Please keep up that surveillance ~運営側視点1~
こんなげーむにまじになっちゃってどうするの
【黒木勇斗語録・たけしの挑戦状 エンディング】
ボクらのダンジョン経営もいよいよ本格的なスタートを切った。
カメラを通してマスタールームの大型モニターに映し出される冒険者の面々。
彼らはこれより転送ゲートをくぐってチュートリアルダンジョンに入る。
資料によるとパーティー名『マウスリバー探検隊』は新米を抜けたばかりの若手。
つまり八年前の大戦を経験していない氷河期時代のデビュー組だ。
経歴も魔物退治の仕事経験などほとんどなく、これまでやれたことはキャラバン護衛や素材集めといった安い仕事ばかり。
実戦経験もないことはないようだが、相手はせいぜい野盗かゴブリン。
第一次探索の仕事を請け負った彼らにとって、正真正銘モノホンの魔王が作り出したダンジョンへの挑戦はまさに初体験。
コレは彼らにとって初めて冒険者らしい大冒険となるだろう。
それならなおのこと、彼らにはきっちり冒険らしい冒険を味わってもらわねば。
「タマ、ほんとに大丈夫だよね?」
「なにが?」
「内緒で初見殺しの即死トラップとか仕掛けてないよな?」
「たいじょうぶだって。基本ルートには仕掛けてないから♪」
それはつまりヘタな好奇心で指定ルートを外れたらえらいことになるってことね。
「第一次探索隊全滅ってオチだけはカンベンしてよ。全滅したら瀕死状態で強制転送措置があるっていっても、セーフティーだって完璧じゃないし、二層以降ならともかく、スタートの第一層から若手が敗走報告して初心者に優しくないガチだってウワサになったら、ギルド依頼の難易度設定ハードルが上がって集客に影響出るんだから」
「そこは安心と信頼のタマちゃん設計。あそこは冒険者にダンジョンとはなにかを教えるための訓練用ダンジョン。何も考えなければちゃんと指定ルートに沿って進むようには作ってあるから。無事にクリアしたらキミも立派なダンジョントラベラーってね」
ほんとかよ。
いや、レンジャー部隊の訓練教官もやってるタマだからソコは信頼してるけど。
「なんていうのかなー。ユートくんの考え方は異質なんだよね。ふつーはダンジョンマスターっていったら自陣営に入ってくる侵入者の排除が第一目的であって、塩加減考えながら走破させるってありえないはずなんだけど」
「これでもいちおうテーマパークだからね。お客様満足度を最優先」
砦に入ってきた敵を排除するのがタワーディフェンスの基本理念。
それはそれで正しい。タマの意見ももっともだ。
通常、本丸に入られてボスを討たれればダンジョンマスターはソコで終わりだ。
だからダンジョンマスターはダンジョン内に罠や魔物を配備して防衛線を張る。
こちらも最終ダンジョンに関しては楽にクリアさせないと流れでいくつもりだ。
だけど、今回は違う。
この第一次探索隊の依頼は客寄せパンダの意味合いがある。
彼らにはそこそこの被害とそこそこの報酬を抱いて帰還してもらわないといけない。
このダンジョンが迷宮王ゆかりのものと察してもらい、浅層のいまのところは若手でもクリアできる範囲であることを体感させつつ、最終的に迷宮王復活の示唆を伝える。
いきなりドーンとギルドに魔王復活発表では興醒めなので大々的な発表はできないし、カツカツ経営の現状で広報にLPを使用したくないから、なるべくだけ情報を小出しにしながら冒険者間の口コミで話題を広げる。
日本のネットゲーム界隈でよくある手法だ。
なんの後ろ盾もないオリジナル作品でそれをやっても効果はパッとしないだろうけど、このダンジョンは知る人ぞ知る迷宮王ダンジョンの後継作品だ。
言い方は悪いけど、先代の魔王ミノスの威光と遺産は全力で利用させてもらう。
ダンジョン経営の成功は冒険者の集客力が大前提。
安易にオタカラを与えて無傷で還してもダメ。さりとて全滅させるのは論外。
彼らをどう苦労させつつ楽しませるかが、ボクらの腕のみせどころだ。
「じゃ、ミルちゃんも、ぼちぼち第一陣の魔物の配備をお願い」
「はいっ」
ボクの合図に合わせてミルちゃんが手元に端末を具現化させて手動操作を開始。
立体映像として現れる本を模したタッチバネル式の平面映像型モニター。
迷宮管理者はこれを使ってダンジョン管理のなにからなにまでを行うのだが、これがまたSFちっくでかっこいいんだ。
「配置するのは最下位ランクのモンスターでいいんでしょうか?」
「うん。手始めは新米冒険者向けの単純なやつで」
続けてタマが「森っぽいモンスター縛りでよろ」とミルちゃんに釘を刺す。
そこんところは設計者のこだわりか。世界観を崩さない種族縛りの気持ちは分かる。
「そっ、それでは大鼠の召喚と配備をおこないますね」
端末をポンポンと操作して、空中にモンスター召喚のページを表示する。
項目には種族ごとのモンスターのデーターが箇条書きで記されていた。
ミルちゃんはモンスターリストの表示方法をレベル順に切り替え、LPコストがかからない低レベルモンスターがリストの一番上にくるように調整する。
「ユートさま、モンスターは徘徊型とシンボル型のどちらにしましょう?」
「設置ルートから外れられると困るからシンボル型で」
徘徊型とシンボル型というのはモンスターの設置方法のことである。
徘徊型は一定の行動範囲を予め指定して巡回させるタイプで、主にダンジョン内の警備用モンスターに使われる手法らしい。
これは管理も楽で長期間に渡ってモンスターをダンジョン内に潜伏させられる利点があるが、持続性の高さからLPコストがちょっとお高い。
一方でシンボル型というのはモンスターの出現場所を手動または予約で指定しておき、敵が不可視のシンボル範囲に触れたと同時に発動。設定しておいたユニットがシンボルから召喚されて侵入者と戦う手法だ。
こちらは侵入者の行動にあわせてポンポンと逐次投入できるし、生死に関係なく戦闘が終わると自動消滅するのでLPコストも安い。あと、とてもRPGっぽい。
「えっと、冒険者さんの平均レベルは12ぐらいでしたね」
「構成は鉄板だから2~3レベル複数か5レベル単体くらいでおねがい」
若手が勝てるラインはギルド推奨レベル3~5あたりのモンスターまでとされている。
2レベルが相手なら1パーティーで襲い掛かってきても被害微小で勝利可能。
単体のボスモンスターを相手にするなら5~7レベルまでが理想らしい。
モンスターレベルが1なら冒険者レベル3がソロでなんとか倒せるという範囲だ。
ギルド依頼の難易度設定はほぼモンスターレベルに準拠する。
それより上に行くと一気に難易度がハネ上がり、事故れば全滅の可能性もある。
第一次探索隊はレベルこそ若手下位のランクながら構成そのものはしっかりしているから、基準よりもう2レベルくらい上のモンスターをけしかけてもいいかもしれない。
そこまで検索を絞って出てくるモンスター種族は七種類。
そっから森っぽい種族縛りを入れると、自然動物系のモンスターが一挙に並ぶ。
誰がこのシステムを組み上げたのかはしらないが、かなりよく出来ている。
「タマさん、大鼠、大蝙蝠、魔犬あたりでいっていいですか?」
「OK♪ んー、できたら中盤からは麻痺持ち毒持ちのモンスターをお願い」
「分かりました。でしたら蛇系と昆虫系を召喚しておきます」
「よろしくー」
タマちゃんがLPを使用してモンスターの召喚とユニット配備を行う。
ほどなくして第一次探索隊の前に、召喚陣を介して出現する大鼠三体。
もんすたーさぷらいずゆぅ! これが俗に言うエンカウントだ。
配置したユニットの位置を把握できるこちらがわから見るとシンボルエンカウントなんだけど、むこうからすれば完全にランダムエンカウント。
感覚の鋭いリトルフット族の盗賊がいるおかげか不意打ちにはならなかったが、これまでにないモンスターの出現の仕方に彼らは大いに戸惑ったようだ。
それでもきゃんと冷静に迅速な戦闘態勢に入るあたり彼らもプロだな。
「へー、七年前の戦いのとき、魔王の砦攻略中にいきなりパッとモンスターが出現することがあったけど、こういう仕掛けになってたんだ」
タマはネコらしい興味津々の目で、モンスターとのバトルを大慌てで開始した冒険者一向を大型モニターごしに眺める。
戦闘のほうは特に危険も無くかなりあっさりめに終了した。
手始めの大鼠三体ならこんなものだろう。
「モンスター召喚システムには不具合はないですね」
ミルちゃんが初のモンスター配備を終えてホッとしながら呟いた。
こっちはこっちで運営システムのデバックも兼ねているのでタイヘンなのです。
このまま致命的なバグが出ないことを切に願う。
「モンスターエンカウント関連は良好と。じゃあ次は……」
言いかけたところで、廊下から盟友のやれやれといった野太い声が飛んでくる。
「おーい、ユート。宝箱の中身詰め終わったぞー」
「了解」
じゃあ次は同じようにモンスターをけしかけつつ、アイテドロップの仕様確認だ。
冒険の舞台裏もタイヘンなのです。