Deep wood dungeon.s ~続・メイプル村の怪異3~
ちなみにダークパワーっぽいのはナイトが持つと
光と闇が両方そなわり最強に見える
暗黒が持つと逆に頭がおかしくなって死ぬ
【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY11 ブロント】
マウスリバー探検シリーズとは──
世界に存在する秘境を目指し、脅威の謎を解き明かしていく物語!
隊長はこの僕、探検家『マウス・リバー』。
道なき道を進み、立ち塞がる困難を乗り越え、
その先に存在するであろうナニカを求め奔り続ける!
大自然は文明の介入を決して許さない。
自らの力だけで森に分け入り、緑の闇を切り開いていく。
だが、ときとしてジャングルは探検隊に牙をむき襲い掛かる!
岩陰に潜む大蛇。虎視眈々と獲物を狙う凶暴な野獣。
まさに隣り合わせの灰と青春の探検ライフ。
ゴォアアアアアアアアアアアアッッッッ!
突如降りかかる大自然の洗礼。
探検隊に容赦なく飛び掛る森の守護者。
まるでこの森が出て行けといわんばかりの咆哮。
その背後からは──!
HIIIYIIIIIIAAAAAAAAAA!!!
隊員の放った炎の壁を身を炙りながらも強引に破り抜け!
名状しがたき奇声を上ながら這いずってくる正体不明の怪物!
前門の熊。後門の怪物。
つまり──
あー、オワタ……(爽やかに)。
「そこで清々しい顔で諦観するなバカ!」
「わかってるよ!」
サラの喝を待つまでもなく自分は考える。
どうする。どうする。どうする。キミならどうする?
巨大熊に追いかけられるチックとガンナ。
パーティーリーダーに求められるのは咄嗟の状況判断。
いったい二人はなにをした?
セーフルームでキャンプの準備を進めていたんじゃないのか?
そもそもなんで伝説の鬼カブトがこんなところに!?
寝物語で親からさんざん聞かされてきたメイプル大森林の伝説。
実物の魔獣をこうして見るのは初めてだけど。
村の伝説でも有名な鬼カブトはこんな近郊には現れないはずだ。
メイプル大森林のヌシ。黄金の毛を持つ伝説の守護獣。
このメイプル村が生まれる以前、ダークエルフの部族がこの大森林に集落を築いていたころから、鬼カブトはこの森に住んでいたという。
基本的に温厚な種で、人里にも現れず、縄張りを侵害する無謀な開拓者や、その黄金の毛皮を狙う密猟者、あるいは腕試しに討伐に向かう冒険者のような連中を除き、よほどのことがないかぎり人間には危害を加えないとばっちゃんは言ってた。
メイプル大森林のずっと奥。第八区の最奥付近に牙城を構えて、人里に迷惑をかけずひっそりと森の最奥で暮らしていた獣がどうして?
そう想ったときにはすでにタブレットを持つ右手が動いていた。
動体反応のエネミーを対象にサーチスキル発動。
モニターに映る無数の赤玉。方角から見るにこれらは自分の背後。
自分の隣にある白玉と前方に映る二つの白玉はパーティーの仲間たち。
なら二つの白玉を追いかける巨大な大玉の色は──
非敵対反応の青玉!
「サラ撃つな! チック! ガンナ! 伏せるんだ!」
「マウスなに言って!?」
「はァッ!?」
「そんなことしたら追いつかれんだろ!」
「いいから! こいつは敵じゃない! 伏せろッ!」
どのみち全速力の熊はチックよりも速い。どのみちおいつかれる。
サラが迎撃の魔法の準備を始めていたが、これも制する。
僕が真剣に叫ぶと、チックとガンナが即座に伏せた。
なんだかんだ言って僕のリーダー命令には信頼がある。
単にタブレットのスキル性能の信用かもしれないけど。
結果は……
「ヒィッ」
「ッッッ」
チックとガンナの短い悲鳴と──
「うわっ」
「飛んだ!?」
頭上を飛び越える金色の巨大な影に驚く僕とサラ。
「ガアアアアアアアアアアッッッ」
黄金の巨大熊は僕たちなんか眼中にもない。
それでいてこの殺気に威嚇の怒号。
なら鬼カブトの狙いはひとつ。
僕たちの背後にいるナニカどもだ。
メキッ ベキィッ バリバリバリッッッ
熊の爪が木を引き裂き薙ぎ倒す轟音。
これだけならそこらの灰色熊でも普通に出す音だ。
問題は倒壊音に続く耳をかきむしりたくなるおぞましい奇声。
鬼カブトはいったいナニと戦っているのか。
僕たちはここにきて背後にいる正体不明のものを初めて視認した。
「うげぇ……っ」
チックの露骨な嫌悪感。
「なんだいこりゃあ」
キモのすわっているガンナですら不快な顔。
「……ロクでもないところにきちゃったわね……」
サラでさえ不愉快そうに眉をしかめるソレは……
「割にあわないってレベルじゃないよリップルさん……」
冒険野郎として様々な文献を見てきた僕ですらドン引きの穢れの塊。
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──!!!
黄金の熊が戦っているソイツは名状しがたき正体不明のバケモノ。
見ているだけで強烈な不快感。気の弱いやつなら発狂しかねない。
人面樹とでも例えればいいのだろうか。
血が固まったような真っ黒い樹皮の大木に無数の顔が浮かんでいる。
ある顔は苦悶し、ある顔は狂気の笑顔を晒し、ある顔は泣き嗤う。
どれもロクでもない表情だ。おぞましい。ただただおぞましい風貌。
人面樹は鬼カブトを敵と見なし次々と襲い掛かっては返り討ちにされた。
熊の爪がたったの一振りで大木をゴミのように蹴散らしていくのだ。
樹皮が破れ、幹が裂け、そのたびに嘔吐感を招く異臭と悲鳴が上がる。
もしこれが大木でなく人間ならどうなるかと想像するとゾッとする。
怒れる鬼カブトの攻撃対象が僕たちならあっというまにバラ肉だ。
巨人族顔負けの伝説の黄金の熊の豪腕。森のヌシの座に偽りなしだ。
腕自慢の武芸者が深奥へ鬼退治に行っては戻らなかったのも頷ける。
Bランク冒険者パーティーでも正面から戦ったら無理ゲーだろう。
「…………」
狂気の産物としか思えない人面樹の群れ。
あまりの身持ち悪さにチックとガンナは数秒ほど呆然自失になっていた。
すごいもの好きの僕でさえこんなのは正視したくない。
正解だった。あのとき振り返らなくて正解だった。
こんなの正視していたら間違いなく正気を失って餌食になっていた。
タブレットには一体のビースト反応と多数の不死族反応。
人面樹はアンデッドの部類だとスキルは解析しているわけだ。
物体に憑依して人面瘤と化す強力な怨霊の話は聞いたことがある。
樹木に悪霊が取り付いて人面樹になるのもありえる話だ。
だけどこれだけの量は異常だ。さらに自立歩行までするなんて。
ここまで奇怪な現象、よほど霊界に近い場所でしかありえない。
少なくとも生者が寄り付く場所じゃない。
となるともうここはアンデッドの巣窟。地獄に近い場所ということに。
不死王が支配する腐海遺跡。バンパイアの棲む廃城。屍人蠢く不死亡国。
ヘタすると上記の高位アンデッドエリアに相当する難易度かも。
なら、もうこの魔宮はCランクも近寄らないリスキーなレベルに達してる。
恨みますよリップルさん。Dランク推奨どころかBランク向けですよこれ。
「おい、どうすんだよマウス」
「このままボーっとしてたら巻き添えで死ぬよ」
「熊の援護? それとも安全地帯まで逃げる?」
思考をめぐらせているうちに正気に戻ったみんなが問いかける。
求められるリーダー宣言。このまま突っ立っていてはやられるだけ。
僕の選択はもちろん……
「せいくりっどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ」
え?
モニターに動体反応に新しい青玉。
鬼カブトの他にまだいるのか?
いや、驚いたのはそれだけじゃない。
今の聞き覚えのある女の子の声は──
「エクスプロージョンッッッッッ!」
僕の思考が答えに辿りつくよりも前に。
視界に広がる悪夢の世界が青白い閃光に呑み込まれた。
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これも読者の皆様の応援のたまもの。ありがとうございます。