waitresses fever ~ヴァリアブル120%~
固い、強い、おそい! 三拍子そろってるのはお前しかいないだろう。
【黒木勇斗語録 ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 アレク】
ごくっ。ごくっ。ごくっ。
次の制服お披露目を前に輸血用ポーションを一気飲み。
ふー、生き返る。失血と興奮で朦朧としかけてた意識がハッキリしてくる。
「落ち着いたか?」
「多少」
「エスティのウエイトレス姿でそこまでステータス異常を起こすか普通」
「不覚だった。ファンタジー世界と制服モノの合致ぶり恐るべしだよ」
見慣れたエストのコスプレなのに想像を絶する破壊力だった。
有明のコスプレ広場や日本のコスプレ喫茶では味わえないこの空気感。
よくよく考えてみれば、当たり前といえば当たり前な合致だった。
なぜなら、ここは『そういうの』の本場なのだから。
ホンモノは本場で味わってこそ華がある。
日本の日本食堂で日本食を楽しむのがサイコーであるように。
コテコテな西洋中世ファンタジーの世界観のこの世界で、欧州人に顔立ちが近い大陸の人種が西洋風の衣装を着れば、そりゃしっくりくるに決まってる。
異世界人がファンタジー衣装を着たら、それはコスプレでなくモノホンだ。
少年期はそれほど感じなかったのに、オトナになって感じるこのリビドー。
これは試練だ。煩悩に耐えて男を鍛えるための試練とボクは受け取った。
「それじゃあ制服案の第二段。タマに渡した衣装でいくぞー」
「了解だよーおにぎりくん」
さぁて、次はタマの番か。
引っ込み思案で恥ずかしがり屋なミルちゃんを最後に回すとはサドい。
さすが商人、盛り上げ順序の機微を分かっていらっしゃる。
「エストの制服はわりと正統派だったけど、次の一手のコンセプトは?」
「王道だ。お前の住んでる異世界でもかなりメジャーなものだと聞いてる」
正統派の次は王道ときたか。
ん? ボクのいる世界でも? エストあたりから得た知識ってことか?
「用意はいい? 二番手いくよー」
ガチャリと更衣室のドアが開き、中から出てきたのは……
「今日も一生懸命、御奉仕するニャン☆」
胸開きミニスカのネコミミメイドというDTを皆殺す決戦兵器存在!
「「「「「げはぁッッッッ!」」」」」」
大・量・出・血!!!!!!!
「吐血した!」
「血尿が出た!」
「つか下血した!」
ちょっと、後ろの大工衆のみなさん! どっから出血してんのよ!?
「しまった。これは俺にもクリティカルだ。ポーションの在庫が……」
「うん……これはヤバイ。リアルなネコミミメイドとか絶対ヤバイ」
ボタボタボタボタ。
すごいね人体。二人して興奮のあまり鼻血で水芸が出来そうな勢いだ。
「どう? 普段が普段だから、たまにこういうの着ると刺激的かにゃあ?」
男どもの反応で結論が出ているにも関わらず、あえて煽ってくるタマ。
くそう、くそう、これは卑怯ナリ。
普段がボーイッシュ気味の服装だからか萌えの破壊力もバツグンだ。
覚悟はしていた。覚悟はしていたんだ。
ツンとデレの緩急の振り幅がツンデレの要であるように、普段ホットパンツにチューブトップのレザーアーマとジャンパーという少年的な格好をしている女性が、急に色気重視の女らしい衣装に着替えることの意味。
「ぶっちゃけて反則級」
「んふ~ん♪ それは敗北宣言と受け取っておくよチミィ」
それを分からぬボクではないはずなのに。不覚ッ。
辛うじて……辛うじてだが……ギリで理性を保って踏ん張れた。
タマの胸がもうすこし高かったら歴史は変わっていた。
「さすがだよおにぎり君。ここで日本のコスプレ喫茶では王道中の王道であるメイド服の登場とは、このリハクの目をもってしても見抜けなんだわ」
「はーい、いらはいいらはい。大工衆のみなさん、こちら輸血用ポーションを一本あたり200Gで販売中でございますがいかがっすかー?」
「はい、そこ! さりげなく移動販売してないで制服の説明しろよ!」
しかもサラっと倍に値上げしてるし。
「お前はいらんのか?」
「2本クダサイ」
「トモダチ価格で500Gな」
「一般価格よりも高くなってません!?」
でも買っちゃう。悔しい。ポタポタ。
「俺も最初はメイドってお屋敷の下働きの女中奉公だろ? 酒場や大衆食堂の給仕の制服とは畑違いだろ? って思っていたんだがよ、こうしてお色気アレンジして仕立ててみると、これが意外と噛み合うもんなんだな」
「まぁ、クラシカルメイドはミニスカ胸開き半袖なんてしないからな」
露出の少ないスタンダードデザインもボクは好きだけど、酒場や喫茶店ならやはりミニスカメイドだわな。この南方の気候で長袖ロングスカートで給仕はさすがにキツかろう。
「おにぎりくん。フォートリアにはこういう風習が無いからよく分からないんだけど、メイド服ってこんなに露出度が高かったっけ?」
「酒場特有の肌色要素の重視と機動性を重視して露出度を上げてみた。それと南方は亜熱帯だからな。古典デザインだと通気性に難が出る」
わりとよく考えてる。
「気候の関係上、肉体労働の蒸れ対策に半袖とミニスカは基本だな。胸元も襟を捨てて谷間が見えるギリギリのラインまで切り開いてみた。その変わりさびしい首元にはリボン付きチョーカーや首輪をアクセントに。下半身には大人の色気を引き立たせるガータベルトとニーソックスを」
言いながら再度、おにぎり鼻からダラリと垂れる鼻血。
「自分で仕立てておいてなんだが、猫獣人との親和性の高さがパネェ」
分かる分かる。
ホワイトプリムからはみだすネコミミ。ミニスカから垂れる尻尾。
獣人特有のしなやかで肉付きのいい体躯にフィットしたエプロンドレス。
野生のワイドルさに淑やかなメイドというミスマッチからくる相乗効果。
父さん、黄金郷エルドラドは本当にあったんだね。
「これ、今度帰郷したら嫁に着せてにゃんにゃんしよう」
「自作衣装でコスプレHの強要って、バンピーのヨメさん嫌がらない?」
うらやましいなコノヤロウ。祝福してやるから爆発しろ。
ともあれ、メイドは審査員のボクたちだけでなく一般人の皆にも大好評。
やはりメイドの威力はすごい。地球人も異世界人も男の趣向の根は同じか。
「おれ、この街が出来たら速攻でこの酒場の常連になる!」
「聖女さまはさすがにムリでも他の同族の子がきてくれるならワシも!」
「完成は!? 完成はまだかぁぁぁぁっ!?」
人間のボクたちでさえコレだもの。
同種族の男どもはもうタマのメイド姿を見て発情期状態。
もう商業的にコレを正式に採用してもいいんじゃないかなーって空気だ。
「………………」
メイド! メイド! ネコミミメイド! という大合唱の中で──
「……あまり調子に乗らないほうがいい」
なぜかエストが片目をモノアイみたいに赤く光らせて怒っていた。
とりあえずメイド服をだしとけばファンタジーという風潮。