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Seven years ~明日の見えぬボクたち~

魔物を倒すだけで、平和になるわけじゃない。

この星の生き物が、ともに生きる方法を見つけだす事が大切なんだ!


【黒木勇斗語録・ルドラの秘法 デューン】

 ── 物語をプロローグのおよそ一ヶ月前まで巻き戻す ──


 なぜ人は異世界転生とか異世界召喚に憧れるのだろう。

 

 答えは簡単だ。

 現実世界に無力感を感じるほど。

 リアルオフラインというクソゲーに閉塞感を感じるほど。

 人は誰しも無敵でステキなスーパーマンになれる夢を見るからだ。


 なんの努力もなく主人公補正でスーパーパワーが身について、

 なんもしなくてもヒロインのほうからベタぼれして寄ってくる。

 そんなチートでハーレムな世界『チーレム』。

 明るい可能性だらけの異世界にいけるのなら誰だって行きたい。

 ボクだってそう思う。


 そういうものが若者向けの創作物で大流行する。

 それは将来の展望が見えない若者の社会不安の裏返し。


 少年少女に無限の可能性があるのは事実だ。

 若者たちに無限の選択肢があるのは事実だ。

 ただし見た夢が必ず叶うとは言っていない。

 可能性はあるだけ。選択は自由なだけ。夢は見れるだけ。


 リアルで漫画みたいな人生を果たせる人生の勝者は一握り。

 少年漫画の世界ですらそうだ。

 どれもこれも才能至上主義・血統至上主義・家柄至上主義の坩堝。


 大概の人間は違う。

 社会に出てみれば自分が凡人なことを思い知る。

 オトナになればなるほどにコツンコツンと壁にぶち当たって、

 遅かれ早かれ己は凡俗であると気が付かされる。


 やがて人は夢を現実にする前提条件であるステータスも、

 成長を促すスペックもまったく足りてない自分を自覚する。


 このクソったれな世界に祝福なんてありゃしない。

 だから自分にとって都合のよい夢物語の世界に逃げたがる。


 こことは違う世界に行けば無条件で成功できる!

 向こうの世界ならチート補正で女の子にモテる!

 さぁトラックめがけてアイキャンフライ!


 異世界転移の物語は凡人にチャンスをくれる優しいジャンル。

 もちろん漂流教室みたいに荒廃した未来に飛ばされサバイバルとか、

 映画の戦国自衛隊みたいに過去世界に転移して俺TUEEEしたけど、

 弾薬の切れ目が命の切れ目で全滅バッドエンドな作品もあるから、

 全ての異世界生活が幸せなものとは限らない。


 それでもやっぱり異世界の旅はロマンだ。

 こんな狭苦しく未来のない世の中だもの。

 一昔前は異世界召喚が、今は異世界転生が世間で流行るのも頷ける。

 なんせ実際にそれを経験したボクがそう思ってるんだからね。間違いない。


 いまから七年前、14歳当時のボクは異世界召喚された伝説の勇者だった。

 いきなり空から降ってきた変な女の子に連れられて異世界へ転移して、

 なんのうだつもあがらなかった凡人のボクが救世主として邪悪なドラゴンと

 戦う使命を帯びることになって、たびの選別にチート能力を与えられて……


 まぁ、あとはもうコテコテのテンプレの中世ファンタジーもRPGの旅。

 物語の節々で仲間を集めて苦難を乗り越え、邪竜の王が率いる魔王軍と

 どったんばったんおおさわぎな壮絶バトルを繰り広げること一年弱。

 ボクたちはだいたい今から七年前、丁度この時期に魔王を討ち果たした。


 神様は死んだ 悪魔は去った

 太古より巣喰いし 狂える地虫の嬌声も 今は、はるか

 郷愁の彼向へ消去り 盛衰の於母影を

 ただ君の 切々たる胸中深くに 残すのみ

 神も悪魔も 降立たぬ荒野に 我々はいる


 ラスボスを倒して流れるエンディング。人生の全てを懸けた夢の終着点。

 異世界召喚された英雄は、世界を平和にしたらの世界に帰るのみ。

 一年間に渡る長いようで短くも感じる壮大な旅の終わり。

 あのとき、ボクは夕日が美しい山脈の上でみんなに向けてこう叫んだ。


「行こうみんな──」


 光さす未来へ──!!!!


 ……なんて──

 あのときは少年漫画の最終回のノリでカッコよく決めたんだよね。


 長い間の応援ありがとう。

 ○○先生の次回作に御期待ください。


 そんなテロップをつけて連載は終了。


 それでボクの旅は終わり。

 仲間と世界に別れを告げて、今日からボクは普通の男の子に戻ります!

 それでいい。それでいいんだ。その先の物語なんていらない。

 最終回を迎えたあとの主人公の晩節は語られるべきじゃないんだ。


 そう──

 本編の後日談として二世ものの新連載が始まる以外のケースで、

 大成を果たした少年主人公のその後は本来語られるべきじゃないのだ。


 それはなぜかというと……


「ちょっとクソニートさん! なにいつまでのんきに寝てるんですか!

 もう四時半過ぎてますよ! 会場へは始発でって言いましたよね!?

 コミケは遊びじゃないんですよ! さっさと起きなさいゴルァッ!」


「ニートじゃなくてユートだよウンコ聖女! 異世界の聖女様(笑)が

 当たり前のようにコミケで同人誌売ってんじゃねーよ!」


 あれから幾年月、

 ボクは元の世界に戻ったあと燃え尽き症候群でいろいろあって……


「今日はコミケの一日目にサークルで参加するって言いましたよね!?

 このままじゃ始発の電車に間に合わなくなるじゃないですかっ!

 勇者よ……はたらけ……はたらけ……わたしの声が聞こえますかー!?」


「数日前からボクは昼からのんびり一般で参加だっつっただたろ!

 しれっとバイト代もでねーのに売り子にしようとすんな!」


 魔王を倒して日本に帰還して七年。

 どこにでもいる普通の社会人になった22歳の現在。


 かつての勇者は、こうして親が持ってるオンボロアパートに寄生し、

 ボクを追っかけてこの世界にやってきた『ヒロインだったモノ』に

 日々振り回されながら、働きもせず腐れニートやってます。ハイ。


 嗚呼、過去の栄光がなにもかも懐かしい。

1/8 第二話の内容を大幅に改稿しました。

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