urban development; town development ~しむしてぃ~
こうして見ると○○さまも苦労しましたが、
それ以上に人間達も大変だったんですね。
○○さま。ちょっと人々の神殿の中を覗いて見ませんか。
・・・・・・・・・。
誰もいませんね。
以前ならカミさま!!といろんなことを訴えかけてきたのに
町が大きくなるにつれて
僕らはこんな風にだんだん忘れられてゆくんでしょうかね
でも人間達にとってカミが必要でない時
忘れている時が一番幸せな時なのかも。
今後 彼らが○○さまの力を必要とするときが
永遠に来ないことを僕らは祈りましょうか!
【黒木勇斗語録・アクトレイザー 天使】
ダンジョンの企画案が冒険者ギルド側に受け入れられて数日後。
「ひゃ~っ、話には聞いていたけど、ほんとにインスタントで『ぽん!』ってカンジで出来ちゃうだね」
『ダンジョン攻略に挑戦する冒険者が集う拠点の雛形が完成した』
という、迷魔城からの連絡を受けて視察にやってきたタマの第一声がこれだった。
「これ鳥の使い魔で定期観察していた観察員が見たら仰天するよ。つい先日まで鬱蒼とした森だった場所に、一晩でいきなり舗装された広範囲の敷地が生まれてんだもの。タネ分かってる自分でも直に見るとびっくりだね」
視界に広がる昨日まで『森だった地区』を溜息混じりに眺めながら、タマは感歎の視線をボクとミルちゃんに向けた。
石畳つくりのメインストリートと中央広場にデンと構えられたモニュメント、そこから放射状に伸びる各施設建設予定地に繋がる小道。北を見れば広大な森林部のずっと先、【迷魔王の墓石】と呼ばれる巨大な一枚岩の上に聳えるおどろおどろしい迷魔城のシルエットが確認できる。
フォートリア南部『迷いの森』に誕生した迷宮攻略拠点『テセウスの町』。
名前は千年前に迷魔王を倒した勇者『テーセウス』からもじってみた。
ボクの世界でもラビリンス攻略の第一人者といえばこの名前だしね。馴染み深い名詞ほど利用者も憶えやすい。
この町のモニュメントとしてデザインした『牛頭の魔王と半裸の勇者がバトってる像』は、千年前の伝説を参考して設計してみた。
こういう場所には町のシンボルというか、観光名所の一面も必要だからね。
それと伝承に則ったシンボルというモノは見る者を鼓舞させる効果もある。
自分もこの伝説に出てくる勇者のようにありたい。
そう冒険者たちに物質的に思わせることに当のシンボルの意味がある。
これが観光資源として好評のようなら、魔王ミノスと勇者テーセウスの像のほかに、ヒロイン役だった地図屋の娘『アリアドネ』と、テーセウスの仲間として活躍した異邦人『安倍清明』の彫像も用意する予定でいる。
「ミル、この町もあなたが創ったダンジョンなのよね?」
「は、はい。実をいうと私も『創れちゃうんだ……』って驚いてます」
はっはっはっ、そこで「さすがユートさま」と感心の目でボクを見ないでくれたまえミルちゃん。照れるじゃないか。
「鼻が伸びてるわよユートくん」
「ついでに鼻の下も伸びてますねニートさん」
二人ともうまいこといいよるわ。
「冒険者の拠点の完成は最低でもオープン前に、施設も可能な限り早いうちに。それなら森を切り開いてイチから建設するよりも、ダンジョン生成を利用して一夜城の建設のほうが効率的ですよね?」
自信満々のドヤ顔でウインクするエスト。
「実際問題、真面目に公共事業で町の土台を建設してたら、森の伐採と宅地造成に何ヶ月かかるか分かったもんじゃないもんな」
ミルちゃんの言うところでは、ダンジョンをイチからシステムを組み上げて建設して、冒険者を招くぐらいのクオリティーにするには、設計など含めて、だいたい地下六階のサイズなら完成に一ヶ月はかかるんだそうだ。
出来合いのダンジョンの改築ならその半分以下の期間で済むらしいが、それらはあくまでもダンジョン設計に手馴れている一人前のダンジョンマスターが創ったらの話。
ミルちゃんみたいなダンジョンマスターの資格をとれたばかりの初心者だと、改築でも約三週間以上はかかる計算だという。
なので当ダンジョンのベータ版、テストプレイのオープンも一ヵ月後であると冒険者ギルド側に伝えてある。
テストプレイ中の不具合やらなにやらで多少の延期はあるだろうけど、遅くても二ヶ月後には通常の冒険者が楽しめるクオリティーに仕上げられるはずだ。
ただ──
ダンジョンを生成してテストプレイを始める云々の前に、お客様である冒険者がクエスト受注や攻略準備をする拠点の設計の段階で、ボクたちはひとつの問題にブチ当たってしまった。
あれ? これ町を作るのに最低でも一年近くかからね?
そうなのである。
ラストダンジョンである迷魔城が見えて、用意された四つのダンジョンとのアクセスも可能な条件で、かつフォートリアからも徒歩半日以内で物資や人材の往復が可能という理想的な立地条件を探すと、どうしても宅地造成が困難な迷いの森のド真ん中に行き着いてしまうのである。
さすがにコレはボクらも困った。
アクセス面ではともかくとして、迷いの森の密林地帯に町を作るというのは、あまりにも未開地開拓レベルの難行過ぎる。
この問題について、タマは公共事業として討伐クエストや土木工事の請負が増えるから歓迎といってくれたけど、このテの知識には疎いボクでも、人跡未踏の地を人が住める入植地に改造するには恐ろしい手間と工事費と時間がかかるということくらい知っている。
密林内のモンスター討伐・森林伐採工事・沼地の埋め立てなどの宅地造成・安全に行き来できるフォートリアと現地を繋ぐ道の舗装、これだけでもう年単位かかる国家事業になってしまう。
だからといって拠点設置の案を廃して、フォートリア本国から直接ダンジョンに行くにはアクセスが悪すぎる。
どうしたものかと思い悩んだ末、つい先日に行われた二度目の会議で、不意にエストがこんなことを口にした。
『だったら町もダンジョンとして扱えばよくない?』
目から鱗の発言だった。
さすがゲーム部暮らしでTRPGでさんざんやってきたGM経験者である。ネトゲの準廃人だったボクとはまた違う角度で物を見ているから、問題解決の目の付け所が自分とは斜め下で違う。
言われて見ればそうなのだ。
ダンジョンというと洞窟・迷宮・塔・城といった建築物の中にあるものと錯覚しがちだけど、広義的に見ればフィールドとして扱われている山道や密林も、『道に迷う』という条件をクリアさえすればダンジョンとして成り立つのである。
ああっ、ゲーマーなのになんでこんな簡単なこと思いつかなかったのか。
3Dダンジョンものだってフィールド式ダンジョンは数多いというのに。
町はフィールドに否ズという思い込みで目が曇っていたんだろうな。
これこそコロンブスの卵。発想の勝利だ。
「屁理屈こねて【ダンジョンの素】から生成してみたにしては上出来だろ?」
なにかのためにと残しておいてよかった『ダンジョンの素』。
要所要所で使う機会があるのに勿体無くていつまでも使えない【エリクサー症候群】も、ときには思わぬ役に立つもんだ。
この町はMAPは広いものの平屋1階層の低コストダンジョン。
別に攻略してもらうためのものではないため、トラップ・モンスター・宝箱の御三家を配置する必要がなく、ワープゾーンや回復ポイントなどのギミックも必要ない。
なので必要とする【LP】も安い。総合的に見ればダンジョンとして最低限の要素が詰まった地下2層式の小規模ダンジョンよりも安いくらいだ。
他のダンジョンと同じようにダンジョンごとに毎月消費されるLPの維持費はかかるし、このダンジョンでのLP獲得は設定上ありえないので常時赤字になってまうが、この拠点のあるなしで他のダンジョンの集客数がケタ単位で変わることを考えれば必要経費の範囲だ。
「上出来すぎるわよ。ダンジョン生成って手軽ね。魔界の魔術文明こわいわ」
「それはボクも同感」
まず設計図を作って、次にミルちゃんがダンジョンマスタールームに入ってタブレット相手にあれやこれやと設定して、必要となるLPを支払って、完了の手続きを終えたらタブレットのモニターに【完成まであと○○時間】とダンジョン完成までの残り時間が表示されて、時間経過して完了のお知らせが届いたら【チン♪】と、何もなかった場所にいきなりダンジョンが誕生というこのプロセス。
冷凍食品をレンジで温めるみたいな肯定にはさすがのボクも驚いた。
まるで二十一世紀からやってきた猫型ロボットのヒミツ道具を見てる気分だったよ。
本来のちゃんとしたダンジョンなら完成に数週間かかるが、この町ダンジョンは内容が簡素なこともあって生成に半日程度しかかからなかった。
このダンジョンに配置したものは、平地の敷地・石畳の道・モニュメントがある広場・回復の泉を改造した水場と上下水道といった街づくりのうえで必要なものだけだ。
「建築物などに関しては、コスト削減のために冒険者側で建ててもらう」
「建物までポンとインスタントに用意すると不信がられますし」
「それは嬉しいね。木工ギルドの親方衆たちも喜ぶよ」
フォートリアは大陸で最も木工ギルドが活躍している国だ。
『この国の大工が五人揃ったなら、三日で簡易的な酒場を建てられる』なんて評されるくらい、フォートリアは木造建築技術の高さがウリ。
建造物の建築は案だけ出して、あとは木工ギルドの大工に任せればいい。
彼らなら誰もが満足のいく出来栄えで、冒険者たちに必要な施設を手早く揃えてくれるだろう。
「じゃあ、最初になにをこの町に建てる?」
「そんなの」
「言うまでもないよね」
武器屋か? 防具屋か? 道具屋か?
いいや、違うね。そんなものは露天商でも事足りる。
「?」
言葉の意味がよくわかってないというミルちゃんをよそに、ボクとタマとエストは顔を合わせ、ニヤリと獣面の笑みをこぼした。
「「「冒険者の酒場ッ!」です!」だよ!」
これなくして冒険ははじまりませぬ。