a relic of antiquity ~ラビリンス+レリック=迷遺物~
「物欲しそうな顔をするなよ、依頼はまだある」
【黒木勇斗語録・デモンズソウルズ メフィストフェレス】
勇者として巨悪と戦うことになったら、キミは何を手に入れたい?
生涯遊んで暮らせる金?
悪くないね。俗物と言われようとも人として最も現実的な夢だ。
しかし冒険中にこれらを過度に手にするのは勇者の教育上よくない。
あと闇世界という不良債権はノーサンキュー。
魔王に囚われた美人でお淑やかなプリンセス?
サイコーだね。物語の中盤で助けられるのならなおのこと良い。
宿屋に泊まって「ゆうべはおたのしみでしたね」と冷やかされるのも一興。
魔王を倒して世界を平和にした後は逆玉の輿で王位もついてくる。浪漫だ。
……なんでボクの回りにはウンコとアル中と蜥蜴のプリンセスしかいないんだ。
みんなが笑顔でいられる理想郷? 永遠の愛? 争いのない平和な世界?
フン、くだらんな。理想論だけの甘ちゃんはママのおっぱいでも吸ってな。
勇者が求めるものは多々ある。
金・名声・権力といった将来的な安定に繋がる泥臭いものから、ヒロインとの恋・世界平和・そして伝説へ……みたいな脳内お花畑の理想論まで様々だ。
しかしである。
これらは本来、最終的に手に入れるものでなければならない。
少し質問の内容が悪かったようだ。訂正しよう。
Q魔王と四天王が待つラストダンジョン手前の最終段階のタイミング。
その状況にいるキミは勇者の立場から見てなにが欲しい?
A──伝説の武具が欲しい──
これであろう。
剣槍弓と種類は色々だけど、概ねの答えはこれに集約される。
冒険者ならば誰もが一生に一度くらいは夢見る最強武器。
英雄たちが遺した伝説の武器を振るってみたい。
神々の加護を受けた聖なる武器を授かってみたい。
暗黒の力が込められた魔性の武器に魅入られたい。
伝説武器・英霊武器・神聖武器・魔王武器・遺失武器。
どれもこれもが神話や伝承に残されている強力な存在だ。
ボクが持っている斬竜剣グラムなんか典型的な伝説の武器だろう。
もし? もしもである。
こんな夢物語にしか登場しないモノを自分の手で握ることができたら?
誰もが平等に伝説の武具をゲットできる冒険の機会に恵まれたとしたら?
入手条件は厳しい。時間も金もかかる。高いレベルと運も必要だ。
ジョブレベルの前提条件を満たせなくて門前払いされる者は多いだろう。
参加してもクエストの厳しさから途中で挫折する者も続出するだろう。
それでも異邦人や真の勇者のような、ほんの一握りの神々に選ばれし者だけにしか与えられない武器を一般の冒険者が貰えるチャンスがあると知ったら、誰も彼もが我先にと【入手の機会】という試練の門を叩くはずだ。
どうなさいました冒険者さま?
さぁさぁ、お気を確かに。ガッカリするにはおよびません。
冒険者さまの資金はまだ挑戦6回分もある。
まだまだクエストクリアのチャンスは残されている。
どうぞ存分に伝説を追い求めてください。
我々は、その姿をココロから、応援するものデス。
──── 閑話休題 ────
「昨日の話なんだけど、下見もかねて迷魔城の中を探検してたとき、蔵や倉庫を調査中に興味深いものを発見したんだ」
ボクはカバンから一本の短剣を取り出してテーブルの上に置いた。
「なによこのボロボロの短剣は。黒サビで使い物にならないじゃない」
「うん。それも魔界の黒サビ。地上でつくことはないけど非常に強力なサビで、人間界の技術じゃどうにもならないシロモノだ」
「ふぅん。錆びてはいるけどモノは悪くないわね」
「さすがの審美眼。その通りさ。一見するとガラクタなんだけど、黒サビを落として鍛えなおせばイイモノになるんだなこれが」
「つまりアンタの言う育成武器ってこれのこと?」
「正解。過去に迷遺物と呼ばれてた武器らしい」
学級委員会が終わってすぐ、ボクたちはミルちゃんの案内で何かしら運営に利用できるものはないかと、迷魔城の倉庫を見て回ることになった。
そこでボクたちはミルちゃんも知らなかった興味深い遺失物を発見した。
先代の迷魔王が引退してから千年間も封印ないし放置されていた地下倉庫。
残念ながら宝物庫ではなかったので目に見えて分かるような強力な秘宝とかはなかったけど、倉庫を開けてみたらビックリ仰天。
そこには過去に先代が迷宮運営のさいに冒険者に景品として渡していたアイテムの遺物が大量に眠っていたのである。
ご丁寧に冒険者に配っていたと思われる大量の小冊子もついて。
「どうやら迷魔王は冒険者たちに景品としてコイツを渡し、成果を上げたものには段階ごとの強化をしてあげてたらしいんだ。第一段階は錆び付いたガラクタだけど、何段階から強化や進化を経て、最終的には伝説武器クラスの魔界武器に昇華される予定だったみたい」
「みたい?」
「どうやらソコまで辿り付けた冒険者がいなかったらしい」
希少価値を維持するためにクエスト難易度を厳しくしすぎたんだろう。
「このダガーのほかにも在庫はあるの?」
「そりゃもうたくさん」
「……造ったはいいけど、さばききれなかったのね」
「みたい」
迷魔王はかなり長期間の運営を予定していたのか、どれだけ冒険者が来てもいいようにしていたのか、この素材武器を一国の軍隊に支給できるくらいの量を保有していた。
昨日の今日の発見なんで完全に在庫量を把握しているわけじゃないけど、短剣・長剣・大剣の御三家と、槍と斧と杖の存在は確認した。
構造上の問題か弓は存在せず、銃もこの頃は異邦人が持ち込んでいないので無かった。
「つまりは千年前の企画の使い回しってワケね」
「悪くないだろ? ボクが聖竜神にやらされた試練【悪竜100体斬り】と似たようなものさ。最初はナマクラ武器だけど、クエストを重ねるごとに少しずつ強化されていく。強化手順のノウハウも探したらあったよ。最終段階までいくと現代でも魔王相手に通用するヤバい性能になる」
もっとも最終段階のブッ壊れ性能に関しては、『ただし能力の発揮は迷魔王のテリトリー内だけに限る』という条件付きなんだけどね。
「よさげね。夢があるしロマンもあるから冒険者どもが食いつくわ」
「最終段階までの道のりは厳しくするからクリア日数は年単位の予定」
「クリア条件は? 連続クエストを用意してクリアにあわせて順次強化するってのは想像つくけど、クリアに年単位かかるって、どんなクエストを用意するつもりなの?」
「先人の知恵を利用する」
じゃらり。
ボクは次にカバンから三種類の貨幣を取り出してテーブルに並べた。
「貨幣? 古今この大陸で流通していた通貨には見えないけど」
「そりゃそうさ。千年前に迷魔王が造った迷宮貨幣だからね」
おそるべきは迷魔王。
まさか千年前に既にゲーム内のみで流通する貨幣の概念を思いつくとは。
「こいつを迷宮の宝箱に仕込んで冒険者に集めさせるんだ。んで、一定数を集めたらクエストクリア。これを繰り返させる」
このときボクにはまだ知るすべはなかったけど──
迷遺物クエストが実装されることになる半年後、当クエストに挑んだ多くの冒険者たちは、後にこの育成武器の企画をこう評した。
──『迷貨幣終身刑』と……