表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
170/177

Rank "B" traveller.s ~閲覧の中の真面目な面々~

   おそらく… 敵と俺たちを分けているのは善悪じゃない。

   お互いの立場が違うだけ。どっちも自分が善いと思ってる。

 善い奴と悪い奴がいるわけじゃない。敵と、敵じゃない奴がいるだけだ。


     【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY8 スコール】

 技術の飛躍的向上に必ずや戦争の影あり。

 鍛冶魔術を問わず人類文明の発展は競争と闘争の中で育まれてきた。

 特に大規模な魔王の侵攻の際には異邦の知識からの目覚しい向上がある。

 異邦人から未知の発想と技術を取り込み、可能な限りの再現をはかる。


 八年前の対戦の折、特にとりわけ目覚しい進化を遂げたのは通信技術だ。

 さすがに新人の異邦人が我々にたいして抱いている安いイメージのような、

 伝書鳩や人力の伝令のみに頼る旧時代的レトロな通信手段は廃れているが、

 彼らの世界に比べて通信技術が遥かに遅れていたのは周知の事実だ。


 近年、魔道具の通信技術の向上には目覚しいものがある。

 一部の上位魔術師のみが扱えた遠見の水晶玉や伝声球の廉価生産に成功し、

 騎士団だけでなくCランク一般冒険者でも手頃に扱えるようになった。

 ただ燃費のほうは正規品に比べるとあまりよくないのだが。


 数年前から都市圏でラジオ放送も始まって、中流層に受信機が売れている。

 番組も少なく、受信機も高額で、まだ酒場など大衆施設専用に留まってる。

 これも通信範囲がまだ狭いので今後の技術改革が求められている。


 戦争は技術をさらなる次元に引き上げる。

 七大魔王との戦いのときは軍勢との戦闘も多く通信の模索が求められた。

 必要不可欠だったのは魔術通信のシステム簡略化と通信機器の大量生産化。

 結果、三年近いの戦争の中で人類の通信手段は手ごろさを究極化させた。


 そんな最新鋭技術の結晶がインコが持っている小型の水晶版。

 一部の冒険者を試作品のモニターにしてギルドが配布しているこの魔道具。

 噂では遠見・伝声・画像記録・リューチューブへのアクセスが可能という。


 そう遠くない未来、本が存在しない時代が訪れる。

 水晶をつかった記録媒体は今よりもさらにさらに大容量へと向かっていき、

 ここの書物のデータもすべてこういった水晶の中に押し込める時代が来ると

 王立図書館の館長は言っていたが、それはそれで味気ない気がする。


 紙媒体は紙媒体の味がある。

 保存性も紙のほうが上だしなんでもなんでもハイテクが正義なのもどうか。

 およそ百年前ほどに異邦人の知恵で製紙技術が革命を起こしたときも、

 古来から続く羊皮紙需要は廃れて存在しなくなるといわれてたそうだから、

 こういうのは新技術の導入のたびに言われるものなのだろう。

 結果を見れば羊皮紙は羊皮紙で味があるということで生き残っているし。


「魔王がリューチューブでプロモーションビデオですか……」

「実はわりと前例あるけどな」


 知っています。

 なにげにリューチューブの歴史は五十年くらいある。

 黎明期は本当にごくごく一部の大魔術師のみが扱えたコンテンツだった。

 古くは王都の街頭放送にも使用されている。

 大衆に情報を知らせる媒体としてかなり効果が大きいことから宣伝で活躍。

 魔王が人類への宣戦布告に使用するのも当然の利便性である。

 魔王の宣戦放送で有名なのが八年前に天空の聖女を幽閉したアレだ。


 なぜ魔王は姫君を誘拐したらとりあえず剥いてしまうのか……

 わからなくはないんですよわからなくは。

 価値が下がると判っているのに清純で穢れ亡き者を汚す独占の快感。

 まるで初版の希少本の封を解き放つかのような取り返しの付かぬ恍惚。

 もったいないと思いつつ我が物にしたという思いはとても至福です。


 閑話休題。


「映像は三種類あるんですね」


 迷姫王チャンネルと称される場所に掲載されている三種類の映像。

 どれも数分程度の短いもので簡易的な宣伝放送のようだ。


「まずはひとつめー」


 インコが一つ目の動画を再生すると謎の寸劇が始まった。


「1000年前の勇者テーセウスの物語のようですね」

「完全にひとりコントだけどな」

「素人なりに演技頑張っているところは評価しよー」


 動画の内容は映像機器を持ってダンジョン内を走り回るというもの。

 迷宮王ミノスを退治した勇者テーセウスのパーティーが聖女アリアドネと

 出会う場面を一人三役で再現したというところでしょうか。

 かなり意訳が入っていてツッコミどころ満載ですが。


「せっかくだから赤の扉を選ぶ……ってなに?」

「せっかくだからはせっかくだからだよ」

「せっかくだし」


 たぶん疑問を抱いたら負けなのでしょう。


「次の冒険編をおねがいします」

「ネタ枠の一つ目と違って、これなかなかすごいぞ」

「音楽がよくてねー、100回くらい再生したけど全然中毒じゃないなー」


 完全に中毒じゃないですか。


 ── それは悠遠なる世界の物語 ──


 物々しい音楽と共に黒い画像に浮かび上がる白い文字。


  紀元前2000年頃 

  名も無き創造神の生み出した神竜の血を引くハイエルフ族は 

  卓越した魔法と文明で栄華を極め、世界を支配していた   


「インコの言うとおりオーケストラ風の音楽がすごいですね」

「でしょー? どんな音源使ってるのかわからないのかまたすごい」

「ほぼ確定的に異世界の音楽技術だろうな。贅沢なもんだ」


   しかしハイエルフ族は、自らの驕りにより、

   その文明や高度な魔法技術とともに滅び去った。


   その後、幾多の戦乱が続いたが、

   大陸に誕生したセントラーレ皇国によって東大陸は統一され、

   ここにセントラル歴元年が誕生した。


   だが、セントラル歴100年に、

   そのセントラーレ皇国も王の乱心により瓦解し……

  

   それ以降は──

  『人間の小国群』『ドワーフ王国』『エルフ集落』『獣人連邦』

   四大種族による七つの国家によって大陸は統治され安定期に入った。

   人々は争いの無くなった平和に安堵した。


「七央時代の説明ですね。異世界人と魔族が作ったにしては勉強してます」

「平和っつったって睨み合いの冷戦時代だったらしいがな」

「わりとどーでもいい」


 だが──

 ここにきて、遥か昔……神話の時代。

 天使によって封じられていたと伝えられていた怪物の類が、

 頻繁に現れるようになった。


 また、妖魔妖獣の類ばかりか、

 『古き者ども』と呼ばれ恐れられる悪魔までもが東大陸各地で目撃された。


「雄大で荘厳な音楽に合わせて魔物の絵を次々と出す趣向ですか」

「大陸の写実画とは違う独特なクセがあっていいよな。この悪魔絵」

「画集ほしい」


 ある賢者は古き者どもを封じた何かが力を失いつつあるといい、

 ある占い師は「世界の均衡が崩れ始めた」と言う。

 平和を甘んじながらも異形の者たちの影に怯える生活。


 だが、そんな人々の中には、ハイエルフ族が残した財宝を探す者や、

 恐ろしい怪物を退治することで報酬を得る者たちが現れた。


 尋常ならぬ精神力を持ち、体術や魔術を操り、

 数多の困難に立ち向かう彼らを、人は『冒険者』と呼んだ。


 様々な冒険者が東大陸の各地で活躍する中。

 またひとつ大きな事件が世界に訪れる──


「迷宮王ミノスの挑戦……」


 私がこれまで調べてきた迷宮王関連のだいたいがこの動画にあった。


 その後は音楽に合わせてダンジョン内部の映像やモンスターの映像。

 私たちが以前の探索で発見した石碑に彫像に闘技場のスポット映像。

 そのほかにも森林ダンジョン各地の見栄えのある風景を順ずつ映し、

 最終的には私たちも見たことのないダンジョン内部を流していた。


「すごいですね」


 見入ってしまった。不覚にも見入ってしまった。

 これまでリューチューフの動画はいくつか見たがここまでのはなかった。

 未知の技法でありながら手馴れていた。斬新でありながらこなれていた。

 最新鋭技術を使った音楽と映像の芸術作品。これが異世界のセンスか。

 いったいどのような技術を用いればこれほどのものを。


「この二種類の異なる風景は今後に解放されるダンジョンでしょうか」

「たぶんな」

「かみんぐすーん」


 最後に見覚えの無い風景は石造りのダンジョンとおぼしき風景。

 あの森をチュートリアルとするなら、この風景の場所こそが本番。

 うまいですね。冒険者の挑戦心と好奇心をくすぐる内容になっています。

 年が明ければ、この動画を見て参戦を決意する冒険者も多いでしょうね。


「それで最後のおまけ動画なるものは?」

「あ、これ?」

「見る?」


 なぜかあまりオススメしないよという顔の二人。

 こんな苦い顔をする二人も珍しい。

 まさか見るものを殺す呪いの映像というわけでもないでしょうに。


 動画の再生時間はたったの3分。先ほどのふたつの半分にもなりません。

 本当におまけ映像なのでしょう。でもそのわりにアクセス数の桁が……


「インコ、動画が配信されたのは三時間ぐらい前のはずですよね?」

「うん、配信時刻を見ればいちもくりょーぜん」


「なのにこのおまけだけアクセス数が他と桁違いなのはなぜでしょう?」

「見ればわかる」


 見れば分かるですか。

 つまり短時間ながらも他二つを越える内容であるということ。

 俄然、興味が出てきました。


「では、拝見」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ