表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/177

Beware of the dog ~犬侍・壱~

「おお ◯◯◯◯! しんでしまうとは なんと いなかものじゃ!」


【黒木勇斗語録・ドラゴンクエストⅢ エジンベア王】

「思うに。なんでこの国の飯は薬草とキノコと豆ばっかりで、体力づくりに必要な獣肉の類が入ってないのでござるか。こうもヘルシー嗜好の料理ばっかりでは身体に熱が入らなくて身がもたぬでござるよ」


「フォートリアは菜食主義のエルフと豆喰らいのドルイド僧どもが集まって出来た国だからな。南方料理というものはそういうもんだ。川魚料理なら豊富なんだがな」


「同じ獣人族でも拙者ら犬獣人コボルトは猫獣人とは違って獣肉派ゆえ。ああ、山羊や大羊の肉に舌が痺れるくらいの岩塩と鼻が曲がるくらい香辛料をドバドハぶっかけて焼いた故郷の西方料理が懐かしいでござるよ」


「課せられたノルマが終わるまでの我慢だな。フォートリア内でヘマして慈善活動のクエスト請負をするハメになったのはお前だ。煮豆と薬草炒めしか出てこない拘置所禁固刑を喰らうよりはマシだろう。しばらくはあの御転婆猫の飼い犬として頑張るんだな」


「それは我々一族に対する侮辱でござるよガッサー。拙者はあの猫姫殿を主君とは認めてはおらぬ。不倶戴天の敵であるドワーフどもほど関係は険悪ではないにしろ、猫族との確執は大陸統一期から現在まで継続中ゆえ、一時的な雇われの身になったとはいえ猫族の軍門に下ったと思われるのは心外にござる」


「そういきるな犬侍。慈善活動の内容次第で自由になれる飼い犬なら幾分マシなほうだ。【大樹の聖女】に首輪をかけられた囚われの身の負け犬よりはな」


「その点に関しては同情するでござるよ」


「フッ……」


 拙者の名はコクロウ。

 コボルト族の本山のひとつである西方諸国はカイの国に生まれ、幼き日より剣一筋に精進してきた流浪のサムライにござる。


 サムライの道を究めんとする傍らで営む冒険者としての階級はA。

 家業を始めて十年。すでにベテランの領域にいると見て間違いなし。

 実力と実績は王国領主の剣指南役として仕官するには十分!

  

 されど世の中はなかなか夢どおりに上手く回らないもの。

 人間支配のこの大陸では少数派の獣人族へのあたりは強い。

 大陸統一期にコボルト族がダークエルフやオーガたちとともに魔皇帝側についた経緯もあって、迷信深い連中からの差別的な視線を受ける業からは逃れられぬ始末。


 六百年の間に魔族との縁を断ち切って人間との共生を選び、ある程度の市民権を得、魔王側についた亜人の別称【妖魔】のレッテルから解放されつつある現在においてもコボルト族はリザード族とともに蛮族扱い。同じ獣人でも外見が人に近い猫族とは社会的な扱いが天地の差。


 悲しいかな同じ人間同士でも仕官がままならぬ現状、元妖魔の異種族にそのような美味しい就職口など与えられるわけもなく、拙者はいまも流浪人として愛する刀をオトモに諸国漫遊の武者修行中。


 血で血を洗った大戦は終わり天下は太平。

 大陸の東西南北を放浪し、見聞を広め、路銀を貯め続けること七年。

 忠誠に足る主君に恵まれず、仕官も叶わず、さりとて故国に帰って鉱夫に戻る気も無く、それならばいよいよ財を投じて海に出て、噂に聞くサムライの起源にして本国『ひんがしのワ国』へ腕試しに行くべきだと心に決め、いざゆかんとしたそのとき……


 コクロウ一生の不覚でござった。

 フォートリアの酒場で慣れぬマタタビ酒に溺れての乱痴気騒ぎで醜態を晒し、血の気の多い連中との乱闘で酒場を破壊し、賠償金と酒代で路銀を使い果たした上に番所のみなさまによって御用になろうとは。


 幸いにして信用のあるBランク以上の冒険者ということで投獄は免れたものの、壊した酒場の弁償と渡航のための旅費を稼ぐべく、恥ずかしながらこのコクロウ、街の治安維持を担当するフォートリア根の院の保護観察の元で慈善活動の真っ最中。


 無法者の用心棒に身を落とすよりはマシとはいえ、大陸統一期からの宿縁である猫族の下で丁稚奉公とはなんとも情けない限り。早々にノルマを達成して一日でも早く東国行きの船へ直行したい次第。


 もっともこのたびの一件で数年ぶりに懐かしい戦友に出会えたり、戦中のような魔物あやかし相手の討伐クエストを受けられる機会に恵まれたりと、決して悪いことだらけではなかったのは救いであった。これで飯が美味ければ問題はなかったのでござるが。


 七年前に共に鬼城王討伐を行った盟友『地竜騎士ガッサー』。

 かの鉄人とかようなところで再会するとは、人の生はまこと数奇にござる。


「立ち入り禁止区域への不法侵入に国境侵害。潜入捜査で密猟団の一味に加わっての不法行為の片棒担ぎ。さらには自然保護区域で地形が変わるほどの破壊行為。ヘタすりゃ終身刑でもおかしくないフルコースだ。司法取引で期間限定のエージェントの仕事を請け負えば不問にするというなら不本意でも受けるしかあるまい?」


「そのような鞍替え、よく地竜神殿側が許したでござるな」


「ああ、聖女も自首してきた俺を政治カードに使おうとしていたらしいんだが、向こうが『うちにはガッサーなどという神殿騎士はいない』の一点張りでな。まさに願ったり叶ったりの厄介払いでトカゲの尻尾切りよ」


「救えない話でござるな」


「なに、深刻さは軽微よ。地竜神の旦那も『しばらくヒマをやるから森竜神の庭で適当に暴れてきな』って軽い言い回しで神託よこしてきやがったからな。長期休暇がてらのバイトと思ってヤツらとのんびりやるさ」


「ヤツら?」 

 

「俺が【大樹の聖女】に押し付けられた仕事の話さ。俺がお前を今回のクエストの探索者候補に上がるよう推挙したのもそれ繋がりだ。どうだ? この探索クエストを受けてみる気はないか?」


「迷いの森に発生した謎のダンジョンの第四次調査でござるか」


 フォートリアの国に身を置いて七日。

 この謎のダンジョンのウワサは幾度か酒場で耳にしてる。

 曰く魔王の復活。曰く迷いの森の迷宮化。曰く廃城に明かりが灯った。

 総じてみなが大陸統一期よりもはるか以前、聖皇暦よりも前、紀元前400年もの昔に大陸を騒がせた迷魔王ミノスが現代に復活したと世迷言を口にする。


 七大魔王が滅んでまだ七年。

 人間界も魔界も天界も大戦で負った傷が癒えきっていないこの時期。

 このような短いスパンで魔王の地上侵略がまた行われるのかと疑問に思う。


 されど停止していた魔王の遺跡が再稼動を始めているのは事実。

 その調査に出向いた第一次探索隊が持ち帰った情報をもとに、10日前に第二次探索隊が派遣され、その翌週に第三次探索隊が派遣されたが、その第三次探索隊はボロボロの半壊状態でギルドに帰還してきたと聞く。


「ウワサのさらにまた聞きから仕入れた話ゆえ、多少の尾ひれや眉唾物の情報も混じっているが、なにやらそのダンジョン、Cランクの冒険者では手に負えない怪異が跋扈しているらしいでござるな」


「指定されたルートどおりに調査してれば痛い目あわずに済んだ話だ。どうやら奴等は目的を達成したあとも出口に向かわず、欲をかいて脇道の未調査警戒地域に逸れたらしくてな。無謀にも下層にも挑戦して、そこで現れた謎のモンスターにコテンパンだったらしい」


「謎の……で、ござるか」


「探索中に遠くで黒い人影を見かけた。下層に下りたらその黒い影とバッタリでくわして襲われた。気がついたら吹っ飛ばされて壊滅してた──だそうだ」


「その魔物あやかしに手も足も出なかったパーティーのレベルは?」


「平均25レベルでグラップラー・プリーストの基本職に、ソードマスターとハイウイザードの上級職を連れた4人パーティー。構成はいたって合理的な編成で、Cランカーとしては中位の連中だ」


「それで第四次探索隊はBランクまたはAランク冒険者募集となったと」


「そういうことだ。Bランクのほうは定員数に達したんだが、さすがにAランクともなると求人出したら募集殺到とはいかなくてな。七年前の大戦でBランク以上だった連中は大半が仕官や自営業で冒険者を引退。さすがに引退者から引っ張り出すってワケにはいくまいよ」


「同じAランカーのお主は?」


「探索予定期間に、どうしても外せない用事があってな」


 ……………………。


「……報酬は?」


「持ち帰ってきた情報次第になるが、基本報酬は王国金貨5枚。つまり一人あたり50万ベリアだな。もし謎の黒い影の正体を掴んで捕獲または討伐ができそうなら、最低でも白金貨、つまり一人あたり最低でも1000万ベリアが成功報酬として支払われる予定だ」


「推定モンスターレベル50相当……雑魚魔王を想定した値段とは法外な」


「言い換えれば正体不明のナニカは、それくらい危険な存在ってことになる。場合によっては東国行きの船賃どころか大型船が買える報酬だ」


 しばしの間。


「受けてみるか?」


「断る理由がないでござるな」


「お前ならそう言うと思っていた」


 剣に生き戦場で刃を磨くサムライなれば、ツワモノと死合えることは本懐。

 獣の闘争本能が、武士の魂に隠れた野生が、戦場に身を投じろと吼える。

 その魔物あやかしのもの、是非とも拝見し、願わくば刃を交わしたい。


 拙者をサムライの道に誘ってくれた御師匠殿。

 終戦と同時にひんがしの和国に戻られた御師匠殿。

 オワリに戻られヤギュウの剣を研鑽されているであろう御師匠殿。

 あなたはこの天下泰平は百年続き、やがてサムライは無用になると申されましたが、まだまだこの大陸は戦乱の残り火が立ち消えそうにありませぬ。


「ところでガッサーどの」


「なんだ?」


「その赤い帽子と白いシャツの珍奇な格好はなんでござるか?」


「知り合いが自分たちと手を組む前報酬で広島カープと日ハム戦の日本シリーズ観戦チケットをくれてな。これから故郷に日帰りで戻って広島で第一戦の観戦だ。25年ぶりの日本シリーズ参戦、たとえ四肢をもがれようとヨメを質に入れてでも(以下略)」


「……言葉の意味は分からないが、ハイなのは分かったでござる」


 拙者、こんな浮かれた盟友を見るのは初めてお目にかかる。

Q・コボルトっていつから犬面になったのか。

A・だいたいFC版のWIZのせい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ