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the extension of one's dungeon ~ダンジョンをつくろう~

そうか。

仲間が必要なときは

いつでも来い。

今、

そんな気持になった。


【黒木勇斗語録・ロマンシングサガ2 サラマンダー】

「では各ダンジョンは魔城の四隅を囲むような配置でよろしいでしょうか」


「うん。絵的にもラストダンジョンを守る結界を作っている感じに見えるからコレでいい」


「この各ダンジョンの最奥にあるキーアイテムを四つ集めると魔城の扉が開く。この設定でいいんですね?」


「それで頼むよ。キーアイテムは1パーティーにつき1つまで所持の制限もよろしく。もちろん販売も不可で」


「ニートさん、それならなにもアイテムにしなくても、称号とか紋章とか、特定個人にデーターとしてインプットするもののほうがよくないですか? 冒険者カードにクリア記録として登録するとかで」


「ああ、それはいいかも。ダンジョンをクリアしてくれた以上は記念品も渡さないと悪いかなーって思ってさ」


「あたしもエストリアの案に賛成かな。キーアイテムってアイテム枠を無駄に喰ってかさばるから、なるべく記録として登録してもらったほうが冒険者側としてはありがたいし。クリアの記念品は記念品としてあげればいいんじゃない? そこそこの魔法効果のある永続効果のマジックアイテムとかならみんな納得すると思う」


 ツクール系で最も楽しい時間とはなにか?

 TRPGでシナリオ作るときに一番凝る時間はなにか?

 それがなにかと訊ねたら、個人差はあるだろうけど少なくとも自分はこう答える。


 いかにしてプレイヤーを悩ませるか思慮を巡らせる、ダンジョン製作中がテンションの最高潮であると!


「じゃあ、キーアイテム案はクリアシンボルの獲得で決定。ダンジョン走破者にはギルドカードにクリア済みのシンボルマークを記録っと。記念品とシンボルデザインのほうはダンジョンのテーマが決まってから考えよう」


 まずボクたちが考えねばならないのはダンジョンの基本テーマ、それと配置とデザインだ。

 ミルちゃんはさすが迷魔王の孫だけあって、ダンジョン生成や具現化についてはかなりの自信があるようだ。


 常識的な建築方法ならありえないことも、この迷いの森を含む迷宮王の結界内の範囲であれば、さながらゲームのエデットよろしくにポンと気楽に配置召喚増築などをやれるらしい。

 そのおかげでこちらも安心して土木建築家が頭を抱えるようなムチャな企画をミルちゃんに提出できるのだ。


「この四つのダンジョンはコスト削減で迷魔王のコレクションを使いまわすことに決定したけど、どういったカンジのダンジョンが残ってるのかな?」


「いま資料をお出しします。前に魔王二級の資格試験に合格したときにおじいさまからお祝いにいただいた物件が七件ほどあります。正統派の地下階式が三件、塔とフィールドタイプの地上階式が二件、あとダンジョン生成練習用の一層のみダンジョンが地下式と地上式が一件ずつでしょうか」


「ふーむ」


 わっせわっせとミルちゃんが持ってきた資料をじっくり眺める一同。


「この練習用のは手付かずのままの基本セットかなにか?」


「はい、魔王協会から支給されているダンジョンの素です」


 もとときたか。


「古来より魔界ではダンジョン生成はこの素を使って拡張増築していくのが基本なんです。デビューのときに使おうと思ってずっととっておいたものなのですが、ここまで大規模にするとLPの関係で今回コレを使うのは難しいかも……」


「うん、そうだね。オープン時はオリジナルダンジョンの生成は見送って、既製品できあいからやっていこう。これこのまま使っても四部屋の四畳半ダンジョンじゃチュートリアルにもならないし」


「ヨジョウ」「ハン?」


 きょとんとした顔をするタマとミルちゃん。

 ああ、そうか。大陸こっちじゃ畳の概念ないもんなぁ。専門用語の使用は気をつけよう。


「ようするに床板四枚一間みたいな狭いダンジョンって意味。こいつはLP貯めて新規ダンジョン開発のタイミングがくるまでとっておくことにしよう。いつボーナスステージや企画モノが必要になるか分からないしね


「ニートさん、四畳半ダンジョンはポイするとして、使うダンジョンは地下2の地上2で半々で行きます?」


「だね。バランスは取っておきたい。地上式がルーム型の死亡遊戯式と通常のフィールド型で内容が違うのも悪くない」


 ここはやっぱり最初にもぐるダンジョンはコテコテの地下階層式でいきたいので、地下式は城の左右に配置。

 塔は景観を考えて城の後ろに配置することにする。拠点から森の奥側にうっすら見えるカンジだと趣もあるし。


「迷宮の構造は複雑でもなく簡単でもないバランス型ですね。私から見るとちょっと味気ないかな」


「カタチを見るに初心者~中級者向けだね。でも最初はこれくらいでいいと思うよ。城がガチ構造なだけに」


「ミルちゃん、これってトラップとかモンスターははいってないの?」


「すみません。おじいさまに頂いたのはダンジョンのみで、トラップやモンスターは別オプションになっちゃうんです」


「そこんところは予算と相談?」


「はい……」


 ますますダンジョンツクールの様相をていしてきたなー。だが、それがいい。

 コストの範囲内でいかにして面白いモノを作るか。匠の腕が問われます。


「それにしてもみなさん、ダンジョンについて物凄くこだわりがおありなんですね」


「そりゃあRPGゲーマーとしてなら当然!」


「TRPGゲーマーならここで本気にならないでどうする!」


「いいよねトラップは! ハメてハメてハメまくれ! これぞ青春の機軸!」


「こ、ことばのいみはよくわかりませんが……それぞれにこだわりがあるのは分かりました」


 ボクたちの気迫にたじろくミルちゃん。

 まさかここまで本気のガチ勢が参加してくるとは想像してなかったんだろうね。

 やるからにゃあこちらはマジでいくよ。こういうところでこそゲーマーの知恵と経験を全力で生かす。


「よし、四つのダンジョンの選択もコレで決定。テーマは低コストでも楽しめるダンジョン生活」


「もちろん低コストでも【いやらしく】、ね」


「そりゃ当然。性的でなくサツイ的な意味で」


「ですよねー」


「うわー、エストリアもユートくん悪い顔してる」


「そりゃそうさ。ボクのこの就職先に人生がかかっている以上、手は抜かない」


 まして就職先が専門外と見せかけて趣味と実益を行かせるダンジョン経営。

 長く、永く、ながーくやっていくつもりなら、好きこそものの上手なれで全力で行く。


 なによりもこの企画の成功の是非が、冒険者という存在の今後に大きく関わってくる。

 タマもエストもボクも察している。特に氷河期の現場にいたボクは身に染みて感付いている。

 このダンジョン企画は行き場を失った冒険者に遊び場と生きがいを提供するために設けられたものだと。


 倒すべき敵を失った冒険者に歯ごたえのある強敵を。

 解くべき謎を失った冒険者に脳味噌をこねこねする謎解きを。

 得るべき物を失った冒険者に欲望を満たす経験とアイテムを。

 

 この氷河期時代、職にあぶれた冒険者は飽いている、乾いている、餓えている、焦がれている。

 ようやく手に入れた平和を享受しながらも、あのときのような熱い戦乱の時代を心のどこかで望んでいる。


 自身の【暴】を振るえる場所が欲しい。

 自身の【知】を生かせる場所が欲しい。

 自身の【夢】を叶えられる場所が欲しい。


 そんな彼らの要望に応えられるのがダンジョンだ。迷宮探検はある種の冒険の集大成である!

 敵あり、謎あり、罠あり、宝あり。冒険者たちにとってこれほど完成された環境はない。


 だからこそダンジョン開発はマジでいかねばならない。

 コアゲーマーの知恵と経験を駆使して、冒険者たちに夢と絶望を存分に提供してあげようじゃないか。

 舌の肥えた海千山千の冒険者にもご満足いただけるダンジョン経営を。

 咬めば咬むほど味が出てくるような通好みなダンジョン経営を──ね。

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