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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
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Rank "B" traveller.s ~推測の中の真面目な面々~

  悪しき心は一体どこから生まれ出るのでしょう。

  誰しも初めは無垢な赤子なのに‥‥。


  【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY4 ミシディアの村人】

 私は生まれも育ちもセーヌリアス。幼馴染のインコとイカルも同様だ。

 老いて朽ちゆくこれからも、私たちはこのセーヌリアスで生きていく。

 だから異世界からやってくる異邦人の思考なんて計り知れない。


 彼らには彼ら独自の、私たちとは似てまったく非なる文明圏があって、

 彼らの行動原理は生まれ育った異世界の倫理観によって構築されてる。

 だから異邦人と私たちは常識から善悪論までどこかが食い違っている。


 なぜなら文字通りに彼らは別世界の人間だから。

 互いの微妙な思考のズレは徐々に徐々にだが不安や猜疑心を生み出す。

 二千年以上の定期的な交流を経ても、我々と彼らには一線の溝がある。

 結局、彼らは余所者。我々と完全に分かり合い溶け込めるわけもない。


 異邦人はおだてるだけおだてて、魔王退治が済んだら帰ってもらう。

 これは大昔から言われている異邦人の扱い方のマニュアルだ。

 酷い言い方ではあるが、これは二千年で得た経験の知と歴史の知。


 セーヌリアス人からすれば彼ら異邦人は異物であり扱いに困る外来種。

 病を殺すための薬の投与も度がすぎれば患者そのものの肉体を侵す。

 彼ら異邦人は世界の治療と引き換えに後遺症をもたらす劇薬そのもの。

 神から与えられた非常識極まる異能と異世界知識はあまりにも劇物だ。


 もし魔王を退治したあとに、異邦人が我々の敵になったらどうなる?

 魔王よりも危険なモノをこの世界で野放しにしたら今後どうなる?

 だからといって市民ごときが魔王より危険な存在を斃せるわけもなく。

 救世主は常に弱者の都合の良い存在でなくてはならず。

 なら元の世界に気持ちよく帰ってもらうことに全力になるしかない。


 その辺は召喚者である神様と政治も心得たもので、ここ近年の異邦人は

 変な知恵や野心を持たず故郷や親が恋しい少年少女が中心になっている。

 魔王を斃すことが故郷への帰還につながるというモチベーションに。

 これなら魔王を退治して後腐れなく異邦人も放逐できる一挙両得。


 八年前の大戦時に召喚された異邦人たちはその典型例だった。

 たしか地竜騎士のガッサーさんだけは帰還を果たさず行方不明に。

 それ以外は全員故郷へ戻り、元通りの生活に戻ったといわれている。


 そう、これでいいんです。こういうハッピーエンドでいいんです。

 ヘタに大人の異邦人なんか連れてくるとロクなことになりませんから。

 子供よりも大人の異邦人のほうが経験と知恵があって強いのでしょうが。

 その『知恵が回る』というのが厄介極まりなく、グローリア王国は過去に

 一度それで痛い目を見ている。


 戦国の魔王『織田信長』──

 このグローリア王国をあわや陥落寸前まで追い込んだ歴代最悪の異邦人。

 魔王を退治した途端に王国相手に『この国は俺が貰う』と宣戦布告。

 冷静に考えればあたりまえの顛末。これがあるから異邦人は危険物。


 魔王を斃せるほどの戦闘力を神様から貰ったら野心を抱くのは当然。

 自分のいる世界よりも文明レベルが下で攻略しやすいとくればなおさら。

 いや、ほんとにロクでもないですね。男子というのは野蛮で困ります。

 あの一件以降、神々の間でも異邦人の選別基準は厳しくなったそうで。

 まったく、さもありなん。


「最初に質問するけどよ、二人は聖竜騎士ユートのことは知ってるか?」


 イカルの質問にたいして。


「おにぎり教官の授業で名前程度は」

「四人の神竜騎士の中で一番パッとしなかったって印象よね」


 本人が聞いたら泣きそうな真っ正直な返答をインコと私は返す。


「だよなぁ……俺たちゃ教官やコクロウ先生みたいに知り合いでもないし」


 聖竜騎士ユート、彼の旅の軌跡を知る者は数少ない。


 鬼城王に故郷を滅ぼされた俺たちにとっての救世主だった地竜騎士。

 魔王軍にも王国側にも属さず無頼の混沌を撒き散らした闇竜騎士。

 そして光の寵児と呼ばれ大陸の誰もが知っている伝説の光竜騎士。

 彼ら三人の神竜騎士の存在に比べて聖竜騎士の存在感は妙に薄い。


「たしか西の連邦国を侵略拠点にしていた邪竜王と戦った勇者でしたね」

「旅の仲間だった人たちはあたしたちと関係が深いけど本人は全然よね」

「ああ、そこんところがちょっと面白いよな」


 彼の旅の仲間だったリップル・おにぎり・タマは全員が我々の関係者。

 リップルさんはギルド構成員として俺らに仕事を回す大事な仲介だし。

 おにぎり教官は私たちに冒険者としてのノウハウを教えてくれた恩師。

 南方国の国家元首であるタマさんには仕事関連で色々世話になってる。

 これまで三人から名前は聞いていたけど実物を拝むことはなかった。

 当然だ。その聖竜騎士当人は八年も前に元の世界に帰還したのだから。


「しかし彼は帰ってきた。このセーヌリアスに」

「前代未聞ですね」

「同じ異邦人が二度もこっちに召喚されるなんて聞いたこともないわよ」


 その時点でもうイレギュラーすぎてわけがわかりません。


「私とインコは彼の素顔を見ていませんので判断のしようがありません。

 イカルとて面識はないのでしょう? 魔物が化けていた可能性は?」


「普通は勇者の名を騙る()()()と思うものだけど」


「当代の聖竜騎士であるもりそばが目の前でコテンパンにされなけりゃあ、

 俺だって闇騎士の野郎を聖竜騎士のパチモン呼ばわりしてただろうさ。

 それに本人を知るコクロウ先生が本物認定したんだ。疑う余地はねぇよ」


 悪夢ですね。

 神から神通力を授かった異邦人が紆余曲折の末に魔物の協力者になる。

 こういう事態は過去にも数件の事例が存在するのですが…… 

 さすがに救世主級の異邦人が敵に回るケースは織田信長以来です。


「しかしなぜ聖竜神の尖兵である彼が魔王の手先なんかに?」

「まさか魔王に召喚されて召使契約したってわけでもないでしょうに」


 当然の疑問。


「そこなんだが、リップルさんところの酒場でちょいと調べてみたらよ、

 どうやら夏の終わりごろに彼がこっちで就職活動してたらしいんだわ」


「「はぁ?」」


 私とインコの声がハモった。


「ほら、王都の東地区にオーガの旦那が経営してる口入れ屋があるだろ?

 あそこを拠点にして仕事先を探していたらしいんだ。主に仕官先を」


「どうやって再びセーヌリアスに来たのかは?」

「そこんところはスルーしろ。たぶん俺らの常識の埒外の話だ」


「むこうの世界での生活、うまくいかなかったのかしらね」

「あるあるっちゃあ、あるあるな話だな」


 異邦人はこちちでは超人になれるけど向こうではただの人らしい。

 せっかくもとの世界に帰還しても無能に逆戻りしたら辛いでしょう。

 こちらで得た知識や経験を活かし社会貢献できるならいいのでしょうが、

 そうそう御都合主義でうまいようにいかないのが世の中の常。


 もし両方の世界に行き来できるチャンスがもう一度訪れたとして。

 息苦しい現実世界と夢も成果もある異世界。どちらに永住したい?

 いうまでもないですね。


「元とはいえ神竜騎士が仕官? どこもとってくれないでしょうに」

「そう、まさにそれ。十数か所の仕官募集に参加して全滅だったらしい」


「こっちに来てもうまくいかないとか相当ね」

「ある意味、こっちでやりすぎたんだよ。聖竜騎士ユートは」


 同時代に四人の救世主という大売出しでありがたみは薄れましたが、

 本来、神竜騎士という存在は神に選ばれた真の勇者で生ける伝説。

 聖王暦600年の間で最初の神竜騎士ベリアから数えて出現したケースは

 きわめて稀で、世界がマジでマジでヤバイときにしか彼らは現れない。

 それだけ八年前の大戦は世界が揺らぐ未曾有の危機でした。


「神竜騎士という存在そのものが人類からすれば厄介者ですからね」


「だよねー。光竜騎士ディーンが蝕星王ノヴァと相打ちで死んだのは、

 言い方は悪いけど一番理想的な落としどころだったと思うわ」


 普通の異邦人でさえ後始末だなんだで扱いに困りまくるというのに、

 そのさらに上乗せで神竜騎士なんて非常にデリケートな存在になったら、

 こっちの世界の住人としてはどう処理していいのか分からなくなる。

 崇め奉るにしても排除放逐するにしても、どのみち手に余る。


「そもそも王国を建国した聖王ベリアでさえ、光竜騎士の自分の存在が

 国家のバランスを崩すと察し、王位を甥に継がせて消えたといいます。

 光竜騎士ディーンもまた魔王討伐後の自身の身の振り方に悩んだとか。

 王家から排出された神竜騎士でさえこんな状態になってしまうのです。

 それより面倒な異邦人補正付きの神竜騎士に居座られたら大事ですよ」 


「つーか、神竜騎士見習いのもりそばもデタラメな強さだったからな。

 その彼女のデタラメをはるかに凌ぐ超デタラメな強さだったよ奴は。

 レベルを上げてスキルを練磨して魔王を斃すに到った神竜騎士の力、

 あのときに俺はまざまざと見せ付けられたが、正直背筋が凍ったよ」


「もう歩く人型の戦略兵器よね。神竜騎士って存在は」


 大陸屈指の侍と呼び声高いコクロウ先生でも食い下がるのが精一杯。

 私たちはおはなしにならず、聖竜騎士のもりそばは完全に子供扱い。

 当たり前のことだ。魔王を斃せる救世主は魔王よりも強い。

 

 控えめに言っても国家災厄級の大事件。

 魔王を斃した救世主の一人が魔に魅せられ人類の敵と成り果てる。

 つまるところ誰もが予測しうる中の最悪のケースになったわけだ。


 このパターンに陥ったときの対処方法はふたつ。

 グローリア王国の国家軍事力を総動員して数の暴力で磨り潰すか。

 その悪しき道に堕ちた異邦人を超える救世主をぶつけるしかない。


 やれやれです。

 可能ならば現地勇者たるもりそばに頑張ってほしいところですが、

 デビューしたての彼女が一人前になるには年単位の時間が必要。

 魔王退治はあの光竜ディーンですら二年もかかった難行。

 さすがにこちらがわの準備期間が足りなさすぎでしたね。

 魔王側が悠長に敵の成長を待ってくれるタイプならいいのですが。


「それにしても救世主が就職活動……ですか」

「氷河期時代だよね。今もあぶれ勇者の就職難すごいんだって?」

「ああ、冒険者ギルドの大量リストラの余波はいまだに影響でてるな」


 うちは冒険の片手間でフリーランスの輸送業を始めて正解でした。

 ローンを組んでまで飛空艇を購入したのはBランク冒険者といえど

 本体の値段に加え維持費や燃料費も含めてかなり痛い出費でしたが、

 おかげで冒険を休んでも生活できる程度の収入は得られています。


 三年前に冒険者になったばかりのイカルが『俺は空賊王になる!』と

 言い出したときはみんなして(なに考えてんだこのオタンチンは……)

 なんて思いもしましたが、未来というものは判らないものですね。


「訊き忘れていましたがリップルさんから任されている輸送クエストの

 成果のほどは? さすがに人間を右から左に運ぶだけの仕事くらいは

 イカルと技師二人の三人作業でも楽勝だと思いますが」


「ぼちぼちだな。ボロ儲けってほどじゃないが儲けさせてもらってるよ。

 迷宮王復活の噂を聞きつけた耳の早い冒険者を空路で運搬するだけの

 簡単なおしごとだから気楽にやってるさ。冬場はこれで荒稼ぎする」


「陸路は勇者崩れのヒャッハーが怖いからねー。うんうん」


 前回の探索クエストで、冒険者ギルドからメンバー全員の治療費と

 春先まで休業しても余裕なほどの多大な報酬を得るに到りましたが、

 鬼城王に踏み潰された故郷の復興にお金が要る現在。

 いつ引退の憂き目にあってもおかしくない不安定な冒険収入だけでは

 どうにも心許ないですからね。地に足の着いた職を持つのは基本。


 若いうちに稼げるうちに稼ぐ。動けるうちに働けるうちに働く。

 それを怠ったのが浮浪者の如くあぶれる現在の就職浪人冒険者。

 彼らの行き着く果てはヒャッハーという追いはぎの最底辺。

 社会問題化している就職難民のヒャッハー化は歯止めがきかず。 

 そのおかげで中堅や第二世代の冒険者がヒャッハーの討伐クエストに

 ありつけるというのは、なんとも皮肉なおはなしですね。


「そこらの有象無象の三文勇者ならヒャッハー化で済んだのでしょうが、

 さすがに神竜騎士ともなると落ちぶれもグレードが違いますね」


 エリートコースを転げ落ちてアンダーグラウンドに到達するとしても。

 実力があれば能力相応のところに行く。あたりまえのことですが。

 勇者のアウトロー化も極めれば魔王軍幹部ですか。すごいことです。

 迷惑千万なことはなはだしいですがね。


「仮にだ、もし地方の領主が彼を雇っていたらどうなったと思う?」

「王家から謀反の疑いありと見られて領主は粛清されますね」

「イスカの言う通り。大量殺戮兵器を個人所有するようなものだもの」


 これも正論。誰も彼をお抱えの騎士として雇わなかった理由はそこだ。

 領主なら誰だってグローリア王家に睨まれたくない。

 王家の人間だって異邦人の神竜騎士なんてお抱えにしたらお家騒動だ。

 かつては異邦人の優秀な血を入れるために王家と婚姻関係を結んだ

 ケースもあったそうですが、残念ながら当代の王家は王子ばかり。


 ああ、いや、王女も一人いましたね。でもアレは世間体的にダメ。

 王様が戯れでメイドと契って生まれた鬼子で半追放状態って話だし。

 そんなのと政略結婚したらますます国家が内乱まったなしになる。


「西方連邦は亜人国家で部族文化だから騎士にはなれないしな」

「リザードマンやオークやゴブリンが主流ですしねあそこ」

「さすがにマトモに出世するつもりなら王国領での仕官考えるよね」


「そうか? 俺だったらオークっ娘やリザードマンっ娘もイケるけど」

「イカルくんは女性の守備範囲が広すぎます」

「そんなんだから女だったらなんでもいいのかって言われるのよ」


 結論、神竜騎士は雇ったら負け。


 さっさと地下に潜り行方不明になったガッサーさんは上手かった。

 最近、タマさんところにちょくちょく顔を出してるってウワサだ。

 彼までが陽のあたる表舞台に出る。それだけで事の大きさが読めます。


「話を戻すけど、その後に彼は冒険者ギルドにカードの再発行を申請して、

 リップルさんの酒場経由で商隊護衛の仕事を行っているのが分かった。

 王都で彼が目撃されたのはそこまで。後日にフォートリアで目撃情報が

 あって、タマさんと一緒に迷いの森に向かっていったとか何とか」


「魔王と接触があったとしたら、そのときでしょうか」


「妥当なとこだな。同日に迷いの森がおかしな地殻変動を起こしている。

 ドワーフ国との国境付近の森が土石流と爆発で禿げ上がったって話だ。

 それだけのことが起きてなんにもなかったってことはないだろうさ」


「魔王からスカウトを受けて勇者がダークサイドに落ちる……」

「問題は彼が魔王側についた理由よ」

「だな」


「世界征服成功の暁には世界の半分をお前にやろうと言われた?」

「定番ですね」

「闇の世界なんて不良債権もらってもなー」


「俺としては魔王のオッパイとメガネに惑わされた説を推す」

「それはイカルのシュミでしょう?」

「あんたみたいなムッツリ童貞と伝説の勇者を一緒にしないの」


「ひでぇ」

「「ひどくない」」


 悪落ちに闇堕ち、勇者がダークサイドに魅せられて悪になるなんて話は、

 冒険ものの寝物語でさんざん使い古されてきた定番ネタだ。

 物語のネタになるってことは、それだけ歴史上でもあったってことで、


「神竜騎士関連なら竜の血肉を食らいすぎて自身が狂える暴竜と化した、

 悲劇のドラゴンスレイヤー『ジークフリート』の伝説の再現とかは?」


「邪竜王の血を浴びて自身も邪悪に染まってしまった?」


「だったら就職活動やってる場合じゃなくない?」


 ……………


「つーか、就職活動に失敗して人類に失望して闇落ちする勇者ってどうよ?」

「就職活動という単語を挟むだけで台無しですね」

「中途半端にリアルなだけに始末悪いわ」


 聖竜騎士ユート。

 真面目に考察すればするほど、あなたという人間がわかりません…… 

8/11 一人称視点をイカルからイスカに変更しました。

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