draw a prize in the lottery ~出るか出ないか二分の一にゃ~
夢の中で手に入れた
アイテムが消えていく
夢みる宝石
バクのなみだ
銀の手
銀の手は消えない!
【黒木勇斗語録・ロマンシング サガ3 夢魔攻略後】
「ガチャってのは箱の中に多数のカプセルが入ったクジ引きのことさ。中身がランダムで入っているカプセルをひとつ無作為に取り出して、引いたカプセルを開けると景品が入っているって寸法」
「箱はスロットに似たレバー式のカラクリ仕掛けなのね、図面を見ると構造は単純ね。コインを入れてレバーを回転させると、箱に詰められているカプセルがかき回されて、出口から一つ排出させると」
「そのときカプセルがガチャガチャと音を立てて掻き回されるところから『ガチャ』って名前がついた」
「幼稚な名前ね」
「だが、それがいい」
ガチャガチャ、ガチャポン、ガシャポン、ピーカップ。
硬貨を入れてレバーを回すとカプセル入りの玩具が出てくる小型の自動販売機商法は、俗に『ガチャ』と簡略化されて呼称され、ボクの親父がガキの頃、ヘタすりゃあ爺さんの幼年期から存在し、長く子供のオモチャ販売機として愛されてきた。
最近は200円とか500円とかの高級ガチャが増え、すっかり『大きなオトモダチのオモチャ』という高価な印象になっちゃったけど。
常連客から長期的にカネを毟り取り、運営の安定した収入源になる定番の課金要素といえば、やはりコレがトップに挙げられるだろう。
ランダム性のあるクジ引きにはロマンがある。童心を沸き立たせる夢がある。この世界にだって神殿などが主催する富籤の文化は存在するし、お祭りで露天や屋台に行けば様々な雑貨屋が同じようなランダムくじをやってたりする。
異世界に現実世界、世界や人種や文化を問わず、確率を利用した博打ってのは、どこでも似たような発想に行き着くもんだ。
「ふむ、システムそのものは古くからある福引か。やたらギミックにこってるようだけど、ここに書いてあるカプセルとか機械とかはもう準備してあるの?」
「小型自動販売機とカプセルなら、もうフォートリアの木工ギルドと鍛冶ギルドに依頼して作らせてる。機構は単純なものだから明後日には試作品が出来るってさ。専用コインも彫金ギルドに鋳造とデザインをお願いしてる」
「手が早いのね」
「イチバンの金蔓だからね。ここは手を抜かない」
「景品の中身は?」
「オープン後のイベントやらなにやらで随時追加していく予定だけど、まずはレアアイテムの交換券、それと施設の無料サービス券やダンジョンの入場無料券、最後に売ればそこそこの金になる素材アイテムの交換券、このへんをアタリとして仕込む。ハズレは薬草とか割引券とかテキトーに」
「定番ね。さっき専用コインって言ったわね、つまりギルドの受付でコインに交換してクジ引きさせる手法ね。交換につかうものは現金? それだとちょっとカジノ要素ありすぎて役所がうるさいわよ」
「そこも考えてある。ガチャを回すためのコインに交換する要素は、ダンジョン攻略で加算される功績ポイントを使う。よく冒険者ギルドでも特別イベントでやってるじゃん。クエストで専用ポイントを溜めて期間中にアイテムと交換しようってアレ」
「な・る・ほ・ど」
リップルの口角がいやらしく歪む。
彼女にもガチャの課金要素に隠れた底なしの『闇』が分かってきたらしい。
「コインはいくつかの種類に分けてあるわね。これは高いポイントで交換するコインほど『いいもの』が出るってことでいいのよね?」
「その通り。最初は一種類で、最終的には三段階を予定してる」
「アタリで貰えるレアアイテムは、ギルド主宰のイベントクエストでよくやる景品報酬と同じでいいの?」
「うん。そのほうが冒険者も理解しやすいからね。一般的な武器防具の交換券のほかに、イベントでよくやる限定ジョーク装備もアリだし、高級ガチャほど客寄せ目的の激レアなアイテムを仕込んでいったほうがおいしい。純粋なオタカラよりも、冒険者間で自慢になるものがいいな」
「例を上げると?」
「上級職になるのに必要な転職アイテムとかかな?」
「ジョブ専用の上級装備作成に必要な素材とかもいいですね」
MMO商売の基本だね。
「ついでにガチャにはポップアイテムも景品に仕込む」
「なによそれ?」
「特定のポイントで使用して、倒せばレアなアイテムや装備を落とす特殊モンスターを召喚する釣り餌さ。ただガチャを回してアタリ引いたら進呈じゃ物足りないし、冒険者ならレアものは血と汗と涙を流して取らないとありがたみがないからね。よりよいものほど難関バトルをしてもらう」
「で、苦労して倒しても目的のモノが出る確率は低いんでしょ?」
「あ・た・ぼ・う・よ」
運営側としてそうそうラクに激レアをくれてやるわけにはいかんなぁ。
ハズレでもそれなりのものをドロップさせてあげる予定ではあるけど。
「くじ景品の売買は可能にする?」
「クジの多様性とアイテムの流動化を考えればそれがいい。サービス券とかハズレアイテムとかは個人取引可能でいいし、ギルドのオークションでのみ売買可能という限定付きなら、釣り餌やドロップするレアアイテムの取引もOKでいい。こっちに手数料も入るし、どのモンスターが出すアイテムが人気なのかって、競売の売買価格から冒険者のニーズも分かるからね」
「冒険者の身になってガチャでレアアイテムを求める状況を想像したら背筋が寒くなったわ。一回の戦闘で取れなかったら、何度も入場料払ってクエスト攻略してポイント溜めて、目的のものが出るかどうかも分からないガチャを幾度も回して、出なきゃ競売所で高い金を払って釣り餌を買うしかなくて、それは人気なアイテムほど値が張って、さらに再挑戦しても目的アイテムを落とさなかったらイチからやりなおしで、出るまで延々その繰り返しとか……」
聞いているだけでゾッとするね。
「疑問なんだけど、ガチャっていうカラクリ仕掛けにはなんか意味はあるの? 別にクジ引きなら神殿がよくやってる富くじや、商人どもがやる数字選択式の抽選クジでもいいんじゃない? その場で当たり外れがわかるのがいいってんなら、なにもこんなギミックを用意しなくても、縁日で見かけるような手づかみで選ばせる無作為選択クジでも問題ないんだし」
「あー、そこは説明がちょっと難しいんだけど……」
ガチャの抱える深い闇について、どうリップルに説明したものか。
「ガチャの真髄は、コインを入れてレバーを回せば、即座になにかしらの景品がもらえるという、童心をくすぐるランダム要素とギミックの娯楽性にあるんです」
そのとき、自信満々のドヤ顔でエストが言った。
「かきまわされた中から排出されるカプセルをこの目で見るワクワク。取り出したカプセルから中身を取り出すまでのハラハラ。中身を見た瞬間の悲喜こもごも。その場で手に入れたアタリを周囲にいる同士とトレードしあう駆け引き。競売所に行って引いたものの相場を見て戦慄する楽しみ。ガチャにはそれらの感動の要素がみっちりと詰まっています。ハマるともうやめられないとまらない。一度でも大当たりを引いてしまえばそこで底なし沼へドボン。もう中毒からは逃れられない」
言うねぇ~っ。
ゲームだと電子化されてて意味合いは薄れたけど、ガチャの怖さはまさにそれ。
「もっというならガチャガチャという音とポンと出てくるカプセルというカラクリ仕掛け、なにが出るかカプセルが箱から目に見えているのに分からないランダム性、これらが射幸心を煽って破滅を誘う領域にまで高めてくれる。もう、ここまでいくとある種の麻薬ですね」
ゾワリ……
「考えれば考えるほどケツの毛まで毟る悪魔の発想ね」
「ボクもそう思う」
「こいつは即採用していいけど細部は要検討ね。システムのすごさは分かったけど、まずは自動販売機のサンプルが届かないと」
第二項のガチャの件はひとまず保留にし、リップルは企画書のページを進める。
「4ページにある『釣り餌による特殊モンスターのポップ』『特殊モンスター討伐後の特別アイテムドロップ』の件は先ほどの話でおおよそを理解したわ。説明が欲しいのは次の企画案がある8ページ目」
ユーザーに長期間に渡って冒険を楽しんでもらうためには、長期間拘束させつつも楽しめる連続クエストや長編イベントが必要だ。
飽きさせないために段階ごとに目に見える報酬も与えなくてはならないが、クリアしたらポンとあたりさわりのない中間報酬を進呈するだけじゃあ面白くない。
目に見えて、肌で感じて、成長を実感し、周囲に自慢できる要素。
「ここにある『育成武器の導入』について説明もらえるかしら?」
──冒険者を年単位で長期間拘束するクエストといったらコレ。
最終段階まで進めれば『伝説の武器』になる育成アイテムの実装だ!