんだよ」

「そうですよおじいさま。メイプル村の惨状は他人事ではないんですよ」

「そんなことワシだってわかっておるわ」


 ああああ村は現在わりとリアルに廃村の危機が迫っている。

 勇者の威光を当て込んだ村おこしの失敗はたしかに衰退の一因ではある。

 ここ近年の特産品の収穫量が天災などによって減り続けているのもある。

 周辺の街道に出没するヒャッハーのせいで交易が難しくなったのもある。

 でも、一番の問題は──


「まったく、駆け出し冒険者を相手に商売していた昔が懐かしいわい」

「昔は王都に近い初心者向けのモンスターの狩り場として潤ってたもんな」

「魔王とモンスターがいない時代がこれほど辛いとは思いませんでした」


 天下泰平の時代に入って村の産業としての地力のなさの露呈。

 これが村の地盤を揺るがす最大の原因だったんだんだよなぁ。

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