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beta is allowed to have bugs ~β版下準備~

誰かが『英雄』になるのなら、誰もが『英雄』になれるはず


【黒木勇斗語録・ワイルドアームズ2 アシュレー】

 冒険者の拠点になる街の設計は一通り完了した。

 まず最初に設置完了したのはクエスト請負のギルド出張所と酒場の二点。

 宿泊所はなるべくだけフォートリアの宿屋連盟に金を回したいというタマの意向で設置せず、あくまでも冒険者が準備を行う拠点の範囲に止めた。


 武器防具屋もまだ置いていない。

 最初は露天でも賄える範囲の集客規模におちつくだろうとの考えからだ。

 小物系の道具類や携帯食料に飲料水。このあたりは屋台でも十分回せる。

 客入りの見込みも無いのに大掛かりにしてしくじるとMPが勿体無いしね。


 で、一番大事なダンジョンのほうはというと──


「まだ雛形の段階なんですけど、前に窯に入れたチュートリアルダンジョンがやっと完成しましたぁ~」


 つい数時間前にミルちゃんから最初のダンジョン完成の御報告。

 これでやっとスタートラインに立ったかんじだ。


「ここから罠の設置やモンスターの配置を行ってダンジョンらしくしていくんですけど……入門用のダンジョンですし、難易度のほうはどうしましょう?」


「内装はタマがノートに書きしたためておいてくれたから、これを参考に」


「は、はいっ。頑張ります」


 冒険者が最初に挑むことになる入門用のダンジョンは、迷いの森末端からこの仮説拠点を繋ぐルートに用意した。


 まずは迷姫王の本格ダンジョンに挑む前のチュートリアルとして、迷いの森と内装が大差ない森林型のダンジョンを体験してもらう。


 大戦終結から七年が経過して冒険者たちの腕前も錆び付いただろうし、ここから冒険者デビューする新人開拓も見越して、ダンジョン攻略に必要なノウハウをしっかりここでお勉強。


 レンジャー育成のカリキュラムを基に最低限の知識と技術を学べるように設計したとタマは言っていたが、すんげぇ不安なのは気のせいだろうか。


 彼女が直々にコーチしているフォートリアのレンジャー部隊の優秀さはよく知っているので、ノウハウの合理性に間違いはないだろうけど。


 ダンジョンオープン予定日まであと一週間。

 ギルドの建築も順調に進んでおり、近いうちにスタッフの派遣も行われる。

 酒場のほうは数日前に仮開店。給士はいないけど毎晩お世話になってます。

 これでおおよそ基本となるものは準備完了したわけだ。


 となると次に必要になるのは広報活動。

 つまり冒険者ギルドへの正式なクエスト依頼である。


「意外と早いペースで進んでるわね。もうちょっとかかるものと思ってたわ」

「ダンジョンのほうは最初に雛形を作って、そっから突貫工事しながら順次広げていくって考えだから用意自体は早いんだ」


 クエスト依頼とくればギルド直営酒場のオーナーであるリップルの出番だ。

 彼女は拠点に建てるギルド出張所の建設の指示と派遣される新規スタッフの研修のため一週間ほどここに滞在することになったらしく、まさに願ったり叶ったりのタイミングだった。


 冒険者の酒場は冒険者が仕事を求め、依頼人が冒険者に仕事を頼むための中継地。当のダンジョン運営も例外ではない。


 ポンとダンジョン設置しただけで勝手に冒険者が集まると思ったら大間違い。ギルドとの合同企画でも依頼手続きは必須。業界には業界なりに通さねばならないスジがある。


「フォートリア森林部に謎の迷宮が発生。第一次捜索隊の募集……ね」

「難易度はE~Cの範囲かな。そんなに高くする予定はないから」


「つまりは初めて作ったダンジョンの実験台の募集ってことね」

「そういうこと。まずは宣伝と内装のチラ見せ程度にね」


「ちゃんと回せるの?」

「そこはテストプレイに参加した冒険者の反応次第」


 いきなりボクたち迷魔王陣営の顔出しは面白みに欠けるので、最初は謎のダンジョンが迷いの森に発生という内容で依頼をすることにした。


 フォートリアの不穏な動きはすでに冒険者間でウワサになっていて、遅かれ早かれ独自捜索を行おうとする輩が現れてもおかしくない。


 それならもうオープン前のテストも兼ねて、ダンジョンがうまく機能するかのデバックを捜索隊派遣の形で冒険者にやってもらおうと思ったわけだ。


 冒険者っていう人種は謎の多い依頼ほど燃える傾向にある。

 憶測が憶測を呼んでいる現状、この依頼はさぞ美味そうに見えるはず。

 といってもテスト段階で拠点までいかれても困るので、β版のうちはチュートリアルダンジョンの攻略のみで依頼達成ということにしておく。


 デバックの捜索隊クエストを見事クリアしたみなさまには、超豪華粗品として最初から拠点に入れる通行証を進呈する予定である。


「ミルちゃんも本格的なダンジョン運営は初みたいだから、魔王側も試行錯誤の連続になる。テストプレイで問題が浮き彫りになり次第、改善のバージョンアップを行っていくよ」


「ミルちゃんね……あの娘、大丈夫なの?」

「大丈夫っていうと?」 


「こういっちゃあなんだけど、あの娘って俗に言う【雑魚魔王】でしょ?」

「戦闘力に乏しい穏健派の出自だからね」


 雑魚魔王。

 なんとも酷い表現ながら的を射た単語である。


 魔王のバーゲンセールであった前の大戦では、七大魔王のほかにもあわよくば下克上を狙うランクの低い地方魔王が第三第四の勢力として出張ったことがままあった。


 魔王を冠する存在である以上、彼らは小国家レベルでは十分に驚異である。

 しかし大陸全土を震撼させる域にいた七大魔王に比べれば格が数枚落ちるため、彼らは俗に雑魚魔王と勇者たちに揶揄された。


 事実、彼ら雑魚魔王は中堅クラスの勇者たちには美味しい的だったらしく、ことごとく根こそぎに狩られ、バーゲン品はバーゲン品なりの品質であることを世に証明してしまっている。


 迷魔王の城に下宿して半月。

 ミルちゃんと生活を続けたことで彼女がどんなキャラなのかも大体掴んだ。


 彼女は弱い。はっきり言って弱い。戦闘力はほぼないに等しい。

 たぶんボクが護衛しないと雑魚勇者相手でも死ねる。


「ダンジョン生成能力にステータスを全振りした技能特化型の魔王らしいよ」


 ボクの分析から出た彼女の特性がそれだった。


「エストの話だと、レアだけどそういう職人派の魔王も稀にいるんだってさ」

「ラスボスとして玉座には据えられないわね」


 それはボクも同意。

 だから護衛と迷宮管理人として聖竜騎士のボクが採用されたんだろうけど。


「頑張りなさいよ牛飼いくん」

「そこは姫を守るナイトって言ってほしかったな」


 言われるまでもなく彼女を守るボスキャラの役がボクの勤め。

 ダンジョンオープンまでにキャラ作りを頑張らないとなぁ。


「第一次ってことは二次や三次の捜索隊も募集するわけ?」

「一括で四次捜索隊まで依頼する。今回は初以来なんで王都で頼むけど、次回はフォートリア支部に依頼書を回してほしい。三次と四次は予約抽選制で」


「けっこう回数重ねるんだ」

「二週間以内に四回のテストをやる。それくらいやらないと改善と不具合発見に必要なデータは集まらないからさ」


「真剣に取り組んでるわね」

「エストに自作の同人ゲーのデバックやらされてきた経験則さ」


「未知の異世界言語で説明されても理解しにくいんだけど」

「今回と似た様な事を向こうでもやってたと解釈してくれると嬉しい」


 なのでわりかしデバックやテストプレイは得意だったりします。


「分かったわ。依頼のほうはすぐに掲示板にはっつけておく」

「オススメマークもお忘れなく」


「オススメ指定は追加料金よ。王都なら仕事にあぶれている冒険者が多いから今日中に規定数に達するわ。五日以内にはフォートリアに派遣できるから、ダンジョンの最終調整はしておいてね」


「了解。領収書は迷魔王の城に回すようよろしく」


 調査以来という名のテストプレイヤー派遣も問題なくいけそうだな。

 テストプレイの開始はオープン日に合わせるとして。

 こりゃあ調整を急がないとな。


「ところでリップル。ここに派遣される予定のギルド嬢ってかわいい?」

「いきなりそっちに話をもってくるかアンタは」


「いや、重要なことですよ。ギルド嬢の良し悪しが冒険者の酒場の売り上げを左右するのは業界の常識だろ」


 これ、かなりの真理です。


「まぁ、もちろん派遣する予定でいるけどさ。三人ほど」


 ほうほう。


「一人は当代の【火焔の聖女】でね。社会勉強のためにって火竜神がムリムリに向こうのギルド支部に脅迫して押し込んできたのよ」


「へぇ、たしか七年前に黒焔王を倒すために名誉の戦死を遂げた火柱ばあさんの後継者だったよね。直に会ったことはないけど」


 当時七歳かそこらだったって話だから今はもりそばと同じくらいの年か。

 こりゃ楽しみだ。火竜神じむしょのゴリ推しナイスです。

 こういうの聞くと生きる希望が湧くなぁ。これでまた明日も頑張れる。


「で、もう一人の派遣候補が西部諸国支部に最近入った子でさ。ほら、七年前にアンタにホの字だったリザード族の。もうそろそろ研修のためにこっちに来るはずなんだけど、あ、たぶんあの馬車に──」


 ボクは全力で逃げた。

前話【Hunny in the blood pool ~夢倶楽部GOGO~】が投稿ミスによりダミー文章のまま掲載されていたため、3/2に修正を行いました。

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