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Deep wood dungeon.s ~続・メイプル村の怪異5~

         破壊力ばつ牛ン


  【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY11 ブロント】

 その後、僕たちは一次撤退で安全地帯まで逃げ込んだ。

 モンスターが群れて徘徊する夜の森での単独行動は悪手の悪手。

 道中のあちこちに交渉の余地もない凶悪なバケモノがうろついている危険な場所と分かったからには、安全地帯に戻って作戦行動をイチから練り直さなくちゃいけない。


 メイプル大森林に現れた謎の魔宮。

 伝説の魔獣と謡われてきた鬼カブトとの遭遇。

 そして思わぬところで同期のもりそばとの再会。

 とにかく脱出を計る前に処理したい情報が山ほどあってね……


 しかし──

 冒険者界隈というものは広いようで意外と狭いね。


 馴染みの冒険者同士が、やたら複数パーティー募集のクエストで相席することはままあること。で、そういう縁が偶然で何度も出来上がると、いつの間にか『いつもの』みたいな扱いでギルドも推奨構成で自然と被せてきたりして更にかち合いの連鎖になる。


 ほかにも街道の中継地点でやたら出遭う馴染みの冒険者とか、パーティーを組んでるわけでもないのに旅の途中まで同行が多い腐れ縁とか、それとは逆に商売敵のライバルとしてあちこちで衝突するライバル冒険者とか、この世界には奇妙な縁の糸がそれぞれに絡み付いている。


 今、安全地帯にあるキャンプの炊事場で、スープの煮込みをしながら異世界のものと思われる謎言語の唄を口ずさんでいる女の子もそうだ。


 勇者もりそば──

 僕と同じく勇者職デビューを志して王都訓練場の門を叩いた同期の花。

 女勇者といえば普通は凛々しくてクールでバッキュンボンな姉御肌が世間のイメージなんだけど、この子は普段着だとどっから見ても常に気だるそうな目の辺鄙な村の村娘A。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪」


 ほんの数十分前まであった光り輝く蒼き剣と蒼き鎧を装着した聖なる騎士の威厳はどこへやら。普段着姿で鼻歌を唄いつつ焼いた石でパンを焼き、鍋に豆とブツ切りの肉をドンドカと投げ入れていく姿は、数年前まで隣村のパン屋でよく見かけた普段どおりの彼女の姿。


「ゆうしゃがなかまにくわわった……か」


 訓練場卒業後も収穫祭や年末年始とかで王都やああああ村でバッタリ会う機会はあったけど、まさか冒険の最中、さらにはダンジョンの奥地で偶然の再会を果たすなんてね。


 思わぬところで五人目のパーティーメンバーとしてゲストが参加。

 英雄譚ではよくあるシチュだけど、こういうのって現実でもあるのね。


「しっかし信じられねぇよな」


 近場の井戸から水汲みを終えてきたチックが言った。


「あのもりそばが勇者究極職の神竜騎士になってたなんてよ」


 それについては僕も同じだ。

 さきほどの雄姿を目の当たりにしながらも、いまだに信じられない。

 このどこにでもいそうな村娘が、誰もが羨む伝説の神竜騎士だなんて。


「数百年に一度だけ現れる伝説の勇者って伝承はなんだったんだろうね」

「この十年で五人目とか、まるで神竜騎士のバーゲンセールだわ」


 食器の用意をしながらガンナとサラ。

 いや、実際そうだよね。神竜騎士といえば世界の危機に現れる救世主。

 そんなのが商店街の安売りみたいに多数デビューするという現状。


 ユートさんたち四人の神竜騎士のときは信長の乱以来だからまだいい。

 でも七大魔王大戦からまだ八年ですよ。登場スパン短すぎやしませんか?

 これでまた他にも神竜騎士がポンポンとデビューしてきたら世界ヤバイ。


「よりにもよって聖竜騎士デビューってのがまたアレだな」

「聖都ホーリーレイクの大聖堂から誘いがきたのは知ってたけどねぇ」

「まさか聖騎士を飛び越えて聖竜騎士に昇格とは恐れ入ったわ」

「同期で片や村勇者で片や伝説の勇者。いったいどこで差がついたのか」


「「「最初からだよ!!!」」」」


 ひどいっ。


「といっても、まだ見習いなんだよねー」


 調理中も僕たちの雑談をしっかりと聞いていたもりそば。


「王国騎士団や聖堂騎士団でもやってるけど、騎士志願者の試験運用期間っていうのかな。とりあえず最低限の神竜騎士スキルと最低限の装備だけ与えて、モノになるような成果を出せたら晴れて騎士に昇進みたいな?」


「あー、ユートさんもそういう時期があったとか言ってたね」


「うん。そーとー苦労したらしいよー」


 ユートさんのエピソードで特に有名なドラゴン百匹斬りの難行か。

 多くの上級職がそうであるように転職前には資格試験があるのは通例。

 ステータスの数値は足りているのか。所持スキルの条件は達しているか。

 こういった基本的な条件に加えて転職のためのクエストってのもある。


 ○○を倒せ。○○をもってこい。○○を巡礼して走破せよ。

 こういった試験は上級職ほどクリアするための条件が厳しくなる。

 勇者究極職ともなれば当然に転職条件に神様からの試練の達成が不可欠。


 大陸のものなら誰でも知っている神竜騎士の二人、光竜騎士ディーンも先代光竜騎士の聖王ベリアも、光の神が与えた艱難辛苦の試練を乗り越えて神竜騎士の資格を得たという。


 神の啓示を受けたからといって簡単に真の勇者になれるわけじゃない。

 神竜から与えられた試練を乗り越えて初めて神竜騎士を名乗れるのだ。

 あのユートさんですらドラゴンを百匹倒すという七難八苦を受けた。


 ワームやワイバーンのような比較的なんとかなるような亜種ではなく。

 Bランク冒険者パーティーでも苦戦するような本物の竜族を単独でだ。

 世間的にはドラゴンを一匹でも倒せれば上級冒険者の箔が付く。

 それが百体。どれだけイカレた難易度の試練なのか素人でも分かる。

 伝承を紐解けば神竜騎士の試練を受けて挫折した人の物語も少なくない。

 真の勇者となる人物は受けるクエストの難易度の次元も違う。

 当たり前だね。そうでなきゃSランク推奨の高位魔王なんて倒せない。


「なんか途中でめんどくさくなってカウント水増しでインチキしてたけど」

「ちょいまち」


 そんな真実は聞きたくなかった。


「……そんないい加減な内容でも神竜騎士になれるとか……」

「そこはほら、異世界の『えっちなほん』の貢物でなぁなぁで」


「……試練の試験管って神様なんだよね? 神界第二位の聖竜神……」

「といっても身近な人間から見ればムッツリスケベのエロ爺だから」


 ますます聞きとうなかった。


「ムッツリって……」

「新時代は女勇者で萌えキャラ路線でいくって本人が言ってたし」


「大聖堂の連中が聞いたらアワ吹いて倒れる暴言だよねそれ」

「司祭長以上はみんな知ってるけどねー。そもそも聖女がアレだし」


「納得」

「だよねー」


 関係者の間じゃ有名らしいからなぁ。天空の聖女のアレっぷりは。

 噂じゃ邪竜王が破滅したのは天空の聖女を誘拐したのが原因とか。

 おにぎり教官も天空の聖女の話題になるとなんか渋い顔してたし。

 知る必要のない知るべきではない真実って英雄譚の裏によくあるよね。


「じゃあ、もりそばも昇格クエストの真っ最中ってこと?」

「ううん。まだ時期じゃないからレベル上げしてろっていわれた」


 時期……ねぇ。


「そろそろ猪鍋できるよー」


 肉と豆がほどよく煮えたところで、もりそばが茶色の物体投入。

 グラグラと煮え立つ鍋から漂ってくる独特の臭気。

 この臭いは知ってる。

 リップルさんところの隠しメニューにある東方スープだ。


「うへぇ、よりにもよってゴブリンの糞かよ」

「チック、ちゃんとゴブリンスープって言いな。メシが不味くなる」

「これでなかなか慣れるとクセになるわよ」

「正式名称はミソスープだっけ? 魔王ノヴァが好んだっていう」


 訓練所の卒業から一年ちょっと。

 なつかしの顔を合わせ、同じ釜の飯を食べたあの頃のように、悲喜こもごもワイワイがやがやと鍋をつるした焚き火を囲んで遅い夕飯を愉しむ僕たち。


「まぁ、食えはするけどよ……すげーおちつかねぇ……」

「落ち着かないのは同意だね。クソデカい熊が近くで寝てるし」

「もりそば。相変わらずアンタの交友関係はムチャクチャね」

「いやあ、それほどでも」

「もりそば、サラはたぶん褒めてない」


 ひとときの安息。

 飯を食い終えれば危機的状況の現実を再認識せざるおえない。

 僕らのおかれている状況はとにかく最悪だ。

 最悪の中で最低限の安全が確保された最悪より少しマシな現状。

 分不相応の高レベルダンジヨンに迷い込んだマウスリバー探検隊。


 魔宮からの脱出。  

 これは僕らに課されたクエストの中でも人生最大級の試練になる。

 いくら安全地帯だからといってもいつまでも暢気にしていられない。

 状況は深刻。僕らは巨大な怪物の腹の中にいるのも同然だからだ。

 はっきり言って村に戻れる生還者が一人でれば御の字レベル。

 それくらいDランク冒険者には危険な場所に僕らはいるのだ。

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