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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
第4階層 ヒロインディフェンスはつらいよ
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The enemy answered our fire ~魔のモノは聖戦を見ていた5~

 "Whatever you can do, or dream you can,

 begin it. Boldness has genius, power,

 and magic in it."


 汝に出来ること、あるいは夢見ていることがあれば今直ぐに始めなさい。

 『向こう見ず』とは才能であり、力であり、魔法なのですから。


 【ドイツの詩人 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ】

 三分経過──


「次の奥義を出すのに十分な気力が溜まった。この一手で始末をつける」

「同じく以下同文」


 大量の竜気を消費したことによる気だるさが落ち着き、呼吸も整った。


「わざわざ俺の体勢が整うのを待つ必要はなかったんじゃないのか?」

「どうしてだい?」


「単純な斬り合いならアタッカーのお前のほうに分があったはずだ」

「んな地味な戦いはイヤだな。必殺技の応酬はバトル漫画の華だぜ」


「ヘンな野郎だ」

「ロマン派ってのはそういうもんさ」


 二人の神竜騎士は武器を上段に構えながら不敵に微笑む。


「奇しくも同じ構えか」

「重量武器の特性を生かすならやっぱコレだろ?」


 中距離からの剣圧勝負。竜気によるエネルギー波の叩き付け合い。

 基本的で基礎的で最もシンプルな神竜の剣の比べっこだ。

 竜の気を練り、剣の圧を高め、より技の破壊力を出せたものが勝つ!


「覚悟を決めろ聖竜騎士。次の技は結界型カバーリングでなければ防ぎきれん奥の手だ。対処できなければ後ろの小娘ともども森の肥やしになると知れ」


「さっきの榴弾以上の技か。いいねぇ~、ワクワクするよ」


「神殿から使用を固く禁じられている無差別殺戮技だ。死体の回収が面倒になるんで、なるべくなら使いたくなかったがしかたあるまい」


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥン……


 ガッサーの竜気が体内で増幅されるにつれて森が小刻みな鳴動を始めた。

 奮えている。森の木を支える大地が地竜の気に応ずるように鳴いている。


 異変を察知した小動物が我先にと逃げ出し、鳥たちが鳴き叫びながら一斉に天に向かって飛び立ち、崖下の河に棲む魚たちが狂乱して激しく跳ねる。


 異常な気配だった。単なる技の予備動作にしては予兆が激しすぎる。

 ただの剣圧技ならこのようなことは起きない。これはもっと深刻な……


地竜剛殺ちりゅうごうさつ──」


 天災の前触れ!


濁流波だくりゅうはッッッ」


 地竜騎士の鉄槌が大地を叩くと同時に、足元の天地が捲り上がった。


 例えるならソレは大地の津波。すべてを呑み込む地竜のあぎと

 引っくり返された大地が、木も岩も押し流す土石流が、剣圧を乗せた大波が、巨大な地竜の大顎となって獲物めがけて襲い掛かる。


 敵も味方も関係なしに生き埋めにする無差別殺戮技。

 周囲への被害などおかまいなしで地形すら変えうる天災級の破壊力。

 たしかにこれは禁じ手だ。これはもう技じゃない。自然災害と同列だ。


 これだけの規模の土石流に呑み込まれれば神竜騎士とて終わりだろう。

 土に圧殺されるか、木や岩に叩き潰されるか、土石流に磨り潰されるか、生き埋めで窒息死するか、どの最期でも土葬は確定だ。


 今から崖に向かって逃げてもムダだ。

 土石流は崖を削り取って降り注ぎ、河を埋める勢いで下流へ向かうだろう。

 どれだけ早く逃げても必ず掴まって溺れ死ぬ。


「勇者さま!」


 少女の叫び声。聖竜騎士は迫る大津波を前に一歩も動かない。

 怯んだか、慄いたか、諦めたか、この状況でもまだ技を繰り出さない。

 もはや万事休すか!?


「ええっと、こういうときは、これをこうして、空間をつなげて……」


 たまらず少女がわたわたと印を結び詠唱を開始する。

 見たことのない印の動きだった。詠唱も発音が人間のそれと明らかに違う。


「まっ、まおうくうか──」

「ストップ」


 少女が何かの術を発動させようとしたそのとき、聖竜騎士が口を挟んだ。


「出来るならソレは、またの機会にしてくれないかな」

「え? でっ、でも……」


 やはりこの男……


「きみが何者かボクは知らないことにしているし、なにをしようとしているのかも察しない。そのほうが立場的になにかと都合がいいし、そうでないと無力なヒロインを守護まもるとカッコつけたボクが困る」


 彼女が何者か最初から気がついている!


「困っちゃうんですか?」


「ああ、めっちゃ困る。ここでアッサリとヒロインに解決策を取られたら、ここまで自分を追い込む後出しジャンケンに徹してきた意味がなくなるからな」


 土石流が迫る。迫る。迫る。迫る。


「後出し……ですか?」


「おうよ。勇者おとこならやっぱり、完封勝ちよりも九回裏のツーアウト・ツーストライクからの満塁逆転ホームランでサヨナラ勝ちを狙わなくちゃなぁッ!」


 くどいようだが勇者という人種はスロースターターが多い。


 追い立てられないとその気になれない。

 追い詰められないと熱が入らない。

 追い込まれないと本気になれない。


 火事場の馬鹿力、憤怒の力、血の覚醒と種類は様々だが根底は同じ。

 絶体絶命のピンチになって初めて、真の勇者は救世の力を発揮できる。

 愛する友の眼差しが、倒れるたび、傷つくたび、俺を強くする!

 奇跡の逆転ファイターとはいつだってどこだってそういうものだ。


 機は熟した。

 出血こそ止めたが体力ゲージは真っ赤で残り僅か。

 一方で気力ゲージは満タンのハイテンション状態。 

 すでに目の前には敵の必殺技。背後は崖と守るべき者の背水の陣。


 ようやく本気になれるお膳立てが整った!

 さぁ、お遊びはここまでだ。


「そっちが禁じ手を使うなら、こちらも禁を破るぜ……」


 ぞわり……


「えっ?」


 ユートに起きた異変に最初に気が付いたのは、千里眼で戦況を観察していた立会人でも、対戦相手の地竜騎士でもなく、彼の背中を見ていた少女だった。


「オーラが……黒く……」


 先ほどまで立ち上っていた聖竜騎士のオーラの色が変質を始めたのだ。

 神竜騎士の纏う竜気には個々の属性がある。

 地竜騎士の竜気が地竜神の属性にそった鉄色のオーラをしているように、聖竜騎士の竜気は聖竜神の属性にそった聖光のオーラを発するのが普通だ。


 そのオーラが明らかに聖属性と異なる色に変色している。


「嘘……これって……」


 見覚えのある竜気の色だった。


「いるちゃんと同じ邪竜族の……」


 あってはならない聖から邪への意図的な属性反転。

 神竜騎士の属性は仕える神竜の属性であるのが原則。

 聖竜神の加護を受ける聖竜騎士ならば聖属性の竜気しか纏えないはず。

 こんなことが現実に起き得るのか!?


「死ぬ思いして獲得したはいいけど使う機会に恵まれなかった超必殺技だ。でたとこ勝負の一発芸だが、とくと御覧じろ」


 否、起き得る。起き得るのだ。

 なぜなら聖竜騎士ユートは──

 竜殺しの称号を持つこの勇者は──


「神竜剣──」


 邪竜神の末裔である『邪竜王』を喰った英雄なのだから!


邪王滅殺悪竜破じゃおうめっさつあくりゅうはッッッ」


 邪竜のブレスは黒腐の抱擁。

 彼らが愛する貴金属以外のすべてを蹂躙して腐滅させる瘴気の塊だ。

 たとえそれが不死的存在であろうと、高次の神的存在であろうと関係ない。

 魔も人も神も分け隔てなく、巻き込まれれば等しく蝕まれ灰燼に回帰する。


 聖竜騎士の剣から放たれたソレは、太陽光さえ蝕む暗黒の閃光であった。

 黒光の剣圧は地竜の大顎に真正面から食い込み、山津波を表面から少しずつ腐滅させながら削り取り、じわりじわりと押し返していく。


「バカなッ!?」


 地竜神の力が生み出した濁流の剣圧が聖竜騎士の放った何かによって押し返されつつあることを悟り、ガッサーが驚愕の声を上げる。


 天地を引っくり返す大災害すら凌駕する超暴力。


「聖竜騎士ユート! お前は……!」


 驚愕の対象は彼の放った属性攻撃のことではない。

 ただの邪属性攻撃ならガッサーにとって大した驚異ではない。

 かつて彼が相対した大地を腐らせる不死の魔将『リッチー』との戦いのときのように、相手が放つ腐滅の速度よりも早く圧倒的な大地の力を次から次へと叩き込めばいいだけのことだ。


 しかしこれは……この腐滅の力に圧の勢いを与えている竜気の出力は……

 自分の知っている神竜騎士の基準スペックを遥かに超えている。

 光竜騎士にも、闇竜騎士にも、地竜騎士の自分にもない規格外の領域だ。

 

 こんなことができるのヤツは神竜騎士の中でもただひとつだけ。

 竜を殺し、竜を喰らい、竜の力を我が身に宿せる【竜殺し】タイプだけだ。

 ならば、ならばこの男は……


「お前はいったい────ッ」


 どれほどの数の超越者ドラゴンを喰い散らかしてきたというのだ!?

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