Rank "B" traveller.s ~考察の中の真面目な面々~
時はめぐっている 決められた宿命の名のもとに……
時を超えた 我が力…… その身に刻み込んでやろう
おまえたちは ここで死に わしは 永久に生き続けるのだ!
【黒木勇斗語録・DISSIDIA FINAL FANTASY カオス】
「闇騎士のことは分かりました。分からないのが分かっただけですが」
「厳しいねぇ~っ」
「もう一人、イカルが目撃したという天空人の側近のほうは?」
「ああ……んーっ、まぁ、そっちの正体についてはサッパリだ」
一瞬、なにか言おうとして口ごもるイカル。
「なにか隠してますね?」
「憶測まみれで口にしたくないだけさ」
「その天空人に心当たりがあると?」
「心当たりはあるんだが、坊主相手に口にするもんじゃあない」
「光竜派は聖竜派と違って天空人とはあまり交流ありませんけどね」
「あいつがただの天空人ならな」
含みますね。
もちろんタダの天空人は魔王側に組するなんてありえません。
彼らは聖竜神の忠実な傀儡。欲深い魔族とは正反対の存在のはず。
魔に見せられて堕天する天使の例は過去にないこともないのですが。
前例も古文書レベルの古の話。あまりにも情報量が少なすぎますね。
イカルの言うとおり、憶測で迂闊に口にするものではありません。
「ただ、ひとつだけ言える事は、あの天使の正体が俺の推測通りなら」
「通りなら?」
「聖竜騎士ユートと組んで魔王軍に所属しているのも納得ってこった」
「………………」
「えらいことだぞ。アレが魔王と関わるときは決まってロクでもねぇ……」
「ストップ」
私はイカルの発言を途中で制止する。
これ以上はいけないと。
彼の言葉で私の中にもピンとひとつの仮説がひとつ生まれた。
けれどコレは聖職者として口にしてはいけないもの。
たとえ宗派は違えど、これだけは安易に口にすべきものではない。
「聖竜神派との関係に影響しかねない不用意な発言はNGで」
「その発言がでてくるってことはイスカもピンときたってことか」
「実物をこの目で見たわけではないのでコメントは控えさせてください」
「ああ、そうしよう。お前ならアレの逸話はとうに知ってるだろうしな」
アレか……
光竜派の司教クラスの間では常に要注意人物に指定されているアレ。
光の聖女さまからも「アレとだけは決して関わらないでください……」と
念押しで忠告されるほどの聖職者界の超危険人物。
ある意味では邪竜派や闇竜派よりも関わり合いになりたくない存在。
「九十年前の流星王、八年前の邪竜王、そして今回は迷姫王──」
「実はアレが今回の事件の黒幕だって言われても俺は驚かねぇよ」
「口にするのもはばかられる聖なる鬼札……ここのところ静かだったのに」
「聖湖ホーリーレイクを襲った流星王の至上最速の破滅にアレの影あり。
天空城襲撃に成功した邪竜王の鳴かず飛ばずな凋落にアレの影あり。
この八年ばかり姿を消していた触れ得ざるモノが舞い戻ってきた……」
「納得の非常事態ですね」
私は大きく溜息をつく。
この一件、想像を遥かに超越して面倒なことになりそうです。
「インコ、現地のほうはどんな様子です?」
「んー? てきとー」
「ツグミとウズラからの報告は?」
「んー? それなりー」
「……打ち合わせに真面目に参加する気は?」
「あるけどない」
ぽちぽち。ぽちぽち。
水晶版を指先でいじりながらインコが気だるそうに答える。
どうやら水晶版のよくわからない遊びのほうに御熱心のようで。
「すっかり元の気だるいインコに戻りましたね」
「うん。一年分のやる気を完全に使い切った」
「憧れのコクロウ先生に会えたあの日は完全にハイだったもんなぁ」
本の虫でがり勉の私が言うのもなんですが、魔術師という職種の人間は
どうしてこうネクラでマイペースの人間が多いのでしょうか。
昔からなので慣れてはいますが、インコはいつも物事にたいして無関心。
テンションは常に底面。いつもぼやーっとした感じでハキハキしない。
「たしかにあの日は年に一度あるかないかのハイテンションでしたね」
「先生の前なら、たまには本気をだすのもいいかなーって頑張った」
「頼むからいつもだせよ」
イカルの呆れ顔の懇願。
まったくですね。彼女の行動の遅さには何度泣きを見たものか。
彼女の資質はかなりのものなのですが、いかんせんメンタル面が……
なにごとにも真剣さが足りないというか、思考が亀みたいというか。
もうちょっと熱意を持って迅速に動いてくれれば我々も助かるのですが。
あの日の行動速度と元気ハツラツぶりは奇跡でしたね。
好きな人の前だけではやる気を絞り出すとか子供ですかあなたは。
「はぁ……今は療養中ですし通常営業でも構いませんが来年は頼みますよ」
「んー、善処する」
「うわあ、アテんなんねぇ返答」
では本題に戻りましょう。
インコが会議のやる気を完全に失わないうちに。
「現地の様子をテキトーに詳細におねがいします」
「新参冒険者が定期的に例の森に入っては痛い目を見てる感じかなー」
「早くも耳のいい冒険者が例のダンジョンに挑戦してるということですか」
「ほとんど南方拠点の駆け出し冒険者だけどねー」
「それと俺が輸送してる中央の連中だな。こちらもDランがメインだが」
「さすがにCランク以上が向かうには時間かかりそうですか」
「強い人ほど忙しい年末にいい仕事回してもらえるからねー」
「この時期にフリーで参加するような中央組はあぶれ冒険者くらいだよ」
時期が時期ですからね。
あちらでの集まりが悪いのはしかたないことですか。
そろそろ冬が厳しくなり始める中央。
年末の王都では毎年恒例で『雪霊』ハントが始まります。
「今年の予報は十年ぶりの大量発生の予兆が見られたとか言ってましたね」
「合体して冬将軍に進化でもされたら面倒だから大々的に募集してたよ」
「あれ寒いし遠いし辛いしで嫌い」
腕に覚えのある冒険者が大雪や寒波を招き寄せる雪霊の間引きを行うため、
冬を越す生活費を稼ぐため彼らの巣がある白雪山脈に向かうのは恒例行事。
この討伐クエストは来年の春の収穫にも影響することがあるので責任重大。
「中央所属のBランクともなると都合に関係なく強制参加ですけどね」
「たまんねぇよなあれ。騎士団もっと仕事しろよと言いたくなるよ」
「あー、よかったー、今年は怪我で不参加でラッキーだったー」
有名税というかギルドの誇る精鋭ゆえの責任の付きまといというか。
ギルドからの推薦で高ランクほど優先してこの仕事を回されるのほんと嫌。
なにが悲しくて鬼みたいに寒い時期に雪山登山しなくてはならないのか。
インコではありませんがケガで不参加になったのは実にラッキーでした。
寒い冬は暖房きかせた書庫で本を日々読みふけるに限ります。
「で、俺らが参加しない分の戦力補強で中央Cランクがほぼ強制参加らしい」
「御愁傷様ですね。もっとも普段仕事の少ない彼らには願ったりでしょうが」
「ああいうメンドーなのは、もうぜんぶCランク以下に任せていいと思う」
雪霊討伐クエストは実入りがそこそこな分だけ面倒くさいのがたまにキズ。
場所が場所なので二週間以上の長期拘束クエストになりがちなのが痛い。
なので──
中央の冒険者ギルドの腕利きはみなこのクエストで出払うのが通例です。
この時期に酒場に残っているのは雪霊や雪狼に対処できないDラン以下。
そうなると自然とあそこに向かう冒険者の質もお察しになります。
「FランクとDランクでは浅い層でもいっぱいいっぱいでしょうね」
「Dランでも一層目のボスモンスターで全滅ありうる難易度だもんな」
「うん、この一週間で10パーティーくらい挑戦して半分は壊滅してる」
Dランクあたりならそんなものでしょうか。
彼らの実力では報告書にあった牛頭のデーモンですら勝ち負けの範囲。
ボスモンスターのところで犠牲者数人を出してやっとクリアの難度です。
「誰がよんだか知らないが、あそこチュートリアルの森っていわれてるぜ」
「個別指導?」
「あそこをクリアするとダンジョン攻略の基礎がみにつくんだってー」
「魔王の用意した練習場といったところですか」
「実際そうなんだろうな。ギルドがよこす最初のクエストもそんなんだし」
「森にある三つの石碑の記録をとってこいってクエストらしいよー」
ああ、過去に探索隊が攻略してきたルートをなぞるカタチですか。
千年前の記念碑がある三つの広場。三種類のルートに待ち受けるボス。
それぞれのエリアを攻略できれば最低限の実力は身につきそうですね。
言い換えれば──
あの森をクリアできないようではダンジョンに挑む資格なしということ。
「ここまでの犠牲者の数は?」
「それがおもしろい報告がツグミからあってねー」
「おもしろい報告?」
「あのダンジョン、致命傷を受けても簡単に死なない仕様なんだってー」
「どういうことでしょう?」
「全滅しても瀕死か戦闘不能の状態でダンジョンに排出されるだけらしいぞ。
かなり強力なダメージ軽減の結界、最低限レベルの絶対防御が働いてる。
迷宮王のダンジョンの逸話と同じだよ。俺らにも身に覚えあるだろ?」
ええ、ありますね。
私とインコが闇騎士に襲われたとき、私は死を覚悟しました。
あのときに受けた突進の斬撃。普通なら内臓が飛び出す致命傷でした。
しかし実際にはそれがありませんでした。瀕死の重傷ではありましたが。
のちに迷宮王のダンジョンの文献を調査して、あのダンジョンには致命傷を
ギリギリで回避する特殊な結界が張られていた記録を発見しました。
腕比べのゲーム感覚でダンジョンを用意していた大魔王ミノスからすれば、
挑戦者である冒険者を戦争時のように殺すのは悪手と見ていたのでしょう。
だから落石に潰されてもドラゴンのブレスで焼かれても即死はしない。
最低限の命は繋いだ状態でダンジョンの外にはじき出される保障はある。
当のダンジョンでの死亡例はルール違反者の粛清のみのはず。
無論──
手当てが遅れてのダンジョン外での死亡や再起不能は十分にありえます。
真剣勝負は真剣勝負。さすがの魔王もそこまではおやさしくはない。
負けグセの付く死に慣れは危機感を失わせる。これくらいのリスクは当然。
安全装置に甘えず全滅しないにこしたことはないということです。
「だいたいみんなボス部屋のデーモンにやられてるみたいだねー」
「絶妙な難度だな。FランDランきにホイホイ攻略されちゃあ拍子抜けだ」
「そうそう簡単にクリアされたら魔王がわも商売あがったりですからね」
あとは……
「インコ」
「なにー?」
「ギルドあるいは魔王側からの新しい情報の提供は?」
「リューチューブにPVあがってるー」
「は?」
「だからー、リューチューブに魔王のチャンネルできててPVあがってるー」
「………………」
「魔王もリューチューバーになる御時勢ってか」
「おー、かなり好評なのかチャンネル登録もめっさ増えてるねー」
これだから魔王の研究は難しい……