Hunny in the blood pool ~夢倶楽部GOGO~
「選ぶんじゃねえ。もう選んだんだよ!」
【黒木勇斗語録 テイルズオブヴェスペリア ユーリ】
「おのれ! 反応の差はこの乳ですか? この乳の差ですか!?」
「あっ、ちょっ、エスト、そういう後ろから胸をモミモミするセクハラは僕の十八番でうにゃあ」
嫉妬カッコワルイ。
「微笑ましきかな乳比べ」
「柱の傷は一昨年のってな。うちの村ではあるあるの光景だな」
柱にバストサイズの傷をつけるのはいかなる風習かね? おにぎりクン。
「いやー、エスティエルは強敵でしたね」
「来世に期待しましょう」
「はいそこの男衆! 憐憫の目でこっちを見ない! 私はまだ成長期ですから! まだ明るい未来がありますから!」
「成長期って……エスティ、たしかお前とっくに百歳越えて……」
「はっはっはっ♪ それ以上言ったら戦争だよおにぎりくん」
レディにトシの話はやめてあげて。天空人はエルフなみの長命種だし。
それでもエストの肉体年齢って高校生くらいだから成長期の未来はもう……
うん、絶望しかない。
「落ち着けエスト」
ボクはおにぎりにわりとマジなヘッドロックを仕掛けるエストの背中にポンと手を置いた。
「オッパイ星人のボクにも人にはそれぞれの価値観やニーズがあるのは知っている。これはこれで個性として誇っていいんだよエスト。貧乳はステータスだ。希少価値だ」
「ニートさん、あとで屋上」
「なんで!?」
痛い痛い。そこでヘッドロックのターゲットをボクに回すな。
ボクなりに慰めてあげたのに!
「あのぉ……みなさん……」
と、エストといつもの家族漫才をやっていたら、更衣室のほうからミルちゃんの消え入りそうな声が漏れ出してきた。
「これだけ盛り上がったのでしたら……その……もう御披露目はいいですよね?」
「いやいやいやいや」
「これからが本番だから。ミルちゃんが今回のメインだから!」
全力で手と顔をブンブンと振るボクとおにぎり。
「おにぎりくんは昔からだからまだいいけど」
「ユートくんって本当に大人になってから性欲に正直に生きるようになったよね」
ジト目の女性陣二人に対し、ボクはクールにキリっとした態度で返答する。
「ふっ、感性のリビドーが質的崩壊を起こしてパライソに達する。分かるね?」
「哲学ですね。分かりたくもないけど」
「言葉の意味はよく分からないけど、とにかくすごい自信なのは分かった」
はい、それがオトナになるということにゴザイマスので。
「そのぉ~……できたらこれでおひらきにしませんか?」
「なにをおっしゃるバニーさん。ここまできたらキミがピシっと決めないと」
「で、でも、ユートさま……私、こういう衣装は慣れてなくて」
「問題ない問題ない。ボクの世界の美少女魔王軍団はもっと過激なの着てるから」
「ユートさまの世界の魔王は『こういうの』がしゅ、主流なんですか?」
「そう。だから先にこういうのに慣れておかないと本番のときタイヘンだよ」
地球の話っつっても漫画やゲームでの話だけどね。あえて言うまい。
「あっ、あのっ、私の身体なんて……ユートさまの御目汚しみたいで……ほら、私って引き締まってる他のみなさんに比べて余分な肉が多いというか……魔王学校にいたころからみんなにデブって言われてまして……」
「それがいいんじゃあないかぁ」
あえて言おう。デブとポッチャリは似ているようで違う。
ボクに言わせれば男の娘とオカマくらい違う!
エストに言わせればボーイズラブと衆道ぐらい違う!
そもそも昨今のヒロインは肉密度が低すぎる!
痩せててスリムならいいってもんじゃあない。もっと肉をつけろ肉を。
特に昨今のアイドルゲームのプロフィールはなんですか!?
多少のサバ読みもあるだろうけど発育不良もいいとこの体重設定だわ!
タマみたいに筋肉密度優先で脂肪が薄いならいいけど、ただ細いのは論外。
ブタは煮ても焼いても食えるけど、カマキリじゃあ食いでがない。
エストを見てみろ。無駄な肉がなさすぎてカマボコ板じゃないか。
女はやっぱ、ちょっとワガママなくらいの脂肪がのったボディーが理想的。
平安美人くらい小太りなほうがボクは好みです。
「わ、わかりました。自信はないですけど頑張ります」
ボクの熱い押しにミルちゃんも覚悟を決めてくれたらしい。
「では三番目ラストの衣装! ミルスちゃんいってみましょう!」
おにぎりの合図でワッとわきたつ男衆。ノリノリだなこの人たちも。
「じゃ、じゃあ行きます。煮るなり焼くなり好きにしてくださいっ」
「そうさせていただきます」
「ビーフは煮ても焼いても美味しいからな」
審査員二名の輸血準備も万端。さぁ、くるなら来い。
がちゃり。
覚悟のワリにはギギっとゆっくり開け放たれるドア。
部屋の影からおっかなびっくりで姿を現すミルちゃん。
「ど、どうでしょうか? あの、やっぱり似合ってないですよね?」
それは乳というにはあまりにも大きすぎた。
ぶ厚く 重く そして大雑把すぎた。
それは まさにオッパイであった。
「げぶらっっっっっっ」
セントヘレンズ大噴火!
「きゃあ! ゆ、ユートさま!」
「おい、ユート! 傷は浅いぞしっかりしろ!」
水芸ヨロシクに鼻血を噴出して倒れるボク。
効いた。これは効いた。邪竜王の一撃よりも遥かに致命打。
恐るべきは魔王の魅惑。牛乳の魔力。こ、これほどのものとは。
「だ、大丈夫。まだイケる。ここで諦めたら試合終了だから」
「めっちゃ足にきてるけどな」
ミルちゃんに心配かけまいと気丈に振舞うも身体のほうは正直だ。
あぶないところだった。一瞬だけ心臓が止まって天界の門が見えたよ。
「さすがだよミルちゃん。百点満点の百点満点だ」
乳こそがこの世の理。豊乳は富であり絶対、貧乳は人に非ず。
嗚呼、なんてステキな衣装だろうか。
メイド服ともウェイトレス服ともいえる折衷の衣装デザイン。
先ほどまでの衣装同様に、白と黒のシンプルな色合いのワンピースは鎖骨と胸の谷間を露出させる排熱処理仕様。
短いスカートは折り目のない前掛け式で、左右の深いスリットからはパンツの紐がチラリ。その上から垂れるエプロンがまた扇情的で興奮させてくれる。
ワンピースには袖がなく、かわりに二の腕から手首までを覆うアームカバーが取り付けられ、肩と脇の下が露出するという人によってはフェチズムをストライクさせる形状。
胸、太もも、首元、両肩両脇、それらを強調するこのデザインはミルちゃんの肉厚ボディにものすごくマッチしていて。
初めて見た時……なんていうか……その… 下品なんですが…
フフ…… おっき………しちゃいましてね……
「ところでおにぎり」
「なんだ?」
ただ、ひとつ気になることがある。
「この衣装デザイン、なにを参考にした?」
この衣装、物凄く見覚えがある。
具体的な固有名詞は避けるけど、とあるゲームで同じ衣装を見たことがある。
つうかこれ、どう見てもピュアな紳士のドリームな社交場の制服だよね。
三年前のオタクの関ヶ原でエストもこれのコスプレしてたからよく憶えてる。
「……聖都の焚書騒ぎが起きる寸前に大量に仕入れた『ウ=ス異本』から少々」
ちょっとバツが悪そうにおにぎり。
「やっぱり……」
ウ=ス異本──
闇の神竜騎士アハトスによってこの異世界に持ち込まれ、そのあまりの背徳的で冒涜的な内容から、聖実聖純を旨とする聖竜王信徒たちから人間を堕落と狂気に導く闇の魔書として禁書指定されたソレを、人々は『ウ=ス異本』と呼んだ。
この禁書の名は一冊の書物を指すものではなく、かなり広義的な意味合いで扱われている。なぜなら『ウ=ス異本』は単一ではなく、ひとつひとつがまったく別の作者と別の内容で書かれた書籍群全体のことを意味する広義的な総称だからだ。
この異世界に古くから存在する春画『えっちなほん』に基本コンセプトは似ているものの、禁書の内容は異世界の住民の文化思想からは大きくかけ離れたものであり、文学的にも美術的観点からも異形かつ異彩。
およそ人とは呼べぬ奇怪な形相と骨格をした異形のモノが、理解の範疇を超えた文明と文化の世界で精神的肉体的な陵辱を繰り返すその内容は、創造主たる神竜たちを冒涜する邪悪の存在以外のなにものでもなく、好奇心から『ウ=ス異本』を手にした物好きたちが次々と自身の価値観を変質させ正気を失い、自ら『ウ=ス異本』を書き始めて布教する暴挙を始めたことから、聖都ホーリーレイクはこの異本をかなり早い段階から焚書指定して浄化に当たっている。
しかしながら拡散し増殖し続ける『ウ=ス異本』は根絶されることはなく、いまもこの魔書は内容の意味もよく分からないまま複製された写本や、テーマをそのままにこの異世界文化に迎合した派生本などに姿形を変えて異世界の裏側で取引されているという。
まぁ、ぶっちゃけ薄い本のことなんですがね。
日本では当たり前に流通している二次創作エロ本も、この異世界の住民には千年ばかり早すぎるシロモノだったらしい。
しょうがないよね。異世界人に元ネタのアニメやゲームを理解しろというのがムリだし、こっちではまだ西洋の写実的芸術が主流で日本独特のデフォルメ文化やコマ割りという概念がないんだもの。
そりゃあ人類の理解の範疇を超えた狂気の産物だと思われてもしかたない。
でも中には『ウ=ス異本』に共鳴する感受性と啓蒙の高い異世界人もいるようで。
「神都の異端審問官に見つかったら大目玉だな」
「なぁに、あの頭の固い連中に元ネタがなにか分かるモンかよ」
確かに。あそこの聖竜神信徒はアタマガチカチだからなぁ。
そこの最高権力者の教皇様の親友にして天使信仰派から崇められている【天空の聖女】が、薄い本の中堅サークルでそこそこの売れっ子だってこと知らないし、なにより当の御神体の聖竜神が【えっちなほん】コレクターだってことに気付いていないんだもの……
口にはしないけど焚書して喜んでいる神都のみなさん、その焼いた『ウ=ス異本』って御焚上げのFAX機能で天界にデーター転送されて聖竜神のオカズになってますヨ。あいつらは焚書するたびに天界から報酬もらえるその意味をたぶん分かってない。
「思うによ、ウ=ス異本ってお前ら異邦人が持ち出した異世界文化の産物なんだろ?」
「だいたいおにぎりが思っている通りだよ」
「この扇情的な衣装デザインもお前たちの世界のアイデアだよな?」
「九割九分九厘がそうだね」
「ユートのいる世界ってどんだけカオスなんだよ」
「ボクの生まれた日本が異質なだけなんだよなぁ……」
同じ地球の外国人の視点ですら日本文化はクレイジー扱いなんだ。
異世界人の価値観で薄い本だのギャルゲーだのを理解しろってのが無茶だわ。
「同志おにぎり。用意したのはもちろんコレだけじゃあないよな?」
「くっくっくっ。オフコースよ」
「ウ=ス異本に理解があるってことは、アレやこれやも製品化するよね?」
「好評ならウェイトレス衣装じゃないんで没にしたヤツも用意できるぜ」
「具体的には?」
「『ぶるまぁ』とか『すくぅるみずぎ』とか」
「採用。月イチのコスプレデーに使用しよう」
「かっかっかっ。こりゃあ酒場が完成するのが楽しみだ」
と、二人だけで盛り上がっている中。
「あの……すみません……もういいでしょうか?」
羞恥心がでプルプル震えるミルちゃんが割って入ってきた。
「この衣装、やっぱり私には少し……」
「恥ずかしい? でもこういうのは慣れだから」
「いえ、そうではなくて。フリーサイズは私の体型にはキツくて……」
と、言いかけたところで。
ブチン!
かなりキツキツに押さえ込んでいたのだろうか。
パッツンパッツンの胸元の生地の裁縫糸が一気にはちきれる音がして──
ばるんっっっっ!
「!!!?」
「!!!?????」
ボクたち男衆の目の前で迫力満点の弾性であらわになるミルちゃんの生乳。
それはラッキースケベというものに縁のなかった自分にはとても刺激が強く……
このときボクは、即死魔法を喰らった敵の気持ちをなんとなく理解した。
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「で、酒場のモデルルームが出来たっていうから飛空艇の特急走らせて視察にきたんだけど、なにこの死屍累々と血の海は。この酒場でバトルロイヤルでもやったの?」
「いやぁリップル、男の子にはピチピチギャルのピチピチな服がボインでバルルンは刺激が強すぎたらしくて」
「……意味が分からない」
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