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mythical world ~舞台裏・ミル編その3~

なんとでも ほざけ!

しょせん にんげんは

神のつくった どうぐにすぎん!

では 私のふっかつのぶたいへ!


【黒木勇斗語録 ロマンシングサガ サルーイン】

誰が善くて誰が悪いのか。

なにが正義でなにが悪なのか。

そういうものがまだ存在しなかった神世の時代に起こった最初の戦争。


戦いの発端に罪悪も過ちもなかった。

ただ、神々の司る属性・人類を取り巻く生死感・互いの思想性の相違。

断層のように同じものから生まれながらも生じてきた相容れぬズレ。


三大神は創生神の骸から生まれた人類をなによりも愛していた。

無限の海の上に創造した大陸という神の舞台よりも。

大陸の管理者となるべく現竜神に産み落とされた八竜神よりも。

世界の事象を安定させるために生み出した精霊たちよりも。


「神々は人類を自身の後継者として博愛し、寵愛し、溺愛した」


「神は人を愛した。愛し過ぎていた。それが悲劇の始まりだった」


創世記の一説を朗読する私とちっこいのさん。


神は人類を愛して地上を授け、その行く末を見届けることに専念。

始祖の民は三大神の加護のもとで大陸に楽園を築いて穏やかに暮らしていた。

だけれども、人類がある程度の繁栄と発展を遂げたところで、彼らはひとつの大きな問題に当たってしまった。


楽園に安穏と暮らすことによって生じた進化の袋小路。

完成という偽りに彩られた停滞。完璧という皮をかぶった限界。

彼らは神々が望んだとおりに原始的な暮らしを続け、それ故に神の理想像から一歩も脱却できず、出口の見えない迷宮に嵌まり込んでしまったのです。


ここで三大神の中でイデオロギーの相違が産まれることになります。

止まってしまった人類の更なる生長、今後の取り扱いについての意見の食い違い。

仲たがいの種は始まりと終わりの死生観の違いによるものでした。


始竜神はこれまでどおりに人類に無限の命を与え、単一固体として永き時の中で徐々に完璧なる神の子に近づけようという意見を。


終竜神は死によるリセットを与えることで、有限の生から繰り返し繰り返し底上げし、成長の可能性を見出そうという意見を。


戦争の萌芽は創造と破壊から。悲劇の幕は生と死の観念から。

これがこの世界で初の戦争とされる【神々の黄昏】の始まりでした。


「えっと、人間の歴史観では現竜神は中立の立場をとって始祖の民を戦乱に巻き込まないよう守護しながら、二神の戦の行く末を見届けることに徹したってありますね」


「魔界では違うんすか?」


「どちらかというと『くっくっくっ、兄貴も愚弟も勝手につぶしあえー、これで人類とこの世界は俺のものだー』みたいな」


「うわぁ」


さすがにこの解釈は魔界的で捩れたイメージなのでしょうが、この戦争のあと世界の統治権を現竜神が独占して八竜神に管理させたのは事実。


魔界的には現竜神はどっちつかずに徹したことで漁夫の利を得て、なんやかんやで上手いことやった次男という印象で語られることが多いようです。


「んで、生を司る創造神と死を司る破壊神の戦争によって神々の黄昏が訪れ、楽園だった世界は一気に崩壊。大陸は『天大陸』『現大陸』『魔大陸』と大きく三つに分かたれ、また戦争の余波によって後に『ひんがしの島』『まつろわぬ島々』『三千諸島』と呼ばれる数多くの泡沫の島々が誕生したと」


「そして始竜神と終竜神はこの戦いで地上で活動する力を失い、現竜神にすべてを押し付けて天に還りました。やがて天に還った始竜神は太陽に化身して天から生の恵みを与える生命の源となり、同じく終竜神も月に化身して死者の国の王となったのです」


「ここで神代の時代は終わりを告げて、ここから本格的に人類史が始まるんすよね」


「まだ始祖の民の段階ですけどね」


魔界の解釈で言うと現竜神は人間に対しとことん放任主義の神だったそうです。

かの神は過程の神であるがため個の可能性を尊重し、過剰な管理を避けたとも。


人類の管理は自身の分身である八竜神に完全に丸投げで悠々自適な隠居生活。

そんな経緯もあって、この世界で現竜神の信奉者はあまりいないようです。

神としては珍しく属性が流動で態度が曖昧。立ち位置もどっちつかずで中立。

そのためか現竜神の『現』は『夢現』または『夢幻』と訳されることがある。

現竜神を夢の神と呼ぶなんて、なんだかとてもロマンチックな感じがしますね。



◇『人類史~失楽園・始祖の民の独立と分化~』


・始祖の民の属性の分化。

 天大陸に移住した始祖の民。天空人始祖の誕生。

 魔大陸に移住した始祖の民。魔界人始祖の誕生。

 現大陸に定住した始祖の民。人間・妖精族・獣人族の誕生。


「現竜神が去り、八竜神が大陸の管理を始めた頃に、これまで楽園の絶対管理の下で安穏としていた始祖の民の意識が変わって、それぞれの神竜の思想に付き従う人類が現れ始めるんすよねー」


「神々の黄昏によって楽園が崩壊して、人間から不死性と永続性が失われて有限の存在になったことが、完熟されていた人類の意識に新しい変化を及ぼしたんです」


楽園の崩壊と人類に与えられた寿命の理。

結果的に神々の黄昏は終竜神の勝利に終わったといえます。

ただ、終竜神の考え方は適者生存の理で、悪疫や災害で万を殺して一を残すのも辞さない急進的すぎるもの。


中立の立場を堅持した現竜神は、もっとゆるやかで堅実な道が必要だと多様性と個々の可能性を重視し、単一民族・単一思想・単一文化で構成されていた始祖の民を一度解体し、各々の裁量で導いて進化させよと八竜神に伝えます。


秩序を重んじる聖竜神と光竜神は天大陸に上っり、付き従った始祖の民たちに天使の位を授け、始竜神思想に近い管理者の道を。


混沌を尊重する邪竜神と闇竜神は魔大陸に移り、賛同した始祖の民たちに魔族の位を授け、終竜神思想に近い弱肉強食の道を。


残る神竜は人類の育成は自然に任せるべきと地上に残り、天にも魔にも属さなかった人類のゆるやかな歩みを見届ける道を。


結果、始祖の民たちは『天空人』『人間』『魔族』の三種に分かれることになるのです。


「この三大陸への移住と天人魔への民族の分化で正式に人類史が開始されるんすけど、こっから天界と魔界に移住した民のことはサッパリになっちゃうんすよね~」


「それはしかたないです。天空人も魔族も必要以上に地上に干渉したがらない鎖国主義ですから。地上の民は神との密接な関係を断つことで可能性を見出す一方、だんだんと神の血が薄まっていって、魔族いわく短命の劣等種族、天空人いわく地を這う下等種族になっていきましたから。そんな地上の民と過剰に関わりすぎると、自分たちまで悪い影響を受けるのではないかと極端に恐れていましたから」


「あー、天空人や魔族ってそういう選民意識が強いところあるっすよねー」


「決して地上の民のような劣化や退化はすまいと、選んだ道や理念のカタチはどうであれ、それぞれがそれぞれ始祖の民に流れていた神世の血の濃さを数千年単位で守り続けてきた一族ですから」


だから天空人は地上の民よりも遥かに神の加護を享受する神性値が高く、エルフよりも長命で、プリースト適性が全種族随一で、基本ステータスも信仰心と知力と運が飛びぬけて高い。


そこは力量差にピンからキリまで大きなムラこそあるけど魔族もまた同じで、下級種のレッサーデーモン、中級種のグレーターデーモン、上級種のアークデーモン、真祖種のデーモンロードと上の位階の種になるほど始祖の血が濃くなり、単体としての力の基礎を増していきます。


特におじいさまのように神世の時代から生きていた起源の魔族を筆頭に、等級を問わず爵位持ちの魔王になった叩き上げの魔族や、古代から王家の血筋として生まれつき魔王の座を約束された真祖種などは、それこそ普通の地上の民では束になっても叶わない種族的強さを誇っているのです。


……えっと、あの、たまーに真祖種からも私みたいな出来損ないが生まれちゃったりすることがありますけど、そこは御愛嬌で。


もっとも最終的には──


「神の血の徹底した保護。それは可能性を否定する過ちであったのか?」


なんて自己否定を魔皇帝自らが口にすることになるんですけどね。

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