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difficulty of obtaining employment ~おきのどくですが~

俺達は祖国を捨てた。

それでも生きてる、それでも戦い続ける。

生きる理由は他に幾らでもある。


【黒木勇斗語録・メタルギアソリッド スネーク】

「おきのどくですが、今回の仕官の件は御縁がなかったということで」


「また裏切られたッ!」


 異世界セーヌリアスに凱旋して十日目。

 今日も口入れ屋の相談所でボクの悲鳴がこだました。


「ああ、それと今回の王国海軍の仕官と同時に提出されました第二王子

 直轄の黒鷲騎士団への仕官の件、こちらも一次選考落ちになりました」


「げふぅっ」


 ボクの仕事斡旋の相談窓口役であるオーガ族の担当さんの口ぶりは、

 今日も淡々としていて機械的だった。


 最初のころはもうちょっと落選したことを申し訳なさげに言っていた

 気がするが、さすがに十二件目の就職活動失敗のお知らせだもんなぁ。

 そりゃあ対応も定番化してだんだん冷たくなるってもんです。


「すみません担当さん。ここってギルド直轄の口入れ屋ですよね?」


「はい、冒険者ギルド直属の公的機関として多くの求職者の方々に仕事を

 斡旋すること五十年。商業ギルドや王侯貴族との繋がりを存分に生かし、

 下は土木作業員、上は騎士団まで様々な求職情報を取り揃えております」


 口入れ屋。

 彼らはこの世界で手配師または請負師と呼ばれてる職業斡旋事業機関で、

 ようはボクたち世界でいうところの人材派遣センターみたいな存在だ。


 護衛や討伐など腕っ節を売り物にする仕事は冒険者ギルドの管轄だけど、

 土木作業などの土手人足や馬方や荷方などと呼ばれる運搬労働者の仕事、

 あるいは浪人の仕官などは、ギルド直轄の職業斡旋事業を担当している

 口入れ屋の管轄になるらしい。


「あの、これで仕官の選考落ちは今週に入って七件目になるんですけど。

 どれもこれもの一次選考か二次選考落ちで、面接官と顔合わせをする

 三次選考にすらまともに行けてないってどういうことですかねぇ……

 ギルド直轄の大手斡旋所なら、もっとこう、うちのオススメ人材って

 カンジのアピールをですね、お願いしたいんですけどね」


「それは可能な限りやっておりますが、やはり推挙した人材が仕官先が

 是非と欲しがるような条件を満たしていなければどうにもなりません」


 事務的に述べながら、メガネのクイッと上げて位置直しする担当さん。


「クロキユートさん、こういうことはあまり言いたくはないのですが、

 やはり高望みが過ぎたのではないかと」


「救国の英雄なのに!?」


「いくら魔王の一角を退けた救国の英雄の一人とはいえ、あれから七年も

 隠遁生活して何も成果を残していなければ、無宿人と変わりませんよ。

 たいがいの冒険者の方は魔王討伐の一年以内に地に足の付いた一般職に

 転職をしています。モンスターの驚異が激減したら冒険者も斜陽産業に

 なるのは前々から言われていましたからね」


「わぁ、シビア~っ」


「あなたは魔王討伐後の七年間、いったいなにをされてたんですか?」


 ぎゃあ。

 とうとうつっこまれたくなかったところをつっこみはじめたよ!


「……当時はまだ15歳でしたので学業を少々」


「いまは22歳ですよね? 学生を終えた後はどのようなお仕事を?」


「……起業して自営業をやってました 」


「自営業は何をされていたんですか?」


「親の長屋をガードする警備会社を設立して一人守衛をやってました。

 運営から実務も一人でやってましたよ。それこそ長屋の守護者として

 住み込みで年中無休で頑張ってたというか、なんちゅうか本中華……」


 ウソハイッテマセン。


「分かりました。つまり魔王討伐後は勇者を引退して隠者生活を送り、

 ダラダラと長屋に引き篭もっていたと」


 ひぎぃ! 見抜かれたぁ!


「正直、そういった職歴の空白期間の長い方にコネや実績を必要とする

 騎士団への仕官は難しいかと。実戦のブランクもありますしね」


「一昨日に申請した貴族の剣術指南役とかもダメですか?」


「まだ選考中ですが単なる馬鹿力とチート武器の性能に頼っている剣は

 ちょっと……そういった仕官はあなたより技術が上のソードマスターの

 クラスが既に長蛇の列で並んでいますので絶望的かと思われます」


「じゃあ、少し格を落として地方領主の騎士団とかは」


「こちらも王都での仕官が叶わなかった浪人がひしめきあっていまして、

 今期採用枠は締め切られています。また次の募集までお待ちください」


「鬼ですね」


「オーガ族ですから」


 くそっ、ザブトン一枚だ。


「あとですね、冒険者カード無携帯。これもよろしくありませんね。

 やはり本人と証明できて、レベルやスキル、履歴が記録されている

 冒険者カードをお持ちでないと、社会的信用に欠け不利になります」


「七年前に引退を理由にギルドに返納してしまったんで再発行申請中で。

 冒険者カードさえあれば、少しは選考の扱いも変わりますよね?」


「それなりには。ですが騎士団の仕官は至難であるといわざるえません」


「あの、一応、邪竜王討伐のおりに西の連邦国から【自由騎士】の称号を

 貰ってるんですけど、これって箔になりませんか?」


「ああ、【自由騎士】の称号ですか。他の王宮勤め志願の方からも相談を

 うけるんですけど、それってあまり仕官には役に立たないんですよ」


「はいいいいっ!?」


「貴族の間では常識なんですが、【自由騎士】の称号は戦闘実績はあるけど

 公務には向かない人材、自国お抱えにするには危険な人材、騎士としての

 位を与えるには下賎すぎる存在と、そういった特殊な方へやむなく与える

 名誉職みたいなものでして、その、なんといいますか、ていよく名声だけ

 あげて厄介払いしてしまおうみたいな……」


「知ってはいけない社会の暗部を知ってしまった!」


「この七年間、向こうの世界に戻っていらした異世界の方には、こちらの

 ここ最近の社会情勢の急変を御存じないと思いますが、現在この世界は

 勇者大氷河期時代なんていわれている世の中なんですよ」


「なんですかそれ……?」


「世界を震撼させた七大魔王が去って以降、最初のころはまだ魔王軍残党の

 討伐や各国の復興事業、魔王たちが統治していた占領地区の復興事業などで

 勇者と呼ばれる方々にも仕事はあったんですが、それもだんだん仕事依頼が

 減り始めましてね。人類に害をなすモンスターが激減して天下泰平の時代に

 なった現在、魔物退治が売り物の勇者はすっかりお払い箱。そのため多くの

 勇者クラスが一気に食い詰め浪人化しまして……」


「それって、魔王死して勇者煮らるってヤツですか?」


「ええ、まさにそれです。あれですね、冒険者ギルドが魔王討伐できそうな

 人材に気安くポンポンと勇者クラスを与えたのもよくなかったんですよね。

 もちろん食い詰め浪人化は勇者だけでなく冒険者全体に及んでいる社会問題

 なんですが、魔物退治特化型の勇者は特にその影響がダイレクトに……」


 あー、分からなくはない。

 学者や教職の道がある魔法使い系、教会勤務に戻ればいいだけの僧侶系、

 肉体労働に転職がたやすい戦士系、芸能の道がある吟遊詩人や歌姫と違い、

 魔物退治に特化に特化した尖った勇者クラスって、担当さんが言うように

 魔物退治以外の能がほんとにないからなぁ。


「実は王家の血筋だったとか、王族と婚姻関係になれた、あるいは伯爵以上の

 貴族階級との強いコネクションがあれば違うんでしょうけど」


「天空城のプリンセスとトモダチってのはダメ?」


「悪くはないですが、さすがにトモダチはちょっと……」


 くそう。やっぱ高校時代にもうちょいエストとフラグたてときゃよかった。

 ……と、思ったけど、アレとの結婚ルートはやっぱりないな。うんこだし。

 互いのこと何も知らなかった七年前ならともかく現在は、うん、ない。


「ちなみにユートさん、ご家族の職業は? あなたが向こうの世界で王家や

 大貴族の関係者ならば仕官希望先の対応もかなり変わるかと思われますが」


「いえ、先祖代々普通の一般人です。親は地方の小さな不動産屋を経営する

 傍らで長屋の大家やってます」


「…………」


「…………」


 およそ三秒の間を空けて、担当さんは伏目がちにこう言った。


「無難にクニに戻って御実家のお仕事を継ぐことをオススメします」


「デスヨネー」


 ソレができたら苦労しないんだよぉぉぉぉぉっ!

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