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hang out in bars ~ポピュラーっす!~

「いい飲み仲間だ! ハチミツ酒を飲もう!」


【黒木勇斗語録・スカイリム 酒場のノルド人】

 翌日──


「どう? まだ外装ガワとバーカウンターだけ用意した粉飾正面玄関フォールスフロントのモデルハウスだけど、こんな感じでどうかな?」


「昨日の今日の話なのにはっやーい!」


 話が進めば手際は速い。南部の獣人は即準備即実行がモットー。

 タマが町の雛形を視察にきたときには既に、背後のほうで建築資材を詰め込んだ大鷲による輸送機を大量に控えさせていた準備の良さにも驚いたが、酒場を建設すると待機していた大工衆に指示をするなり、たったの半日で酒場を一軒まるまる作ってしまったのには二度驚いた。


 もうボクらからの呼び出しを受けたときには、タマはここに酒場を即おっ建てるって決め込んでいたんだろうな。


「ずいぶん変わった建築様式なんですね」


 ミルちゃんが出来上がった酒場に好奇の目を寄せる。

 魔界はコテコテの中世の城みたいな石材の建築様式が主流らしいから、こういうタイプは初めて見るシロモノなんだろう。


「これは西部式大衆酒場ウエスタン・サルーンと呼ばれている建築様式でね、およそ150年くらい前に異邦人エトランゼがフォートリアの人間入植地に持ち込んだ建築技術なの。王都から北では見られないけど、大陸最南部の開拓地ではわりとポピュラーなほうかな」


 タマがミルちゃんに説明する。


「短時間で建てられて道路面から見る分には見栄え良し。簡素な組み立て式の木造建築だから解体と撤退も容易。空前のミスリルラッシュが起きた130年前の南部山岳地帯では、鉱山の麓に出来た流行街で大量にコレが建てられたそうだよ」


 彼女は知らないことだけど、この様式はウエスタンという名詞が物語るように、アメリカの西部開拓時代によく見られた建築物だ。たぶんその建築様式を伝えたという『ウィリアム・H・ボニー』なる異邦人エトランゼも、出現が地球時間で十九世紀後期から察するに西部劇に出てくるようなフロンティア出身の勇者だったんだろう。


 リップルの酒場を代表として大陸各地でよく見かけるレンガ様式の酒場とは異なり、西部式大衆酒場ウエスタン・サルーン様式は、とにかく『つくり』が木箱のようで簡素だ。

 言い方は悪いが道路に面した玄関口だけ豪華にしたハリボテ感が強い。


 それでいいのだ。このいいかげんさが西部式大衆酒場ウエスタン・サルーンの良さなのだ。

 まるで映画のセットのような外観が、『いかにも急激に人が集まったんで即興で建てました』という流行街独特の味を引き出してくれる。テーマパークには『それらしさ』の空気も重んじなければいけない。


 西洋ファンタジーに西部劇の施設という世界観のガバガバさはさておいて。

 いいんだよ。西ってところは合ってるから。細かいことは気にするな。


「中も見てみる? 椅子やテーブル、宿泊所の寝台は用意してないけど」

「無論」

「風に揺れる酒場のスイングドアを見せられたら、入るしかないですよね」


 さっそく「やってるー?」とボケをかましつつ酒場の中に入るボクとエスト。


「いいねぇ~っ。ガンナーにクラスチェンジしたい気分になるよ」

「分かる分かる。このスイングドアをキィと開いてクールに入るのがまた、西部劇のロールプレイしてるみたいで気分いいんですよねー」


 酒場の内装は想像通りの西部劇様式。

 高価なマホガニー材で造られたカウンター。

 これから山と古今東西の酒瓶が並べられるであろう巨大な棚。

 太陽光をたっぷり屋内に届け入れるガラス窓。

 踊り子や吟遊詩人が客のために芸を振るうための舞台。

 裏には厨房と倉庫。二階は宿として使える小部屋が多数。

 よし、大衆酒場に必須の条件はすべてクリアしている。

 

「パーフェクトだタマちゃん」

「ふふん、道楽で世界各地を回った経験はダテじゃないもの」


 トイレ設備も上下水道に繋がってて問題なし。

 衛生面は本場西部劇そのままでは困るので近代様式に拘ってもらった。 

 木工ギルドの大工衆もやるなぁ。きちんと水洗に対応して造ってあるよ。

 最悪、汲み取り式でも別によかったんだけど。職人気質は侮りがたし。


「えと、この酒場はモデルハウスって言ってたよね。てことは、ホンモノはまた別のところに建てる予定なの?」

「うん。これはあくまで『こういうのを造ります』って見本。実際に建てるのはもうちょっと広めに設計するつもり。あと建設予定地はこの町の北側にある二等地ね」


 タマが町の簡易地図を開いて指した場所は、メインストリートぞいの一等地からかなり離れた場末の二等地だった。

 特に袋小路とかスラムってわけじゃないんだけど、冒険者ギルド出張所建設予定地の一等区域に比べて二等地のここは非常に中央とのアクセスが悪い。


 なぜなら、ここはボクがあえて設計した裏街道だからだ。

 あまり表沙汰にしたくないクエストの発注場、盗賊が使うキーピックの取り扱い店、薬士や錬金術師が扱う毒物や劇薬の販売所、賭博場カジノの営業など、後ろ暗い施設を設置するためにこしらえた、いうなれば『夜の町』。おせじにも良い子が行くところとは呼べない。


「ここ、道徳的にあんまりよろしくない地区だけどいいの?」

「そういうところだからいいんだよユートくん。ギルド出張場の酒場はギルド出張所の酒場で別に建ててもらって、こっちは下町にある通好みの酒場って方針で行きたいからさ」


「あー、だからメインストリートの一等地でなく、こんな裏街道を」

「そういうこと。冒険者ギルド直営店の酒場じゃ、自分たち迷宮経営者スタッフは安心して酒も飲めないからさ。自分せいじょの息のかかった酒場なら密談もやりやすいでしょ?」


「道理だな」


 悪くない発案だ。

 企業秘密に関する話題は城と楽屋でしか話せないという節約は割と辛い。

 スタッフだって酒場で飲んで騒いで仕事について愚痴りたいこともあるだろう。


 業界の裏を知る身として、通うなら表玄関にズデンと建つギルド直営の酒場よりも、こっちの裏口にひっそりと建つ通御用達の酒場ほうが顔バレしにくくて助かる。

 メインクエストの受注はあちらの直営店に任せて、こっちは純粋な酒飲みの憩いの場としての拠点にしよう。あるいは出張所の出張所として、小さいサブクエストの受注が受けられる穴場にするのもいいかもしれない。


「あと取り扱うメニューの差別化をしたいから、東に作ってある水場の湖にも二号店を建築予定。そっちは魚介類をメインにして、それに合う酒を用意したいね」


「考えてるなぁ」


「いい酒を飲むためなら苦労と努力は惜しまない性分!」


 信じられるかい?

 目の前にいる飲んだくれの姉さん、こう見えても【聖女】なんですぜ。


「店舗の内装はOK。二号店の案も許可。酒場メニューに関してはタマのほうが詳しいだろうから飛ばすとして、それじゃあ次の課題は酒場の人材確保かな」


「その課題も既に専属スタッフを用意してあるよ」


「もうウェイトレスやマスターの人員を確保してあんの!?」


「ノンノン♪ それらもすぐに信用のおける人材を派遣可能だけど、それ以前に酒場経営には大切な要素があるよね? 酒とツマミ以外で男性客を取り込むための第一要素が」


「あー」


 タマの意味深な言葉の意味を最初に察したのはエストだった。


「それってもしかして」


 やや遅れてボクもタマの言葉の意味するところが分かった。


「その『もしかして』だよ。ギルド直営店でも重要視されているアレ」


 ああ、大事だね。男衆にとっては、ときに酒の美味さよりよりも大事だ。

 いいや、アレはむしろ目で愉しむ酒のツマミに等しい。

 定番メニューの干し肉や塩漬け魚も、人気メニューのチーズや腸詰め肉も、集客力という要素においては到底これにはかなわない。


「ズバリ、ウェイトレスの制服デザイン! これには特に拘らないとね♪」


 おお、ブラボー♪

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