in or to a backstage area of a theater ~運営側視点2~
さがれ、ブランド!
いくぞ!ユニータ!
水魔法でかためないと
打撃は入らないぞ!
【黒木勇斗語録・FF外伝 光の四戦士】
「なんだ。初めてのお客さんってのはマウスリバー探検隊のことだったのか」
倉庫での薬草詰めを終えてマスタールームに戻ってきたおにぎりは、大型モニターに映る第一次探索隊の綿々の顔を見るなりそう言った。
「知り合い?」
「ああ、たしかリップルと同郷だったかな。訓練教官のバイトしてたニ年前にいきなり伝説の勇者になりたいとか言って訓練場の門を叩いてきた酔狂なヤツでよ、熱意だけはいっぱしだったんで俺が直々に稽古の相手してやったんでよく憶えてる」
しみじみと懐かしむようにおにぎり。
「おにぎりがそこまで気にかけるって、あのマウスってかなりの逸材なの?」
「いや、ぜんぜん」
即答ですか。
「厳しい言いかたになるが、アイツは勇者というヒーロー幻想に取り付かれて才能もないのに勇者になった典型的なクチだよ。前衛の才能は凡庸だ。適正的にはレンジャーとか探検家とか、そういう支援援護タイプのクラスに向いていると思ってるんだが、こればっかは本人の希望だから強制はできねぇな」
ああ、そうだね。
おにぎりも出会った当初は向いてないの分かってて勇者を目指してたもんね。
結果的に自分の才覚を一番活かせる戦士クラスの脳筋特化型に落ち着いて大成したけど、そういう夢破れた妥協から伸し上がってきた経緯があるだけに説得力がある。
「ステータス的にも非力で向いてないし、そもそも勇者なんて儲からないから辞めろってさんざん忠告したんだがなぁ……あいつ、転職もせずまだ勇者にこだわってたのか」
「身に染みるお言葉で……」
「才能のあるユートですらコレなんだ。才能ないやつは勇者になったってダメさ。同期で入ってきた……ああ、いや、これは聞かなかったことにしてくれ」
ん? なんか口ごもって誤魔化したぞ。なにを言いかけた?
「でも、才能がないない言うわりにけっこうやってるわよ。この村勇者」
エストの言うとおり、この第一次探索隊はそこそこやれている。
彼らは想定よりもハヤイペースでダンジョンを攻略している。
第二、第三と送り込んだモンスターたちもことごとくワンターン撃退。
「そりゃあそうさ。このメンツは全員、おれが訓練場で叩いて叩いて潰して伸ばしてまた叩いて鍛えたガキどもだからな。持ち味を生かせる一点特化で尖りに尖るよう育成したんだ」
「だからこの鉄板ぶりか」
「ああ、依頼人は冒険者に効率性と確実性を求めている。見るからに信用できそう。そつなく仕事をこなせそう。そういったイメージってのは大事さ。でなきゃこの業界で一年以上やってけねぇよ」
「さらっと怖いことを」
「ほっといても仕事にありつけた戦時中と違って、今はそういう時代なんだよ。」
見た目にもいかにも正統派っぽい少年勇者。
安心と信頼の火力が見込める火属性の魔法使い。
頑丈かつ信仰心厚く、前衛へのスイッチも可能なドワーフの僧侶。
持ち前の器用さに加えて回避オバケと名高いリトルフットの盗賊。
たしかにこれなら依頼人も仕事を任せられる謎の安定感がある。
このパーティーは鉄板構成も強みだけど、連携攻撃がとにかく上手い。
時代が時代なら後年に雑魚魔王くらい攻略できたんじゃないだろうか。
「なかなかいい連携っぷりじゃあねぇか。商隊護衛とかの安い仕事ばかりやってたにしては上出来な成長だな。ここで存分に鍛えたら将来有望株になるぜ」
「それもボクの狙いだからね」
魔族という敵が激減したこの平和な時代。冒険者は冒険心をどんどん失っている。
天下泰平の時代はロマンの退化を招く。七年も放置すれば剣だって容易く錆びる。
このままこんな時代が続けば冒険者の質の低下は避けられない。
穏健派が主流派になった魔界だっていつまでもおとなしくしているわけがない。
前の大戦のように地上に害意を持つ魔王が新たに複数誕生する可能性は常にある。
皮肉な話だけど、七大魔王がやってくる前の大陸は東西内戦状態だったらしい。
魔族という人類共通の敵がいたからこそ大陸の国々はひとつになれた。
もし魔族のいない時代がこれからも続いて、再び人間同士の争いが勃発し、国家間が疲弊した間隙を突いて魔王が地上侵略を開始したら?
いざというときが訪れたのに魔族退治のエキスパートである冒険者の技術が失伝していて、質も量も退化しきっていたとしたら?
そこまでいくと大げさな話になるけど、ボクはすっかりヒマになってしまった冒険者に舞台と悪役を与えたいと思った。だからこの企画に本気で取り組んでる。
ボクたちがヒールになることで冒険者の心と仕事が満たされる。
ステキなことじゃないか。たとえそれが茶番であったとしてもだ。
世界を救った勇者が次回作で悪役になる。月並みなパターンだけど燃えるよね。
べ、べつに実家に出戻りさせられてブラック企業に就職させれたくないから必死ってわけじゃ……あるんだからね!
「ミルちゃん、宝箱のポップおねがいします」
「あ、はいっ」
エストがモンスター第三陣の壊滅にあわせて宝箱出現の指示を送る。
これも次からは一定確率で出現するオートポップにする予定だけど、今回は宝箱の出現もマニュアルでの操作にしている。
ちゃんと倉庫から転送されるかの動作確認をしなくちゃいけないからね。
手間的にはモンスターを倒すと消滅と同時に素材をドロップする手法のほうが楽なんだろうけど、やっぱ宝箱出現のほうが沸き立つロマンがあるんですよ。
「それにしてもタマよ、ダンジョン初心者に毒針だの毒ガスだの仕掛けた宝箱とか罠がえげつすぎやしないか? あの僧侶は治癒系が不得意だから場合によっちゃ詰むぞ」
「おい、そこの山猫」
またそういうエグいことを……
きついんだぞー。ダンジョンの中頃に全員が治癒手段もないのにトラップで毒をくらって、頑張ってHPを削りながら町に戻ろうとするも、道なかばで野垂れ死にってゲームでも精神的にくるんだぞー。
地下一階なのに初心者パーティーにガス爆弾の洗礼。
シロウトにとてもとても優しくないWIZのトラウマが蘇ります。
「小人族は手先が器用だから平気だって。レベル10の平均的な盗賊が安定して開錠できる程度の難易度に調整してあるから。しくっても中身に毒消し入ってるし」
わぁ、とてもチュートリアル。
「で、中身のほうもとことん薬草三昧だ。昔の俺らみたいに薬草モシャモシャしながらモンスター戦うっていうヘルシー戦法が捗るぜ」
それ、ヘルシーっつうか、単にパーティー唯一の僧侶が回復魔法苦手で薬草たんまり抱えて薬漬け戦法に頼るしかなかっただけなんですががが。
普通、物語終盤まで【やくそう×99】を維持してるパーティーっていないよね。
いまにして思うとなんの縛りプレイなんだってんだっていう……
「いやはや、こういう現地で入手即消費させられるアイテムって戦後に抱えた薬草の在庫処分にうってつけだよね」
「ほんとにそうなんだよな。笑えないレベルで」
「うんうん、フォートリア特産の薬草関連が戦後に需要激減して在庫があまるあまる。健康ブームとか薬膳ブームとか情報操作してやりくりしてきたけど、やっぱ大量消費させるなら冒険に限るよ」
「……やたら毒の沼とかのダメージ床を道中に設置したり、いやらしいバッドステータス持ちのモンスター配備にこだわった理由はソレか」
フォートリアの酒場のメニューにやたらハーブ料理が多かったのも納得だよ。
おまえは冒険者をどんだけ薬草漬けにしたいんだと。
「薬草の価値暴落は売り上げの主軸にしてた道具屋業界でも深刻な問題だったからな」
「大陸でも特に質の高いフォートリアブランドですら酷かったもん。地方だともうね……戦後になって冒険者需要を当て込んで麦畑潰してハーブ農園にした業者が何人も首吊った話とかよく聞いたよ」
「海魔王の撤退で航路が回復したせいで西方由来の香辛料が大暴落した件もヤバかったよな。戦時中は上級胡椒が金と同じ重さの値で取引されてたってのに、いまじゃもう……」
「やめようその話は。前に黒胡椒相場で国庫傾かせたアタシに効く」
「うわぁ」
そんな深刻な話は聞きたくなかった。
ボクの知らない七年間に冒険者間で供給されていたアイテムにもいろいろあったのね。
つっこみたいことは山とあるけど、チュートリアルの報酬がショボいのはしょうがない。
雑魚相手にあまり美味しいアイテムをあげるのは運営的にもよろしくない。
いいアイテムは相応の苦難の果てに手に入ってこそだ。
第一次探索隊の面々は、モンスターを倒すとアイテム入りの宝箱をドロップするという定番の仕様に慣れていないのか、初見のときは警戒するあまりポップ時間切れで自動消滅させてしまうという愚をおかした。
さすがに二度目になるとダンジョンのシステムが分かってきたらしく、おっかなびっくりながら宝箱の開錠に挑戦し始めるようになった。
やはりリトルフットの盗賊は出際がいい。タマの難易度調整も楽すぎず難しすぎずの絶妙ラインらしく、失敗したらえらいことになる毒ガス罠をギリギリのところで解除成功する。
まぁ、そんな苦労の割りに中身はお薬の詰め合わせなんですけどね。
ほら、みなさんすっごいビミョーな顔してる。期待させてごめんね。
それからしばらくは第一次探索隊がマップ作りを進めている様子を傍観しつつシステム面の調整を行うことになった。いまのところ大きな不具合こそ無いが、微妙な使いにくさが感じられるところはどんどん修正していきたいからだ。
メニューパネルのコンフィング変更とか、コマンドショートカット設定とか。
ここでミルちゃんだけではメインシステムの管理が大変だということが分かり、管理人として雇われたボクとエストの権限の拡大だけでなく、アドバイザーのタマとおにぎりにもダンジョンマスター権限の一部委任が行われた。
具体的に言えば城内に限って彼女が使っている端末の使用が許可された形になる。各自それぞれコマンドワードを唱えればいつでもどこでもメニュー画面を開ける仕組みだ。
もちろん使用権限は限定的で、端末で見られるのはダンジョンの状況確認のみ。
あと操作可能なのは簡易的なトラップ設置やモンスター配備といった部分だ。
「おおっ、これはすごい。トラップ項目がこんなに! しかも連携でコンボさせると獲得LPにボーナス!? いいねいいねー。経営が軌道に乗ったらトラップ部屋を作って試してみよ」
「このモンスター生成システムってのすげぇ。LPを使ってレベル強化やカラーリング変更、改造による特性付与とかいろいろあるな。枠を使って状況に応じた行動命令とかも設定できるのか。これは奥が深いな。究めたら『ぼくのかんがえたさいきょうのもんすたー』が造れそうだ」
そんなんでもTRPGやツクール未経験のタマやおにぎりには新鮮な経験。
さっそく説明欄を読みふけりながら試作品の構想に取り掛かかる二人。
なんか与えちゃいけないものをおっきな子供にあげてしまった気がする。
「ミルちゃん、いいの?」
「はい。お二人のほうが私よりもモンスター生成や罠の開発に秀でてますから。その、自分は学校でも工作とかが不得意で……迷宮を造るのは上手いけど設備は既製品ばかり使っててパッとしないって友人にもよく言われました。だから良いアイデアはどんどん外から取り入れていこうかなって」
「職人気質の多いダンジョンマスターにしては変わってるね」
「えへへ、よく言われます」
普通、ゲームでもラノベでもダンジョンマスターはワンマン経営が基本だ。
いくら自分よりもダンジョン経験や造詣の深い協力者とはいえ、こうもホイホイと人間にマスター権限の一部を委託していいものかと思うんだが、そこがミルちゃんの魔王らしからぬお人よしぶりというかなんというか。
「ニートさん、ぼちぼちパーティーがボス部屋に突入しますよ」
「了解。じゃあ牛頭のデーモンの召喚を開始だ。盛大にもてなしてやろう」
こうしてボクたちの運営初日は問題も少なく最終調整を迎えた。
結果としてはパーティーの一人も倒せない接待プレイだったため、クリアさせたあとに算出される獲得LPは微小で総合的には赤字。
一人か二人を戦闘不能にして、もうちょっと危機的状況にするなりすれば獲得LPも増えるとのミルちゃんの談。
今回は冒険者も魔王側も互いにお試しのテストプレイなので、種まき期間内は赤字覚悟の先行投資と割り切ろう。経営が軌道に乗るまでは赤字経営なのは何処も同だとおにぎりも言ってるし、しかたのないことなんだろう。
ゴールにあったオブジェクト(実は千年前のホンモノ石碑)を見て彼らも迷宮王の復活を察してくれたようだし、あとは帰還した彼らの報告で冒険者サイドがどう動くかだ。
撒いた種が第二次依頼開始までに芽吹いてくれるといいんだけど。
「それでニートさん、数日後にやる第二次探索隊のプランは決まってる? もうリップルに依頼書提出しちゃいましたけど」
「冒険者のランク条件も同じにしたし、探索可能エリアの拡張は行うけど、とりあえずゴールを変える以外は今回とほとんど同じかなー」
ただし……
「次回はエリアボスとは違うアンノウンを設置するつもりだけど」
「あんのうん……ですか?」
聞き慣れない単語にミルちゃんがきょとんとする。
「いいボスキャラってのは物語の序盤からチラ見せ登場して伏線を張っておくものさ。それが主人公がわから見れば完全に正体不明な未知の強敵ならなお効果的だ」
「ああ、なるほどね。つまりいよいよ」
「その通りだエスト。次のテストプレイにはボクが出る」
4/2 本文を大幅加筆しました。