dressed in a uniform ~ピュアキュロットにようこそ~
人の愚かさばかりを見る、キミの生き様に光明はあったかい?
【黒木勇斗語録・聖剣伝説 ヌヌザック】
「着替えに時間かかってるなぁ」
「そう急くなよユート」
三人が更衣室として割り当てられた小部屋に入って数分。
すぐに着慣れない衣装を着るなんてムリだとわかっていてもソワソワする。
なんかもう一ヶ月くらい待たされている気分だ。
「まな板うんこ姫とアル中ネコの着替えはわりとどうでもいいけど、ミルちゃんの着替えは妄想が膨らむんだよ」
「お前、いつからおっぱいフェチになった?」
「元の世界に戻った翌年あたりから。今でもなんでバニー時代のリップルにパフパフを要求しなかったんだって、純な頃の自分を殴りたい衝動に駆られるときがある」
「思春期に特殊性癖に目覚めるとそういうのあるよな」
「ちなみにネコミミフェチは当時からあった」
「お前がソロ活動メインだったタマを三顧の礼までして必死に勧誘していた理由はそれか」
「いまなら牛耳もイケます」
「牛乳も、だろ?」
「否定はしない」
「お前、ほんとに七年会わないうちに変わったよな」
「ねぇ、おにぎり。オトナになるって悲しいことなの」
嗚呼、こうして目を閉じれば、ちょっと太り気味な胸とおなかを必至に隠すミルちゃんの姿や、背後から悪戯心満載でミルちゃんの胸を揉みしだくタマの姿や、その後ろで「まな板にしようぜ!」な平たい胸を必至でバストアップするエストの姿が鮮明に浮かんでくる。
「正直に言うと、いますぐにでも更衣室のドアに耳を引っ付けて三人の着替えトークを聞きたい」
「それはやめろ。俺まで巻き添えで死ぬ」
デスヨネー。
「しっかし酒場の制服か。町づくり計画でそこは盲点だったなー」
「視点の違いなんだろうよ。タマにとっちゃあ酒場は最重要拠点だからな。あのリップルさえ酒場経営を始めるときには事前にタマに相談して、酒やツマミの品揃えや接客のノウハウを教えてもらってたらしいぞ」
「餅は餅屋でパンはパン屋か」
酒場に必要なのは美味い酒と美味い飯のみならず。
仕事斡旋と大衆食堂の側面が強い冒険者の酒場だって例外じゃない。
ガキの時分にはピンとこなかったことだけど、今なら分かる。
女冒険者の絶対数がそこまで多くないこの世界。
基本的に腕っぷしがモノを言う冒険家業は野郎たちの職場。
そんな彼らには酒と飯という物理的な安息のほかに心のオアシスが必要。
ようするに女っ気だ。
かわいいウェイトレスさんによる給仕は男たちの目と心の保養。
ちょいエロの気分を酒の肴にして、たらふく飯を喰えばまた明日頑張れる。
もちろん女ならいいってもんじゃない。その服装も重要なソースだ。
適度にエロく、適度にかわいく、適度に地方色を。
女性給士の制服デザインは酒場の色。この良し悪しで客足の半分は決まる。
そのことを冒険者ギルドもよく分かっているようで、ボクたちがこの異世界に招かれていた当時にはすでに、冒険者の酒場の制服デザインに対する造詣の情念が、そこらの宿屋兼業のパブやバーでは到底追いつけない水準に達していた。
ただ、冒険者ギルド直営店のウェイトレス服は支局ごとの地方色を前面に押し出した民族衣装的なお堅いイメージが強く風俗さに欠ける。
業界的にはリップルの酒場の制服がギルド酒場全体で最もエロスらしいけど、魔萌都市秋葉原で感性を揉まれた身としてはまだまだ風俗の文化的生長が足りないという感想。
んで、この前アドバイスとして「もういっそ昔みたいにバニーガール姿にしたら?」とリップルに言ったらグーで殴られました。
いや、それやったらもうカジノか娼館だろっていうのは分かるんですよ。
でもね、この世界のウェイトレス服はフェチズムが薄味なんですよ。
胸の谷間が見えそうで見えない前開きで襟ぐりの深い袖なし胴衣。
襟のないブラウス、膝下数センチのスカートにオプションのエプロン。
いかにも西洋ファンタジーから生まれた給士衣装は、これはこれで趣があるんだけど、個人的趣向からすると踏み込みがあと三歩は足りていない。
まぁ、言っちゃうと日本のウェイトレス衣装のデザインのこだわりとか、メイド喫茶なんてものを生み出す発想そのものが、世界基準で見ると突飛してアタマおかしいんですけどネ。
ウェイトレスブームの火付け役になったアン○ミラーズの業は深い。
「おにぎりくーん。着替え終わったよー」
五分ほど待っていると、更衣室からタマの準備オーケーのサイン。
「むこうも準備完了だな。素材がいいから気合を入れろよユート」
「衣装には自信ありますって顔だな」
「おうよ。いくつかの候補を見繕ってとのタマの依頼だったんで三種類ほどのデザイン案をな。どれも自信作だから元祖鼻血ブー伝説なみの興奮は覚悟しておけよ」
「輸血用ポーションの用意は?」
「トモダチ価格で一本あたり300Gで御用意しております」
用意周到ですこと。
「言っておくけど、ボクの評価は厳しいぞ。おにぎりくん」
本人は自信ありげだけど所詮はオタク向け風俗文化に疎い異世界人。
日本のオタク文化によって鍛えに鍛えられた業深き感性とは異なる。
そんじょそこらの衣装デザインで満足させられると思うなよ。
「じゃ、まずはエスティーに渡したスタンダードな第一案からいってみようか」
「おっけー」
トップバッターはエスト。手堅いヤツから来たな。
あいつはコスプレはじめて五年の猛者。こういうのにはめっぽう強い。
しかし悲しいかな、あの大戦艦の装甲板な胸が魅力の大半を台無しに……
「じゃーん♪ ドイツのウェイトレス服は世界イチィィィっ! 出だしは安定のスタンダードモードの登場でーす」
「ぶふぉあっ!」
出血。
し、しまった。これは不覚。エストごときに鼻血を噴くとは。
「一発目は冒険者ギルト直営店でも見られる一般的な給士服をアレンジしたAタイプだ。露出が少なく様式美ばかりの従来型と異なり、男性客からのニーズが多いとされる露出面と機能性を重要視してみた」
初手のウェイトレス衣装はドイツの酒場で見られるディアンドルだ。
名称は違うけどこの世界の給士制服はかなりデザインがコレに近い。
ただしエストが着ているコレは、胸元の露出とスカートの丈の短さにかなりの強化が施されている。
それだけでもかなりの強烈さがあるけど、より高度なポイントは胴衣がコルセット状になっており、腰のくびれの印象化が胸と太ももの上下に更なる緩急のインパクトを魅せていることだろう。
腰をキュッと強く締めればあら不思議、あのエストですらちょっと胸があるように見える。コルセット効果恐るべし。
全体的にフリルの多いブラウスやエプロン、露出した鎖骨のラインにアクセントを加えるチョーカー、リボン付きの白のニーソックスに革ブーツ。これもなかなか。
「ニートさん、鼻の下が伸びてますよー」
「うぉぉっ! これみよがしに上目遣いアングルで下からくるなぁぁっ!」
鎖骨! 鎖骨! そのいやらしい鎖骨のラインを強調してくるのはやめろ!
あぶなかった。もしエストのカップがB以上だったら失血死していたところだ。
さすがは現役レイヤー。露出に応じた男を惑わすカメラ角度を見切ってやがる。
「エスティー、衣装の具合はどうだ?」
「生地もいいの使ってるし悪くない出来ですよ。露出の多さもギリギリのラインを攻めてますし。ただデザインが冒険者直営店の基本を踏襲しすぎてて、これならギルド支店の酒場のほうにこの制服案を回してもいいんじゃないかなーってのはありますね」
「ははっ、手厳しいな。リップルに相談してみるよ」
「で、ニートさんの御感想は?」
「ぶっちゃけ、お前のコスプレは見飽きいでででででっ」
青筋笑顔で耳を引っ張るな耳を。片耳だけエルフになったらどうする!
「またそういう憎まれ口を叩く」
「照れてんだよ。若干前屈みになっているところで察してやれ」
くそっ。普段、人前で平気で屁こいたり、ネット見ながらくっちゃねしたり、酒飲んだあとゲロはいたり、大股おっぴろげでイビキかいて寝たりと、残念美人のオンパレードのくせに、こういうコスプレをするときだけピンポイントで外面の良さを生かしてくるから油断ならない。
「ふふん♪ 口ではなんのかんのと言っても身体は正直ですのう」
くっ、なんだその勝ち誇った顔は。でも感じちゃう悔しいッ。
こんな制服をきたかわいこちゃんにオーダー求められたら、そりゃ野郎どもは胸元をオカズにビールをジョッキ大で大量注文しまくるわ。みんなそうする。ボクだってそうする。
「おにぎり、ポーションを一本」
「おいおいユート、こいつは3タイプの中でも一番おとなしめのヤツなんだぞ。こんなんで鼻血だしてたら最後までもたねぇぞ」
「耐えてみせるさ。血の最後の一滴まで流し尽くし枯れ果てようとも」
「……ただのお色気コスチュームのお披露目式でンなムダに熱くてカッコいいこと言えるのは、大陸全土でもお前ぐらいのもんだよ」
それほどでもない。
今回から本編再開です。そしてバトル編が終わればこのノリよ……