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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
第4階層 ヒロインディフェンスはつらいよ
40/177

give a decision ~魔のモノは勇者を見ていた4~

 "Change before you have to."


  変革せよ。変革を迫られる前に。


【アメリカの実業家 ジャック・ウェルチ】

 勇者の最上位職には【神竜騎士】という伝説のクラスカテゴリーがある。


 彼らは創造神である八大神竜から神に次ぐ力を授けられた救世主だ。

 仁智勇に優れし選ばれし者のみが昇格の登竜門をくぐることを許され、筆舌に尽くしがたい神々の試練を乗り越えたとき初めて到達可能になるという勇者の中の勇者クラスである。


 彼らの力は人の身でありながら魔王の喉元に届きうるほどに絶大。

 その拳は大地を砕き、その魔法は暗黒を裂き、その剣は大海を割ったという。

 存在そのものが世界の命運を左右し、天地魔のバランスすら変えうる特異点。

 だからこその救世主。彼ら現れる場所に乱世あり。それもかなり危機的な──


 それ故にか、神竜騎士の存在は大陸数千年の歴史の中でもそう多くはない。

 定期的にやっている魔王と神の小競り合い程度では彼らは世界に現れない。

 神竜騎士が救世主として降誕する。それは世界が本格的にヤバいことを意味する。


 八年前の大戦のときに神竜騎士の資格を得た勇者が四人も現れたのがその証明だ。


 光竜神の寵愛を受けし明の王子【光竜騎士ライトセイバーディーン】。

 地竜神の加護を受けし鉱の鉄人【地竜騎士ガイアセイバーガッサー】。

 闇竜神の期待を受けし咎の剣士【闇竜騎士ダークセイバーアハトス】。


 最後に聖竜神の行き当たりバッタリな『なんとなーく』で救世主になった、天の使途【聖竜騎士ホーリーセイバーユート】。


 彼らの活躍は御存知の通り。

 世の吟遊詩人が語る四人の神竜騎士が乗り越えた数々の試練の内容も真実だ。


 まぁ、一部のユーなんとかという人だけ神竜騎士へのクラスチェンジが『えっちなほん』を賄賂にした裏口入学に近いので、「個人の感想であり、本人の経歴を確約するものではありません」というテロップを小さく画面端っこにつけなきゃいけなかったりしますが。


 クラスチェンジ条件が最難関とされるだけあって彼らの実力は折り紙つき。

 事実、七大魔王の首のうち上げられた首級五つは神竜騎士たちの手によるものだ。

 戦後、強大すぎる力をその身に宿した彼らの行方はようとして知れない。


 異邦人として召喚された【闇竜騎士アハトス】と【聖竜騎士ユート】の二人は、他の異邦人たちと同様に元の世界に帰還して世界から去ったという。


 神竜騎士最強と名高い【光竜騎士】ディーンは、魔王との最後の戦いで異次元に呑まれて戦死したと報告されている。


 四人のうちの三人は姿を消すまでの経緯が詳細に記録されている。

 だが、ただ一人だけ【地竜騎士ガッサー】の末路だけは妙に謎が多い。


 彼は地竜神の選定に選ばれて召喚された異邦人エトランゼの一人だとアーシェラ国の軍記にはあるが、パーティーで活動することを拒む一匹狼気質ソロプレイの人間であったためか、彼の旅の経過を記した冒険記録はほとんど文献に遺されていない。


 地竜騎士ガッサーが文献に残るほどの明確な活躍をしたのは【鬼城王シダテル】の外郭破壊作戦のときだ。魔王の心臓部があるという内郭へのルートを作るために、彼はドワーフ戦車隊と飛空艇団を総動員して移動要塞と化したシダテルの足止めと城壁部分の破壊活動を指揮し、内郭突入部隊として編成された一般冒険者たちのサポートを行っている。

 

 しかし【鬼城王】の討伐後、彼が魔王から神の石を奪って地球に帰還したという話は聞かない。


 なら元の世界には還らず、この異世界に骨を埋めることにしたのだろうと思われるが、彼の消息は【鬼城王】討伐後にアーシェラ国の地方領主の客分として迎えられたのを最後にプッツリと途絶えている。


 その後、大陸のあちこちの戦場で彼らしき人物の目撃例があるが真相はさだかではない。

 もともと彼は四人の神竜騎士の中で一番パッとしない地属性の騎士であったためか、知名度も低く注目度も低かった。


 神々が司る八属性の中で、『森』と常にワースト争いをする『地』属性の神竜騎士というのが不人気の原因だったらしい。


 ……正直、地属性って文字通り『地味』だもんね。


 勇者ディーンの武勇伝ばかりが一人歩きしている弊害もあるのだろうが、イレギュラーの異邦人として世に現れて天空城の姫君を邪竜王から救い出したユートや、魔王側に協力するダークヒーローになって天地魔の勢力図を大混乱に陥れたアハトスと比べて、普通に召喚されて普通に魔王を倒しただけのガッサーの活躍は非常に平凡で特色のないものだった。


 伝説の存在は多くの謎を残して消えるのが理想とはいえ、ここまで情報量が少ないと実際に存在していたのすら疑わしくなってしまう。

 生存説・死亡説・暗殺説・魔王化説、彼の失踪後にさまざまな憶測が歴史家の間で飛び交ったが、どれも実証には到らなかった。


 だが、彼は確かに実在していた。

 都市伝説じみた噂話をあちこちで生みながら、このセーヌリアスで生きていた。

 泥にまみれ、土に汚れ、地を這いながら、不人気にも負けずしぶとく。


「あんた……ただの『はぐれ』じゃないな」


 ユートは冷や汗をたらしながら言った。

 この男はボス格のはぐれの太鼓持ちをしていたチンピラの一人だった。

 だったはずだ。なのに先ほどまでのやられオーラが微塵も感じられない。


「ああ、自己紹介が遅れたな。オレの名はガッサー。地竜騎士のガッサーだ」


 そのとき、はぐれの全身がまばゆい光に包まれた。


「なっ!?」


 光が消えたとき、其処に立っていたのはみすぼらしいボロ鎧の野盗ではなかった。

 青黒い光沢をもつ黒鉄の鎧に身を包んだ、一人の精悍な顔立ちの騎士がいた。

 一部の勇者が使えるという『擬態魔法モシャスル』で顔かたちを変えていたのか。


「神威第二位の聖竜神に仕える神竜騎士の前で半裸のままでは失礼と思ってね。礼節の意味も込めて昔の衣装に着替えさせてもらった」


「そんな! 声まで変わってる!?」


「外見の印象を著しく変える擬態魔法だ。神竜騎士にまでなった男が素のままで他の竜神のナワバリ内で活動すると、国境問題だなんだのとうるさい坊主どもがいるもんでね。ライバルの森竜神の支配地ともなると特にな」


「バカな……信じられん。伝説の【地竜騎士ガイアセイバー】ガッサーがいま、この眼前に……」


 なんか脳内で『なっ、知っているのか雷電!?』と、うんこ天使がお約束の合いの手を入れてきたがユートは無視した。


異邦人エトランゼの中で一人だけ日本に戻らなかったヤツがいたって話は後日談でエストから聞いていたけど、まさか神竜騎士ともあろうおかたが身を持ち崩して野盗なんぞやってるなんてな」


 大学受験に失敗してヒキニートになった神竜騎士というのもどうかと思うが。


「潜入操作を名目にした戯れさ。完全立入禁止区域指定の『迷いの森・中枢部』で余所者が活動するには、馬鹿正直に神殿経由で院の連中にお伺いを立てるよりも、身分を隠して地竜神の管轄ナワバリでも指名手配されているこの密猟団の仲間に入ったほうが手っ取り早い。この国の聖女様は相当のクセモノなんだろ? 通行許可と引き換えにロクでもないお使いを頼まれちゃたまらん」


「あー、わかる」


 ユートは苦笑した。

 今回の一件ではパーティー仲間の補正コネがあったおかげで簡単に『迷いの森・中枢』への通行許可が出たが、縁もゆかりもない人間、それも森竜神と仲の悪い地竜神の関係者が【大樹の聖女】と正面から取引なんかしたら、彼女の性格からして大変なリスクを負うことになる。


 許可証を得るまでかなりの時間がかかるだろうし、そっちの弱みに付け込んで無理難題のクエストをタマが押し付てくるのは目に見えているし、ヘタうてば宗派同士の抗争や政治問題に抵触する面倒事に発展しかねない。


 向こうで指名手配されている犯罪組織への追跡および潜入捜査という名目で迷いの森に入り込めば、あとあとで咎められるのは変わりないだろうが、密猟団が地竜神管轄から森竜神管轄へ拠点を移したので成り行き上しかたなくと言い訳すれば、無断で迷いの森に侵入するよりはカドが立たない。


「で、その地竜騎士さまがこんな森の中でなんの用事だ? 密猟者に混じってみんなと仲良くキノコ狩りってわけでもないんだろ?」


「勇者のやることなんてひとつしかなかろう?」


「そういわれちゃうとミもフタもないな」


 さて困った。ユートは悩む。

 自己紹介で休戦中だが、相手はまだ敵とも味方ともいえない神竜騎士。

 なんせ彼には知らなかったとはいえ本気の一撃を食らわせてしまった。

 交渉の対応を誤れば戦闘続行になりかねない。可能なら穏便に済ませたい。

 この厄介な状況、どうやって切り抜けばいい!?

次回で終わる予定とか言ったな。スマンありゃあウソだった。

あー、このペース……最低でもあと二話はかかる流れだ(白目)。

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