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The troop was altogether destroyed ~犬侍・参~

ざんねん!!わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!


【黒木勇斗語録・シャドウゲイト 主人公】

「なぁ、先生。ボケっとしてるけど大丈夫か?」


「………(そわそわ)」

「しっかりしてくださいね。頼りにしてるんですから」

「あなたは噂に名高い鬼城王の討伐隊の一員。信頼してますよ」

「いやしかし、獣人のサムライっというのは素晴らしいな」


「ん? ああ、この箱庭のことを考えていたでござるよ」


 仲間の信頼が気恥ずかしく、拙者はポリポリと耳の裏を掻く。

 やはりこの冒険者家業はいい。種族を問わず強さが全てでシンプルだ。

 そこに差別被差別はほとんどなく、古来より鉱脈を腐らせる妖魔と畏れられてきた自分のような犬獣人コボルトの者でも対等に接してくれる。


 多少、物珍しさからくる好奇の視線はやむなし。

 そもそもサムライという上級クラスの存在自体が転職条件の厳しさからして希少レアで、かつサムライとニンジャの総本山『ひんがしのワ国』の民ではなく大陸中央部ではあまり見かけない西部諸国出身の獣人族とくれば、いかなる経歴をもってサムライになったのか不思議に思うのが当然。


 実際、幼少のみぎりに『ひんがしのワ国』から大陸に渡ってきた御師匠殿に出会わなければ、今頃は同じ冒険者でもせいぜいCランクの基本職どまりであったろう。


 それゆえ、拙者は古来から大陸に伝わるサムライのイメージを崩さぬよう、装備面も御師匠殿の衣装に合わせたワ国の服装。


 このワ服というものはクロースにしては着心地がよく防御面にも優れている。スカートに似た袴なる脚防具も、最初こそ女人のようで恥ずかしいものがあったが、慣れてしまえば見た目以上の防御力と足捌きを隠す機能美も含めてサムライになくてはならぬものだと思うようになった。


 自前の毛皮のおかげで半裸が基本の獣人がワ国の装備を纏うという折衷ぶり。

 それがまた世間的には珍奇なモノに感じるのであろう。

 拙者もエルフや大陸人の女人がワ国のゲイシャ服を着込んでいたら似合ってても「アレ?」と思うであろうし、既存概念の埒外にいる拭い去れぬ違和感はどうしようもなく、カタギ衆のみならず同業者からも物珍しがられるのはいたしかたなし。


 冒険者は宣伝力で目立ったモノ勝ち。傾かぶいて自己アピールしたもの勝ち。

 クエストを受けるうえでギルドで言われる常套句なれど、やはり自分は珍獣扱いで目立って大勢から快哉を浴びるのは苦手でござるよ。


「先生、これより先は先発隊が行き損ねた未踏の領域。俺らはこういったものは未経験なんで、ベテランからの助言があれば助かります」


「すいません。いつもなら仲間の一人が先頭に立って罠感知や索敵を行うんですが、先日にクルーの数人が酒場のキノコ飯に当たってしまって」


「いやはや。Bランカーともあろうものが面目なく。戦空魔僧踊なんてダンジョン攻略に不適格な構成になってしまってすみませぬ」


「欠員をフリー募集から繰り上げ当選させて補う案をギルドから提示されてゲストを雇ったんですが、そのギルド紹介の補充要員まで大遅刻というていたらくでもう……座標は常時伝えているんでもうじき合流するとは思うんですが」


「…………(ぺこぺこ)」


「そこは拙者が野生の勘と鋭敏知覚でなんとかするでござるよ。底なし沼や落とし穴くらいなら察することは可能。ただ、宝箱の解除だけは御勘弁」


「俺らが注意することは?」


「戦闘時は隊列を崩さず自分のパーティーを信じて戦う。これに尽き申す」


「しかしだ。先生は我々の陣形に加わらないので?」


「拙者は犬族でありながら群れることをよしとせず、クエストも基本ソロでやってきた流浪人。先頭に立って知覚感知はお任せながら、戦闘のチームワークに関してはおのおのがたに任すでござるよ」


「つまり先生と我々の2パーティーでアライアンスを組み、個々に戦うと」


「そうなるでござるな。切り込みは拙者が受け持つでござるよ」


 この五人はこれまで同じメンツで参加してきたBランクパーティー。

 拙者のような独り者と違って、これまで各色を生かした連携でやってきた群れ。

 せっかく統率された群れの構造を拙者という異物で穢すのは良いことではない。

 過度の馴れ合いは危険。あくまでも共闘というカタチにとどめるべし。


 というのも、拙者はどうにも人付き合いというものが苦手な無骨者。

 こういうのをなんと称したか。ガッサーどの曰くコミュ障であったか。

 いや『ぼっち』『べんじょめし』であったか。

 一匹狼とは孤独ゆえに孤高。死して屍を喰うべからずでござる。


「じきに第二次探索隊が半壊した現場に到着する。いかがなされる?」


 報告書どおりの順路を進み、噂の『あんのうん』出現場所に接近する我々。

 現場へ向かう道すがら、灰色熊と大猿の急襲があったがなんなく撃破。

 ワープ装置で分かり難いが、確かにこのあたりは一階層違う地下らしい。


「虎穴に入らずんば虎子を得ずだぜ、先生」


「あいわかった。くれぐれも油断めさるな」


 ダンジョンというものは階層が深くなるほどモンスターの強さが変わる。

 この階層のモンスターは明らかに入り口付近で出現するモンスターよりもレベルが高く設定されている。人造物ならではの生態系の急変。気のせいか上の魔犬や大鼠たちよりも動きの立ち回りも細かかった気がする。


 さらにしばらく進んでまたエンカウント。

 今度は先ほどと同じ大猿キラーエイプと、彼らを一回り大きくした黒虎毛の巨大猿マスターエイプ。

 エリアボス? 違う。この階層はこのランクがモンスターのレベル基準か。


「あの黒虎毛は拙者が。取り巻きはそちらでお願いいたす」


「分かった」

「まかせてください」

「…………(うんうん)」

「まったく、急に厄介になってきたなぁ」

「無駄口たたいてないでさっさと露払いするわよ!」


 さすがに雑魚のモンスターレベルが6を越え始めると楽勝とはいかなくなる。

 拙者が群れのボスを抑え、その隙に他のメンツが群れの退治を行う。

 一定以上のレベルのモンスターともなると敵もさるもので。猿だけに。

 パーティーを編成するほどの知能を持つ種が群れを統率して襲ってくるとなれば、こちらも全滅させるのは容易とは行かず前衛が手傷を負うようになる。


「っぶねぇ。先生がいなかったらやばかったな」

「ここらのモンスターは複数で来られるとCランクでも危険ですね」

「Dランクの若手なら確実に全滅の難度よ。一階層の違いが明確ね」

「…………(警戒中)」

「しかし、噂のあんのうんというのは……」


 回復魔法の治療を受けていたツグミ殿が口癖混じりで言いかけたそのとき──


「なんだいありゃあ?」


 イカル氏が森の湿地帯のほうに目を向けて素っ頓狂な声を出した。


「朽ちた祭壇……? 闘技場のようにも見えなくもないでござるな」


 眼をこらすと湿地帯の奥のほうに石造りの遺跡があった。

 浸食が進みボロボロになった石畳の床に、ぐるりと円状に広場を囲む壁。

 遠目ではこれ以上の確認はとれないが、なんらかの施設跡なのはわかる。


「行ってみるでござるか?」


 仲間たちに異論はなかった。

 モンスターの急襲と沼に仕掛けられたダメージ床や毒沼に注意しつつ、拙者たちは施設のある奥地へ進む。こういうとき袴はつらい。足がドロドロでござるよ。


「石造りの広場。経年劣化からして迷いの森に点在する千年前の遺物ね」


 インコ殿が施設の周囲を見回りながら言った。


「つまりこの施設は迷宮王の遺跡の一部ってことでござるか?」


「ええ、上階で発見された三つの石碑は過去のダンジョン覇者を讃えるものであったと聞いていますし、おそらくはこの遺跡も、迷宮王ゆかりのなんらかの施設の可能性があります」


 残念ながら自分はそういった博物知識には疎い。

 古代知識については専門家にお任せしよう。


「先生。あなたさきほど此処がまるで祭壇か闘技場みたいだって言ってましたね。意外と大当たりかもしれませんよ」


 メガネをクイっと上げつつイスカ殿が言った。


「このぐるりと広場を囲む壁に彫られたレリーフを見てください。モンスターと剣闘士らしき人間が戦っている絵図ばかりです。朽ちてはいますが観客席らしきものも……」


「つまりどういうわけだよイスカ」


 同じように遺跡を調べていたイカル氏が言った。


「ようするに、あまり長居しないほうがいいということです」


 ゾクッ……


「ッッッ!?」


 イスカ殿の警告に呼応するように突如感じる強烈な悪寒。

 全身の毛が逆立つほどの危機感。無意識に膨れ上がる尻尾。これは!?

 スキル『危機感知』に頼るまでもない。野生の勘だけでわかってしまう。


 ナニカガクル──


 ソレモ──


 ケタチガイニ オソロシク キョウダイナ──


「みんな! そこから離れて!」


 インコ殿が叫ぶ。

 言われるまでもなく拙者は広場の中央から退いていた。

 ただならぬ空気を感じ取り他の五人も遅れて施設の入り口まで退避する。


「インコ、いきなり叫んでなんだってんだよいったい」

「この施設、まだ機能が生きてる。私たちの侵入に反応して稼動してる」 

「いやぁ、おいおい、そりゃあつまり……」

「我々が闘技場の剣闘士として認識された──ということですか?」


 彼らの予測は大当たりであった。こういう悪い予感はよく当たる。

 我々が退避してから数秒の間を置いて、広場の床が振動を始めた。

 突如、鈍く光りだす広場床の紋様。

 魔道関連の知識に疎い自分でも、これまでの長きに渡る戦闘経験から、これからなにが起ころうとしているのかは分かる。


「なにかがくるでござるよ」


 これは召喚陣。

 此処が闘技場の遺跡とするなら、あれは対戦相手のモンスターを呼ぶ装置。

 拙者は愛刀『にっかり青汁』を抜き、これから光る紋様をゲートにして出てくるであろう敵を迎え撃つ準備を整える。


「これは……報告書にあった牛頭のデーモンか!」


 現れたのは牛の頭と人間の身体を持った巨人。

 資料によると『牛頭のデーモン』なるミノタウロスに似た魔族らしい。


「やっべぇ、こりゃあやっべぇ。見てわかりやすいエリアボスじゃねーか」

「報告書よりもデカいな」

「おそらく上層の上位種でしょう。報告書とは色も武器も異なります」

「…………(ッッッ)」

「分析完了。モンスターレベルは25。お侍さんがいてくれて助かったわ」


 このような状況にあっても冷静に対応してこそのプロ。

 Bランク冒険者ともなれば行動も的確。このキモが熟練者と若手の差だ。

 これなら拙者がおらずとも勝率はトントンまで上げられたであろう。


 敵は一般に知られるミノタウロスとは体毛からツノまで特徴が微妙に違う。

 主武器も棍棒から大鉈に変わっているところを見るに上位互換の別固体。

 色合いも禍々しく、血の色をした体毛がいかにもなボス感を漂わせ……


「……違う」


 拙者の口から意識せず漏れる呟き。


「先生、違うってなんだよ?」


「先程に全身を震わせた強烈な気配……こやつではない」


 召喚装置から転送されてきたこのモンスターは強い。

 貫禄あり。威厳あり。重量感あり。モンスターレベルは25。

 前に戦った猿とは違う。ヤツがエリアボスと見ていいだろう。


 だが、恐怖はない。鬼城王戦のときに感じたような悪寒には程遠い。

 拙者が先程襲われた怖気はこんなものではない。

 あの恐怖は、七年前に鬼城王の核と対峙したときのものに匹敵していた。

 ならば拙者を脅かしたモノはいったい何処に──


 ズンッッッッ!!!


「え?」

「は?」

「いや?」

「ほぇっ?」


 信じられないことが起こった。


「………………ッ」


 予期せず発生した闘技場でのエリアボス戦。

 ここにいる誰もが出現した赤きデーモンとの対戦を覚悟していた。

 しかしソレがまったくの予兆もなく『戦闘終了おひらき』になった。


 おひらき──おひらきにござる──

 巨大な牛男が唐竹割りで物理的に真っ二つ。

 アジの開きのようになって『おひらき』にござる。


「え……?」


 熟練の冒険者すら呆然とする予想外の展開。

 目の前で起きたことが信じられないといった顔で呆ける四名。

 拙者だけだった。この中で現実を認識しているのは拙者だけだった。


 牛頭のデーモンが戦闘態勢に入ろうとしたそのとき──

 音もなく上空から出現し、デーモンを頭から真っ二つにした黒き閃光。


 呆然とする一同の前に現れたのは漆黒の騎士のようなモノであった。

 人のカタチをした邪気。周囲に噴きあがる瘴気の渦。血に汚れた巨大剣。

 闇が、黒が、影が、瘴気の霧を纏わせながら騎士の姿を成して立っている。


「……真打登場にござるな……」


 間違いない。

 噂に聞く【あんのうん】は……こやつだ!!!

4/8 ~犬侍・弐~を大幅改稿して弐と参に分割しました。

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