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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
164/177

Rank "D" traveller.s ~酒場の中の懲りない面々~

   こらァ! お前だけきたないぞ! おぼえていろよーー!

           ゥがばゥ ガボォ ぶくゥ‥‥


    【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY5 ギルガメッシュ】

「む~~~~~~むむむむむむむぅ~っ……」


 同期のみんなと再会を果たしたことでぶり返す『あの日』の記憶。


 うっすらとだけど私には『あの』闘いの顛末の記憶がある。

 本気を出したユートおにいちゃんに全身全霊の最後の一撃を仕掛けて。

 意地を振り絞ったセイクリッド・メガデスがいともあっさり返されて。

 砕け散る聖剣を目の当たりにした瞬間に襲い来る強烈なカウンター。

 いとも簡単に裂ける聖竜の鎧。一呼吸遅れて斜め一文字にはしる熱痛。

 最後に容赦なくトドメをさしに飛び掛ってくる黒炎の怪鳥。


 気分は大口を開けたドラゴン相手に真正面からつっかかった無謀な挑戦者。

 剣は鱗に弾かれ、爪牙に撫で切られ、吐き出されたブレスでケシズミ確定。

 竜退治のおとぎばなしに出てくるやられ役の気持ちがよーくわかりました。


 結局、後半はろくすっぽ活躍らしい活躍なんてなくて。

 第一形態のナメプのときに不意打ちで与えた最初の一撃が唯一の有効打で。

 神竜騎士としての本気を出した最終形態を相手になんにもできないまま。

 ──私はボロクソに負けたんだ。


「あのさぁ、もりそば……」

「そんなムッとした膨れ面で殺気立ってると落ち着かないんだけど」

「病み上がりで気が立ってるときは酒でも飲んで気晴らしすりゃいいさ」

「んだね。なんでも今日の夕飯は、その店のオゴリだそうだし」


 そっから記憶が曖昧になっているけどギリギリで意識はあった。

 ぼやけた視界の中で私は闘いの行方を見ていた。

 イカルさんが身動き一つ取れない私を応急手当のために駆けつけてくれて。

 ユートおにいちゃん相手にわんこ先生が勝てないのを承知で助太刀して。

 わんこ先生のボスエリアそのものを叩き切るなんて反則技が炸裂して。

 あと少しでユートおにいちゃんをダンジョンの外へ飛ばせるところで……

 エストおねーちゃんの乱入で次元の裂け目を塞がれてすべては水の泡。


「こんにちはー」

「ミルちゃん、きたよー」

「へー、ウェスタンサルーンの酒場とかいいシュミしてんじゃねーか」

「一時期大陸南西部で流行った建築手法だね。古風な出来じゃないか」


 こっから意識が朦朧としてきてプツンと気を失う寸前になってたけど。

 薄れる意識の中で私は確かに見た。

 忘れられるわけもないあの衝撃。


「あ、この装飾みたことある。西部劇とかいうジャンルだっけ」

「マカロニウエスタンだったかしら。輸入した異邦人文化のひとつね」

「なんでもいいや。酒とメシが美味けりゃ」

「チックはいつもそれだねぇ。もうちょっと異文化の機微を楽しみな」


 最初、私はユートおにいちゃんが魔王になったものと思っていた。

 でもそうではなくて、あの人は主を守る騎士となって闇に堕ちた。

 ユートお兄ちゃんが悪落ちして忠誠を誓うほどの存在。

 千年前に現れた大魔王『迷宮王ミノス』の復活のウワサもあって。

 一瞬、邪竜王のおじさまのようなコテコテな魔王を意識したけど。


「い、いらっしゃいませぇ~っ。あっ、マウスくんにサラさん!」


 実際に現れたのは私のイメージとは正反対。

 エストおねーちゃんの背後から現れたのは気弱なメガネの女の子。

 癖の強い跳ねた黒髪。緊張でがちがちな猫背。上目遣いな三白眼。

 頭から生えた角は上位魔族の特徴で、それより目だつあの巨乳。


「やっほー、楽屋での約束どおり夕飯を御馳走になりにきたよ」

「すっごい裏通りにあるから探すのに手間取ったわよ」

「すっ、すみませんっ。なるべく通好みのお店ということにしたいので……」


 メガネで巨乳で内気キャラ。

 美少女魔王というこれまでのセーヌリアスの常識を覆す新ジャンル。

 魔王といえば『ダサい・グロい・デカい』の三拍子が御約束。

 最近は美青年系のスタイリッシュなイケメン魔王も増え始めているけど、

 ここまで露骨にあざとい路線で攻めてくる少女魔王は前代未聞だった。

 例えるならそう、異世界マンガのヒロインがそのまま具現化したような。


「挨拶はいいからさ、そこの無駄におっぱいでけー姉ちゃん、メニューくれよ」

「おっ、おっぱ……」


「それにしたってメイドっぽいのに扇情的な制服だねぇ。大衆酒場にしちゃあ」

「実を言うと……私も恥ずかしくて……困ってます……もぅっ……」


 私は本能的に悟った。


 ── あ~っ、こりゃユートおにいちゃんコロっと寝返るわ ──


 私の意識はここで途切れた。

 そこから先はイカルさんからの体験談からなぞるしかなかった。

 結局、私たちは魔王の温情で生きて帰ることを許された。

 魔王の詳細もユートおにいちゃんの悪に鞍替え事情も謎のまま。


 なにもかも出直しになっちゃったけど。

 何年かけてでも私は遠いラストダンジョンに辿りついてみせる。

 そしてもういちどあの魔王に遭って真実を問いただす。

 ほんの一瞬見ただけだけど私には魔王の姿が脳裏に焼きついている。

 寝ても覚めても鍋のコゲみたいにこびりついている彼女のイメージ。

 キャラ濃かったからなぁ。絶対に忘れられないよ。

 特にあのオッパイ。


 そう──


「あれ? あ……あのぉ……そちらの包帯ぐるぐる巻きの方って……」

「ん? ああ、うちのパーティー仲間で『もりそば』っていうんだ」

「ついこのまえにダンジョン挑戦して魔王の幹部に半殺しにされてさ」


 あのうらやまけしからんFカップ大関は忘れたくても忘れられない。

 なにあの歩く教説わいせつボイン。魔王とは違う意味で魔将の女すぎる。

 こっちは剣の振りを制限しない究極の機能美っぷりに泣きそうなのに。


 マウスくんたちと談笑しているおっぱいのデカいウェイトレスもそう。

 エプロンドレスの胸元の露出が非情にけしからん。

 さらにあざとさ満点の羞恥心でオドオドした態度とメガネと三白眼。

 世の中は広い。あの魔王とキャラだだかぶりの人がこんなとこに……


「え?」

「はい?」


 反射的に見詰め合う私とおっぱいメガネさん。

 およそ3秒くらいの間をおいて──


「ぎゃぁあぁぁあああぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「ひやぁぁぁああぁああぁあっっっっ!!!」


 店内を揺るがす乙女二人の悲鳴が轟いた。


             ──  閑話休題  ──

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