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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
第4階層 ヒロインディフェンスはつらいよ
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hand-to-hand fighting ~魔のモノは聖戦を見ていた3~

"It’s not the years in your life that count.

 It’s the life in your years."


何歳まで生きたかは重要ではない。いかにして生きたかが重要なのだ。


【米国の第16代大統領 エイブラハム・リンカーン】


「惜しや。あれほどの勇者おとこ。いまの時代にそうはおるまいて」


 千里眼で遠い向こうの戦場を見通しながら、立会人は少女を守る一人の男の雄姿を、そして仁の信念に殉じた見事な最期を、心から賞賛していた。


 森を駆け、獣道をはしり、二匹の竜が対峙する現場へ向かいながら、立会人は聖竜騎士の決死の時間稼ぎに心から感謝する。


 彼が地竜騎士を止めてくれたおかげで、見守るべき対象を想定外の外敵の危険にさらすという致命的なミスを犯さずにすんだ。


 この距離なら間に合う。

 もし地竜騎士が彼女に対して最悪の選択をとったとしても、聖竜騎士のおかげで十分に御する時間を得られた。


 彼女は生きている。無傷だ。

 迫る榴弾のすべてを聖竜騎士が『庇う』で引き受けてくれたおかげだ。

 聖竜騎士の姿は土煙に覆われ全体がなかなか見えなかった。

 うっすら見える影は仁王立ちしたまま動かない。

 伝説に聞く異邦人の僧兵『武蔵坊弁慶』のように立ち往生で果てたか。


 あの地竜騎士も大量の竜気を必要とする大掛かりな秘奥義を使用した反動で、しばらくは身動きが取れない。

 彼の犠牲は無駄にはしない。あとのことは自分が引き受ける。

 まったく滑稽なことだ。魔王として立会人として稀に見る失態だ。

 魔族の敵対者であるはずの聖竜騎士に、こんな借りを作ってしまうとは。


 なにが彼をそこまで駆り立てた?

 自分と同格の戦闘力を誇る神竜騎士を相手に、触れれば壊れる程度の防御力しかないと知った上で、何故に彼は己を捨てて彼女を庇った?


 素性も知れない怪しげな小娘を命懸けで守ること。まともに考えれば後々で面倒ごとばかりが押し寄せてくる予感しかしない不利益な行動だ。


 同胞の邪魔だては勇者にとって名誉にならない愚行。

 命を危険にさらす慈善活動など何ら利益にならない愚考。

 後続の応援がくる保障もないのに女を庇って死んだら犬死だ。


 それなのに彼は迷いの一片も感じさせずに己の美学に忠実に行動した。

 真の勇者とはかくあるべしといわんばかりに。

 彼は気付いていたのか? あえて気が付かないフリをしていたのか?

 あの娘が何者なのか。どうしてあの場所にいたのかを。

 慧眼なのか無知なのか。あの言動や態度からはとうてい推し量れない。


 まったくもって惜しい。

 彼がもし『こちらがわ』であったなら、さぞ有力な──


「……なッ」 


 二人のいる場所まであとすこしというところで、立会人は足を止めた。

 千里眼がまだ二人の勝負が終わっていないことを知らせたのだ。


 なんと。そういう手があったのか。

 聖竜騎士は生きていた。あれだけの攻撃を受けながら生きていた。

 たとえ竜気を全開にして防御強化に回しても蜂の巣は避けられない猛攻を受けたのにも関わらず、彼は想像よりもずっと軽傷で生きていたのだ。


 立会人は一瞬だけ思い悩んだ。

 このまま二人の間に割ってはいるか、それとも──


 愚問だった。

 あの聖竜騎士が生きているのならば、まだ自分の出番ではない。

 それに、珍しく人間という存在に対して強い興味が湧いた。

 ユートとかいう聖竜騎士、八年前以上になにをするのか予想が付かない。


 いまはまだ見届けよう。

 このガキの喧嘩、大人が割って入って台無しにするには惜しい。

 神竜騎士同士による決戦の行方、聖竜騎士の行動の如何によっては、この戦いは今回催されるゲームの価値を跳ね上げる大きな試金石になりうる。


 コイツはとんでもない掘り出し物になるやもしれぬ。


 あの山猫がそうであったように、もしかしてあの聖竜騎士は、そうと知っていて彼女を守り通そうとしているのか。

 森に入った時点でに迷宮王の面接は始まっていると見解していたのか。

 すべて読みきった上で地竜騎士をダシに自身をアピールしているのか?


 いや、考えすぎか。

 だとしたら大したものだ。彼女の補佐官になる資格は十分にある。

 だとしなくても彼の勇敢な行為は城に迎えるに足る十分な価値がある。


 年甲斐もなくワクワクする。

 こんなにも好奇心で血が騒ぎ出すのはいつぶりか。

 次はどうでる? 昔の自分に良く似た目をする聖竜騎士よ。



             ○○○○○○



「なん……だと……?」


 ガッサーは驚愕していた。

 この一撃で勝負は決する。彼は疑うことなくそう信じていた。

 確実に当たる状況で確実にしとめられる技を繰り出したのだ。

 金に糸目をつけず最大火力を出せる最高品質の触媒を用いて。


 ミスリル鎧すらブチ抜くアダマス鋼の金属片による榴弾攻撃。

 八年前の大戦のときもコレは無双の必殺技だった。

 鬼城王が率いる自慢のゴーレム軍団、その中でも選りすぐりの素材で生み出された金属ゴーレム部隊を、彼はこの技で木っ端微塵にしてきたのだ。


 なみの冒険者が喰らえば、良くて蜂の巣。悪ければミンチ。

 彼が全盛期時代のように、オリハルコンに匹敵する聖竜神の鱗から造られた聖竜鎧を着込んでいたのであれば耐え切られても納得する。


 しかし現在の彼はどういったことか装備しているのは安物の革鎧。

 どう足掻いたところで耐え切れるわけがない。

 竜の力によるステータス強化や竜気によるガードを以ってしても、回避行動が取れず多段攻撃の被弾なら全てを受け止めることになる『庇う』スキルの特性上、少女に当たるはずの榴弾まで引き受ければ累積ダメージで戦闘不能は避けられない。


 勇者というクラスは突き詰めるほど不死鳥の如くしぶとい。

 冒険中に一回くらいなら致命傷を受けても死亡判定結果を覆せる。

 それでいい。戦闘不能に陥らせることができればそれでいい。

 もとより目的はあの女だ。わざわざ相手を殺しきる必要はない。

 聖竜騎士を身動きの取れない状況にすれば自分の勝ちなのだ。


 相手の性格、相手の特性、相手の状況、勝敗の決定打。

 それらを計算の上でこの技を選択して最大火力で使った。

 ガッサーの判断に誤りはなかった。

 防具性能から考えてワンショットキルは確定だった。

 ユートに回避手段は存在せず、少女を殺さず捕らえる最適の選択だった。

 もしガッサーの戦術に誤算があったとするなら──


「へへっ……ボクを飛び道具でしとめるつもりなら、せめて金属の素材にオリハルコンを使うべきだったな」


 用途の次第によっては、オリハルコンの強度を持つ大盾にもなりうる、聖竜神の牙から鍛えられた巨大剣『斬竜剣グラム』のことを失念していたことだ。


 一直線に襲い掛かってくる榴弾の飛礫を、自分の正面に幅広の大剣を地面に突き立てて壁にすることで防御する。


 シンプルながら的確な判断。

 敵の技の本質に気付き命中するまでの短い時間でよくぞこんな機転を。


「こっちも現役時代にさんざんドラゴンのブレスに悩まされてきた身だからね。広範囲型の遠隔攻撃対策は手馴れたモンよ」


 ガッサーが息切れしている間に、ユートは剣を引き抜いて前へ歩みだす。

 余裕そうな態度をとっているがユートも決して無傷ではない。

 夥しい数の金属の砕片は彼の体の末端を容赦なく削っていた。

 剣の腹からはみだしていた肩や腿の部分には多数の裂傷。出血も激しい。


 当たり前だ。

 彼は少女に降りかかるはずの榴弾をすべて引き受けたのだから。

 いくら堅固な大剣で防御したとはいえ受けの補正には限界がある。

 耐えはしたが蓄積ダメージ量は笑って済ませられるものではないはず。


「森の一部が剥げるほどハデにぶちまけてくれたけど、所詮はモグラの豆鉄砲。雑魚相手にならともかく、この聖竜騎士ユートさまには」


 不敵な笑みでゆらりと一歩。獣の笑みでふらりとまた一歩。


「ぜんぜん効いて……」


 こてん♪


 あ、コケた。


「めっちゃくちゃ効いてるじゃないですかーっ!」


 思わず少女のツッコミが飛んだ。


「フッ、いいパンチしてるじゃねーか」


「……手榴弾だよ」


 ガッサーよ、そこは律儀につっこまなくてもいい。

祝・PV10000突破!! みなさま多大な御愛好ありがとうございます。

聖戦編、もうちっとだけ続くんじゃ。

やはりプロレス的なパワーバトルは書いていて楽しい。 

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