表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/177

Drinking in desperation ~リップルの酒場にて~

私にはもう何も残されてはいない…

帰る場所も、愛する人も、信じる者さえも…

魔王など…どこにもいはしなかった…

ならばこの私が魔王となり

自分勝手な人間達にその愚かさを教えてやる…

私は今よりオルステッドなどではない…

我が名は魔王オディオ…!


【黒木勇斗語録・LIVE・A・LIVE オルステッド】

「この世の中は腐っているッ! 勇者の敵は魔王などではなかったッ! 

 魔王がいなくなれば用済みと掌を返した人間こそが真の敵だったんだ!」


「なんかビール片手に随分と壮大なセリフを吐いてるけど、素直に就職活動に

 失敗しましたって言えないの? ユート」


「堕ちたりといえど勇者なもんで、せめてカッコつけさせてください……」


 ここは王都のメインストリートにある冒険者の拠点【リップルの酒場】。


 城下町を拠点とする多くの荒くれ者たちがたむろする憩いの場にして、

 冒険者ギルドからの公式クエストを請け負うことができるこの酒場は、

 定職も持たずフラフラしている冒険者たちにとってなくてはならない場だ。


 クエストの受注、パーティーの募集、宿の紹介、食事の用意、情報交換、

 冒険にかかせない要素は、旅の下準備から依頼終了後の報酬手続きを含め、

 すべてこの酒場からはじまり、この酒場で終わる。


 まぁ、ライトファンタジーによくあるコテコテの冒険者の酒場ってやつだ。


「だから言ったのよ。王国騎士団の仕官なんて高望みだからやめておけって。

 そうでなくとも魔王軍の驚異がなくなって王国も軍を縮小化してる御時勢、

 この王都に大したコネのないアンタが、生き馬の目を抜くような宮仕えの

 椅子取りゲームに勝てるわけないっての」


 カウンターでヤケ酒を飲みながら落ち込むボクへ辛辣な言葉を投げかける、

 かつての冒険の仲間のリップル・ハートバー。

 遊び人から賢者というまさかの転職を果たし、数々の魔法を駆使して多くの

 邪竜王の手先たちを葬り去った人間大砲も、あれから七年が経過した現在、

 当時に手に入れた財宝を元手にベンチャー事業を始めて大成功を果たして、

 今では王都メインストリートに店を構える冒険者ギルド酒場のオーナーだ。


「そりゃあさぁ、この王都は邪竜王の被害をあまり受けなかった地区だし、

 どっちかというと 雷嵐王や黒焔王の侵略に苦労していたほうだから、

 そっちの魔王軍と戦っていた勇者と比べボクの知名度が低いのは承知だよ。

 でもさ、それでも魔王の一角を斃した英雄なんだからさ、もっと社会的に

 優遇されたっていいじゃん! そうは思いませんかねリップルさんよぉ」


「その邪竜王さんが、他の魔王たちから『ヤツは我々の中でも一番の小物』

 『外来種ごときに後れを取るとは、やはり奴を連れてきたのは過ちだった』

 とか言われてなきゃ、もうちょい世間の評価も良くなってたんでしょうね」


「ブッ!」


「実のとこウチら、他の魔王討伐組と比べるとあんま評価高くないわよ」


「ちょっと待って! 初めて知ったぞ、その事実ッ!」


「そりゃそうよ。うちらが邪竜王を斃した同時期に裏ステージに突入してた

 勇者ディーンのパーティーが、魔王最強の蝕星王から聞いたセリフからの

 評価だし。あたしがそれ知ったころにはアンタもう帰国してたし」


「あんだけ苦労したラスボスが小物扱いってわりとショックなんですが……」


「気にしなさんな。魔王はどれも個人主義で反目しあってたし、とりあえず

 そう言っとけば自分は異邦人に敗れたヤツとは違うって面目も立つもの。

 こういうのはよくある強がりだから実力差の真偽定かじゃないわよ」


「そう願いたいよ」


 いまから八年前、この異世界にはひとつの大陸、三千諸島がある西方海域、

 そして天空をも圧倒的な力をもって震撼させた七つの災厄が存在していた。


 太陽をも蝕む魔星。天より堕とされし黄昏の光『蝕星王』。

 天空を駆ける邪風。黒き雷雲を纏いし嵐の君『雷嵐王』。

 幾百の軍船を呑み込み喰らった八つ足の海魔『死海王』。

 すべてを焼き尽くす煉獄の権化。その六対の翼は闇の炎『黒焔王』。

 修羅を喰らう羅刹。戦あるところに我アリ『鉄騎王』。

 生ける要塞。移動する魔の王城。難攻不落の城砦『鬼城王』。

 黒曜の竜鱗。黒鋼の牙。人類に敵対せし暴虐の神竜『邪竜王』。


 八年前のこの世界は、これまで百年単位でひとりかふたりしか現れなかった

 魔王クラスが、前代未聞の七体同時顕現を果たした絶望の時代に陥っていた。


 世界は魔王たちの侵攻によって麻のように乱れ、魔王の現界に引きずられる

 ように凶暴化したモンスターたちに国や街は荒らされ、それはそれはもう、

 明るい未来の見えぬ危機的状況に人々は咽び泣くしかなかった。


 しかし悪が栄え続けたためしなし。

 魔王たちが行った無軌道な侵略の暴挙は、悪性ウイルスに対処する抗体の

 ように世界各地に『対抗者』を生み出すことになった。


 それがこの世界を守る『聖女』たちが別世界から選出した『異邦人エトランゼ』と、

 外来種には負けていられないと現地の人間から誕生した数多くの勇者だ。


 その中でも創造神の一柱【光竜神】の深い寵愛を受け四体もの魔王を

 討伐することに成功した勇者ディーンのパーティーの功績は大きい。


 彼らはいまや全世界が知る生きた伝説だ。

 残念ながらその勇者ディーンはもういない。

 なんでも【蝕星王】との戦いで地上を巻き込んで崩壊をはじめた次元城を

 支えるため、自ら人柱になって次元の狭間に消えたんだそうだ。


 パーティーと世界を守るために犠牲になる主人公。

 勇者ものによくあるラストだけど実際に身近に起こると悲しい話だ。


 もちろんボクたち四人の異邦人エトランゼも彼の功績に負けないよう頑張った。

 一人一殺を目指し彼ら最強パーティーを援護する形で他の魔王を斃し、

 彼らの負担を軽くするサポートをした。

 その一人は勇者ディーンのパーティーに加わりヒロインの座を獲得してる。


 そういう意味合いではボクたち異邦人エトランゼの旅は中ボス退治で終わった

 サブキャラの物語かもしれない。

 ボクらの旅ももちろんノベルで三巻はいける壮大な物語だったわけだけど、

 世界を救う本筋ストーリーはあくまで勇者ディーンたちが紡ぐ物語。


 そのへんはやはり世界の危機は現地民で退けるにこしたことはないわけで、

 こういうとき余所者はあまり出張らないのがスジだ。

 そのへんのワビサビはボクでも理解している。


 それはそれとして。

 それでもやっぱりボクらも立派に魔王を斃す功績を残したわけでして、

 あれから七年が経過した今も四人の異邦人と一人の大勇者による魔王退治の

 物語は、多くの吟遊詩人たちの歌の題材になるほどの語り草だ。


 だから異世界再転移さえ果たせれば、あの日の実績を称えて国家から直々の

 スカウトが凱旋して即やってくるのではないかと考えて、意気揚々と王国の

 仕官募集に手を出したのだが、現実はこの通り。


 ううむ、この過去の栄光に任せた【あっさり再就職】目論見は甘かったか。


「リップル、ビールをもう一杯おねがい」


「酒代は? アンタ文無しよね? 服だって異世界のを着たきりスズメだし」


「とりあえず出世払いのツケで。馬小屋での寝泊りも月末までヨロシク」


「言っとくけど、踏み倒しは許さないわよ。冒険者カードの再発行がすんだら

 強制的にクエスト押し付けるからね」


「わぁい」


 たぶん、甘かったんだろうなぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ