My house is currently being remodeled ~ぷろじぇくとX~
ほら、なにか、おとがきこえますよ。
つちを、ほりかえすようなおとが………。
【黒木勇斗語録・邪聖剣ネクロマンサー エンディング】
「それではこれより、第一回【迷姫王ミル】のダンジョン開発プラン会議を行いたいと思います」
わーぱちぱちと会議室に響くまばらな拍手。
しょうがないね。経営担当者が四人しかいないんだから。
会議のメイン進行はこのボク【闇騎士ユート】。
黒板の前に立つボクを正面に三人がズラリと横に並ぶ。
なんだろう……この中学時代によく見た学級委員会のような構図は。
個人的にはもうちょい円卓会議みたいな厳かさが欲しかった。
「まず会議を行うにあたって皆に質問したいことが一つあります。問おう、ダンジョンとはなんぞや?」
「お宝いっぱい! モンスターいっぱい! あとはトラップにトラップにトラップ!」
「正解率30%」
タマ、冒険心に忠実なのはいいけどソレはちょっと違う。
「んーっ、金銀財宝の副葬品を墓泥棒に取られないようにする迷路とか、引き篭もりの魔術師とかが侵入者を研究所とかの重要施設に入れないための回廊かなー」
「わりとイイセンいってる。正解率70%」
エストはさすがに年の功か古典のダンジョンの定義というものを分かってらっしゃる。
ハイスクール編でのゲーム部暮らしでもTRPGのゲームマスターを進んでやってたしな。
「えっと、迷宮というものは本来はエストさんの言うように侵入者避けの施設ですが、逆に外に出したくないモノを封じ込める役割もありますね。あとは選ばれしもののみ到達できるよう選別するための試練の一面もありますねか。全体として言えることは『迷わせて目的地に簡単に到達させない』目的で造られた施設……でしょうか」
「はい、さすが迷魔王の後継者。模範的な回答をありがとうございます。正解率ほぼ100%です」
やはり餅は餅屋に限る。一番真理に近い回答をしたのは迷姫王のミルちゃんだった。
「つまるところ迷宮ってのは、対象を可能な限りゴールに到達させないように作られた
入り組んだ迷路だ。その目的はセキュリティー。その対象が迷っているうちに配置したトラップやモンスターで排除を行うのが基本。その目的地の内容は施設の内容によって様々なんで例えを絞るけど、最もメジャーなのは霊廟や遺跡などの中枢部にある埋蔵金。すなわちお宝だな。冒険者は古今東西、ソイツにロマンを感じて迷宮に挑んできた」
他にも囚われた姫君の救出とか、封印されたナニカの解放とか、本丸の敵将の首などケースは様々。
ワードナーの逆襲やミノタウロスのラビリンスみたいな脱出ゲーム路線もあるけど、概ねダンジョンとは侵入者を目的地に辿りつかせないための迷路が基本だ。
当然、ゴールにあるものの価値が高ければ高いほど目的地までの難易度もハネ上がる。
「こういっちゃなんですけど、冒険者ってマゾヒスト多いですよね」
「あー、あるある。トラップやモンスターが多くて強力なほど凄いお宝が眠ってる錯覚があるっていうか。だいたいダンジョンってそういうパターンだから、難易度設定が高ければ高いほど燃えるんだよね」
「大事なのはそこだよねやっぱり。迷宮攻略のモチベーションには苦労に見合った報酬。これ重要」
そこまで言ってボクはミルに向き直る。
「これだけは天界側も情報が古すぎて曖昧なんで聞きたいんですけど、千年前の第一次迷宮ブームのときは、冒険者や異邦人相手に迷宮攻略後の報酬とかはどんな感じでやってました?」
「あ、えっと、おじいさまのお話ですと、当時の冒険者ギルドと提携して経験値ボーナスや金銭報酬、またはこちらが宝箱にアイテムを入れてゴール地点にポップするようにするなどしていたそうです」
冒険者ギルドってそんな大昔からあったんだ。
「今も昔も変わらぬ定番だね。よし、それならヘタにシステムを複雑にするより明瞭簡潔なのが一番。うちの報酬システムもそれでいこう」
経験値ボーナスや攻略賞金とかの類は冒険者ギルドの領分だな。
これについてはあとで冒険者ギルドサイドにいるリップルと相談しないと。
「別にうちらは王都侵略とかハナから関係ない迷宮経営。本分はmyダンジョンを制覇しに集まる冒険者をとことん追い返すタワーディフェンスゲームだ。もちろんクリア不可のダンジョンを作っても互いの腕試しにはならないから、できたら推奨レベルごとの階層あるいは個別ダンジョンを作成したい」
「あのぅ、ポンとこの魔城を解放して冒険者さんをお迎えするのはよくないんですか?」
「長期的経営を目的とするなら、この城は本当にラストのラストに開放されるラストダンジョンという設定にしたいね。魔王の居城に辿りつくってのはダンジョンもののひとまずの最終目的。そこから裏ダンジョン解放なんて流れもお約束だけど、それはずっと先の話だから、今回は序盤の設定の確立だけに議題を絞ろう。なによりも……」
「なによりも?」
「スタート地点からラストダンジョンが見えるけど最初は入れないってのが重要なポイントなんだ。最終ゴールが遠目に見えているってのは冒険者心を凄く煽る。いつかここに辿り着くぞという明確な目標が出来るからね。だからボクはここに入るには数エリアのダンジョンクリアを突入条件にしようと思ってる。ポンといきなり最終面じゃありがたみに欠けるからね」
「ふわぁ」
てきぱきと会議を進行させるボクを見て、ミルちゃんがわぁと感嘆の声を上げた。
「ユートさまって博識でいらっしゃるんですね。私もダンジョンについてかなり勉強したつもりでしたけど、そういう冒険者視点までは気が回りませんでした。その口ぶりからして、これまでかなりの数のダンジョンを制覇してきたベテランとお見受けします。この企画に来てくださった勇者様があなたでほんとうによかったです」
「はっはっはっ、ダンジョンものにはかなり造詣が深いものでして」
キラキラと目を輝かせながら尊敬の念を抱く魔王様。ああ、いいわー。快感だわー。
好きこそ物の上手なれ。ゲーム部でダンジョン系のケトロゲーをやりまくった経験がここにきて生きたよ。
ウィズ、ダンマス、ディープダンジョン、D&D、女神転生、大作と呼ばれたレゲーは大体やりこんだものよ。
「あのさ、その造詣ってゲームの話なんじゃあ」
「実際にもぐったリアルダンジョンって片手で数える程度だったよね?」
小声でツッコミを入れる二人の発言は無視する。
いいのよ。このダンジョン経営はあくまでもゲームとしてのカタチが主目的なんだから。
リアル寄りでなくゲームの知識からの引用のほうが冒険者は心躍らされる。だから発想はコレでいいんだ。
「それで魔王様」
「あ、えっと、プライベートのときはミルでお願いします。あまり畏まられるとその、恥ずかしいので」
気さくだなぁ。もしかしたら彼女、自分が魔王としてやっていくことにあまり自信が無いのかもしれない。
「じゃあミルちゃん、新規にダンジョンを生成するとして、建造期間ってどれくらいかかる?」
「そうですねー。基本サイズの一階層くらいでしたら、設計図さえ用意していただければLPを使用して半日もいただければ御用意できます」
「らびりんすぽいんと?」
「ああ、すみません。まだその説明をしていませんでした。LPというのは魔界の魔王ギルドで支給される拠点建造やモンスター召喚に必要な軍資金のようなものなんです。古代からの規約でダンジョンマスターはこのLPで迷宮や居城を生成して冒険者と戦うよう決められているんです」
なんともゲーム的なシステムだ。
もとより魔王の人間界侵攻がゲームみたいなもんだから当然の仕様なのか。
「そのポイントってようするにダンジョンの作成で減るポイントだよね? なら貯める方法は?」
「侵入者を排除することで冒険者における経験値と同じ方式で加算される方式です。高レベル冒険者を退治したり、トラップでコンポを決めたりするとボーナスが入ったりもします」
「トラップでコンポとな!?」
はい、そこのゲリラ戦大好きレンジャー、トラップのワードに敏感に反応しない。
「これから開業する初期ポイントだと、どれくらいの数の新規ダンジョンが作れそう?」
「そうですねー。全10層のダンジョンひとつか、全四層の初歩向けダンジョンを二つのどちらかでしょうか」
「うーん、それだとバリエーションに乏しいかな。プランとしては魔城に突入するにはキーアイテムを最低でも四つは集めないとエリア解放されないって感じでいきたいから、初期でも四つのミニダンジョンが欲しかった。そうなると全10層のダンジョン1つで様子見しつつポイント稼ぎに移行するのが……」
「あっ、でしたらおじいさまの造ったダンジョンの再利用とかどうでしょうか。それでしたらリフォームの扱いで使用するLPのコストも安く済みますから。四つの中層ダンジョンくらいならギリギリでそれなりのものを御用意できると思います」
「あ、いいね。初期ダンジョンのコンセプトはソレでいこう。それぞれのダンジョンの最深部にキーアイテムを設置。これを全てそろえることで初めて魔城への挑戦権利が得られる仕様で確定としよう。内部の構造やトラップおよびモンスター配置はまた話が煮詰まってから設計するとして……」
ここでひとつ、ボクからミルちゃんに提案がある。
「ミルちゃん、こういった生成ダンジョンって魔王が造った結界の一種だよね? ならある程度のルール設定とかは可能?」
「ルールの設定ですか?」
「うん。例えばパーティーの人数制限とか、特定の魔法の使用禁止とか、特定条件でダンジョンからの強制排出とか」
「それくらいでしたらダンジョンの調整メニューを開けば、いつでもコンフィングから細かい設定が可能ですけど」
「なら全ダンジョンにこういう設定をお願いしたいんだ。『冒険者が致命ダメージを受けたら自動的にダンジョンから強制排出。累計ダメージも死亡判定スレスレで寸止め』って」
「やれなくはないですけど、そんな優しい設定にしちゃって大丈夫なんですか?」
「うん、このルールはボクたち魔王軍側にも適用してほしい。せっかくのモンスターを殺されては再生産じゃ大規模なダンジョン経営ではコストがかかりすぎてかなりキツイ。特にボクみたいな【ルームガーター】は不特定多数の冒険者と何度も戦うわけで、その安全装置がないと人材がいくらあったってたりゃしない」
ルームガーターってのは個室で固定エンカウントするモンスターなどを意味する用語だ。
だいたい各層のボスキャラや重要アイテムをドロップするモンスターのことをそう呼称する。
WIZ的な長期経営を目指すなら、それくらいのリサイクル活用でいかないとポイントがもたない。
「ニートさん、それかなり激甘な設定になってますけどダンジョンものとしてはどうなんでしょう」
「死亡判定の無いダンジョンとか少し緊迫感に欠けるような気がするなぁ」
「いや、スタート時点はそれくらい甘いほうがいい。ヘタにガチでブッコロなサツイ満点ダンジョンで開業なんかすると、王都からガチな殲滅部隊がやってきかねないからね。もちろん全滅したときの恐怖を演出するために、排出後のペナルティーは負ってもらう。再挑戦まで期間を置くとか、所持金半分没収とか装備品のロストとかで」
もし冒険者側から歯ごたえがないという要望がきたら、そのときにメンテなりでハードモードを作ればいい。
「千年前の迷宮ブームは魔王と冒険者の知恵比べと腕比べがテーマだった。なら、ボクたちはさらにそこからエンターテイメント性を強化して娯楽性を高めようと思う。仕事にあぶれた冒険者たちがかつてのような心奮える生きがいを復活させて足げく通ってくれるような夢のあるダンジョンとしてね」
ここでボクは握り拳をポカーンとしている三人に向けて突き出した。
ボクが目指すのはダンジョン型のテーマパーク!
これは暇を持て余した魔王と神々の戯れだ。もとよりゲーム。生き死にを懸けた侵略活動なんかじゃない。
ならとことん遊びを突き詰めて冒険者たちを愉しませるのみよ!