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hail a Costume designer ~ええ姉ちゃんで行こう~

 あーら ステキなお兄さん。

 パフパフは いかが?

 たったの 20ゴールドよ。


【黒木勇斗語録・ドラゴンクエスト パフパフ娘】

「こんにちは。今回、新規開店する大衆酒場の制服デザインのために参りました裁縫士の『おにぎり』です。以後、お見知りおきを」


「「お・ま・え・か・よ!」」


 タマが連れてきたという衣装デザイナーが姿を現した瞬間、ボクとエストのツッコミが綺麗にハモった。


「ようユート、この一週間まったくの音信不通なんで、リップルにお前の現状を確認してみたら、俺そっちのけで面白いことやってんじゃねーか。かつてのパーティー仲間で俺だけハブか? そりゃあちょっといただけねぇ案件だよなぁ~っ」


ぎーりぎりぎりぎりぎりぎりっ!


「いていていてっ、アイアンクローまじで痛い! 顔はやめてボディボディ!」


 数日振りの親友との再会は、私怨を込めたアイアンクローから始まった。

 いや、ほんとにカンベンしてください。

 キミのゴリラなみの握力でソレやられると頭蓋の縫合がズレかねないから!


「はい、どうどうどう。ごめんねおにぎりくん。酒場建設の件がひと段階ついたら迷宮企画のことをそっちに持ち込むつもりだったんだけど、こんなに早く嗅ぎつけられるなら先に話しとけばよかったね」


 エストが割って入ってようやく鉄の爪から解放。

 あぶなかった。さっきこめかみの軟骨が軋んだ音がしたから心底焦った。


「ビールマイスターの嗅覚を嘗めちゃあいけねぇなぁ。冒険者ギルドがフォートリアを中心になにか大きなことをやらかすんじゃあってウワサ、そのスジじゃあ有名だぜ。例えば無期延期になっていた『迷いの森』の開拓を秘密裏に再開することになったとか、大森林の奥地に未踏のダンジョンが発見されたんじゃないかってな」


「当たらずとも遠からじだなぁ」


「そんで先週にユートの就職先紹介の件があったろ? 闇落ちがどうたらって。そこでピンときたわけよ。絶対に大規模な儲け話がウワサの中に潜んでるってな。んで一昨日にリップルに問いただしてみたらコレだ。フォートリア行きの飛空艇のチャーター、高くついたぜコンチクショウめ」


 人のウワサに蓋はできない。やっぱり部分的とはいえ世間に漏れるもんだな。

 おにぎりの話を聞くに、ミルちゃんの件とかはまだ世間に知られていないようだ。

 これぐらいの曖昧なウワサなら逆に宣伝になる。火消しの必要はないだろう。


「あ、あの、ユート様、この方は?」


 いきなり現れた無精髭の筋肉ダルマを見て怖くなったのか、ボクの背後に隠れながらミルちゃんが訊ねた。


「七年前の大戦で【邪竜王】を倒した勇者パーティーの一人、戦士の【おにぎり】。今は冒険者を半引退してビール屋の職人をやってる。信用できる仲間だから正体をバラしても大丈夫だよ」


「そ、そうなんですか。失礼しました。わ、私は本企画の責任者をやっております、迷姫王のミルともうします。ミルと呼んでください」


 おっかなびっくりしながらペコリとおにぎりに頭を下げるミルちゃん。

 気さくで優しい子だよなぁ。なんで魔王なんてやってるのか不思議なくらいに。


「なんだユート、もりそばに引き続いて、こんな可愛い娘を手篭めにしたのかよ。このスケコマシ勇者が」

「だまらっしゃい」


「でも八年前は朴念仁だったお前がそこまで入れ込んでるってひことは相当のオキニなんだろ? ツボったトコはやっぱりアレか? あのゆったりしたローブからでも分かる牛みたいなパイオツか?」

「……そこはノーコメントで」


 酔った中年のオッサンかあんたは。半分以上は事実だけどさ。

 

「この娘がリップルの言っていた迷魔王のお孫さんか。こいつぁ意外だった。魔王っていうと俺らの時代じゃ無駄にデカくてムダにグロくてムダに変身するってのが定番だからな。【こういうの】が最近の流行なのかは知らねぇけど、魔界ってのは広いねぇ」


 まぁ、分かる。

 ボクのいる日本でも『魔王=美少女』の方式は近年になって市民権を得たばかりで、まだまだ古典の魔王が多かった八年前にはあまりなかった組み合わせだし。


「で、なんで制服デザイナーの名目でお前がコッチに来てるんだよ。別に防具の仕立てを頼みたいわけじゃないんだけど」


「見くびられちゃあ困るな。これでも俺はフォートリアの裁縫ギルドを介してタマから正式にデザインの依頼を受けてんだぜ」


「そうなの?」

「おにぎりくん、裁縫士スキルがかなりの高レベルなの知らなかった? 守秘義務を守れる人材なのと、おにぎりくんだけにダンジョン企画のこと黙ってた詫びも含めての優先依頼だけど、衣装の仕立てのほうでも腕のほうは確かだよ」


 初耳だ。

 あのゴツイ手でお裁縫か? イメージわかねぇぇぇぇっ……


「裁縫士のスキルだけじゃねぇぞ。醸造に関係する機材のメンテ用に鍛冶士のスキルは鉄鍛冶から革加工まで網羅してる。ドワーフ鍛冶とか神聖鍛冶とか特別な資格が必要なもの以外は手広くやってんだわ。初級薬品の取り扱いまでだが薬士のスキルもあるぜ」


「ビール屋の息子だからって事業が手広すぎんだろ!」

「そんだけ手広くやってかなきゃあ、この太平の世ではやってけねぇのよ。新時代のマイスターは醸造だけでなく営業から行商、経ては酒場のウェイトレス衣装の製作まで幅広く取り扱いをこなせないとな」


 感心するわー。たぶん浅く広くなんだろうけど、職人スキルをそこまで手広く上げるには並々ならぬ修行の日々があったはずだ。


 ビール屋を継いで終わりはでなく、魔王がいなくなって冒険者の需要が減った新時代でどう生き残るか苦心して、業界のあっちこっちで知識と技術を吸い取って、親からの醸造所の引継ぎを見事に成功させてる。


 普通、二十代前半でそこまで考えられるヤツって日本にいるか?

 それに比べてボクのゲーム三昧の七年間っていったい……


「俺は酒場や食堂で働く給仕の制服デザインの仕事もいくつかこなしたことがある。で、今回は迷宮型のテーマパークにある酒場のウェイトレス制服のデザインの発注ときた。んなステキな仕事を任されたら腕が鳴らないわけがねぇ。そうだろ?」


 ワキワキと腕を回してテンションの高揚をアピールするおにぎり。


「見るからに制服デザインには自身アリって顔だな」

「おうよ。ユートも大満足の出来だと自負してるぜ」


 大きく出たな。今のボクは魔萌都市【秋葉原】で揉まれた制服ものの玄人だぞ。

 そんじょそこらの制服デザインでは納得しない審美眼を相手に大丈夫かな?


「衣装の試作品も用意してあるぜ。そうだな……」


 おにぎりはタマとエスト、それからミルちゃんの順に一瞥して──


「せっかくだから三人に試着してもらおうか。モデルがあったほうが制服の良さも目に見えて分かりやすいしな。試着用の更衣室はそこの小部屋でいいか」


「おーけー」

「上等っ」

「ふぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」


 前向きに了解する二人の声に混ざって、顔を真っ赤にしたミルちゃんの悲鳴が仮説酒場にこだまする。

 さすがに彼女には晴天の霹靂みたいな超展開だったらしい。


「いいじゃん。いいじゃん。ミルちゃんも一緒に試着しようよ」


「そうそう。コスプ……もとい人間界の娯楽を勉強するのも魔王のお仕事!」


「じゃあコレが三人の着る衣装な。タマが黒い包み、エストリアが緑の包み、魔王ちゃんが赤い包みな。サイズはフリーサイズだから三人の体型なら問題ないだろう」


「で、ですけど……その……前に冒険者の酒場の給仕の方の服装をみましたけど、ああいう大胆なデザインは、その、私の恥ずかしい体型ではひゃああああっ」


 しどろもどろになりつつ丁重にお断りしようとするミルちゃんだったが、モンスターウォールなみに押しの強い三人のノリに抗えるわけもなく、衣装をおにぎりに押し付けられた彼女は、ほとんどタマとエストに連れ去られるかたちで更衣室へドナドナされていった。


「お美事にござる」

「それほどでもない」


 グッとハンドサインで喜びを分かち合う漢が二人。


 ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふっ。

 あのわがままボディのミルちゃんがウェイトレス姿にだとォッ!?

 おにぎり、心の友よ、お前が親友で本当に良かった。

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