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Deep wood dungeon.s ~続・メイプル村の怪異1~

        「おれの怒りが有頂天になった」


     【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY11 ブロント】

 悲報・マウスリバー探検隊、ついに抜け出せないギャグ時空にハマる。


「これはなんというか……」

「ミルちゃんのキャラを理解していても言葉に詰まる内容ね」

「さすがエストおねーちゃん、再生数を稼げる動画のつくりをわかってる」


 最後のおまけ動画を閲覧した僕たちマウスリバー探検隊。

 内容は千年の時を経て蘇った迷宮王のダンジョンの元締めの宣戦布告。

 そう言えば聞こえはいいんだけど、これ完全にNG集だよね……

 やらせいっさいなしでこの天然クオリティーはすごい。


 感想・絶句。

 これはキツイ。シリアス思考の冒険者ほど唖然とするんじゃないか?

 七大魔王の記憶が新しい現代、魔王といえばゴツイかイケメンの二択。

 そして伝説の勇者に追い詰められて第二形態とかの真の姿を現せば、

 ダサい・グロい・デカいの三拍子が魔王のイメージの基本だった。

 

 そもそも美少女の魔王というジャンルそのものが異端の上に異例。

 女魔王というのも過去にいたにはいたけど、ほぼ確実に女王様や熟女系。

 ボインボインでボンデージでオーッホッホッホがデフォルトだった。


 これまでの歴史で『こういうの』が出現したケースはなかったのに。

 たった三分弱の動画で二千年近い魔王の既成概念が覆ってしまった。

 おそるべし迷姫王ミル! 威厳よりも可愛さをとるとはあざとい!


「なるほどねぇ。この短時間で再生数がダントツなわけだよ」

「配信から三十分でフォローがアホみたいに加算されてんのな」


 わー、すごい。

 おまけ動画のフォローだけバカみたいな勢いで増えまくってる。

 宣戦布告の本来の目的とはまるで間違った方向でおまけ動画は大好評。

 この勢いからして、たぶん近日中にミリオン達成するんじゃないか?


「……恥ずかしい……」


 そんな動画を配信した魔王様は、顔を真っ赤にして手で顔を覆ってた。

 たぶん本人もこの映像が全国区になるなんて予測してなかったんだろう。


「んもー! んもー! エスティエルさんもユートさまもひどいでほす!

 これカットしてって言ったじゃないですかー! 撮り直しもしたのにー!」


 半べそになりながら動画を配信した犯人にプンプン怒るミルちゃん。

 そういう子供みたいな仕草がまたかわいい。


「あー、あの二人にそういうこと言うと逆効果になるんだよねー」


 もりそばが悟ったように一言。

 彼女の知るユートさんと天空の聖女様ってどんなキャラなんだよ。


「それはそれとしてチャンネル登録っと」

「ちゃんとフォローも入れておくわね」


 お気に入り登録もしておこう。


「うにゃあああああああああっ!」


 ミルちゃんが牛キャラを放棄するほどの羞恥プレイ。

 あー、この動画を撮影した二人がこういうことする気持ちがわかった。

 彼女はいじくり倒すことで味が出るリアクション芸で光るタイプだ。


「ううっ……おじいさまみたいに威厳あるキャラでいきたかったのに……」


 それは無理だ。諦めよう。世の中にはキャラってものがある。


「でもさ、これはこれでよかったんじゃないの?」


 落ち込むミルちゃんを宥めるサラ。


「どうしてですか?」

「これくらいユルいほうが王国もガチにならないから」


 あー、いえてる。


「世間では七大魔王の恨みつらみが残ってるしねぇ」

「こういうネタ枠ならヘンにガチなの呼び込まねぇもんな」


 そうなんだよね。

 世の中はようやく七大魔王の戦火の傷跡がふさがってきたところ。

 あの魔王たちの残虐非道な侵略行為で家族や故郷を失った人は多いし、

 こんなときに魔王がやってきたら王国もピリピリするに決まってる。

 おまけに八年前と比べて冒険者の質も低下しまくってるし。


 ミルちゃんのキャラを事前に知っていれば「ねーわw」と思えるけど、

 千年前に大陸を震撼させた大魔王の孫が人間界に現れるなんて一大事。

 普通、魔界の王族が降臨したなんて知られたらSランクのクエストもの。

 さらにこのまえBランク冒険者のイカルさんたちが全滅したわけだろ? 

 ヘタすりゃあフォートリアに王国軍が出動する可能性もあったわけだ。

 今、王国の首脳部を牛耳ってる第二王子って好戦的だってウワサだし。


 そんなヒリつく最中に謎のベールに包まれていた魔王の正体がコレ。

 ドジっ子でポンコツでかわいい美少女の魔王を誰が驚異と思う?

 配信された動画も危機感よりも冒険心と好奇心を煽る内容だった。

 この気の抜けるおまけはちょっとしたクッションになってくれたと思う。


「親玉はこうでも、ダンジョンのほうは難易度とんでもないんでしょ?」

「もちろんです! 本格リリースは先になりますが自信をもって言えます」


 ふんすふんすと息巻くミルちゃん。


「ラスボスは最弱で道中と中ボスが実質的なラスボスって新しいね」

「いや、過去に実例はあるぜ。珍しいケースだけどな」


 そうだね。魔王というと魔族で一番強いやつというイメージが強い。

 でもチェスがそうであるように王が必ずしも最強とは限らない。

 戦闘力とは違う分野に特化して戦闘を護衛に任せる魔王もいたというし、

 たぶんミルちゃんもそういう非戦闘タイプ魔王のケースなんだろう。

 ダンジョンという彼女の武器を制し、護衛軍を倒し、彼女のいる部屋に

 冒険者がたどり着ければ実質的にミッションクリアというところか。 


「側近も強いんでしょ? だったら別にあなたが弱くてもいいじゃない」

「そうなんですけど、魔族の価値観からするとどうなのかなーって」


 ガチ勢はたぶんミルちゃんを雑魚魔王と甘く見て歯牙にもかけない。

 こんな見るからに弱そうな魔王を討伐したところで箔にもならないと。

 AランクとBランクがやられたのもなにかの間違いだと現実逃避する。

 それでいい。上が避ければそれだけ若手にチャンスがめぐってくる。

 いきなり一流どころの冒険者がごぞって早解きに来られたら興醒めだ。

 そういう意味では底辺冒険者である僕らとしてはありがたい肩透かし。

 ミルちゃん本人には不本意かもしれないけどね。


「ねぇマウスくん、冒チャンの掲示板の反応は?」

「早くもミルちゃん関連のスレットたちまくってるね」

「ほんとですか? えへ、えへへへ、なんか照れますね……」


 ごめんミルちゃん。たぶんキミの思ってる反応とは違うとおもう。

 彼女的には自分のダンジョンが冒険者に興味をもたれたと思ってると

 おもうけど、タブレットに映るスレッド一覧に記されているのは……


 おまいらリューチューブの魔王動画見たか?(877)

 ( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!(1000)

 【巨乳は財産】迷姫王ポンコツかわいい【貧乳は人にあらず】(763)

 迷姫王を愛でるスレ3階層目(956)

 セーフルームでいつも寝てたらあだ名が「孤独死」になった(89)

 七大魔王とはなんだったのか2(153)

 【乞食速報】迷姫王ダンジョンは蘇生代が無料!急いで死ね!(427)

 俺の魔剣に【超音波振動】って書いたやつちょっと来い!!(21)

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 このタイミングに雪山クエ行かされるヤツwww(120)

 フォートリア行き航空券高すぎワロタ…ワロタ…(476)

 迷姫王の最初のダンジョンボスで詰まる低ランクどもw(420)

 伝説の勇者っぽい格好で迷宮王像の前で腕組んで佇むの楽しすぎワロス(78)

 チュートリアルダンジョン攻略スレ3(586)

 【隠しきれない】フォートリアのメシがまずい5【隠し味】(153)

 雪霊討伐でフォートリア行けない難民スレ(456)

 【緊急速報】迷姫王のチチバストまじやべぇ(70)

 『やくそう』の不味さは異常wwwあれ凝縮した森じゃんwww(850)

 クレアおばさんのシチューの秘密を探っていたシーフが死んだ(5)

 10000ベリアのヘッドンホホ買ったったwwwwwwwww(12)

 肛門にエリクサーを入れて放置していたら新時代の幕開けを見た(83)

 対魔忍アサギ貸そうとして先生にみつかった。称号が対魔忍になった(50)


 そうでなくても普段からカオスな冒険者掲示板がさらにカオスになってる。

 動画配信30分でミルちゃんスレが大量立ち上げなにそれこわい。

 そしてこのタイミングで雪山登山に強制参加させられる人たちの阿鼻叫喚。

 よかった。参加拒否権のあるDランクで本当によかった。

 あれに参加してたらラジオ収録もなくてミルちゃんとの出会いもなかった。


「ミルちゃん」

「あ、はい、なんでしょうマウスさん」


「僕たち探索隊参加者はチュートリアルダンジョンの御遍路免除なんだけど、

 PVに出てた新しいダンジョンのほうはいつごろ解放なの?」


「えっと、来週には二つほど解放する予定になってますけど」


「けど?」


「マウスさんたちのレベルとランクだとクリア厳しいですよ」


 いってくれるね。


「それはどうかな?」

「うちらはDランクだけどダンジョン経験はそれなりなのよね」

「そうそう」

「最近、地獄見てきたしね」

「ああ、ありゃあマジで地獄の入り口だったな」


 自信を持って言おう。

 レベル10代のDランクなんてまともな冒険していないと思われるけど、

 冒険者らしい冒険で死闘を演じたのはなにも勇者もりそばだけじゃない。


 僕らだってそれなりの地獄を見てきた。

 およそ一ヶ月前、故郷のメイプル村で起きたあの事件。

 生まれて初めて僕たちは命の危険を感じる死の淵の冒険を体験した。

 だけど、僕らはこうして生きている!


「つい先月のことなんだけど、僕の故郷の森で大変なことがあってさ」


 夕飯を楽しみながら僕らはあの日の武勇伝をミルちゃんに語った。

 一歩間違えばAランク災厄になっていたメイプル村の怪異。

 その顛末を──

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