Rank "D" traveller.s ~動画の中の懲りない面々~
おうじょはおれのものだ! だれにもわたさん!
ひかりのせんしだと。こざかしいやつらよ!
このガーランドがけちらしてくれよう!
【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY ガーランド】
── 30時間前 11:00 迷姫王ミルの視点 ──
神竜騎士のユートさまと天空の聖女のエスティエルさん。
神側の陣営でありながら魔王であるこの私に協力してくれる心許せる友人。
この二人はいつも仲良しです。見ているほうが微笑ましくなる仲良しです。
血のつながった姉弟というわけでもなく、親戚同士というわけでもなく。
それなのに二人はとっても仲良し。一時期は恋人同士と思ったくらいです。
だって二人の絆はとても太くて深いから。
邪竜王グラスタークにさらわれた聖女と、それを救いに向かった竜殺し。
おとぎばなしの姫君と勇者そのままの愛と勇気と希望の勧善懲悪の物語を、
このおふたりは八年ほど前に現実のものにしました。
そのあと二人は異世界に渡って一緒にひとつ屋根の下に暮らしたとか。
箱入り娘で魔王の私にはとても経験できない遠い世界。
二人の関係を間近にすると、眩しくて羨ましくて少し嫉妬してしまいます。
ちなみに──
勇気を振り絞って二人に恋人なのかと尋ねたら真顔で全否定されました。
あれー? 違うんですか? 普通なら結婚して新しい国を興しますよね?
本で見知った世界とまったく違う結末と現状に『?』が頭上だらけの私に、
ユートさまとエスティエルさんの二人は苦笑しながら言いました。
「なんつーの? ニートさんって出来の悪い弟みたいなカンジ?」
「こいつ、僕がいないとほんとダメ人間だから見捨てられないんだよ」
「誰がダメ人間よクソニート!」
「そっちこそ出来の悪い弟とは聞き捨てならないぞ!」
喧嘩するほどなんとやら。いがみ合っているようで認め合う相棒関係。
恋愛とは別にこういう密接な男女関係もあるんだなって私は知りました。
たしかにそうですね。ユートさまとエスティエルさんは姉と弟みたい。
一人っ子の私には二人の青筋笑顔で取っ組み合える関係が羨ましいです。
これは最終テストが終わってマスターアップが済んだあとの出来事。
「ねぇ、ニートさん」
「なんだよグータラ駄天使」
いつものことですが二人の会話は突拍子もない角度から始まります。
「アンタに奨めて見始めた『怒りの日』のアニメなんだけど、なんか最後まで
設定についていけないまま投げっぱなしで終わったんだけど……」
「うっ」
「いやね、わたしもね、ゲーム版はかなりやってたのよ。中二もの好きだし。
クラウドファンディングでアニメ化するって話を聞いたときは喜んだしさ。
でも経験者すら未知を叩き付けられるって、ねぇ、どういうことなの?」
「つ、つづきはWEBで……」
「ニートさん、わたしは寛大な女よ。失敗は年間で二度までは許すわ。
そういえばニートさん、夏アニメが放送される前のときもさ、凄いドヤ顔で
わたしにスマホ太郎のアニメを奨めてくれやがったわよね?」
「あ、いや、まさかアレが違うベクトルでネタアニメになろうとは」
「春アニメのときもさ、『ゼロから始める魔法の書』の話題を持ち出したら、
あんた『ついに五期をやるんだ』とかトンチキなこと言って焦らせたわね」
「それはお前が『ゼロ魔』って略すから……」
「そして今回の『怒りの日』の件」
「ぐぬぬ……」
言っていることはさっぱりでしたが鬼気迫る空気なのは分かりました。
「だけど、あの『けものフレンズ』を2話目にして獣耳ものの皮をかぶった
ポストアポカリプスの複雑な伏線を張った良作ではないかと見抜いた眼力と
ブレイク寸前の3話の段階で奨めてくれた功績をわたしは忘れていないわ。
ニートさん、これが最後よ。もし来期の推薦アニメとしてアンタが紹介した
『キリングバイツ』がクソアニメのポプテピピックに劣る駄作だったとき、
わたしはこの三本目の指を折る……!」
「は……ははーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、間違いありませぬ!
来年も獣ものが熱い! 牙の鋭いものが勝つ! それがキリングバイツ!」
それと二人の会話の特徴として──
「それはそれとしてニートさん、いきなりだけどPVを撮るわよ!」
「ほんとにいきなりだなオイ!」
タイミングとかフリとか完全に無視で話題が別次元にワープします。
「エスト、そのフレーズなんかすっごくデジャヴるんだけど」
「はっはっはっ、久々に見た古泉くんの映画がとっても懐かしかったもので。
消失も悪くないんだけど、シリーズ傑作はと問われれば溜息のほうよねー」
「ちなみにエンドレスエイトの評価は?」
「……前にも言ったけどシベリア超特急三部作を見るよりキツかったわよ」
「アレって何年前の作品だっけ?」
「憂鬱なら、かれこれもう八年以上前よ」
「ハレハレユカイを踊ってみたを配信して失笑されてもうそんなにか……」
「やめて……あれはガチ黒歴史だから……ノリノリな当時の自分を殴りたい」
「お前が最初に異世界で知ってハマったアニメだっけ?」
「ハマりすぎて高校の文化祭でバニー姿でライブとかやるくらいには」
「やったやった。お互い若かったよなぁ」
「ほんとにね……」
唐突に遠い目になるユートさまとエスティエルさん。
おふたりの会話は高次元すぎて反応に困ります。
「あのぅ、ぴーぶいってなんですか?」
「ああ、ミルちゃんもいたんだ。PVてのはプロモーションビデオの略でね。
ダンジョンもマスターアップしたことだし、そろそろこちらも本格始動で、
魔王軍のイメージ映像をリューチューブにアップして宣伝しようかなって」
「ああ、コイツそういうの得意なんだ。いまでもゲーム実況プレイ動画とか
向こうの世界で配信やってるし、リューチューブのほうも経験者だから。
なにしろ魔王に幽閉されて緊縛された状態で勇者に助けを求める動画で
再生数ミリオン達成してリューチューバーの伝説になったほどの腕前でさ」
「あっ、それ知ってます! もう動画削除されて口伝でしか残ってませんが」
「ぶっちゃけやらせだけどね」
「それ初めて知ったときはショックだったよなぁ……いや、大人になってから
思い返してみると台本ありきの撮影なのまるわかりな内容なんだけどさ、
あんなのでも真に受けてしまうほど中坊当時の僕はピュアだった。悲しい」
また話が向こうへ逸れました。いつものことですけど。
「いいんじゃないかなPV撮影。魔王軍のいい宣伝になると思うよ」
「あら、顔出しが苦手なニートさんにしては前向きな意見」
「ノルマがノルマだけに、こちらもなりふりかまってらんないよ」
「言えてる。とにかく新時代の魔王軍は前へ前へアピールこれ大事!」
ダンジョンの宣伝を映像で放送ですか。いい案だと自分も思います。
でも、自分の造った迷宮を紹介する宣伝映像なんて少し恥ずかしいです。
動画配信するということは沢山の冒険者のみなさんに見られるわけで。
でもこれも課題クリアのため。気を引き締めて協力しないと。
人間界でブームのリューチューブの存在は我々魔王の間でも有名。
実は魔界でも動画を配信して自分をアピールするのが流行してまして、
自慢のペットを紹介したり、自分のお城を紹介するライトなものから、
一歩間違えば命の危険もある身体を張った一発ネタものまで内容は多彩。
隣国のバンパイアロードさんの『聖水飲んでみた』『大蒜食ってみた』の
自虐映像シリーズは昨年殿堂入りしていまでも再生数伸ばし続けています。
常識・道徳・倫理観を超越した放送の無法地帯。それが動画配信サイト。
「内容はどんな風にしたいの?」
「とにかく客寄せに繋がる内容にしたいから演出は強めにいきたいかなー」
自己顕示欲というと聞こえは悪いですけど、こういうのすごいですよね。
笑いと喝采と再生数のために素顔をさらして身体をはれるんですから。
内気で弱気で人前に出るのが苦手な自分にはとてもマネできません。
「となると主演が僕らじゃ興醒めだよなぁ」
「全身甲冑の中二病にーちゃんの語り動画とか炎上する未来しか見えない」
「となるとやっぱり」
「わたしたち得意の路線で行くしかないわよね」
ギギギギギ……
「え? えっ? あ……あのぉ……」
なぜ錆びたアイアンゴーレムみたいにゆっくりこっちを向くのですか。
「ミルちゃんごめん」
「いま満場一致でミルちゃん主演で迷宮紹介PV撮影すること決まったから」
「へっ?」
ふえええぇぇええぇぇぇえぇぇえええぇぇええぇっっっっっ!???
「そうと決まれば機材の準備だ。録画の機械と編集機材はあるよね?」
「モチのロン。こっちで実況動画配信するのに必要だから一揃え万全」
「こっちでパソコン介してむこうのネットに繋がるとかどうなってんの?」
「光の精霊ががんばってくれました」
「すごいな光回線……」
「正直、わたしも驚いてる」
「まっ、まっ、まままままままままままっ……」
しどろもどろに抗議しようとする私を二人は完全にスルー。
「じゃあミルちゃん、セットと台本はこっちで用意するから」
「前におにぎりくんが用意した衣装あるでしょ? あれに着替えといて」
「ここは魔王らしく玉座に座らせて威厳あるカンジでいってみる?」
「そこは王道路線でいいと思うわ。特撮効果も加えて派手でいきましょ」
「まず仮造りしてあるダンジョン内の映像をかるーく流して……」
「ちょろっとモンスターの唸り声や影とか見せて恐怖を演出して」
「モンスターやワナにかかって死んだ冒険者のオブジェクトも作ろうか」
「いいわね。環境音に冒険者の悲鳴や呻き声も追加しますか」
「ちょっとまってくださぁぁぁぁぁぁい~~~~っ」
もちろん私の泣き言は通用しませんでした。
「よし、ダンジョン映像は別撮りで先にミルちゃんの演説からいこう」
「んじゃ、ちょっちゃと撮影やっちゃいましょ」
だいたい三十分ぐらいで二人の完成形のイメージは仕上がったらしく。
「これ台本ね。憶えきれなかったらカンペやるから安心して」
「雰囲気はソレっぽくおねがいね」
「ソレっぽくって……」
このあと私は──
おじいさまが座っていらした旧ボス間の『迷宮王の座』に案内されて、
これまで想像したこともなかった自己紹介映像を撮影することに……
「それじゃいくよー」
「撮影スタート!」
とってもとっても恥ずかしい思いをしながら撮影はつつがなく行われ──
そしてユートさまが迷宮内の映像を撮影してエスティエルさんが編集して。
最後に明日の夕方にPVをアップするとギルドに伝えて無事終了。
「いやー、ミルちゃんよく頑張った。感動した!」
「これでうちの宣伝は全国区へ。当たれば古今東西から冒険者がくるわよ」
「ぅぅ……もぅ……もうぅっ! 死ぬほどはずかしかったですよぉ~!」
頑張りました。恥ずかしさで泣いちゃうくらい頑張りました。
撮影終了後は生まれて初めて自分を褒めたい気分になりました。
結局、ちょっといろいろありまして、わたしが顔出しするシーンのほうは
NGとしてカットすることになってアテレコ出演のみになったんですけど、
それでも出来栄えのほうは苦労に見合ったものになったと自負しています。
迷姫王ミルのダンジョンのプロモーションビデオは明日夕方公開!
大陸の名だたる冒険者たちよ、地獄からの招待状をふるえて待て!
どやぁ!
……と、ここまではよかったんです。ここまでは。
まさか──
「おっ、きたきた。予定通りにPVがアップされたぞ」
「タイトルは『迷姫王の挑戦状』か。どんな内容か期待しちゃうわね」
「あ、このテロップのセンスは完全にエストおねーちゃんの芸風だ」
いざ動画が配信されたら……あんなことになるなんてっっっっ!!!!!