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They explored the forest ~マウスリバー探索隊・前編~

託されたものを背負い、見事、成しとげたな!

集会所で待っているぞ!


【黒木勇斗語録・モンスターハンター4G 団長】

 聖王暦608年に奇跡を見た!!

 人跡未踏の密林に迷宮王の遺跡は1000年前の姿そのままに実在した!!


「報告書のタイトルはこんなカンジでどうかな?」


「やめろ」

「かなり真面目にやめて」

「胡散臭さが大爆発なんてもんじゃないな」


「雰囲気的に最高だと思うんだけどなぁ……」


 相方たちの非情な否定に僕の探検ムードは早くも壁にブチ当たった。


「じゃあ、『驚異! 幻の迷宮はフォートリア奥地密林に実在した!』は?」


「まず探検隊から離れろ」

「うちらは探検隊じゃなくて探索隊でしょ?」

「もうお前、勇者やめて探検家にクラスチェンジしたらどうだ?」


「ざんねん!!わたしの たんけんは これで おわってしまった!!」


「終わらすな」

「それ以前に始まってもいません」

「アホやってないで探索の最終打ち合わせするぞマウス」


 僕の名前はマウスリバー。通称『はやてのマウス』。

 名前からよく盗賊クラスと勘違いされるけど、これでも一応【勇者】だ。

 といっても勇者クラスの中でも下位にあたる『村勇者』なんだけどね。


 今、僕たちのパーティー『マウスリバー探検隊』は南方の密林の中にいる。

 大陸南部にある森林国家フォートリア。その密林地帯の内部調査のためだ。

 王都にあるリップルの酒場でたまたま見つけたこのクエスト。

 7パーティーの競争の中で抽選して受注当選できたのは本当に幸運だった。

 たぶんオーナーのリップルさんと同郷の身ってのが大きかったんだろう。


「じゃあ打ち合わせの最終確認だ。繰り返すけど、僕たちが受けたクエストはフォートリアの密林地帯にある迷いの森の一角の調査だ。クエスト難易度は下位ランクだけど、リップルさんの話だと地域によってはBランク相当の危険な場所もありうるらしい」


 クエスト達成条件は探索対象地区の調査の一定以上の有益な情報提供。

 内部の報告、サンプル採取、可能でなら出現モンスターのデータもほしいとの事。

 この第一次探索隊の推奨ランクはD。

 Dランクになりたての僕たちが腕を磨くにはちょうどいいクエストといえる。

 これは新人にはキツいけど若手冒険者には達成可能な範囲のクエストだ。


「探索は深部『浅』までで可ってあるし、よほどヘンなトコいかなきゃ平気だろ。妖魔や山賊が仕掛けたトラップのほうはおれっちに任せな」


 小人族リトルフットの盗賊、チックピックが言った。


「クエストの資料には毒対策は多めにってあるが、毒消しの準備は万端だろうね? いっとくけどアタイは火竜神信徒だ。バッドステータス回復の治癒魔法はあんま得意じゃないからね」


 探索前に重要な忠告をしたのはドワーフの僧侶のガンナだ。

 ドワーフといえば山神の地竜神派が多い印象だけど、彼女は竈神の火竜神派だった。

 

「そこは安心して。毒消し草・毒消しの苔玉・毒消しの霊薬と一揃えしておいたから。よほどの猛毒以外は対処できるわ。なんか露天で大安売りしてたからついつい多めに買っちゃったけど、結果的には正解だったかもね」


 最後に荷物の確認を行いながら言ったのは魔法使いのサラ。

 彼女は人間で僕と同じ村の出身だ。リップルさんの従妹で幼馴染でもある。


「このクエスト、先日に新米冒険者による先遣隊がチラっと下見した程度で、内部の情報はほとんどない未知の領域だ。迷いの森の一角だけあって油断すれば遭難するだろうし、モンスターの急襲による全滅の危険も高い。最奥にはボスエリアもあるらしい。気張っていくよ」


「聞いてるわ。なんでも最奥の広間でトロールが出現したんだって?」


「やれてゴブリン退治がいいとこの新人には手痛い洗礼だね。ウチらでもきついトロールなんかを相手にして死人が出なかったのは幸いさね」


「こっちもようやく駆け出しから若手になったばかりの身だからな。時期的にも慢心が祟って下位クエストだからと背伸びしてキツめの選んで壊滅しがちなヤバイ頃だ。おれっちも警戒するが、みんなも慎重さは怠るなよ」


 僕たちは大口クエスト達成がほとんどないレベル10~15の冒険者。

 冒険者ランクもようやく最近Dランクの昇格試験に合格したばかりの若手衆。

 彼の言うとおり、初心者が中堅になろうとして無理しがちな危険な時期だ。


「腕が鳴るね。このパーティーを結成して二年目。やっと本格的な冒険だよ」


「そうね。今までの仕事はクエストとは名ばかりのものばかりだったし」


 まったくだ。

 これまでこなしたクエストといえば採取クエストとか調達クエストとか、七年前の冒険者からしたらお遊びレベルのものばっかりだったもんな。


 最近発行されるクエストは野盗討伐だの隊商の護衛だのと御伽噺に出てくるような冒険とは程遠いものばかりで、しかも推奨ランクCなんていう駆け出しに優しくない御時勢。


 たまに降って湧いたようにやってくるゴブリン退治や魔獣討伐などの王道クエストは、報酬はたいしたことないのに、それはそれはもう仕事にあぶれた冒険者たちが餓鬼のように群がって物凄い競争率。


 勇者氷河期とか言われる時代だけあって、現実はとにかく冒険者に厳しい。

 だから、冒険者デビュー二年目になって『ようやく冒険者らしい冒険ができる』と、今日は自分だけでなくほかのメンツもテンションが高かった。

 

「でも不思議だね。この国のレンジャーは中堅冒険者顔負けの精鋭揃いなんだろ? こんな調査クエストなんて軍だけでどうにかできたんじゃないのかい?」


「なんでもレンジャーだけでは分からない視点もあるから、冒険者の広い視点で詳しく調査したいんだって。ギルドに報告するときは、ちゃんと探索しましたって証明に、先遣隊が発見した北部の石碑にこの粘土板を押し付けてこいってさ」


「粘土板の写しの提出がクエスト達成の最低条件ってことね」


「そういうことだね。じゃあ行くよ」


 僕たちはキャンプを畳んでギルドに指定されたルートを進む。


「このあたりのポイントに話に聞く謎のダンジョンがあるらしい」


 マップを開いて現在位置と目的場所を確認する。

 ダンジョンといっても定番の洞窟や遺跡のたぐいではないらしい。

 森のカタチをしていながら自然由来の森ではない人工的な密林って話だ。


「なにものかに造られたフィールド型の結界型ダンジョンだっけ?」


 チックがクエストの資料を読み返しながら言う。


「てことはやっぱりアレかい?」


 ガンナが視線を森の道から遠くにある巨大な一枚岩に移す。 


「ええ、アレに関係したものかもしれないわね」


 サラも同じく一枚岩を眺めながら心配そうに呟く。


「迷宮王ミノスのダンジョン……か」


 僕たちの視線は遠くの一枚岩の巨岩『ダイダロスロック』に釘付けになった。

 あの巨大な一枚岩の上には千年前に大陸南部を震撼させた魔王の居城があるという。

 もはや吟遊詩人の唄にすら語られることがなくなったラビリンスの魔宮伝説。


 その伝説の一端が、フォートリアの観光名所のひとつであるアレだ。

 迷宮王が去ってから千年。あの一枚岩の内部には巨大な迷宮と膨大なオタカラがあるといわれているのに、魔王の残した結界によるものかまったく調査が進んでいないらしい。


「っても、迷宮王ミノスってカビた英雄譚の書にひっそりと綴られる千年前の御伽噺だろ?  この迷いの森には調査されていない魔王の遺跡がゴロゴロあると聞いてるけど、ここで強引に関連付けるのは早計だぜ」


「いや、僕の勘が告げている。このクエストは間違いなく魔王に関連するものだ」


「マウスの勘はアテにならないからねぇ」


「事の真偽は実際に突入してみれば分かることよ」


 だよね。まずは指定されたルートからダンジョンに侵入してからだ。


「おっ、フォートリアのレンジャー部隊が残した目印があるぞ」


 チックが指差した先にはフォートリアの紋章が縫われた旗と簡易キャンプの跡。

 その先には遺跡の残骸と思われる苔むした石造りのゲートらしきものが。


「たぶんこれだ。このゲートを潜るとダンジョンに転送される仕組みなんだ」


「先遣隊の注意書きがあるね。この先にダンジョンあり。第一次探索隊は三又のルートで真ん中へ進むこと。左右は封印されて侵入不可だが、もし解放されていても未探索でランク未知数のためCランク以下の冒険者は決して近づかないことだってさ」


 怖いな。

 こういう注意書きがあるってことは本気で死の危険がある場所ということだ。

 ボクたちはまだ駆け出しから卒業したばかり。警告には素直に従おう。


「準備はいいね? じゃあ行くよ」

「「「応っ」」」


 深呼吸を数回して覚悟を決め、いざ突入っ!


 ズズズッとゲートに潜ったときに感じる不快な大気の粘度。

 僕たちは知っている。これは転移装置を使ったときに感じる空間移動の感触だ。

 つまりこの瞬間から、僕たちは知らない異界に転送されたということになる。


 鬼がでるか蛇がでるか。

 僕たちの探索はいま始まったばかり!


 

ブクマと評価が着々と増えております。

いつも見ていただけている常連さんも含め、ありがとうございます。

めざせランキング入り!

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