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Test implementation ~これがぼくらの迷宮運営~

 「よく来たなポリスノーツ。歓迎する。死ねッ!」


 【黒木勇斗語録・ポリスノーツ AP隊員】


「ミルちゃん、準備はOK?」

「はっ、はい」


「タマ、ちゃんとチュートリアルになるよう設定してくれた?」

「大丈夫だって。ここを抜けたら最低限の迷宮知識は身につくよ」


「エスト、第二次捜索隊の動きはどう?」

「入り口前でキャンプ中ですよ」


「おにぎり、前回に引き続き、宝箱の詰め役を頼む」

「そろそろ混ぜろよ」


 ここは迷魔王の城の最深部にある管制室。

 マスタールームとも呼ばれるこの部屋は、迷宮の管理の全般を行う城の心臓部だ。

 本来はダンジョンマスターであるミルちゃんが一人で操作管理する個室として設計されているためか、さすがに五人も入ると室内はキュウキュウ状態。LP貯めての管制室拡張が急がれる。


「エスト、邪眼族カメラの設置は完了した?」

「バッチリですよ。設置型を5カメ。上空から眺める飛行型を2カメ。パーティーを随時追う不可視型のライブカメラを1カメってとこ」


 ボクたち五名は迷姫王のダンジョンに挑まんとしている二組目の冒険者おきゃくさまの動きを大型モニターを通してガン見している。


 管制室というからには各所に放った邪眼族のモンスターを使って侵入者の行動を確認するのもお手の物なのだ。


「合計8カメ。前回の倍か。ちょっとやりすぎな気も」

「デバックはやりすぎなくらいがいいんです。それだけやっても見落とすものは見落としますし、漏れるとこは漏れますから」


「偵察機の邪眼族って戦闘力ないのにそこそこLPコスト高いんだけどなぁ」

「先行投資。バグ取りの予算ケチると本格始動のときに痛い目を見ますよ」


「あの、見ちゃうんですか?」

「見る。すごい見る。納期の都合とか予算の都合とかで出たとこ勝負のサービス開始したら、バグまみれが発覚して開始早々からのメンテ祭りとかもう最悪。それやらかしてサービスが一年ももたなかったオンラインゲームの事例がどれだけあることか」


 わぁ、リアルなお話で。

 でもMMOの専門用語で説明してもボク以外には通じないと思うんだ。

 このテの固有名詞とかって異邦人の自動翻訳機能でも翻訳しきれないらしいし。

 ほら、案の定、ミルちゃんの頭の上で【?】マークがグルグル飛び回ってる。


「つまりダンジョンの機能に不具合を遺したまま開園して初手で躓くと、本来集まるはずのお客さんを逃しちゃうんだよ。オープン早々から緊急工事でアトラクションの大半が何日も使えないことになったら印象悪いよね?」


「な、なるほど。なんとなく分かった気がします」


 ここで自分の造ったダンジョンに不具合なんてあるはずがないと悪い意味の職人気質なことを言わないあたり、ミルちゃんの人の良さと、ダンジョンマスターとしては不適格な自信の無さが伺える。


「バグまみれリリースしてもオンラインパッチを後出しすれば許される大手様と違って、うちは弱小なんだから、やれるうちにやれることはやっておくのがいいんです」


 さすが同人ゲーム開発経験者。念入りなことで。

 エストって同人活動でも拘るところは徹底してこだわるからなぁ。

 この陸地・上空・探索隊と角度それぞれに設置したカメラの量は、監視カメラ役の邪眼モンスターが存在に気付いた冒険者にいくつか破壊されることを見越してのものだろう。


「ユートさま、今回で二回目ですけど、すごくドキドキしますね」

「うん、初回ほどではないけど、すっごいドキドキするね」


 いやあ、二度目のテストプレイとはいえ緊張する緊張する。

 みんなで企画して作ったダンジョンに彼らがどんな反応を示すか緊張する。

 今回お招きしたパーティーは前回の新米組からワンランク上げた若手衆。

 なにもかもが新鮮な新人と違い、若手は経験を積んで知恵をつけている。


 つまり相手が程良く舌の肥えた連中となるので、子供だましは通じない。

 若手冒険者ならば、いくらかの遺跡や洞窟の探索経験もあるだろうから、

 生半なダンジョンにお迎えしたら、確実にクレームが山積みで襲ってくる。

 彼らの反応のいかんによってダンジョン運営の今後の指標も決まる。


「えっと、リップルからの情報だと」


 ボクは事前にリップルが送ってきた採用者のデータ資料をペラリと開く。


「彼女が派遣した探索隊は四名の1パーティー。勇者・盗賊・僧侶・魔法使いの構成。平均レベルは15。冒険者ランクはDで若手クラス。これで合ってる?」


 当たり前のことだけど、冒険者ギルドに登録することで正式なライセンスを得た冒険者は、名前・ステータス・クラス・スキル・レベル・これまでの冒険の履歴に到るまで、すべての情報が冒険者ギルドに掌握され管理されている。


 このダンジョン運営は冒険者ギルドとの提携企画ということで、参加する冒険者の情報は魔王側が求めれば可能な限りギルド側も提供するという話にしてある。

 機密漏えい? 守秘義務違反? 個人情報保護? ナニソレオイシイノ?

 ンな日本なみに法整備が整った法治国家が中世ファンタジーの世界にあってたまるか。


「合ってますよ。んー、これでもかってくらいベタベタな編成ですね」


 やや探索隊の構成に物足りなさそうなエスト。


「個人的にはもうちょっとこう、尖がった構成のほうが好みなんですけど」

「具体的には」


地図師マッパーとか探検家とか遊び人とか海賊とか、そういう不人気クラス」

「マッパーは分かる。探険家もまぁ分かる。けど密林探索に遊び人と海賊はない」


 オタクがそんなこと言って歪んだクラス編成にこだわるから、エストの導きに任せて仲間を集めたら魔王からも「なにこれ嘗めてんの?」呼ばわりされるくらいのイロモノパーティーになっちゃったんだよなぁ。


「テストプレイだから『ゆ・と・そ・ま』の鉄板がいいんだよ」

「ごめん。わたしは鉄板構成なら昨日みたいな『ゆ・せ・そ・ま』派」


 出たよリメイク前の旧体制派構成。この編成論はもはや宗教戦争の粋だ。


「さっきから『ゆせそま』とか『ゆとそま』とか何の話だよ?」

「四人パーティーでどんな基本クラス編成が合理的で効率的かって話」


 おにぎりの問いにボクは噛み砕いた内容で説明する。

 異世界人にドラクエⅢのFC版とSFC版の派閥抗争の話したって通じないし。


 勇者・盗賊・僧侶・魔法使いの構成。

 エストの言うとおり、鉄板中の鉄板すぎて特色と面白みに欠ける編成だ。

 まっ、これくらいバランス重視のほうが的確なデータも取れるだろう。


「ちなみに鉄板でないほうのエスト好みの編成は?」

「勇者・武闘家・僧侶・遊び人の『ゆ・ぶ・そ・あ』」


 ……尖ってるなぁ。


「で、どうするのユートくん。速攻で全滅させるなら誘導罠発動させるよ」

「いきなり全滅させてどうするよ……」


 こっちはこっちで自作したトラップの初御披露目ということもあって、さっきからワクワクテカテカでノリノリのタマ。


「だって昨日は即死トラップ禁止でストレスたまってるんだにゃ~」

「新米冒険者に毒ガス罠を用意しようとするお前の精神が怖いよ」


 見るからに殺意が高いよ殺意が。

 昨日の設置トラップだって加減してもかなり殺意ヤバかったぞ。

 これはダンジョンがうまく動くかのテストが大前提なんだってばよ。


「注意しておくけど、今回は探索隊にすみずみまでにダンジョン内を回ってもらって、適度に雑魚モンスターを狩ってもらい、適度に採取クエとかもやってもらい、適度に調査を進めてボス部屋に誘導して、ほどほどの達成感で帰ってもらう予定だから」


「んで、帰りに油断したところで適度にワナにはめて適度に全滅させると」

「しないから。それやったら第二次以降がビビってこなくなるから!」


 ダメだこの山猫。

 即死トラップでパーティーを壊滅させることしか考えてない。


「ぶー。ユートくんはユートくんでボス部屋で新人ども壊滅させたくせに」

「だって簡単にクリアされたらつまらないじゃないですか」


「ユート、基本は昨日の新人パーティーの流れと同じでいいんだよな?」

「うん。若手向けにエリアの拡張を施したけど、基本は昨日と同じでOK」


「ユートさま、探索隊のみなさんがダンジョン領域に侵入しました」

「おっ、向こうさんがついにダンジョンのゲートをくぐったな」


 いよいよだな。

 こちらとしてもダンジョン運営デビューして二回目となる本戦。

 今回の本題は冒険者を相手にどこまで上手く仕掛けを回せるかだ。


 そこそこ経験を積んだ冒険者を満足させられるダンジョンらしさ──

 これを何処まで演出できるかがボクたち運営側に架せられた使命だ。


「ミルちゃん。ダンジョン機能の手動設定マニュアル化は出来てる?」

「あっ、あっ、はいっ。今回はぜんぶ手動ですよね。がんばりますっ!」


「エスト、探索隊の捕捉は頼む」

「了解」


「タマは仕掛けの再確認」

「おーけー」


「おにぎりは隣にあるドロップ品の転送部屋で宝箱に薬草でも詰めてて」

「地味な仕事だなおい!」


 さぁ、熱烈に歓迎しましょうか。


「パーティーの時間だッ!」

この回はプロローグの翌日の話になります。

いよいよダンジョンものとして本格始動です。

これでもうタワーディフェンスしていないタイトル詐欺からは卒業だ!


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