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Beware of the dog ~犬侍・陸~

俺は過去形にされるのはごめんだからな!


【黒木勇斗語録・FF8 スコール】

竜は何ゆえに強いのか?

答えはいたって単純。竜は竜だから強いのだ。

当たり前のことである。彼らは創造神に最も近しい種族なのだから。


鉱物と同等の硬度を誇る鱗に守られ、刃を通さぬ肉厚を誇り、鉄を裂き岩を噛み砕く爪牙を備え、陸上動物としては最大の大きさを持つ肉体。


数多の精霊現象を具現化するブレスを吐き、属性に応じた高度な魔法防御を持ち、古代種となれば高度な知性を備え人語を解し、人では長期詠唱が必要な高位魔法を無詠唱で唱えられる。


どれもが生まれ持った素の力。

神に与えられた種としての血の恩恵。

竜はなにもせずとも強い。その意志に関係なく最強の位置にいる。

生まれ付いての最強的存在にとって、我々が拘るレベル上げだのスキル上げだの経験値稼ぎだののという修行の概念はすべて瑣末なこと。


彼らに比べて人間は非力だ。単体ではどう足掻いたところで竜には勝てぬ。

だからより良い武器に頼り、より高度な魔法を学び、より上位の職業クラスを目指し、より優れた技能スキルを選び、より姑息な知恵を蓄えて彼ら最強の種族に挑まんとする。


いつの世も『竜殺し』は冒険者にとって最高のステータスのひとつだ。

対魔王の決戦兵器である勇者最強職『神竜騎士』の中にすら、雑魚魔王になど見向きもせず、下手な魔王よりもレベルの高い悪竜を退治することを専門にしていた者が過去に複数いたと聞く。


近年では狂気的な難行【ドラゴン百匹斬り】を果たし、七大魔王の一角『邪竜王』を打ち倒した聖竜騎士ユートがその代表であろうか。


天空人に連れられて異世界からやってきた異邦人ユート。

ほんの少しの間だけ彼とは同行者として旅を共にする機会があった。

常に英雄らしい英雄であろうとカッコつける、実に夢見がちな少年であった。

かの少年がこの世界に遺した武勇伝の中に、このような名文句がある。


人はそのままドラゴンには絶対に勝てない。じゃあどうすれば勝てると思う?

伝説クラスの武器防具をそろえて挑む?

高レベル上級職のパーティーを組んで挑む?

対ドラゴンのスキルをかたっぱしから習得して挑む?

もっと単純に『レベルを上げて物理で殴る』の理論で挑む?


うん、どれも正解。


正解だけど──


神竜騎士であるボクの導き出した答えはちょっと違う。


人はドラゴンには勝てない。

だったらなっちゃえばいいんだよ。ドラゴンそのものに──


誰もが子供らしい非現実的な戯言ととらえた神竜騎士の伝説的迷言。

七大魔王戦役の当時、神竜の加護を得て地上に降り立った異邦人は四名いた。

冒険開始当初から高位パーティーを編成して破竹の勢いで名を轟かせていった他の異邦人たちに比べ、かの少年は異邦人ならば必ず得られるはずの王家とのコネクション・神殿のバックアップ・ギルドのタニマチに恵まれず、スタート時は目立った活躍もなくパーティーメンバーも貧相、勇者パーティーとしては明らかに格が数枚劣っていたと聞く。


魔王退治の決戦兵器である神竜騎士なのにドラゴン退治特化型を選んだ勇者。

両手斧に拘る三枚目筋肉マッチョ男というやられ役街道まっしぐらの戦士。

カジノいりびたりでバニーガール衣装が普段着のお色気担当な遊び人。

プリーストとしてマイナーなドルイドの上に回復手段が薬草の僧侶。

このパーティー編成のあまりの尖りぶりは、魔王軍からも「おまえら嘗めてんの?」とイロモノ扱いされたほど。


なのに彼らは見事に魔王退治を果たしてのけた。

竜殺しの称号の中でも最高峰である魔王級のドラゴン討伐の成功。

邪竜王は七大魔王の中では一番の小物と、世間では半ばネタ扱いで揶揄されているが、邪竜王は天空人の王女を誘拐して世間的な箔をつけようとしたり、領土拡大よりも金銀財宝収集を優先し続けたりする、やたら俗物的な小物であったが最弱ではなかった。


始祖『邪竜神』に劣りはせど腐っても神の眷属。

魔界最高峰の種である邪竜族の王子にして、地上の竜族よりも凶悪な魔竜たちの支配者。

単体の戦闘力ならば七大魔王の中で第二位の実力者であったことは意外と知られていない。


なぜそれほどのモノに異邦人パーティー最弱とされていた少年は勝てたのか。

対竜特化型の神竜騎士であったことが最大の理由であろうが、それ以上に……


彼は人間でありながら神竜の加護以上の能力、すなわち竜の能力そのものを我が身に宿さんと数多の竜の血肉を喰らい続けた。これに尽きる。


少年は有言を実行し、最終的に邪竜王の血すら啜り、夢をかなえた。

無数の竜を喰らって人でありながら竜と成り、竜をも越えて神竜に匹敵する。

まさにある種の狂気の産物である。

地竜神に選ばれ魔王退治の立役者となったガッサーどのとて、そんな領域にはいない。


少年の末路はようとして知れない。

他の異邦人と同様に元の世界に帰還したとは聞く。

元の世界に戻れは異邦人はコチラで得た力のほとんどを失い『匹夫の勇』となるらしいが、ガッサーどののようにこの世界に骨を埋める選択をしなかったのは正解だった。


平和な人の世に怪物を越えた怪物は必要とされない。

魔王退治を果たした現地民の勇者でさえ用済みと世間から迫害される世の中に、竜の血肉を喰らって人間をやめた外来種、それも邪竜の王の血を浴びた人ならざる超越者の居場所などあるわけがない。


残ったところで凡夫からは異形のモノと畏れられ、権力者からは危険因子と煙たがられ、同胞であるはずの聖竜神信者からも邪竜王の力を得た外道と疎まれただろう。


拙者は知っている。そういった者達の行き着く先は──


「………………」


我ながら、異なことを考える。

この一触即発の事態に何故、あの少年の事を拙者は思い浮かべたのだろう。

どうしてあの少年の姿を記憶から掘り起こしたのか。


使用している武器は彼が使っていた大剣に良く似ている。

が、こんな血塗られたような黒塗りの邪剣ではなかった。


身に纏っていた鎧も聖竜神から賜った神々しき光の鎧。

間違ってもこんな禍々しき鎧ではない。


そもそも聖竜騎士ユートはとうにこの世界からいなくなっている。


 しかし──


 もし少年がガッサーどののように、この世界に留まっていたならば。


 きっと──


 掌を返した人間に絶望し、魔道に身を落としていたであろう。


 そこにいる、過去は高名な騎士であったであろう魔のモノのように。


 闇の落とし子──出現率『極レア』


 力に溺れ、天狗道に堕ち、人間から魔族になった勇者あるいは強者の総称。

 闇に堕ちる理由は様々だが、魔王と契約た彼らを人は闇の落とし子と呼ぶ。

 概ね元は高レベルの冒険者や人間の限界を越えんとした達人のため驚異度A。

 魔の力に魅了された者、人の限界に絶望した者、人類全体に憎悪を抱いた者。

 彼らが落とし子となるケースは多岐にわたり、固体によって職業やスキルもまったく異なるため単一のデーター化は不可能。また先入観でクラスを絞ることも危険である。


 彼らは魔王の側近として出現することが最も多く確認されている。

 主である魔王に敵対するものには容赦しない忠臣のため敵対は不可避である。


 稀に魔王と契約せず修練の果てに地力で魔道に堕ちる者、力を欲して禁呪法や呪いの武具に手を出したことによって魔のモノと化す者などもおり、こういった主を持たない求道者タイプの場合は交渉による戦闘回避が通じる場合もあるが、基本は冒険者に敵対的。理性を完全に失い狂戦士化している事例もあり。


 討伐レベル50に該当。

 Bランク以下の冒険者は討伐非推奨。

 Aランク冒険者でもソロでの対戦は危険。

 単体で出現しても必ずパーティー単位で対応すること。


      『冒険者ギルドガイド・上級モンスター頁より抜粋』



「噂に聞く闇の落とし子、それも神竜騎士と同じ威を持つモノ……」


 この闇騎士が何者かは知らぬ。

 が、過去の神竜騎士の成れの果ての可能性は高い。

 もし迷魔王に仕える存在でなら、ケタ違いの猛者であることは間違いない。

 冒険者ギルドから雑魚魔王討伐相当の破格の成功報酬が出たのはこのせいか。


 ゴクリ。


「鬼城王を目の前にしたとき以来でござるな。これほどの興奮は」


 とりあえず、まずは感謝するでござるよガッサーどの。

 これほどの強敵と刃を交えられる機会は生涯で数回あるかないか。


 すみませぬ御師匠どの。

 気が向いたらオワリの国に顔を見せると御約束した身ではございますが。

 もしかすればこの一戦が、拙者の求める良き死に場所になるやもしれませぬ。

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