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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
166/177

Rank "D" traveller.s ~PVの中の懲りない面々~

 Bring me back there.(我をここに戻せ)

 I am alive here.(我はまだ生きている)

 I will never let you forget about me.(忘れさせてなるものか)


  【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY8 ティンバー放送局の街頭TV】

 悲報・ラスボスが中央公園から歩いて二十分の酒場でバイトしてました。


「どうしたんだよ。いきなり二人して悲鳴なんか上げて」

「聞いてるこっちがビックリしたじゃない」


 私とおっぱいさんのリアクションに怪訝な顔を向けるマウスくんたち。


「え? あ、あっ、なんでもありません。なんでも……」

「うん、なんでもない。なんでもないよ。うんうん」


 揃って引きつり笑顔で場を誤魔化してからの、


(さすがに変装する気ナシしで『すっぴん』お忍びはどうかと思うんだけど)

(な、なんのことでしょう……私はただのチリメンドンヤのゴインキョで……)


(それ、意味わかって言ってるのかな?)

(あっ、いえ、エスティエルさんからののアドバイスをそのまま……)


(うちのユートおにいちゃんがそちらで御迷惑をおかけしているみたいで)

(いえ、ユートさまにはいつも助けられ……あ、その、ナンノコトデスカー)


 自ら重機もってきて墓穴を掘っていくスタイル。


「もしかして二人って知り合いだった?」

「冒険者家業にはよくあることだけど、大陸は広いようで狭いわね」


 どうしよう……この空気。

 もうおたがいに誤魔化しきかないところまで正体はわかっちゃってる。

 私はいい。うちの『ああああ村』じゃコレは日常茶飯事の光景だし。

 魔王や神様が菓子パンを真顔で選んでるのを日々目の当たりにしといて、

 魔王が酒場で普通にバイトしてるのを見たところでなにをいまさら。


 さすがに相手が相手だけにビックリしたけど。

 いまのリアクションで分かった。この魔王は悪い人じゃない。

 そうだよね。でなきゃユートおにいちゃんが仲間になるわけがない。

 いじりがいありそうだし。


「あ~っ……」

「えっと……」


(あっ、あのっ、すみません……私の素性のことはひとつ穏便に……)

(うん、わかってる)


 でも『ああああ村』慣れしていないマウスくんたちは別。

 こんなところに魔王がいるなんて知ったら大変なことになりかねない。

 誰もがこういうギャグ時空の空気を読めるとは限らない。

 いまこの眼前に敵軍の首領が護衛もつけず無防備に突っ立っている。

 空気の読めないシリアス派の冒険者なら普通に暗殺にかかるのは当然。

 私ももう16歳のいい乙女。オトナの対応くらいは心得ているよ。


 だから私は──


「こちら迷姫王のミルちゃん。ここのダンジョンのラスボスっぽい」

「にゃあああああああああああああっっっ!」


 包み隠さず、ありのままをみんなに伝えることにした(鬼)。


「迷姫王?」

「ダンジョンのラスボス?」


 案の定、キョトンとするマウスくんたち。


「ちっ、ちがいます。違うんです。これには大陸大山脈より深いわけが!」


 それ標高3000メートル超えててぜんぜん深くない。


「そそそそそその迷宮王の孫娘の魔王ミルというのは私とは全然別人でして

 わ、私はエチゴノチリメンドンヤノゴインキョノミルという名前でしてっ、

 そもそもわた……彼女は魔界公爵令嬢のミルス・ミノス・ラブリュトスって

 名前なので、ミルとは名前が違いますし、ね? 違いますよね? ね?」


 わたわたと不思議な踊りをしながら必死の訴えをするポンコツ魔王。

 あざとい! あざとすぎる! 天然ものだからなおさらあざとい!

 動くたびにおっぱいが縦に横に激しく揺れるのがまたあざとい。


「ミルちゃん、それってギルドにも伝わってないとんでもない機密だよね」

「魔王のフルネームとか迷宮王の孫とか始めて耳にした情報なんだけど」

「つーか、エチゴなんたらって、どこで区切んだよその名前」

「チック、ツッコムとこはそこかい」


「ぴゃー!」


 墓穴の底にさらなる墓穴を掘って、その上に古墳を建てるスタイル。


「もう、もう~っ、穏便にって言ったのに神竜騎士さんひどいです~っ!」

「というキャラ設定でよろしくおねがいね、みんな」


 と、ここで最後に冗談めかす。


「なるほど。そういう設定ね」

「じゃあそういうことにしておきましょうか」

「いくらなんでも魔王がこんなとこで給仕してるわけないもんな」

「あっはっはっはっはっ」


 ひとしきり笑い合ってから五秒の沈黙。


「……『ああああ村』のこと知らなきゃ、そういうこと言えたんだけどな」

「こっちはラジオ収録で、ある程度は察してたから驚かないけどさ……」

「もりそばの周辺ってこんなんばっかだよな」

「言うんじゃないよ。アタイまで同類になっちまうだろ」


 あっ、察し。


 ここで無駄に慌てたりしないのが『おにぎり門下』クオリティー。


「だからってなにが変わるかって言うとなんも変わらないんだけどさ」

「ミルちゃん、そろそろ水くれる?」

「あとメニューな。うまいもん喰わせてくれりゃあなんでもいいや」

「魔界酒とかあったら教えな。魔界酒は地上になかなか出回らなくてね」


 順応早っ。

 さっすがおにぎりにーちゃんの門下。訓練されておる。

 これくらい非常識に対して度胸がすわってないと一流にはなれない。


「あっ、はっ、はいっ。いますぐお持ちしますぅっ!」


 テンパりまくりで目をグルグルさせながらカウンターへと走る魔王。

 ここにいたるまで魔王特有のカリスマとか威厳とかまったくなし。

 だからいい。こういうときは下手に隠すよりストレートのほうがいい。

 真面目でシリアスな人ほど展開についていけずに全否定したがるから。


「わたわたしているうちに髪で隠してた角が丸見えになってるな」

「さすがにあとで言っておいたほうがいいわね」

「シャレの通じないガチな七大魔王のときとは路線が正反対だな」

「そんだけ時代は変わったんじゃないのかい? 地上も魔界もさ」


 くすっ。


「どうしたもりそば」

「なに一人で笑ってるのよ」

「ん? なんでもない」


 時代は変わった……か。そうかもしれないね。

 彼女みたいなポンコツ魔王が地上にやってくることの意味。

 侵略よりも競い合いを目指したっていう迷宮王ミノスの孫の登場。

 きっと彼女も人類との血みどろの戦争なんて頭から望んでなくて。

 だからユートおにいちゃんもエストおねーちゃんも協力してあげた。


「ただ、このタイミングで神竜騎士になれたのは幸運だったなーって」


 たぶんこれから私たち新世代の冒険者たちが見るのは……

 千年前に七央の冒険者たちが見た、競い合いと比べっこの世界。


「マウスくん、サラちゃん」

「ん?」

「なに?」


「神竜騎士と魔王って、ともだちになれるかな?」

「なれるんじゃないか? 前代未聞なことだけど僕は支持するよ」

「魔族の不倶戴天の敵である神の尖兵のセリフとは思えないけどね」


 だよね。

 そうだよね。

 立場なんて関係なしに、あの子とは仲良くなれそうな気がする。

 八年前、幼いときの私は一人の魔王と出会ってともだちになれた。

 あのときは人と魔の戦争という背景で悲劇の別れで終わったけど。

 勇者が必要とされない今の平和な時代ならきっと……


「おまたせしましたぁ~っ。こちら水とメニューになります」


 そこからは普段どおりの酒場でたむろする冒険者の空気。

  

「くはっ、冷たっ。なにこの水、メチャクチャに澄んでて美味い」

「薄く柑橘の味がする。氷まで入ってるのに無料? え、うそ?」

「おっ、いいねいいね。ケイジャン料理とか南方らしいじゃねーか」

「冷え込む季節には最高だね。っと、魔界酒どころか東方酒もあるよ」

「えっと、み、みー……魔王ちゃんのことなんて呼べばいいのかな?」


「あっ、その、ミルでいいです。普段からみんなそう呼びますので」


 さてさて、ここからはディナータイム。


「ラジオ収録の報酬は飲み放題とコースのおごりだったよね」

「じゃあ全員南部料理ケイジャンのコースで。寒いし辛子効いたのがいいわ」

「おいらの食前酒はエールのジョッキ大をよろしくな」

「アタイはそれに追加で【勇者殺し】と【イフリートの緋酒】をお願い」

「酒はダメなんで、オレンジジュースください」


「かしこまりました~」


 テーブル囲んで、お酒と食べ物を頼み、仲良く飲めや歌えの大騒ぎ。

 冒険者たるもの、酒場によったら『こう』でなくちゃあいけない。

 落ち着いて店を観察すれば、中央にはない文化様式の内装が面白い。


「ナナコさーん、南部料理ケイジャンのフルコースを五人前おねがいしまーす」

「は~い♪」


「すみません。ギルド員なのに今日のためにわざわざ来てもらって」

「いいのよ~。おかーさん料理大好きだから♪ スキル上げにもなるし~♪」


 まだオープン前なのか給士はミルちゃん一人で、他に客もいなくて、

 あと厨房のほうで気配が一人と、いかにも穴場の食堂といった様相。

 知る人ぞ知るマニア向けの酒場だ。店員が店員だから当然なのかな。


「ウメーウメー」

「くはー、いいねぇ! レアな魔界酒をこんなとこで楽しめるなんて」


 チックとガンナは酒とご飯があるなら魔王がどうとか気にしない。


「今後はこの酒場をダンジョン攻略の準備拠点にしようか」

「いいけど、彼女に攻略情報を聞き出すようなズルはやめなさいよ」


 マウスくんとサラちゃんはいつも通り種族とか貴賎とか気にしない。


「……よかった……」


 同期が彼らで、そして、このパーティーに入って本当によかった。


「へ?」

「なにがよかったのよ?」


 私の独り言に反応するマウスくんたち。


「んー? なんでもない」


 私はてへぺろと誤魔化す。ちょっと恥ずかしかったから。


「ああ、そうでしたみなさん」


 メニューの三皿目をもってきたミルちゃんが話しかけてくる。


「えっと、なんとですね、あと数分するとリューチューブで魔王軍の動画が

 配信されるそうなんです。迷姫王から冒険者へ向けたメッセージだとか。

 謎に包まれたタンジョンの主にして魔王、いったい何者なんでしょうか……」


 すっとぼけながら魔王みずからのダイレクトマーケティング。


「あー、ギルドからそんな報告あったね」

「マウス、アンタのタブレットなら見られるでしょ? チェックなさいな」


 手馴れた片手操作でマウスくんがタブレットを取り出してアクセス。


「検索するからタイトル教えて?」

「『ダンジョンPV』もしくは迷姫王チャンネルからおねがいします」


「やたら詳しいわね。まるで投稿者本人が言ってるみたいよ」

「え? あ、あは、あははははは。ナンノコトデショウカー」


 この期におよんで素性隠し。


「おっ、きたきた。予定通りにPVがアップされたぞ」

「タイトルは『迷姫王の挑戦状』か。どんな内容か期待しちゃうわね」

「動画が三つも用意されてるとか強気だな」

「黎明編・冒険編・おまけ編 だってさ」

「あ、このテロップのセンスは完全にエストおねーちゃんの芸風だ」


 全員がマウスくんの背後に回って画面を凝視する。

 映像の時間はおよそ五分。投稿者アカウント名は『迷姫王』。

 紹介覧には迷姫王ミルのダンジョン紹介PVとコメントされていた。


「魔王もリューチューバーになる御時勢かよ」

「時代は変わったねぇ」


 すごい。サムネイルから手の込んだ劇画調の漫画イラストだ。

 右に黒騎士、左に仮面の天使、その後ろに背中を見せるミルちゃん?

 なんかとってもダークファンタジー漫画の表紙っぽい。

 このPV作成、入れ知恵したの絶対にエストおねーちゃんでしょ?

 生粋のセーヌリアスの人間でこんな独創的センスはありえないもん。

 

「ダウンロードながいなぁ」

「だからプレミアム会員になれっていったのよ」


 サムネを見て早くも期待でワクワクがとまらない一同。

 この時点でPVとしては成功。掴みはOK。さすが手馴れてる。

 これまで見たことのないまったく新しく斬新かつ新鮮な映像演出。

 異世界文化に慣れてる私と違って他のみんなは経験薄いから効果大。

 これは釣られる。一般冒険者がこれを見たら絶対に釣られる。


「あっ、あまり期待されると恥ずかしいんですけど……」


 わかるわかる。自分の作品を他人に見られるときって凄く怖いよね。


「さ、作品の出来には自信があります! ……って、魔王が言ってました。

 迷姫王のダンジョンの恐ろしさ、このPVでしかと味わってください」


 ダウンロードが100%になり、いよいよ動画再生が始まる。


「おっ、なんか不気味な笛の音が聞こえてきたぞ」

「なんだいこのデスマスクみたいな顔がふたつ並んだ映像は?」

「ミノスプロジェクト?」

「製作チームの名前かなんかじゃない?」

 

 この日、私たちは知ることになる。

 迷姫王ミルの恐ろしさと──それをも越える幹部二人の底なしの闇を!


 キャオオオオオオオオオッッッ!!!(合成音)


「なんかごっついメタルドラゴンが鳴いてる」

「なんだこれ?」


     ── それは1000年前のことであった ──


「まずは千年前の魔王ミノスの時代から紹介するのか」

「すごい……勇者テーセウスの像を線を集めて再現してる」

「つか、コンバット・テーセウスってなんだい?」

「あ、なんかコントが始まった」


 ── レイフー! セイメイ! いきてるかぁ!? ──


 ── あ゛あ゛、な゛ん゛と゛が な゛ァ゛ー ──


 ── うえからくるぞぉ! きをつけろぉ! ──


「レイフ・エリクソンとアベノセイメイもいるとか史実通りだ」

「これ声やってる人、みんな同じよね?」

「一人何役やってんだろコレ?」

「役者の低予算っぷりやべぇ」


 ── コッチダァ エチゼェーン ──


 ── なんだこのかいだんわぁ ──


 ── トニカクハイッテミヨウゼェ ──


「迷宮内を走る映像は臨場感あっていいんだけど」

「この半端な棒読みと画像の揺れはなんとかならないかしら」」

「うっぷ。すっごく荒いカメラワークだな」

「ハンディカメラ持って走ってるからカメラ酔いしそうだね」


 せっかくだ~か~ら~♪ せっかくだ~か~ら~♪


 ── せっかくだからオレはこのあかのとびらをえらぶぜ ──


 【 こうしてテーセウスは聖女アリアドネを手に入れた 】


  【 しかし今 迷宮王ミノスの放ったモンスターが 】


      【 勇者テーセウスに襲い掛かる 】



「「「「「「…………………………」」」」」」


 黎明編の動画終了後、黙る全員と酒場全体に漂うビミョーな空気。


「サラ……」

「なによ?」


「勇者テーセウスの伝説ってこんなんだったっけ?」

「あたしに聞くな」


 そろそろツッコミいれていいかな?


「ミルちゃん……」

「はい?」


「これって史実通り?」

「あ、いえ、エスティエルさんの魔改造がかなり入ってます」


 伝説の関係者本人が魔改造いっちゃったよ。


「………………」

「………………」


「動画作成中にツッコミいれるひといなかったの?」

「(ふるふる)」


「こういう大事な仕事はさ、あの二人だけに任せちゃダメ」

「……ごめんなさい……」


 一発目からデスクリムゾンのパクリやんけ!!!!

祝・10万アクセス突破!

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