That game incurs monthly charges. ~課金の花道~
一番大事な物なんて、
他人から見れば何の価値も無いものだったりするんだよね
【黒木勇斗語録・アンリミテッドサガ ローラ】
迷魔城の学級委員会で大雑把に纏めた企画案は第一項目の審議を終えた。
のちのち多くのダンジョン探索者を斡旋することになる冒険者ギルド代表のリップルとの打ち合わせは、これが意外なほどスムーズに進行してくれている。
ぶっちゃけ経営についてまったくのシロウトであるボクたちが作ったのは、スケールはともかくとして、内容は学園祭の出展レベルな『ごっこ遊び』な企画書。
その道で成功したベンチャーのプロの目で見てどう判断されるか不安だったし、最悪、一瞥されただけで即ボツにされるんじゃないかと内心でヒヤヒヤしていた。
この世界の娯楽産業について酸いも甘いも嗅ぎ分けている元遊び人のリップルが、とても興味深い表情で企画案にOKのサインを出したって事は、個人的な好奇心のほかに冒険者ギルド側にも十分な利があると判断したからだろう。
遊び人から賢者に転職なんていうトンデモな悟りを開いたリップルは、これでなかなかのリアリストだ。勝負事にロマンは求めても自分に都合のいい幻想は抱かない。
彼女がバクチで「これは勝てる」と思うときは、密度の濃い計算のうえでの確信があるとき、または既に八割がた勝てる下準備が勝負前から整っているかのどちらかだ。
だから安心できる。
この企画はミスなく回せば大きく成功する潜在力があると安心できる。
ここから実際に開園して成功するかコケるかは、運営の手腕の問題だ。
どんなに高級で新鮮な素材を使ったって、調理する側の人間の技術や発想がクソなら出来上がる飯もクソになる。それだけは避けたい。
「で、冒険者たちをそっちがこしらえたダンジョンに送り込むとしてよ、具体的にどうするつもり? ただ単純にゲート開いて送り込むだけ? この第一項には営業時間とか滞在時間の制限とか管理がややっこしそうな案が入ってるけど」
「それについては企画案の第二項を用意してある」
ダンジョン経営の大きな雛形になる第一項の基本編が通ったので、ボクは次の話に進めるため、企画案の第二項にあたる集客編の企画書をリップルに手渡した。
さぁて、ゼニゲバのリップルがコレにどんな反応を示すか楽しみだ。
「冒険者をダンジョンに迎えるときの原則事項と集客案……ね」
ペラリペラリと資料の内容を読み込むリップル。
内容に自信があると分かっていても、この感想を待つ間は心臓に悪い。
「ユート」
五分ほどして企画書を読み終えたリップルはボクを一瞥し、
「これエグいわ」
と、とてもとても喜ばしい前向きな感想を口にした。
「そんなにエグイかなー? ふつーだと思うけど」
「きわめて普通の商売だよ。なぁ?」
「ユートにエストリア、コレが普通だってんなら、アンタらは向こうの世界でいったいナニ見てきたのよ?」
ジトっした目でリップルはボクとエストを見る。
「ナニっていわれましても」
「ようするにWEBゲームやネットゲームの課金システムの応用?」
そうなのである。
この第二項には如何にして客から金を搾り取るかの案が「これでもかこれでもか! えいえいっ!」とばかりに書き込んである。
困ったことにソレは、ボクの世界で当たり前に行われているブラウザゲーやネトゲの課金システムの応用、または課金要素そのまんまのシステムだった。
「向こうの専門用語は分からないけど、ようするにユートの世界の有料の遊戯に、こういう商法があって、ソレが当たり前のように罷り通ってるわけね。私もアコギなことさんざんやってる身だけど、これにはさすがに恐れ入ったわ」
褒め言葉なんだろうけど、やっぱり商業文化がまだまだ未発達な世界の住人からすると、詐欺のようで詐欺でなく、それでいて廃課金者や破産者を続発させるコレは、異常かつ完成度の高い悪徳商法に見えるんだろうな。
「まず、この『解放アイテム課金によるダンジョンの入場権』ってのはなに?」
「ようするに入場料さ。コレを再入場不可能の一日入場券として売る。言い方を変えれば、こいつを買わないとダンジョンに入ることは出来ない。無料で入れない理由なんて魔王の封印が施されているとか言えばいいし、なんでアイテム課金しなきゃいけないのかと問われたら、閉ざされた入り口に一時的な穴を開けるアイテムをギルドが研究の末で開発したけど開発費の回収で有料とかなんとかで、いっくらでも屁理屈こねられる」
魔王側も冒険者ギルドも無償ボランティアでテーマパークを運営するわけじゃない。ダンジョンを攻略する冒険者にはクリアに応じた報酬を与えなくちゃいけないし、運営には当然のように維持費がかかるし、目に見える儲けがないとスタッフも協力者もモチベーションが下がる。
なので課金の第一案は入場料の搾取。
いくらテーマパーク風のダンジョンとはいえ、冒険者たちは魔界とギルドのマッチポンプの『ごっこ遊び』とは知らず、わりとガチでダンジョンを攻略しに来る。
こういうのにはロマンという、テーマに見合ったギミックが必要だ。
馬鹿正直に遊園地みたいに入場窓口に並んで、観覧チケットを買って、ダンジョン入り口でスタッフにモギリしてもらって、それでようやくダンジョンに突入とか、いくらなんでもムードがなさすぎる。
「まず冒険者たちには時間制限のある入場アイテムを購入してもらう。入場券じゃムードがないから、いかにも封印を抉じ開けますよといった【それっぽい】アイテムの形態が好ましい」
「解放エネルギーのチャージという理由付けて帰還後にギルドで回収できる再利用可能なものならなおいいわね。アイテムの生産は冒険者の心理を熟知してるギルドに任せるわ。サンプルをもってきたらソレにあわせてダンジョンの入り口の開場条件を設定するから」
「例を出すならランプとか御札とか砂時計とかかな。いかにもってのがいい。ひとまずダンジョンは四つのステージに分けてあるから、四種類の用意を頼む。難易度にあわせて料金を上げ下げしてほしい」
「あと、これは厳守してほしいんだけど、入場アイテムはEXレアでお願い。一人一つまでの所持制限で、売買不可能。このへんは受け渡しのときにギルドカード登録しないと効果が発動しない仕組みにすればいいと思う」
「細かいわね。入場者の把握と管理の簡便化が目的かしら?」
「そんなとこ。登録制にすればこっちも突入パーティーの傾向とか調べやすくなるし、ギルドも購入履歴や挑戦回数などの管理が楽になるだろ? せっかくの冒険者カードだ。持ち前の情報記録の機能はどんどん活用していきたい」
一人一個の所持制限。
つまりパーティーでダンジョンに突入する場合は、必然的に人数分の入場アイテムが必要になり、一人一個ずつ購入してもらわないとダンジョンに入れないうことだ。
おまけにアイテムは一回しか使えないから、ダンジョンから出たら使用済み入場アイテムをギルドに返して、再挑戦のときにまた新しく購入しないといけない。
既にミルちゃんが各ダンジョンにコンフィング設定してある『メンテナンス時の強制排出』『戦闘不能状態から一定時間経過後の強制排出』『営業時間終了時の強制排出』も入場券の攻略権利喪失に該当するし、テレポーターの罠や転移魔法による出入り口への排出も例外ではない。
カタチはどうあれコレは入場券だからね。しかたないね。
うーん、我ながらエグイ。
「アイテム販売の儲けはギルドとそっちで折半ってことでいいのよね?」
「そちらのアイテム管理費もあるし、入場料については魔王サイドのマージンは三割でいいよ。七割の儲けからいくらフォートリアにショバ代を支払うかはタマと商談してくれ」
どうせ入場料以外にも魔王サイドの収入源は用意するつもりだし。
「入場券については分かったわ。ギルドの開発部に話つけとく」
そう言ってリップルは第二企画書の2ページ目を開きなおす。
「でさぁ、ここに書かれている課金の第二案ってのが、専門用語すぎてイマイチよく分からないんだけど」
さてさて、お次の第二案はさらにさらにエグイぞ。
これこそ廃人と破産者を生む課金システムの真骨頂といってもいい。
「この……『課金ガチャ』ってなによ?」